【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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四話

 一夏と鈴に後ろを任せ、楓は一直線に五つ目の無人機へ突撃する。幸いにも敵は後ろの一夏達ではなくこちらを排除対象として優先したらしく、赤く目を光らせた。

 背中のスラスターから黒煙を吐き出して、こちらに正面を向けながら浮き上がりながら後退する。

 

 敵のISの行動は今までの攻防から大体パターンが読めている。基本的にスタイルは接近戦ではなく中距離の射撃殲滅。

 案の定、距離を開けつつ牽制のビームを放ってくる。

 

 楓は鱗のような装甲から大気を噴出。急加速、急転換を繰り返し紙一重でそれを躱しながら前進。さらに周囲に展開した四基のビットを操る。

 二基を階段のように配置し空を飛ぶ足場に、二基は万が一躱しきれない場合の盾として常に周囲に展開。四基を絶妙なタイミングでローテンションさせながら空を駆け上がる。

 

 遂にこちらの手が届く位置まで接近。

 こうなれば敵の次のパターンは、接近を嫌ってまずは巨大な腕を振り回す。これを普通に退いて躱せばビームで牽制しながらまた間合いを広げられてしまう。

 ならば、

 

「しっ!」

 

 鋼鉄の塊を物ともせず前へ。

 一歩間違えれば正面衝突で大ダメージだが、今までの敵の攻撃スピードなら《八咫烏》のスピードで一瞬早く懐に潜り込めるはず。

 

 額を烈風が叩き、頭上を巨大な鉄が通過する。

 大丈夫だとわかっていても背筋が凍る。しかしここで立ち止まってはせっかくの勇気が無駄になる。間合いは勝ち取った。

 

 まずは拳を二連撃。振り払う左腕を躱しながらさらに一撃。体が折れたところをアッパーで頭部をかち上げる。

 これで相手が生身の人間なら動揺の一つもあっただろうが、相手は無人機。ダメージはそれ以上の効果は生まない。

 冷静に、冷徹に、こちらを叩き潰そうと鋭い爪のついた腕を振り上げる。

 

 だが遅い。

 

 すでに破損して盾として機能しないビットを二基、横合いから無人機の振り上げた腕へ突っ込ませた。盾以上の効果を持たないただの板でも、高速で叩きつければ立派な投擲武器になる。

 関節部を狙って放ったそれは、鈍い音を立てて敵の動きを寸断する。

 再び生まれた好機に乱打を繰り返し、空から地上へ叩き伏せる。

 

 押しきれる――――誰もがそう思える展開であるにも拘わらず、楓はあっさり身を退いた。自身の間合いのさらに外へ。

 何故ならその直前に一夏からのサインが出ていたから。

 

 楓と無人機が戦う後方で、一夏と鈴音の準備は完了していた。

 なんと《甲龍》の衝撃砲をブースターにしようとのことだ。相変わらず発想がぶっ飛んでる。それでもやると言ったならやってもらうしかない。

 

 無人機が体勢を整えるより先に一夏が動き出そうとしたとき、

 

「一夏!」

 

 この場の誰でもない声が響く。

 

 ハイパーセンサーが遠方、アリーナピットに立つ少女の姿を捉えた。

 

「男なら、それぐらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 箒だった。

 

 おそらく一夏の戦いを見ていて、この土壇場でいても立ってもいられなくなってしまったのだろう。少しでも勇気づけたくて、少しでも彼の力になりたくて。

 それはとても美しい想いだ。純粋な願いだ。誇らしい勇気だ。

 しかし、このタイミングは最悪だった。

 

「…………」

 

 無人機のセンサーも箒を認識する。すると目の前の楓達を無視して砲口を彼女へ向けた。

 

「一夏早くやれ!」

 

「……っ!」

 

 思いもよらないハプニングに動きが鈍ったのはやはり生身の人間である楓達だった。

 楓の声で我に返るも、無人機の方が速かった。無慈悲な光が放たれる。

 

「――――っなろ!」

 

 足元の一基を除いて三基を箒とビームの間に滑り込ませる。しかし角度まで調整は出来なかった。一基、二基と貫かれて、まだ無傷だった三基目がどうにか受け切る。

 

「いい加減大人しくしてやがれ!」

 

 受けきった三基目をそのまま敵へ叩きつける。

 五つあった目の一つが砕け散った。

 

「鈴!」

 

