今回はつまらないお話になりそうです。
「開戦前以来ですね、赤のライダー」
シロウ・コトミネに呼び出され、指定された森にやってきたライダーは警戒しながらもそこで待っていたシロウ・コトミネの前に姿を現す。
「……ここは?」
ライダーが呼び出された場所は、何もない森であったはずだった。だが、そこには庭園のようなものが広がっていた。
「ああ、これはそのうちわかりますよ。ともかく中に案内します、既に赤の陣営が揃っていますよ」
そう言ってライダーは庭園の中へと足を運ぶ。
「そういえば貴方のマスター、岸波さんはどうしました?」
「……マスターは遠いところから監視するってよ。必要なら魔力を送るって」
「なるほど」
退屈そうな話を続けていると、開けた場所に出た。そこは玉座のような場所で、既にそこにはサーヴァントと思わしき人物が何人か集まっていた。
「……セイバーは?」
「呼び出しましたけど、断られちゃいました」
なるほど、こいつらのことを徹底的に信用してないわけか。そう思いながらもライダーは、自分のいる位置よりも遥かに高い位置に佇む玉座に視線を向ける。そこには見るからに気分を害しそうな笑みを浮かべながらこちらに視線を向ける赤のアサシン、セミラミスが座っていた。
「久しいな、赤のライダー。いや、アキレウスと呼ぶべきか」
「これは聖杯大戦だ、無闇に真名を語るべきではない」
赤のアサシンに最初に口を出したのはライダーではなく、その場にいたサーヴァントだった。
「あんたは」
「自己紹介が遅れたな、俺は赤のランサー。貴様の戦友となるものだ」
それよりも、とランサーはシロウの方に振り返る。
「さて、皆さん呼び立ててしまってすみません」
「いえいえ構いません、我々をここに呼び立てたということは遂に開幕の時なのでしょう……?」
シロウの言葉に問いかけを投げかけたのは中年の男性、恐らく赤のキャスターと思わしき人物だ。その言葉に横で見ていた赤のアーチャー、アタランテも視線を向ける。
「ああ、全ての準備が整った今こそ討って出るとき。折角の聖杯大戦だ、派手に行こうではないか」
「わざわざこんな立派な城を作って、立てこもる準備を整えたのにか」
ライダーはアサシンに向けて軽口を投げかける。
「ふふ、立てこもる?ライダー、お前は前提が間違っているぞ」
アサシンのこの言葉とともに城が大きく揺れる。
「なんだ……っ!?」
「敵襲か!!」
揺れる床を踏みしめて赤のアーチャーは弓を構える。
「違う。皆、外を見るが良い」
そう言って外へと続く通路を指差し、アサシンは不敵に微笑む。赤のアーチャーや赤のランサーはライダーに続くように外へと出ていく。そこに広がっていたのは先程までの森ではなく、庭園そのものが空を駆けていた。つまり、浮遊していたのだ。
「おいおい、なんの冗談だこりゃ……」
流石のライダーやアーチャーも驚きを隠せずにいた。
「驚いたであろう、我が宝具
「空中要塞、ということか」
「なるほど、こいつで攻め込むってわけか」
納得がいったのかライダーもアーチャーも表情に余裕ができていた。
「この速度ならミレニア城塞に立てこもる彼らが我々を視認できる距離までそう時間もかからないでしょう。それでは皆さん、戦闘準備を」
シロウはアサシンの隣で彼の年齢で浮かべてはいけないような、そんな笑みを浮かべる。
□
「領土ごと攻め込んでくるとは、流石に予想外でした」
ミレニア城塞で辺りを監視していた黒のアーチャーは空中庭園を視認するなりすぐにフィオレを呼び出した。
「アーチャー、あれは今どうなっていますか」
「停止しました。どうやらこの草原を合戦場とする意向のようですね」
「そうらしいな」
そう言いながらフィオレとアーチャーの目の前に現れたのはユグドミレニアの長、ダーニックだった。
「連中、竜牙兵を召喚したようだ、こちらのホムンクルスとゴーレムに対抗するためだろう」
そう告げるとダーニックは背を向けて城内へと足を運んだ。
「中に入るぞ、フィオレ。最早、我々は勝負を彼らに預けるしかない」
「そのとおりだダーニック。此処から先は我ら、サーヴァントの領分だ」
宙を浮遊していた粒子が人の形となり、黒のランサーが姿を現す。それに合わせて黒のバーサーカー、フランケンシュタイン。黒のキャスター、アヴィケブロン。黒のライダー、アストルフォ。そして黒のセイバーである無銘の剣士が姿を現す。
「我が領土に土足で踏み込んだ挙句、穢らわしい骸骨兵を撒き散らすとはな」
ランサーは不快そうな表情をしながらも、その表情からは決して笑みが消えることはなかった。それぞれのサーヴァントは戦闘準備を整え、整列したホムンクルスとゴーレムの前に立つ。
「ライダーとアーチャーはホムンクルスの指揮を執れ」
「了解しました。しかし赤のライダーが現れた時は……」
「好きにしろ、指揮は最初だけで構わぬ」
流石にランサーも察したのか、それ以上に何も言うことはなかった。
「ライダー、シャルルマーニュ十二勇士としての力量、見極めさせてもらうぞ」
「ラジャー!」
そう言ってライダーは目の前に現れたグリフォンとも言い難い幻獣へと乗り込む。
「バーサーカー、お前は自由だ。果てるまで戦い、狂い踊るがいい」
「ゥ……ゥゥゥゥィ…………」
バーサーカーっは一度だけランサーに向けて頷けば、再び戦場に向けて唸りを上げる。
