「アサシン!」
「やった、のですか?」
ルーラーの問いかけにアサシンは首を横に振る。
「私達の宝具には条件がある。今回は条件を満たしてないから完全に仕留めきれてはいない」
でも、とアサシンは続ける。
「不意討ちで思いっきり切り裂いたからもう動くのは無理だと思う」
「……」
血だらけの赤のアーチャーがルーラーに視線を傾ける。見たところもう、虫の息といったところだろう。
「アサシン、後は任せて下さい。貴女は貴女の役目を果たしてください」
アサシンは無言で頷けば、颯爽とその場を後にする。
「……ルーラー、何故あの娘達を戦わせる」
息を荒げながら、赤のアーチャーが言葉を漏らす。
「……貴女の言うようにあの子達は子供です。ですがそれ以前にあれは悪霊なんです、殺人鬼なんです」
「子殺しめ」
端的に赤のアーチャーが呟く。
「あの娘達はこのままだと殺される、こちら側のアサシンにだ。戦いを強要させたのはお前だ、ルーラー」
「そうですね、私は子殺しなのでしょう。そして今、この場で貴女も殺します」
「異論はない。我々は最早、互いに互いの存在を認められぬ。何があろうと、何が起きようとも、貴様を殺す」
血が吹き出す腹部を押さえながらも赤のアーチャーはゆっくりと立ち上がる。
「まだ立ち上がるだけの力が残って――」
ルーラーは驚愕した。赤のアーチャーが立ち上がったことにではない。腹部を押さえる手とは逆の手に持つ、毛皮の存在にだ。そしてその毛皮から明確に感じられる禍々しい魔力にだ。
「まさかカリュドンの魔獣の毛皮……!?」
「そうだ。私はここに誓おう、貴様を斃さずして何が正義か、何が英雄か!」
「やめなさいアタランテ、貴女は英雄であることまで捨てるというのですか!?」
しかしルーラーの静止を全く聞く耳持たずに、赤のアーチャーはその毛皮を傷口へと押し込む。今まで使い方すらわからなかったその宝具を、赤のアーチャーは取り込んだ。今なら痛みさえも快楽に感じられる。何故ならそれほどまでに、
「宝具――
赤のアーチャーを纏っていた翡翠の衣装が黒く染まり、その透き通った髪すらも白銀に染め上げられる。そこにいたのは最早赤のアーチャー『アタランテ』ではなく、魔人。魔神と化した『アタランテ・メタモローゼ』だった。
「傷が癒えて……ッ!?」
宝具発動と同時にアサシンから受けていた傷が癒え、すぐさま矢を放つ。ルーラーはそれを旗で弾き飛ばせば赤のアーチャーと距離を取る。
「殺してやる、あの娘達を救うにはもうそれしかないんだ!!」
次々と放たれる矢の数々にルーラーは回避に専念していく。だが、放たれた矢の方ばかりを見ていたために赤のアーチャーを見失ってしまう。
「一体どこに……」
だがその思考はすぐに停止されてしまう。赤のアーチャーはルーラーに既に掴みかかっていた。そして、ルーラーの肩を噛みちぎっていた。
「ぐ、あ……」
ルーラーの肩口から血が吹き出る。
「貴女は私を斃す為にすべてを捨てるというのですか」
だが赤のアーチャーが答えることはなかった。
「
ルーラーはアタランテの頭を掴めばそのまま空中庭園の壁に向けて投げ飛ばす。そのまま赤のアーチャーは空中庭園の壁を突き破り中へと転がっていく。
「……」
ルーラーは空を見上げた。
「……ありがとうございます、
ルーラーは胸で十字を切る。天草四郎と出会うまでずっと独りで戦ってきた彼女にとってはとても頼もしい味方であった。空中庭園の防衛術式を全て破壊するという役割を一人で引き受けてくれたのだ。感謝してもしきれない。
「ルゥゥゥゥウウウウウラァァァァアアァァアアア!!!」
建物の中から悲鳴のような叫び声が轟く。
「……」
ルーラーは無言で建物の中へと入っていく。辺りを警戒しながら入っていけば、部屋の上空に翼を広げ宙に浮く赤のアーチャーの姿を視認する。
「ころす、ころぉすぅうう!!」
赤のアーチャーが弓から矢を放つ。
「私は愛されなかった子どもたちが少しでも幸せになるようにと戦った。完全でなくとも何かが出来たつもりだった」
放たれる矢を躱しながらルーラーは自分の身を隠すために柱の陰へと潜り込む。
「だが今の時代に来てみればどうだ、子どもたちの不幸は今も続いている。こんな未来をつくるために私は戦ったんじゃない!」
それは後悔か、憎悪なのか。赤のアーチャーは抱え込む想いを只々言葉に紡いでいく。
