Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃

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ちょっとグダグダします。
こういう描写というか、構想練るのが苦手なので!

それにしても空の境界復刻来ますね。
アポクリファのコラボも近いのでしょうか…


4話 少女の願い

 岸波白野には7年より前の記憶がない。覚えていたのは岸波白野という名前だけだった。身よりもなく、行く宛もない岸波白野はたださまよい続けた。その時に、一人の魔術師と出会った。その魔術師は全てを失った岸波に生きていく術を教え込んだ。魔術、そしてそれで生きていく方法を。10代半ばだった彼女が、気がつけば血に濡れた人生を送っていた。もちろんそんな人生を送れば考え方も歪んでいく。そのやり方から魔術師を殺すことに長けてしまい、5年経つ頃には岸波白野はの魔術師殺しの岸波と呼ばれるようにまでなっていた。

 

 

 

 

「岸波白野、年齢は不明。魔術師殺しの異名を持つ、極めて悪質な魔術師だ」

 ユグドミレアの拠点であるミレニア城の一室で、ユグドミレア一族の長であるダーニックは複数の紙束に目を通しながらつぶやく。

「獅子劫界離といい、まさかこんなやつが聖杯大戦に参加させてくるとはな……」

「どういった方なんですか?」

 隣で聞いていた黒のアーチャーのマスター、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアが問いを投げかける。

「魔術師を殺すためなら周りのものを何でも利用する。狙った魔術師を殺すためなら他に何人殺そうがお構いなしの魔術師としてのプライドの欠片もない女だ」

「……聖杯大戦でも関係のない民間人を巻き込むかもしれないということですか」

「そういうことだ」

「そんなやつ早めに処理せんといかんな」

 そう言って話に割り込んできたのはゴルドだった。

「教会の犬でありながら魔術師を冒涜するような行い、私なら許せませんからな」

「ではこの者の襲撃はお前に任せるとしようか、ゴルド」

「は……?」

 唐突なダーニックの言葉にゴルドは言葉を失う。

「フィオレは切り裂きジャックの件でシギショアラに向かってもらわなければならない、であるならば言い出したお前がいくのが通りだと思うのだが」

「し、しかしだなダーニック。私のセイバーの宝具は対軍宝具、市民を巻き込む可能性が……」

 ゴルドは怯えるようにダーニックに視線を向ける。

「……」

 ダーニックは小さくため息を付けばその場にいた小柄な少年の方に視線を向ける。

「ロシェ、ゴルドに同行しろ」

師匠(せんせい)とセイバーでそのライダーのマスターを倒しちゃえばいいんだね」

 ああ、とダーニックは適当に相槌を打つ。

「ゴルド、先の戦いのように引き分けは許さんぞ」

 ダーニックはものすごい目つきで、ゴルドを睨むつけながらも言葉を吐き捨てた。

 

 

 

 

 トゥリファスに到着してからというものの、最初の赤のバーサーカーの一件以来ユグドミレアからの動きは全くなかった。あちらは城塞、こちらからは何もできない状態である。

「ライダー、今夜ここを離れるよ」

 床で無言で背を向けながら座る彼に視線を向けながら言葉を投げかける。だが彼は岸波の方を向くことなく、応、と答えるだけだった。マスターとサーヴァントの関係としては最悪のものだった。当然だ。現在サーヴァントの考えを無視して無理矢理従わせている状態なのだから。令呪というサーヴァントに対して逆らうことのできない絶対服従権を行使して、ライダーを従わせているのだ。ライダーがマスターである岸波をよく思うわけがない。

「シギショアラまで一旦戻ろうか。そこまで行けば獅子劫とも合流できるかもしれないし」

 ライダーがそれに答えることはなかった。

 夜になるまではそこまでの時間は必要としなかった。外が暗くなれば岸波は荷物をある程度まとめて宿の外へ出る。外は静かで、流れる風は気持ちよく岸波はスーッと深呼吸する。

「さて、行こっかーー」

 ドスン、と街に大きな音が鳴り響いた。音の原因は、岩だった。岩、と言うよりは岩が人の形をした人形、ゴーレムだった。恐らく建物を媒介として顕現したのだろう。

「……タイミング悪っ」

 岸波に対して攻撃を行ってくるのはユグドミレニアの魔術師以外にはないだろう。仮に赤側のサーヴァントが襲撃をしてきていたとしても、メリットがない。赤のライダーが強力なサーヴァントであることは明白だ。もし仮にあの神父が別の思惑で動いていて私が邪魔なのだとしても、こんな早期の段階で手を下すとは思えない。