 箒の無事に安堵しつつ、一夏が叫ぶ。

 その声に押されるように躊躇っていた鈴音は半ば自棄になりながら衝撃砲を放つ。

 見えない弾丸は《白式》を直撃し、それを推進力にした《白式》が加速し、消える。圧縮したエネルギーを爆発させる超加速、《瞬時加速(イグニッション・ブースト)》。

 

 交差は一瞬だった。

 

 《白式》が一瞬で移動した次の瞬間、無人機の右腕が宙を舞っていた。残された四つの目から光が失われ、本体も前に傾いで遂に倒れた。

 

「やった、のか……?」

 

 倒れた無人機を確認するとその場に膝をつく一夏。その手の雪片からも光が失せた。

 

「終わったぁ」

 

「あー、疲れた」

 

 鈴音は張り詰めた緊張が解けたのかへたり込む。

 楓もビットを手元に戻して、一先ず息をつく。

 

 勝った。結果として犠牲も出ずに、解決した。――――そう思っていた。

 

 視界に出現する警告ウインドウ。

 

「な!?」

 

 悲鳴のような軋んだ音をあげながら倒れた無人機が残された左腕をもたげた。凶刃が向けられた先には、事態が理解出来ずきょとんとした鈴音がいた。

 

「逃げろ!」

 

 楓は叫びながらシールドビットを再射出。しかし時の巡り合わせは呪いたくなるほど絶望的だった。

 彼女と自分の位置は無人機を挟んで反対側。ならば近い方の無人機を叩き潰す――――それすらも待ってくれなかった。

 無情な光が放たれる。

 

 さっきまでの彼女ならこの程度の攻撃、躱すことも防ぐことも容易かったはずだ。だが訓練でも試合でもない、初の本物の実戦に必死に堪え続けた精神が、戦闘の終わりを感じて切れてしまった。故に今まさに迫り来る光を前にしても彼女は顔色一つ変えない。

 間に合わないとわかっていながら、懸命に鈴音のもとへ駆けつけようとする楓は光に押し潰される少女の姿を幻視した。その瞬間、彼女の体が横合いから突き飛ばされた。

 

「痛っ……」

 

 為すがまま地面を転がった鈴音は、ハッとして視線を上げて見つけてしまった。地面を転がっている、想いを寄せる少年の姿を。

 

 

 

 

 

 一夏だった。倒れていたのは幼なじみの少年だった。

 《白式》はすでに限界を迎えていたのか、彼女が視界に捉えるのと同時に光の粒子となって消えた。つまりそれほどギリギリの状態だったということ。

 

「いち、か?」

 

 《白式》のエネルギーは限界だった。元々の燃費の悪さに加えて、衝撃砲まで利用した瞬時加速、そして絶大な攻撃力を誇る《零落白夜》の使用。

 ISが搭乗者を守る絶対防御の機能は極端にシールドエネルギーを消費する。

 

「一夏」

 

 ならば、消費すべきエネルギーがすでに無かったら? 一体どうやってその機能は起動するのか。

 

「一夏!」

 

 顔を青ざめさせた鈴音は一夏のもとに駆け寄ろうとして、こけた。

 何かに躓いたわけではない。足が震えていた。手も。歯も噛み合わず音を鳴らしていた。

 

「こ、の……!」

 

 それでも、無様な格好など気にも留めず、もがくように地面を掻いて這うように幼なじみの側へ辿り着いた。

 外傷は見えない。しかし意識が無い。

 

「一夏馬鹿! 起きなさいよ!」

 

 いつものように困った顔で答えてくれない。怒ってくれない。笑ってくれない。

 何故だ。何でこんなことになった?

 

「アタシの、せいだ」

 

 代表候補生が聞いて呆れる。勝ったと思って気が抜けていた。そんなもの言い訳にもならない。突きつけられた砲口に、逃げることも構えることも出来なかった。それどころか撃たれる瞬間に至ってさえ、一体何が起こっているのか理解出来ていなかった。

 足を引っ張って、結果そのツケを払ったのは自分ではなかった。自分を庇った一夏だった。

 

 視界が滲む。抱き抱えた眠る少年の頬に、ポタポタと涙が落ちた。

 

「――――やがったな」

 

 聞こえてきたその声には滲み出るほどありありとした感情が込められていた。

 もう一度、今度は剥き出しの感情を叩きつけるように声の主は吠える。

 

