Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃
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お待たせしました!
色々話すことがありますが、後書きで!


8話 最後のマスター

「ルーラー、ジャンヌ・ダルクの名の元にこの場にいる全てのサーヴァントに令呪を以って命じる!吸血鬼、ドラキュラを打倒せよ!」

 背中に刻まれた令呪が紅く輝き、その場にいるサーヴァント6騎を包み込む。

 いや、そもそも令呪なんてものは必要なかったのかもしれない。彼らにとってこの吸血鬼は敵であり悪だ。であるならばこの場で始末するのが道理だ。これが聖杯大戦でなければ。そう、現在は聖杯大戦の真っ只中。敵の敵は味方、というわけにはいかない。そういう意味を考えると、今は敵であるサーヴァントも令呪が働く限りは味方ということだ。

「私と黒のアーチャーで援護する、ライダーとランサー、黒のセイバーは好きに動くがいい」

「こちらは僕が担当しよう」

 赤のアーチャーが弓を番えながら吸血鬼に対して威嚇し、黒のキャスターが呼び出したゴーレムで吸血鬼となったホムンクルスに対して攻撃を仕掛ける。

「あいよ、姐さん」

「了解した」

「わかった」

 赤のライダー、赤のランサー、黒のセイバーがそれぞれの武器を構える。

「行くぜ!」

 ライダーはその俊足で吸血鬼に一撃を与える。だが先程とは違い、彼以外にルーラーである彼女を含めて6騎のサーヴァントがいる。吸血鬼の後ろから黒のセイバーが切りかかった。

「霧になった……っ!?」

 黒のセイバーの剣撃は全く手応えがなく、その体は霧状になり移動していく。

「だが、それがどうした」

 炎だった。赤のランサーの放つ炎が、霧となった吸血鬼を焼き払った。直接的なダメージにはならなくとも、それでもいつまでも霧状になっているわけにはいかないのか、実体化し、後ろで弓を構える黒のアーチャーと赤のアーチャーに杭を射出する。この吸血鬼は元々は黒のランサー、極刑王(カズィクル・ベイ)の異名を持つヴラド三世だ。杭を操ることなど造作も無いのだろう。

「だが、その程度だ」

 二人のアーチャーに向けて放たれた杭は黒のセイバーの剣先から放たれた黒い炎によって一掃される。

「詰みだ」

 その背後から赤のランサーが槍撃を放つ。最早7騎のサーヴァントによって息をする暇もなく攻撃を立て続けに受ける吸血鬼は受けた攻撃の傷を再生させていく。だがその再生速度よりも、英雄たちの攻撃のほうが早いのは一目瞭然だった。

「詰みだと言った」

 赤のランサーの放つ魔力放出の炎が吸血鬼を燃やす。

「ぐっ……な、んだ……」

 と、その時突然赤のランサーが動きを止める。

「マスター……か!?」

 同じく赤のアーチャーも苦悶の表情で動きを止めた。その一瞬を吸血鬼は見逃さなかった。吸血鬼は彼らに背を向けて猛烈な勢いで疾走する。

「姐さん!」

「いけ、ライダー……我々のことは構うな!」

「ちっ……」

 ライダーは軽く舌打ちをしながら、黒のアーチャーとルーラーと共に吸血鬼を追いかける。

「私とキャスターはこいつらを先に片付ける」

 その場に残った黒のセイバーは現在も吸血鬼となったホムンクルスと戦うキャスターに視線を向けながらそちらの方に走っていく。黒のアーチャーはそれに対して無言で頷く。

「黒のアーチャー、先ほどの赤側が動きを止めた理由はわかりますか?」

「いえ。向こう側のマスターが拒否したのかと思いましたが、そうではなさそうですね」

 そう言いながら赤のライダーに向けて視線を向ける。

「俺にもわかんねえよ!」

 吸血鬼の追跡を続けるライダー達に向かって、一閃の光がこちらに真っ直ぐ向かって放たれた。咄嗟にライダー達っはそれを躱すが、次々とその攻撃は放たれる。

「防衛システムですか……」

「ルーラー、ライダー、ここは私に任せて下さい」

 そう言って黒のアーチャーは二人から一歩下がり矢を番える。

「……お願いします」

 その言葉を信じてルーラーとライダーは真っ直ぐ大聖杯のあるであろう部屋まで疾走する吸血鬼を追跡する。魔力を放とうとする防衛システムは、魔力を放つよりも前に黒のアーチャーの放つ矢によって尽く破壊されていく。