「ゴーレム、黒のキャスターか」

 大きく飛んでゴーレムの攻撃を躱した岸波は懐から小型の銃を取り出す。

「ライダー、本体を叩いて。ゴーレムは私がなんとかする」

 そう言って岸波は走りながら街中へとはいっていく。

「ちっ」

 勝つためならなんだって利用する。そういった岸波の言葉を思い出したのか、ライダーは少し苛立っていた。

「利用するのは、自分もなのかよ」

 それは俊足というよりは神速だった。ライダーが大きく飛び出すと、そのまま建物の天辺まで上がる。

「……どこだ」

 じっとあたりを見渡すが、それらしいものは見当たらない。

「姿を隠していやがるのか……?」

「まさか」

 それこそ唐突であった。ライダーの視力をもってしても黒い鎧の少女が目の前に現れるまでその存在に気づくことはできなかった。ライダーは反射的に持っていた槍で振るわれた大剣を受け止める。

「な、お前どこから……っ!?」

「……さてな」

 ライダーがここまで気配を察知できなかったということは、もしかすると気配遮断のスキルをもってるからなのかもしれない。ということはこの黒のセイバーと思っていた剣士はアサシンなのか。そんなことを考えながらライダーは黒のセイバーに回し蹴りを浴びせる。

「だが残念だったな、黒のセイバー。今の不意打ちが失敗した以上、貴様が俺に攻撃を加えることはできない」

 それ以前にライダーには神性が帯びた力でしか傷つけることができない

。この無銘の剣士が神性の力を持っているとは思えないが、それでも前回の鎧の宝具の一件がある。油断はできない。

「……宝具、憎しみよ炎となれ(アルングリム)

 黒のセイバーが身につけていた鎧は黒い炎となり、その手に持つ剣にまとわりつく。

「いくぞ、赤のライダー」

 突撃する黒のセイバーの攻撃をライダーは槍で何度か受け止めるが、遂には一撃を受けてしまう。受けてしまうと言うには浅い、ただのかすり傷だ。だが、彼にとってはそのかすり傷が信じられないものであった。

「お前、その炎……神性を帯びているのかっ!?」

「口よりも手を動かさないと死ぬぞ、赤のライダー」

 何度も赤のライダーの槍と黒のセイバーの大剣の混じり合う金属音が街中に鳴り響く。

「……」

 これでは埒が明かない。そう思ったライダーはマスターである岸波白野に念波を送る。

『マスター、宝具を使わせろ』

『……確実に仕留めれるなら』

 許可が降りた。思ったよりも簡單に許可がもらえたことにライダーは驚きを隠せなかった。だがそこまで言われた以上、このセイバーはここで仕留める。そう決心したライダーは黒のライダーとの距離を置く。

「さて、そちらの宝具も真名も今のところわかんねぇけどそろそろ終わらせてもらうぞ」

 ライダーは岸波から送られてくる魔力を槍に集中させ、その槍を大きく振りかぶる。

「受けろ我が信念、宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)ーーっ!!」

 投擲されたその槍は真名開放により本来の力を取り戻し、真っ直ぐ黒のセイバーに向かって一閃を描く。放たれたその一撃を受け止めるために黒のセイバーも大きく手に持つ大剣を振るった。

「はぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

 お互い真名開放された一撃がぶつかり合い、大爆発が起こり街中で巨大な爆音が鳴り響く。

「はぁ、はぁ……」

 結果は圧倒的だった。いくら黒のセイバーの持つ宝具が神性の力を帯びていたとはいえ、それが届かなければ意味がない。大英雄アキレウスの一撃に、彼女の一撃は遥かに届かなかったのだろう。ボロボロになった黒のセイバーの姿がそこにあった。ライダーの投擲した槍は魔力を帯びて、その手に戻る。

「さて、詰めだ黒のセイバー……いや黒のアサシンか?どっちにしろ、こいつでトドメだーー」

 だがライダーの手が止まる。

「……マスター?」

 

 

 

 

「……」

 岸波白野は既にゴーレム相手にボロボロの状態だった。岸波が最初に出した銃ではゴーレムを相手にすることはできなかった為、魔力を込めた弾丸を放つことのできるマグナムを使って撃退をしていた。これなら数発でゴーレムを破壊することができた。だが砕けたゴーレムたちが集まり、巨大なゴーレムへと姿を変えたのだ。その巨大なゴーレムにそのマグナムは全くと言っていいほど通用しなかった。一瞬動きを止めれる程度で、すぐに岸波はゴーレムによって追い詰められる。サーヴァントであるライダーに助けを求めればよかったのだろうが、黒のセイバーがライダーと戦っているのは魔力のぶつかり合いでなんとなく察することができた。ここでライダーを呼び出せば折角の黒のセイバーを倒すチャンスを失ってしまう。