「セイバーよ。貴様も我と同じ王であるというのであれば、その本当の力をここに証明してみせよ」
王、そう呼ばれた黒のセイバーはランサーに視線を向けながらも宝具である大剣と鎧を身に纏い、戦場を無言で睨みつけた。
「さて諸君、アサシンがおらぬこの状況。赤のバーサーカーをこちらの手駒に加えたとはいえあれは所詮手駒。戦力差は見た限りだとこちらの方が不利」
見たところ、というとこれまでの赤のサーヴァントとの戦いを見る限りの話である。強力な赤のセイバー、赤のランサー、赤のライダーに加えてあんな空中要塞まで出してきたのだ。戦力的に勝っているとは言いにくい状況である。
「さて、それでは質問だ。諸君は敗北を受け入れる気はあるかな?」
愚問であった。それぞれのサーヴァントがそれぞれ拒絶を示す。
「そう、その通り。我々は勝利する!この程度の戦力差、この程度の絶望、喰らいつくせずして誰が英雄を名乗れるものか」
黒のランサー、ヴラド三世のその言葉でサーヴァント達も奮え上がる。
「あれは蛮族だ。我が領土を穢し、傲岸不遜に下劣に高笑いする死ぬしかない愚者共だ。笑いながら連中を殺すがいい」
そして、馬を駆るランサーが先陣を切るように大きく城から飛び降りる。
□
浮遊する庭園で立ち尽くす彼女は、惨状を見下ろしていた。
「頃合いか」
赤のアーチャー、アタランテは自らの持つ弓。
「我が弓と矢を以て
彼女の宝具。弓と矢ではなく、弓に番え放つという術理そのものが具現化した宝具が解き放たれる。
「この災厄を捧がんーー
空へと放たれた二本の弓が、天へと消え去り、災厄となって光の矢の豪雨となって降り注いだ。黒の陣営が用意したホムンクルスとゴーレムの部隊はこの一撃を以て壊滅状態に陥り、それを見ていた赤のアーチャーが退屈そうにしていたライダーに振り返り言葉を投げかける。
「露払いは終わったぞ。交代だ、ライダー」
「応!」
ライダーは大声で返事をしながら心底嬉しそうな顔で空中庭園から飛び降りる。飛び降りたライダーの口笛とともに三頭立ての戦車が空を裂いて現れ、落下するライダーはそれに飛び乗る。
「さあ、開戦だ!赤のライダー、いざ先陣を切らせて戴こう!」
ライダーが鞭を振るのにあわせて、戦車は黒の陣営向けて走り出す。
「さぁ、黒のサーヴァント!このライダーの戦車を止めてみせろ!」
大きな音をあげながら大地に着地し、そのまま疾走するライダーの戦車の前にいくつかのゴーレムが姿を現す。
「退け、雑魚が!」
「さて、それはどうかな」
戦車がゴーレムと激突する瞬間に、三体のゴーレムが弾け飛ぶ。弾け飛んだゴーレムの破片はそれぞれ軍馬の足に絡まり、次第に硬化していく。それによりライダーの戦車は足を止め、停止してしまう。それに合わせるように武器を手にしたホムンクルスが一斉にライダーに襲いかかる。
「しゃらくせぇ!」
ライダは手綱とは別の手で持っていた槍を大きく一振りする。刹那、宙を舞うホムンクルス達は肉片となり、血しぶきとなって地上へと降り注いだ。だがそれに更に追撃をかけるように、一本の矢がライダーに向けて飛んでくる。
「……っ!?」
反応が遅れはしたが、直撃までは行かなかった。持っていた槍で弾き落とせば、ライダーは嬉しそうに高笑いする。
「黒のアーチャーは何処や!預けた勝負、取り戻しに来たぞ!今宵は心ゆくまで殺し合おう!」
まるでそれに返事をするかのように再度数本の矢がライダーに向けて放たれる。ライダーはそれを槍で簡單に弾き返す。
「どこだ、黒のアーチャー」
「君が思ってるよりも近くですよ」
何度も、何度も矢がライダーに向けて放たれる。
「野郎ぉ……」
ライダーは命の駆け引きを楽しむかのようにそれを何度も何度も弾き飛ばす。矢の襲撃が止めば、ゴーレム達がまるで道を開けるかのように動き出す。
誘ってやがる。ライダーは確信した。
「だが侮ったな。我が父、我が母、我が友の名にかけて。この俺が背中を見せることなど、あるものか!」
それはまるで稲妻のようだった。ライダーの宝具、
「どこだ……」
と、その時ライダーの背に向けて数本の矢が放たれた。だがつまらなさそうにライダーはそれを弾く。
「二度も三度も同じ手が通用すると思うなよ、弓兵。今度はこちらから行かせてもらう」
軌道を修正しながらも、ライダーは真っ直ぐ矢の放たれる方へと突っ込む。再度矢がこちらを捉えるように飛来する。だがそれを障害物とも感じさせないようライダーは屋を弾き飛ばし、木の上を登っていく。彼の顔に向けて放たれた矢をライダーは素手で掴み取れば、ただ一点だけを睨みつけた。
「捉えたぞ」
放たれた場所、そこへとライダーは一気に詰め寄る。
「その首、戴いた!」
詰め寄った弓兵はこちらを向いて微笑んでいた。今、ライダーによって刺されそうになっているというのに。だが、ライダーは攻撃することに抵抗を覚えてしまった。今ここで殺す相手にだ。
「あ、なた、は……」
「そう、それが君の欠点です」
ただ蹴り飛ばしただけ。ただそれだけであるが、本来神の力をもってしてでないと傷つけることのできないライダーが容易く傷つき、空を舞い、大きく吹き飛ばされた。
「あ……」
自らを蹴り飛ばした相手である、黒のアーチャーに向けて赤のライダーは戦慄した。かつて自分に槍を与え、武術と知識を授けた彼が目の前にいるのだから。
「貴方は……」