 

 

 

 

 防衛システムに手こずり、距離を離して先に一つの部屋にたどり着いた吸血鬼はその部屋を見渡す。そこには巨大な構造物、その光で満たされた万能の願望機、冬木の大聖杯だ。

「そこまでですよ、ダーニック」

 大聖杯へと続く階段から一人の少年がこちらに向かって歩いてくる。

「誰だ?」

 少年は階段から降り、その吸血鬼の前に立つ。

「……そんな、莫迦な!?ありえない、何故貴様が生きている……ッ!?」

「貴方が生きていたのだから、私が生きていたとしても驚くことではないでしょう?」

 ふざけるなぁ!!!ーー狂気に飲まれた吸血鬼は只々、叫び散らす。

「吸血鬼っはその比類なき力の代償に様々な弱点を内包せざる負えない」

 よくある吸血鬼の弱点というやつだ。にんにくが苦手だったり太陽が苦手だったり、十字架が苦手だったり。

「この時を待っていたさ、ダーニック!冬木の大聖杯は俺のものだ!お前のような世界を破滅へ追いやるしか能のない者にこの大聖杯は断じて渡すものか!」

「ほざけェェェェェェェェェェェェェェェッ!!」

「祈りの時間です……」

 少年はその手に持っていた黒鍵を投げ、銀色の刃が舞い、吸血鬼の周囲を囲う。

 

 私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒やす。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬものは一人もいない。

 

 それは炎と呼ぶべきなのだろうか。吸血鬼はただ悶続ける。

 

 浮き砕かれよ。敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる。

 

 装うなかれ。許しには報復を、信頼は裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を。

 

 休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。永遠の命は、死の中でこそ与えられる。ーーーー許しはここに。受肉した私が誓う。

 

この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)

 かつて魔術師であり、領主であり、怪物となり果てたそれは、人間ではあり得ない洗礼詠唱を受けて、塵となり、そして消滅した。60年以上聖杯を求め追い続けたダーニック・プレストーン・ユグドミレニアは、吸血鬼という汚名を消すために現界し戦い続けたヴラド三世は、ここに消滅した。

 そしてそこに吸血鬼を追ってきたルーラーと赤のライダーが姿を現す。

「……そん、な」

「ルーラー……?」

 その光景、彼と何者でもなくなったそれを見た瞬間、ルーラーは全てを悟った。

「初めまして、今回のルーラー。私がお探しの赤のマスター、シロウ・コトミネです」

 ライダーにとってそれは何も不思議な光景ではなかった。彼とは何度か顔を合わせたこともあれば、話したこともある。

 だがルーラーである彼女にから見れば、その存在は一目瞭然だ。彼は人間ではない、眼の前にいる少年はーーサーヴァントだ。

「思いもよりませんでした、まさか16人目のサーヴァントがいたなんて」

「なっ」

 さすがのライダーも、それをライダー越しに聞いていた岸波も、驚きを隠すことができなかった。

「いえ、私は一人目のサーヴァントです。そして私貴女と同じ、ルーラー」

 ルーラーは本来聖杯によって召喚されるもの。だが今回のルーラーは通常の召喚で召喚されたわけではない。この世に存在する人間の肉体に憑依する形で現界している。それが何故なのか、ルーラーはようやく理解した。ルーラーが既に召喚されていたから、聖杯が混乱したために起こったエラーなのだ。

「……第三次聖杯戦争で召喚されたルーラーですか」

「ええ、貴女にはそのスキルが有る。彼らの正式なマスターとなる前に貴女と顔を合わせてしまうろ全てが台無しになってしまう、お前なんかに俺の夢を、邪魔させはしない」

 少年の声に迷いはなく、そして悪意に満ちた目もしていなかった。自分の行為のすべてが善行だと信じ切っているその無垢な少年に向けて、ルーラーは彼の名を口にした。

「貴方は何が目的なのですか、天草四郎時貞(あまくさしろうときさだ)

「知れたこと。全人類の救済だよ、ジャンヌ・ダルク」

 

 

 

 

