Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃
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16話 其々の想い

「そこを退けぇ!!」

 立ちふさがるアキレウスに赤のアーチャーは怒声を浴びせる。しかしアキレウスが道を開くことはなかった。

「いいや退かねぇ。魔性に堕ちたものを討つのは英雄の役割だ」

 アキレウスは赤のアーチャーに視線を向ける。前に会った時とはまるで別人だ。宝具神罰の野猪(アグリオス・メタモローゼ)を使用して魔人へと変質しているからではない。赤のアーチャーの人柄そのものが変質しているようにも見えた。

「ルーラーを殺して、そして子どもたちを……」

「姐さん、あんたは道を踏み外しちまった。あんたはどっかで進まずに戻るべきだったんだ」

 先程の宝具の発動の際に投擲した槍、アキレウスの持つ呪われた槍がアキレウスの手元に戻ってくる。かつてアマゾネスの女王を討った際に呪いをかけられた、槍。

『その槍はいつか、お前が愛しく思った誰かを穿つ』

 全く、呪いってのは本当にあるんだね。アキレウスは単純にそう思った。何故ならこれから彼は、愛しく思った誰か(アタランテ)を討たねばならないのだから。

「邪魔をするというのなら……!!」

 魔人が弓を構える。その姿にはかつての仲間であったという躊躇いすらない。

「俺はいつもそうだ、大事だとわかっていることをおざなりにしちまう。後悔ばかりだ」

 でも、今度は。

「悪いな、姐さん」

「消えろぉぉぉぉおおお!!!」

 魔人の叫びとともに、番えられた矢がアキレウス向けて放たれた。

 

 

 

 

 獅子劫界離と赤のセイバーはユグドミレニアや岸波達とは別のルートから突入していた。彼らとは別ルートで入手した戦闘機を使って、ユグドミレニア達との交戦中にどさくさに紛れて突入していたのだ。

「お前が本当に騎乗スキルを持ってるのか疑いたくなっちまったぞ」

 獅子劫はこれまでにもセイバーに乗り物を運転させたことがあった。が、ろくな目に合わなかった。車は運転するだけで大破、今回に限っては戦闘機で突貫する始末だ。途中で抜け出していなければ獅子劫自身も鉄くずの一部となっていたろうに。

「持ってるに決まってんだろ、円卓の騎士舐めんな」

 獅子劫は小さくため息をつく。

「にしても黒のアーチャーの奴、呆気なかったな」

 黒のアーチャーが黒棺を破壊するところを赤のセイバーも見ていた。彼が成し得たからこそ、今こうして空中庭園へと突入できている。だがセイバーは黒のアーチャーと一度やり合っている。そう簡単にくたばるはずがないと思っていたからこそ、最初に離脱したことにあ驚きを隠せずにいた。

「だがお前の心配は黒のアーチャーではなく、自分自身だと思うぞ」

 それは明確な殺気だった。開いた扉の先に立ち塞がるように立ち尽くしていたのは、赤のランサー。施しの英雄、カルナだった。

「……マスター、部屋を3つくらい戻って待機してろ」

「おい」

「何かあれば連絡するから――よ!」

 そう言って私服姿だったセイバーはいつもの白銀の甲冑姿へと戻ればそのまま獅子劫を入ってきた扉の方まで蹴り飛ばす。

「前回ぶりだなランサー」

「ああ、貴様と刃を交えてからずっと思っていた」

 赤のランサーはその手に持つ槍に全神経を集中させる。

「この槍で貴様を貫きたいと」

「ほざけ、槍兵風情が!」

 セイバーが踏み込んだ。ランサーもその一撃に対して槍で防ぐも勢いまでは殺せなかったようで、そのまま後ろの壁へと吹き飛んでいく。

「へ、大したことねえな」

「ふむ」

「な……!?」

 セイバーが驚くのも無理がなかった。ただの一撃、であるにしてもランサーは無傷。当然だ。日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)、彼の持つ黄金の鎧は神々でさえ破壊するのが困難とされる絶対防御の宝具だ。こんなことで傷を負うようなことはありえないのだ。