「そんな子どもたちをお前は殺そうとしている、救えるはずなんだ!」
赤のアーチャーの持つ弓が黒く染まっていく。
「
天へと放たれた矢はまるで黒い雲のように広がり、そのまま驟雨となってルーラー目掛けて降り注ぐ。ルーラーも流石に逃げ切れず、数本の矢を腕や背中に受けてしまいそのまま地べたを転がる。
「これほどとは……」
「まだ死なないのか」
その言葉は最早狂気で溢れていた。
「私はお前を殺して願いを叶える」
再び弓から数本の矢が放たれる。だがそれはルーラーではなく、赤のアーチャー自身に向けて降り注ぐ。それは周囲を破壊するものではなく、赤のアーチャーに取り込まれる形で消滅する。
「何を……!?」
「燃ゆる影、裏月の矢」
先ほどとはまるで比べ物にならない速度で赤のアーチャーは周囲を移動する。
「我が憎悪を受け入れろ」
「一体どこに……」
柱と柱の間を高速で移動する赤のアーチャーを部屋の暗さもありルーラーは見失ってしまう。
「
声の方に急いで視線を向ければそこには禍々しい憎悪を纏った赤のアーチャーがこちらを見つめていた。ルーラーは本能的に危険だと思ったのか、すぐに旗の真名を…解放した。
「
それを突っ切るかのように、弾丸のように赤のアーチャーはルーラーは目掛けて突っ込んでくる。
「
それを一言で表すのであれば破壊。それ以外で表現できないほどの一撃がルーラーを包み込む。
「く、ぐぁ……!」
ルーラーの結界宝具、
「……赤のアーチャー、貴女の全ての子供達を救うという願いそのものに間違いはありません。ですがそのためにあらゆる悪を許容し、執行するという行いは決して許されるものではありません」
赤のアーチャーはすかさず矢を放つ。だが既にその頃にはルーラーは赤のアーチャーの背後に回っており、そのまま旗で殴りつける。そして倒れ込む赤のアーチャーの翼目掛けて旗を一突きする。だが、それすらも痛みを感じていないのか赤のアーチャーはルーラーを殴り飛ばす。そして自らの翼を掴み、そのまま引き千切る。宝具によって自分の肉体を変化させて生み出した翼といえどそれは彼女の肉体に等しいものだ。それを彼女は躊躇いもなく引き千切る。そして赤のアーチャーの背中から更に血が流れ出す。ルーラーはそれをただ驚きのあまりに見つめることしか出来なかった。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
ルーラーはすぐに地面に突き刺さる旗を抜けば、赤のアーチャーに向き直る。
「まだこんな力が……」
「
再び空が暗闇の黒に染まり、それが驟雨の矢となって降り注ぐ。
「く……」
既に旗は使えない。ルーラーは歯を噛み締める。
「
降り注ぐ矢は、蒼き稲妻の一閃により、その全てがかき消されてしまう。
「すまねぇなルーラー、この場は俺に預けてくれ」
赤のライダー、アキレウス。先程まで戦車で宙を飛んでいたというのに、赤のアーチャーの姿を追ってきたのだろうか。
「待って下さい、彼女をあのままには……」
「わかってる。こっからは俺と姐さんの問題だ」
「ですが、彼女は――」
「頼む、行ってくれ。ケリは俺がつける」
アキレウスはルーラーの前に立つ。その背中をルーラーは見つめる。
「わかりました」
そう告げ、ルーラーは背を向けて走り出す。
「待て!!」
それを追うように赤のアーチャーも走り出すが、それにアキレウスは立ち塞がる。
「行かせねえぜ、姐さん」
ずっと書きたいところだったのでスピード投稿してしまいました。
一日に2話更新なんて初めてですけどそれくらい書きたかったところなんです。
黒のアサシンが死んでいない状態でどうやって赤のアーチャーがルーラーに憎悪を向けるのかずっと考えていたのですが、死地へと赴かせていること。そしてルーラーがアサシンを子供ではなくサーヴァントとしてしか見ていないこと。ここが憎悪を抱く原因に出来ないかなと思いました。
それからここを書くまでにFGOでアタランテオルタさんが出てきてしまい、更に闇天蝕射とかいう新しい宝具をぶら下げてきたので使わせてみました。完全に自己解釈になりますがもしかしてバサランテさんとして召喚されないとこの宝具は使えないのかなとかも思いましたけどそれでも使わせてしまいました。さて、次回ですね。ホントいうとここと次回のところを書きたいがためにこの作品を書き出したようなものなので、張り切っていきたいと思います。