「やりやがったなてめええええ!」

 

 漆黒のISを中心に、大気が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 

 無人機は体からバネを飛ばし、至る所から軋む音をたてながら立ち上がろうとしていた。砕けた赤い目を点滅させ、一夏に切断された右腕の断面からは、まるで鮮血のように茶色い油を垂れ流している。

 人であるなら動けずとも、機械故に動ける。そう、相手は機械だとわかっていたのに。

 完全に停止したことを確認せずに戦いが終わったと安堵してしまった。結果、その油断の代価を払ったのは親友だった。

 

「チビ子、一夏を連れてどいてくれ」

 

 返答は無い。彼女は一夏を抱き抱え、涙をとめどなく流しながらうわ言のように名を呼び続けている。

 スッ、と息を吸い込む。

 

「凰 鈴音!」

 

 ビクリと体を震わせる少女。

 怖がらせるような真似に罪悪感を覚えながら、今度は極力優しく伝える。

 

「頼む。一夏を安全な場所まで連れて行ってやってくれ」

 

 このまま戦いを始めればどんな危害が及ぶかわからない。敵が動けない一夏を狙う可能性だってあるのだ。

 鈴音は無言のままコクンと頷いて、自分の体を引きずるように、しかし一夏のことは丁寧にアリーナの端に避難する。

 

 これで一先ずは安全だ。それが最早手遅れだとしても。

 

「……っ」

 

 奥歯を噛み締める。拳を握り締める。

 自分が油断していなければこんなことにはならなかった、などという傲慢な考えは無い。所詮自分はただの子供だ。けれど、それとこの怒りはやはり別だ。

 悔やむ気持ちは抑えられない。この怒りは耐え切れない。

 

 耐えるつもりも――――無い!

 

「――――初列風切(しょれつかぜきり)

 

 

 

 

 

 

 再び起動した無人機はまず自身の状態を確認する。右腕は欠損。視界に一部障害有り。その他数十箇所、ダメージ蓄積が重度破損(レッド)を訴えている。エネルギー残量も僅か。活動限界およそ五分。

 戦闘続行――――可能。

 

 動ける間は彼、もしくは彼女は戦闘続行不可能ということにはならない。初めからそう設定されているのだ。

 故に無人機であるこれは立ち上がるなりすぐに敵である立ちはだかった漆黒のISへ残された左腕を向けた。エネルギーチャージ。

 

「初列風切」

 

 何事かを呟いた。ゆらりとその細身が動き――――それを認識した瞬間、無人機は宙にはね飛ばされていた。

 

「?」

 

 視界にダメージ状況が送られてくる。新たに計五ヶ所の破損。解析。拳によるダメージと判明。

 そうこうしている間に今度は背後に衝撃。浮いた機体がさらに空へ打ち上げられる。

 

 まただ。何も見えない。

 状況が把握出来ない。状態が整理出来ない。

 ただただ機体ダメージの情報が遅れてやってくる。

 一部視界に障害が出ているが、搭載されたハイパーセンサーに問題は無い。だというのに、見えない拳が、蹴りが、機体に次々とダメージを与えていく。

 

 およそ機体ダメージが八十パーセントを越えたとき、無人機のハイパーセンサーはようやくそれを見つけた。上空へ打ち上げられ、制御とは関係なく空を弾き飛ばされる自身の周囲を囲む物を。

 それは黒いビットだった。無傷な物はほとんどなく、亀裂が入った、すでに壊れかけの物を含めたシールドビットが一定の距離を開けて無人機を取り囲んでいる。まるでそれは結界か、それとも己を捕らえる檻か。

 

 バキン、と一際破損が酷かったビットが突如音を立てて砕け散った。同時にそちらの方向から無人機へ攻撃が入る。

 

 それらのことからようやく無人機はこの状況を把握した。あの痩躯のISはいる。この結界の中をピンボールのように跳ね回っているのだ。それもおそろしく速い。なにせ無人機のハイパーセンサーがその影すら追えないほどに。

 

 これがもし通常通り人が操るISだったなら、この結界から逃れようとがむしゃらに動いてその背中を撃たれただろう。

 しかし無人機はたとえダメージ量が危険域に達し、つまりは自分自身の命がこと切れようとしている瞬間であって尚冷静に動いた。

 