「……セイバー、今の貴様は何と戦っている」

「は?お前に決まってんだろ!!」

 ランサーの問いに答えるようにセイバーは赤雷を穿つ。が、それすらもランサーに届くことはなかった。

「……今の貴様からは戦士としての気迫を感じられない。戦う勝ちを見出だせない」

「なっ!?」

 その言葉を聞きセイバーは怒り狂ったようにランサーに突撃する。

「っざっけんな、俺が手を抜いてるって言いてえのか!?」

「そうは言ってない、が。貴様の剣からは、貴様の願いが、欲望が、想いが伝わってこない」

「願い、だと?」

「今のお前はまるで、俺ではなく別の遠い存在と戦っているようだ。であるなら、俺が本気を出すまででもない」

 ランサーはセイバーを軽くあしらうように吹き飛ばせば、そのまま跳躍し宙を舞う。

梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!!」

 投擲された槍はそのままセイバーを空中庭園の地下深くへと、貫いていく。セイバーも間一髪でその攻撃を受け止めるも鎧は砕け、爆風のダメージで最早動ける状態ではなかった。

「チェックメイトだ、赤のセイバー」

「……か、は」

 血を吐き出しながらセイバーは体に力を入れる。だが立ち上がることは叶わずそのまま倒れ伏せる。

 俺の願い、俺の望み。俺の望みは一体なんだっけ。

 瓦礫の下で赤のセイバー、モードレッドはふとそんなことを思った。

 

 

 

 

 選定の剣を抜き王になる。それが彼女の望みだった。

「でも俺にはその先がわからねぇ」

 彼女は王にならねばならない、ずっとそう思って戦ってきた。だが何故王になりたいのか、何故王になろうとしたのか。王になって何をしたかったのか、それがわからなかった。

「おや、抜かないのかい?」

 唐突な言葉にモードレッドは驚きながらも振り返る。そこには一人の男性と、一本の剣が刺さっていた。見間違えるハズもない。彼女がずっと夢見て戦ってきた、選定の剣だ。これは夢なんだ。そう思って何気なく選定の剣を抜こうと手に取る。が、モードレッドは抜くことに抵抗を覚えてしまった。手も震え、ずっと抜きたかったものが目の前にあるのにもかかわらず、それを抜く勇気が、なかった。

「それを手に取る前にきちんと考えた方がいい」

 男性の言葉とともに一人の小柄な少年がモードレッドの前に現れる。

「え……」

 選定の剣よりも見間違えるハズがない。自らを殺し、殺した父の姿を。

「駄目だ……!」

 モードレッドは叫んだ。

「貴方がその剣を手にすれば、最悪の結末を迎えることになる」

「それを手にしたら最後、君は人間ではなくなるよ」

 モードレッドと男性、二人の言葉を聞いても彼は歩みを止めることはなく、そしてモードレッドの隣に立つ。

「多くの人が笑っていました」

 少年はモードレッドにそう告げた。いや、それは男性に向けた言葉だったのかもしれない。

「間違いではないと思います」

 そうか、そうだったんだ。

 モードレッドはその彼の姿を見て全て納得した。

「貴方は王になって人々を守ろうとしたのではなく、人々を守りたいから王になったのか」

 だとすれば最初から何もかも食い違っていた。父は王になりたいからなったのではなかった。この最低な男に先の未来を視せられて、恐怖を抱きながらも彼は王になったのだ。人々を守りたい一心で。

「さぁ」

 最低な男が、最低な魔術師がこちらに言葉を零す。

「君はどうする?」

 

 

 

 