「我々のマスターに何をした、神父!」

 遅れて赤のサーヴァントと黒のサーヴァントが部屋に入ってくる。

「平和的にマスターとしての権利と三画の令呪を譲っていただきました。大聖杯と接続した今、魔力供給に問題はありません」

 赤のアーチャーは赤のランサーに視線を向ける。だが、赤のランサーは首を横に振る。

「そう、彼は嘘を見抜くことに長けた施しの英霊。だから私は出来るだけ嘘をつかずに事を運ばねばならなかったんですよ」

「……赤のアサシン、これは貴女の仕業ですか?」

 その言葉を受けて赤のアサシン、セミラミスは姿を現した。

「なるほど。我が純情なマスターを誑かし、唆し、悪の道へ引きずり込んだと?だが生憎我はサーヴァントだ、サーヴァントはマスターに従うものだろう?」

 ルーラーの問いかけに対してアサシンは嘲笑する。

「ざっけんな!」

 その言葉にライダーは動く、それと同時に赤のアーチャーも矢を放つ。だが、それをその二撃がシロウに届くことはなかった。ライダーの槍はアサシンの左手の黒い魚鱗の装甲で、赤のアーチャーの矢は赤のランサーが掴む。

「ふむ。神魚の鱗を至極当然のように貫くか、さすがはアキレウス。つくづく神の子よな、お主」

「本気だったら鱗も腕も顔面も貫いてるぜ」

 舌打ちをしながら下がるライダーに対して血の滴る腕を摩りながらアサシンは睨みつけた。

「ですがライダー、今のは失策ですよ。私を殺せば、赤のアーチャーも赤のランサーも魔力供給できなくなり、消滅してしまう」

「……」

 確かにそうだ。彼の言っていることは虚言ではない。現在の赤のセイバーと赤のライダー以外のマスターは、彼なのだから。

「ランサー、まさか汝、こいつをマスターと認めるというのではあるまいな!」

「俺もマスターの代替えを認めたわけではない。だが矢を放つ前に、問いただすべき真実があるのではないか?」

「ありがとうございます、ランサー」

 その光景にシロウは意図の読めない笑みを零す。

「さて、ライダー。確認しておきましょうか、貴方はどうしますか?こちらにつくのであれば、貴方とマスターの契約を破棄し、私と契約してもらいますが」

 ライダーは小さくため息をつく。

「くっだらねぇ、俺のマスターは岸波白野(あいつ)だけだ。それ以外は認めるつもりもねえし、ましてやお前のことは最初(はな)から気に入らねえんだよ」

 ライダーは、アキレウスは堂々と言い放った。

「そうですか、貴方は戦力として惜しいのですけどね」

 そう言い捨てればシロウはルーラーの後ろで唖然としていた黒のサーヴァントに目を向ける。

「さて、状況的に考えて貴方達は三騎のサーヴァントを失っています。うちライダーは戦力になりませんし、そちらのセイバーではこちらのランサーが倒せない。降伏しませんか?そうすればこの大聖杯であれば、貴方達の願いを叶えるでしょう」

 黒のアーチャー、キャスター、セイバーはただ立ち尽くしていた。

黒のアーチャー(ケイローン)、貴方はどうですか?」

「どうですか、と言われましてもまだこちらが負けたわけではありません。降伏する理由はないと思いますが」

「なるほど、賢い貴方らしいですね。では貴女はどうですか?その無念を晴らすためだけにサーヴァントとなった貴女ならば、我々の要望に応えるのではないのですか」

 シロウは黒く、そしてただ憎しみをその身に宿した黒のセイバーに対して視線を向ける。

 

 

「黒のセイバーーーいえ、スウァフルラーメ」|

 

 

 今まで、マスターであるゴルドの意図で真名を隠されていた彼女の名を。確かに天草四郎時貞は、そう呼んだのだった。




ということでようやく黒のセイバーの真名を明かすことができました。
ここまでの話は原作とほぼ同じ筋書きなのですが、ここから先はオリジナル要素多めにさせて頂くと思います。
本来いるはずのジークがいなかったり、黒のセイバーが健在していたりと現在の時点で違う部分がありますがこれがこの先の話でどう影響してくるのか。

駄文ではありますが、先を楽しみに待っていただけるとうれしいです。







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