 囲むビットの位置を入力。今までの戦闘から敵IS搭乗者の思考パターンを分析。先ほどのダメージ量から速度を計算。

 

 無人機は何もない空間に左腕を構える。たとえ肉眼で見えなくとも、ハイパーセンサーでさえ見えなくとも、あらゆるデータから次に現れる敵の位置を弾き出す。そこへ撃ち込むだけでいい。

 死の淵にあって冷徹な演算を行った無人機のビームは、しかし虚空を穿つだけだった。

 

「――――次列風切(じれつかぜきり)

 

 痩躯のISはすでに背後にいた。

 

 無人機の計算は決して間違っていなかった。楓の思考パターンから、次に出現する場所、タイミングをまるで予知の如くピタリと当てていた。

 ――――ただ一つ、《八咫烏》の速度はさっきよりさらに速くなっていた。

 無人機がビームを放つその瞬間、すでに楓はビームの軌跡を走破して背後にいた。

 

「お、おおおお!」

 

 搭乗者の裂帛の声と共にさらなるダメージが蓄積される。とどめとばかりに速度の乗った一撃で再び無人機は地面と激突する。

 

 ダメージオーバー。数十秒後、この機体は完全に機能を停止する。それでもまだ数十秒動ける(・・・・・・・・)

 

三列風切(さんれつかぜきり)――――《神威》発動」

 

 与えられた声音から相手の位置を割り出す。しかしその必要も無かった。視界を遮っていた土煙が彼方へ吸い込まれていく。

 見上げたそこに敵のISはいた。

 

 ――――エラー。

 

 痩躯のISの装甲が針のように全て開いている。そこへうねるように大気が吸い込まれているのだ。

 

 ――――エラー。

 

 大気だけではない。巻き込まれたあらゆる物が痩躯のISの装甲、正確には背中部分へ飲み込まれていく。

 結界を作っていた黒いビットはいつの間にか回収され、今度は吸い込む風を制御するように彼の周囲を衛星のように旋回している。そしていくつかは連結し、まるで三本目の足の如く地面へ楔を打つようにして体を支えている。

 

 ――――エラー。

 

 解析するまでもない。途方も無いエネルギーを大気渦巻くあの先から感じる。

 

 ――――エラー。

 

 ならば何故無人機は動かないのか。

 これは機械だ。故に絶望しない。故に諦めることはない。機能を停止するその瞬間まで、最適な行動を取り続ける。

 だからこれは動かないのではない。

 

 ――――エラー。

 

 動けないのだ(・・・・・・)

 

 あらゆる回避を高速シュミレート――――回避不可。

 

 ――――エラー。

 

 周囲の障害物を使った防御――――不可。

 

 ――――エラー。

 

 ならば、敵ISの撃墜――――不可。この旋風の中心に立つ相手を落とせる攻撃方法、該当せず。

 

 ――――エラー。エラー。エラー。エラー。

 

 視界に重なるエラーのウインドウ。それでも繰り返す演算。しかしどんな行動を取っても最適にはならない。機械故に、最適ではないとわかっている行動は取れない。

 

「…………」

 

 漆黒のISが右腕をこちらへ向ける。その手に粒子が集まり武器が握られる。

 それは奇妙なものだった。銃の形をしていたが肝心の銃身が無い。

 グリップとトリガーだけを象ったそれは、まるで何かのスイッチのようだった。――――それが引き絞られる。

 

「潰れろ」

 

 無人機はその四文字の音を拾ったのを最後に、機能を停止した。




書けるときに書いてしまおうがモットーです!はい、閲覧ありがとうございます。

>てなわけで、再びこちらを更新です。だって……だって問題児のストック(原作)が無くなりつつあるんですもの!
まあこっちで他作品の話題は置いておきましょう。

>楓君爆発。この作品初見の人は『あれ?こいつ接近戦仕様じゃなかったの?』と思われたでしょうが、そこら辺は次回の二章エピローグ(?)で解決させますのでお待ちを。

>怒る描写って凄く難しいなぁ、と思いました。なにせ荒ぶる感情を文字にするわけですから『うおおおおおおおお!!』とかセリフだけでも駄目ですし、『彼は怒っていた』とか一言ド直球に書くだけでも駄目ですし……
出来れば読んでいる側が鳥肌立つような熱い感じのを一度でいいから書いてみたいですね。

神よ!明日起きたら突然文才に目覚めるフラグを私に与え給え!!
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