「でもまさか、頭を打つなんて、思ってなかったかな」

 本来の予定ならばライダーが黒のセイバーを倒すまで時間を稼ぐつもりだった。だが一撃を受けた際の落石で頭を打ち、まともに動くことができなかった。

「……馬鹿だなほんと」

 自分のやり方を貫いた結果がこれだ。聖杯を手に入れたいと、そう思ってサーヴァントすら利用した結果だ。今まで色んな人を殺した報いなのかもしれない。

 ゴーレムがこちらに向かってゆっくり近づいてくる。

「あーあ、知りたかったな。こんな屑に成り果てる前の私を。聖杯の力を使えば知ることができたのにな」

 岸波白野が聖杯大戦に参加した理由。彼女が命を懸けてまで叶えたかった願い。くだらないと罵られても、それでも叶えたかった願いを彼女は口にした。遥か遠くの流星はそれを聞き届けたのだろうか、瞬く星が光る。

「ごめんね、知らない誰か」

 君のこと、思い出すことができなかった。岸波の隣で笑っていた、赤い彼女のことを。

「ごめんねライダー、こんな形で敗退することになって」

 本当に申し訳ない。こんな言葉届くはずもないのに、死ぬ間際だからだろうか。自然と言葉にしてしまう。そうこう言っている間に、ゴーレムは岸波の目の前まで迫る。

「許さねぇよ」

 文字通り、願いを聞き届けた流星がゴーレムを粉々に砕いた。否、流星のように駆けるのは赤のライダーだった。

「な、ライダー……っ!?」

 驚きを隠せなかった。何故ならまだ黒のセイバーの反応があるからだ。それなのに彼がここにいるということは、黒のセイバーとの戦いを放棄してここに来たということになる。

「何してんのよライダーっ!?」

「サーヴァントがマスターを助けただけだ、普通だろ」

「黒のセイバーを潰せるチャンスだったでしょうに……」

 今の岸波に怒鳴るほどの力は残っていなかった。

「あんたの願いも、想いも全部聞かせてもらった」

 岸波はそれに力弱くも反応する。

「だから、俺に任せてくれねぇか?」

「……どういうこと?」

 周りにゴーレムの気配を感じなくなったのを確認すればライダーは倒れる岸波の肩を持つ。

「あんたは勝つためなら何でもするって言った。だったら、必ず勝利を持ち帰る。だから戦いは全部、俺に任せてほしい」

 何だこれは。聞いたことのあるような言葉。そう、かつてここではに何処かで。

『余を信じてほしい、必ず奏者に勝利を持ち帰る』

 赤い、思い出せない彼女の言葉を今、一つ思い出した。ライダーは私の記憶にある彼女のことを何も知らない。だから本当に思ってることをそのまま言っただけなのだろう。だけど彼女にはその記憶を重なって視えた。

「……」

「マスター……」

 言葉にならない思いが、岸波から溢れ出た。それは涙となり、叫び声となり、人払いの魔法で孤立した街中に大きく響いた。

「ライダー……」

 まぶたをこすり、涙を拭いながら岸波はライダーの方に向き直る。

「私はやり方を変えるつもりはない、どんなやり方でも勝ちに行く。だからーー」

 だから、この馬鹿正直な男に勝ちを委ねてみよう。岸波白野は初めて、誰かに頼ろうと、そう思ったのだ。

 

 

 

 

「……またしても倒せなかっただと。しかも今回は引き分けでなく敗北」

 暗い部屋の中で、ダーニックは敗北したゴルドと黒のセイバーに罵倒を浴びせる。

「しかもセイバー、貴様魔力不足で本来の宝具が使えないと。そういうのか」

 黒のセイバーは無言で頷く。

「とんだ欠陥サーヴァントを召喚したな、ゴルド」

「……ぐ」

 ゴルドは何も言い返せなかった。

「……セイバー、貴様の真名を教えろ」

「……」

 黒のセイバーはマスターであるゴルドの方に視線を向ける。

「い、言え……」

 既にダーニックに逆らえない状態になっていたゴルドはヤケクソ混じりにそう言い放つ。

「わかった、マスター。我が真名はーー」

 月夜に彼女の唇から放たれた名は、その黄金の剣の持ち手にふさわしい名であった。




早速ですが、独自設定です。
本来アキレウスの槍の宝具はランサーとして召喚された時その力を発揮しますが、本作ではライダーでもそちらを使って貰いました。投擲しちゃってるのは、なんかそっちのがかっこいいかなと思ったからです。

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