Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃
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黒のセイバー、宝具開放したしそろそろ真名バレるのではなんて思ってますけどあの剣って所有者多くて結局わかんないんですよねぇ。
さて、物語ももう少しで中盤です。


7話 裁定者の姿

炎の一撃と黄金の一撃がぶつかったことで、一帯が荒れ果てたような大地へと変貌した。砂埃が収まると、そこには平然と立っていた赤のランサーの姿があった。

「……私の宝具を相殺したのか」

「なるほど、大した宝具だ。ティルヴィング、黄金の魔剣か」

 黒のセイバーは顔をしかめる。当然だ。宝具の真名を明かすということは自らの真名を明かすのと同義である。そして真名を明かせば致命的な弱点も明かされてしまうということである。

「アルングリムにティルヴィング。なるほど、貴様の真名はーー」

 と、その時ランサーの口が止まる。

「……どうやら撃ち合いはここまでらしい」

「どういうことだ……」

 セイバーは再度大剣を構える。

「撤退命令を受けた、追ってくるというのであればそれもよかろう」

 そう言い残して赤のランサーあ霊体化し、その場を離れる。

「……」

 セイバーは追うことはしなかった。対軍宝具を使用したことで、魔力を大幅に消費したためか、小さくため息をつく。

「限界は後一発、か」

 それが何を意味するのか。マスターであるゴルドすらもその真意に気付くことはなかった。

 

 

 

 

 ここから少し離れた位置での爆発があったことに気付いてはいたが、それよりもライダーは目の前の爆発の方に目を向けていた。まるでクレーターのように大きく開いた穴をライダーは恐る恐る覗き込む。そこには鎧は砕け、荒い息をあげながら立ち尽くす赤のセイバーの姿があった。

「お前は……」

「はぁ……あぁ?お前は、ライダーか」

 マスターからの治療が始まったのか、セイバーの傷や鎧が再生されていく。

「何があったんだ」

「何、バーサーカーとやりあっただけだ」

 バーサーカー、黒のバーサーカーのことだろう。しかし辺りにそれらしい気配もない。

「さっきのはお前の宝具か?」

「ばっかやろう、俺があんな粗末な宝具を持つかよ。ありゃあいつの宝具だよ、自爆しやがったんだ」

 なるほど、とライダーは頷く。先程の雷の大樹は黒のバーサーカーの宝具だったのか。

「セイバー、お前は庭園に行くのか」

「いや、俺はマスターと一度合流する」

 そう言ってセイバーは持っていた剣を肩に乗せながら辺りを見渡す。

「ライダー、あいつらと関わるなら気をつけろ。あのセミラミスって女、本当にまずい」

「警戒はしておこう」

 そう言って二人は背を向け合い、お互いの向かう場所へと走り出す。ライダーの向かう先はもちろん、宙に浮かぶ庭園である。恐らく他の赤のサーヴァントも向かっているはずだ。

 だが、空中庭園は何故かサーヴァントを招集しながらもミレニア城塞へと向かっていた。だがそれに追いつけないライダーではない。その足のスピードは、今回召喚された誰よりも速いと自信のあるものだ。そうしている間に、ライダーはミレニア城塞へと到着した。

「さて、どうやって戻るんだ」

「ライダー」

 唐突に声をかけてきたのは、赤のアーチャーだった。

「ここから戻れるのか」

「さてな、なんとかなんだろ」

 その時だった。風、とも言うべきなのか。ミレニア城塞を中心に、風が大きく渦巻く。それは徐々に大きくなっていき、竜巻とも呼べるものへと変貌する。

「こいつは……?」

 その竜巻はミレニア城塞のありとあらゆるものを庭園内へと吸い込んでいく。

「なるほど、こいつに乗って戻れってことか」

 ライダーは吸い込まれていく岩に飛び乗る。

「ライダー、あれを見ろ」

 アーチャーの指差す方も視線を向ける。そこにはまばゆい輝きを持った、それがあった。

「あれが……大聖杯」

 その神々しさに、ライダーも目を奪われてしまう。

「あれが万能の願望機……」

 あれがあれば、マスターの記憶を取り戻すことが可能なのか。あいつの、過去を知ることも。

 

 

 

 

 庭園内に戻ると既に赤のランサーが待機していた。

「戻っていたのか」

「ああ。だが早速だが仕事だ。黒の陣営が庭園内部に侵入した。もうじきここへ来るだろう」

 彼のその言葉を聞いてから黒の陣営が姿を現すまでそんなに時間はかからなかった。4騎のサーヴァントに数人のホムンクルス。だがライダーが視線を向けたのはもちろん、黒のアーチャーだった。

「決着つけようぜ、先生」

「……」

 ライダーの俊足と巧みなアーチャーの攻撃が火花を散らす。ライダーの槍撃を何度も弓で受け流しながら、隙あらば矢を番えて放つ。いつまでこの戦いが続くのか、ライダーはこの命をギリギリのところでやり取りをする感覚に興奮を覚えていた。

「さあ黒のアーチャー、英霊となったこの俺を止められるかな」

「何をーー」

「忘れているのは貴様の方だ使い魔が!!」

 唐突に耳に入った聞きなれない声にライダーは手を止めた。それに合わせてアーチャーもその声の方に視線を傾ける。そこには人間が、恐らく現在赤のランサーと撃ち合っている黒のランサーのマスターがそこにいた。