「そうか、簡単なことだった」

 赤雷が瓦礫の山を吹き飛ばし、フラフラになりながらもセイバーは剣を地面に突き刺しながら立ち上がる。

「……」

 ランサーは無言で、殺気を収めないままそれを見つめる。

「俺の望みは王になることじゃなかった。俺は父上の孤独を癒やしたかっただけだ」

 泣くことも笑うことも許されない。だが自分が王になれば彼が苦しまなくて済むと、そう思い込んでいたのだ。

「俺はあの人の捨ててしまったものを拾ってさえいれば、それでよかったんだよ。だから俺の願いは、唯一つだ」

 マスター、聞こえるか。

『ようやく連絡か、今どうなってる』

 マスター、俺は勝ちたい。この槍兵に、何が何でも勝ちたいんだ。

『勝つ?聖杯を取るんじゃなくてか?』

 ああ、聖杯なんて今はどうでもいい、こいつに勝ちたい。

『わかった』

 セイバーの傷が徐々に塞がっていく。マスターである獅子劫が魔力を送り込んで治癒しているのだろう。ある程度の治癒が終われば再度、赤のセイバーは剣を構えながら立ち上がる。

「待たせたな、ランサー」

「再度問う、お前は何と戦う。お前の望みはなんだ」

「俺の願いはランサー、てめえの首だ!!」

 魔力放出、セイバーのスキルによって放たれる赤雷が周辺の瓦礫をすべて消し炭に変えていく。

「なるほど、今の貴様なら本気を出せそうだ。行くぞ」

「来い!!」

 セイバーの持つ剣が邪剣へと変質する。だがそれはもう父への憎悪によるものではなく、ただ今まで自分の犯してきた過ちへのものである。

 ランサーの視線がそのまま魔力となり、一閃する。レーザー光線のように放たれたそれは、一面を爆風で包み込む。だが魔力放出でその爆風をもろともしないようにセイバーは立ち尽くす。

我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

「む……!?」

 不意に撃たれた宝具によって、ランサーも平静さを失う。

梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!!」

 二つの宝具がぶつかり合い、その部屋は既に部屋としての機能を失いつつあった。

「これでは決め手に欠けるのか……――」

 その時だった、先程宝具を放ったばかりのセイバーから再び宝具が放たれる。

「宝具の連続使用、令呪のサポートか」

 本来なら大聖杯に接続でもしていない限り、供給される魔力の量的に宝具の連射は不可能だ。だが令呪を以てすればそれも可能だ。令呪は言うならば魔力の塊のようなものなのだから。

「見事だ、今の貴様からは願いを叶えんとする戦士としての気迫を感じられる。どうやら今の俺では不足らしい」

 彼の纏う黄金の鎧が一つ一つ、蒸発するように溶けていく。

「故に、俺にはお前を倒すために絶対破壊の一撃が必要だ」

 鎧が全て砕け散り、代わりに雷光の槍が顕現した。それは神々しく、彼の言う絶対破壊、そのものが具現化したようだった。

「赤のセイバー、貴様の真名を今一度問いたい」

「円卓の騎士、モードレッド」

 セイバーの名を聞き、ランサーは小さく微笑む。

「では我が第二の生における、我が最大の好敵手モードレッドに、最高の敬意を評し、この一撃を贈ろう」

 それは反則なんて言葉で済むものではなかった。まさにそれは神殺しの槍、そのものなのだから。だがモードレッドに恐れはなかった。彼女はただランサーが自分に全力をぶつけてくれるということが嬉しくてたまらなかった。

「でも俺だって負けれねえんだよ」

 どう考えてもこの戦いに挑めば死ぬ。そんな事はわかっていても、負けるわけにはいかないのだ。何故なら彼女は、サーヴァントなのだから。

「神々の王の慈悲を知れ」

「我は王に非ず、その後ろを歩む者」

「インドラよ、刮目しろ」

「彼の王の安らぎの為に」

「絶滅とは是、この一刺」

「あらゆる敵を駆逐する」

 二つの宝具が、至高の光を以て対峙する。

「灼き尽くせ――日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

「撃ち落とせ――我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 

 もういいんだ。誰よりも、俺が納得した。

 そうか、ならいい。

 

 

 対神宝具と対軍宝具がぶつかり合う中、彼と彼女はそんな、何気ない会話で幕を閉じようとしていた。




セミ様戦とカルナ戦繋げただけのくそシナリオにしてしまった!!!
ただ、モーさんの宝具のセリフを変更後のもの使ってみました。
カルナさんもモーション変更来てほしかったですねぇ。

それは置いといて、いつも評価感想等感謝しております。
これからも頂けたら励みになりますので、お願いいたします!





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