「我々はなんとしても大聖杯を奪還しなくてはいけないのです、そのためには宝具を使うしかないのだ!!」

 黒のランサーのマスター、ダーニックはランサーにその手に刻まれた令呪を見せつける。

「令呪を以って命じる、宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』を発動せよ!!」

「おのれェェェ、ダーニックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 その悲痛な叫びも虚しく、黒のランサーの肉体は急変する。聞くのも嫌になるほどの音を立てながら背中から翼が生え、腕は伸び、その牙が鋭く尖っていき、まるでその姿はーー

「余はァァァ吸血鬼などではないィィィィィィィィィ!!」

「ハーッハッハ!いやお前は吸血鬼だ、吸血鬼ドラキュラだ!!」

 ダーニックの高笑いに対して黒のランサーはその手にした肉体を駆使して高速でダーニックをその槍で突き刺す。

「貴様の好きにはさせんぞ、ダーニックゥゥゥゥ!!」

「第二の令呪を以って命じる、大聖杯を手にするまで生き続けろ!!」

 その命令を受けて黒のランサーは大きな雄叫びをあげる。苦し紛れにダーニックの首筋へと牙を立てる。

「第三の令呪を以って命じる、我が存在をその魂に刻みつけろ!!」

 三つ目の令呪の発動と同時にダーニックの姿が消失する。その場にいた誰もがその命令の意図について理解することができなかった。だが、それはすぐに明らかとなった。

「オノレェェェェ、ダーニックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

「フハハハハハハハハハハハハハハ!!コレデアナタハワタシ、ワタシハアナタダ!!」

「サーヴァントを乗っ取っただと!?」

「令呪の力だっていうのか……」

 流石にサーヴァント達は驚きを隠せないのか戦いを中断し、そちらの方に警戒を強める。

「ああも成り果ててしまえば、どうしようもないか」

 一番最初に切り込んだのは赤のランサーだった。だがランサーの一撃は躱されるどころか、塵のような姿に変化し全くその攻撃を受け付ける様子はなかった。

「なるほど、最早サーヴァントですらないか」

 その姿はサーヴァントの域を超えていた。これを別の呼び方で呼ぶのであれば、化物。そう呼ぶ以外にはないだろう。

「吸血鬼だ?それがどうした!?」

 ライダーは得意の俊足を活かして吸血鬼の懐へと飛び込む。塵へと変化する暇もなく。だがその攻撃が吸血鬼に直撃することはなく、槍を掴まれてしまう。

「何っ!?」

 そのまま放り投げられたライダーに吸血鬼の牙が襲いかかる。だが倒れるライダーに対して黒のアーチャーが滑り込みながらライダーを大きく蹴り飛ばす。

「何すんだよ!」

「貴方は神の力を帯びた攻撃でないと傷つかない。ですが、傷つけるだけが貴方を倒す方法ではないのですよ」

 黒のアーチャーが淡々と説明をする中、吸血鬼はその場にいたホムンクルスに対して吸血行為を行う。吸血されたホムンクルスたちも先程の黒のランサーのように変貌していき、吸血鬼へと姿を変える。

「仲間を増やすってわけか」

「彼が大聖杯を手に入れてしまえば、本能のまま仲間を増やし続けるでしょう。そうなっては英霊(我々)でも手がつけられない。庭園から出さないで下さい」

 黒のアーチャーの言葉はその場にいる黒のキャスター、黒のセイバーだけでなく赤のサーヴァントに対しての言葉でもあった。流石に割り切ったのかライダーも吸血鬼に対して槍を構える。

「ヴァァァァァァァァァァ!!」

 雄叫びとともに放たれた杭の一撃はライダーでもアーチャーでも他のサーヴァントで向かってでも放たれたものではなかった。まるで反射的に、そこに現れた一人の少女に向かって放たれる。だがその杭の一撃を少女は難なく左腕で弾き飛ばす。

「……吸血鬼」

 赤のサーヴァントでも黒のサーヴァントでもない。そしてマスターでもホムンクルスでもない。人とは違う異質な存在。ライダーは彼女が、今回の聖杯大戦で選ばれたルーラーであることが一目でわかった。

 ルーラー、聖杯戦争を司る裁定者。人間のマスターではなく聖杯そのものに呼び出された存在。聖杯戦争を成立させるための存在が、今目の前に立っていることにライダーも流石に気を張り詰める。

「令呪を以って命ずる」

 本来令呪はマスターしか所有し得ないものである。しかしルーラーは別である。ルーラーは聖杯戦争を成立させるべく全てのサーヴァントに対して二画、令呪を所有している。

「ウグ、ァァアアアアアァァァァア!!」

 しかし元黒のランサーであった吸血鬼に対して、令呪は機能しなかった。当然だ、最早あれは化物以外の何物でもないのだから。

「事情は概ね把握しています。この吸血鬼を倒すため、聖杯大戦の調律のため、一時的に皆さんには協力体制を敷いてもらいます」

「ほう、それはルーラーとしての言葉か?」

 赤のアーチャーが言いながらも余裕のなさそうなっ表情で告げる。

「はい。この吸血鬼を聖杯の元へたどり着かせる訳にはいきません、絶対に」

「了解した、あれは俺達英雄全ての敵だ」

 赤のランサーの言葉にライダーも頷く。

 ルーラーは一拍、深呼吸をすればその背中に刻まれた令呪に意識を集中させる。

「ルーラー、ジャンヌ・ダルクの名の下にこの場にいる全てのサーヴァントに令呪を以って命じる」

 その巨大な魔力がサーヴァント達を包み込む。

「吸血鬼を打倒せよ!」



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