【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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二話

 相川(あいかわ) 清香(きよか)はこの朝の冷たい空気が好きだった。部活のときや夜に走るのとはひと味違う。例えるなら誰の足跡もない新雪を進むような爽快感がこの上なく好きなのだ。

 

 学園の敷地はとても広い。校舎はもちろんのこと、複数の演習場。整備場。学園用に常備されている保管庫。イベント用のアリーナ。生徒、及び教員が寝泊まりする寮。他にも生徒達のリフレッシュを考えた公園のような敷地など、施設列挙するのも一苦労するほどだ。

 そんな敷地の外周縁部を走る少女が清香だった。話題の男性IS適正者とクラスメートであり、同時に世界の女性にとって憧れであるあの織斑 千冬が担任を務めるクラスの生徒。そんな幸運に恵まれた一人。

 

 彼女の日課がこの毎朝のジョギング。ルームメイトが目を覚ますずっと前に起きて、学園の敷地を一周する。先ほども述べた通り、ここは一周するだけで大層な距離なので走る距離は充分。加えて自然も多く、道も綺麗で快適だ。

 小さい頃から清香は運動が好きだった。小学校では男子に混じって遊び、中学も運動部に所属するほどだ。

 ジョギングは元々部活の自主練のつもりだったのだが、その清々しさにいつの間にか練習から趣味へと変わっていた。

 

「よお、相川じゃん」

 

「御堂君?」

 

 学園に来てから欠かすことのなかった朝のジョギングだが、今まで誰かと鉢合わせたことはなかった。だから突然後ろからかけられた声には少々驚いた。

 声をかけてきた人物は意外と言えば意外で、世間でも話題になっている男性操縦士。一人目の織斑 一夏に続く二人目である。

 

「あー驚いた」二人は走るペースを自然と合わせて並走する「おはよう」

 

 『おう、おはようさん』と彼は返す。

 

「御堂君も朝走ってたんだ」

 

「まあな」

 

「知らなかった。今まで一回も会わなかったし」

 

 学園に来てからも欠かすことのなかったジョギングだが、楓と出会ったことは一度もなかった。とはいっても広い学園を走っているのだし、時間がずれれば会えなくてもおかしくはない。

 

「最近はちょっとサボリ気味だったし」

 

 そうして彼は自分の左腕を見る。そこでようやく清香は昨日までとの差異に気付いた。

 

「包帯取れたんだ!」

 

「おかげさまで昨日やっと」

 

 ついこの間、謎のISの襲撃によって楓は腕を負傷した。当時清香はアリーナの観客だったのでほとんど事情はわからず、閉じ込められてただ狼狽えていたのを覚えてる。

 思い出せば情けなくあり、そしてやはり怖かった。

 だからあのとき戦ってくれた人達には心の底から感謝している。もちろん楓にも。

 

「相川は毎日ここ走ってるの?」

 

「うん。部活の練習半分。趣味半分って感じかな?」

 

「ハンドボール部だっけ?」

 

「そうだよ!」

 

 実はここだけの話、入学当初御堂 楓は多くの女生徒達から怖れられていた。原因はもちろんその目付きの悪さ。比較対象になる一夏があまりにも爽やかな好青年だったので、尚更彼の悪人面は目立った。

 今はそんな誤解も解けて、クラスにも打ち解けている。もしかしたらアイドル対象として信奉される一夏よりも彼は清香達にとって身近な友人としているかもしれない。

 

 ただし、ファン数は圧倒的に一夏が勝っている。それはもう圧倒的なほど。楓ファンだと答えると『通だね』と言われるぐらい。楓が聞けば泣き出しそうな話である。

 余談だが、清香は極小数の通の人間ではなく、鉄板ともいわれる一夏ファンである。

 

「そういえば御堂君は部活入らないの?」

 

 ふと思い出して清香は尋ねる。

 運動神経に限っていえば楓は学年でも常に上位の成績を残しているからだ。

 

「中学までは野球やってたんだけどなー」

 

「なら是非我がハンドボール部へ!」

 

「そしてついでに一夏も連れてきてくれって?」

 

「バレたか」

 

 パシン、と優しく頭にツッコミを入れられた。

 

 そのあとも他愛無い雑談をしながら走り続け、やがて寮が見えてくる。

 

「そんじゃまた後でな」

 

「じゃあねー。部活の件、考えといてね。」

 

 ひらひらと手を振って返事をする楓の背を見送って、清香も部屋へ戻る。

 

 

 

 

 

 

「えーと」

 

 いつになく微妙な顔で、教壇に立つ真耶は教え子達へ朝の報告をする。

 

「きょ、今日も嬉しいお知らせです。ドイツからの転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです」

 

 引きつった笑顔の真耶の横で、ピシッと背筋を伸ばした銀髪の少女が立っている。精悍な顔つきも去ることながら、小柄で愛らしいはずの少女の異様さを際立たせるのは少女の左目を覆う黒い眼帯。そして彼女が醸し出す殺気に似た鋭い空気だ。

 

(ていうか、いくらなんでも無茶苦茶だろ)

 

 昨日に続いて今日も転校生。それも今度はドイツの代表候補生ときた。いくらなんでも偶然なはずもない。

何かしらの圧力があったのは明白だ。

 理由は訊くまでもない。このクラスには世にも珍しい男のIS操縦士が二人もいる。加えて『天災』、束の実の姉妹も。

 

「最初に言ってたクラスバランスはどこいったんだってーの……」

 

 呆れたように息をついた。

 

「ではラウラさん、自己紹介を」

 

「…………」

 

「ラウラ、自己紹介をしろ」

 

「はい、教官」

 

 真耶の言葉を無視して、千冬の声にだけ素直に従うラウラ。彼女が千冬を教官、と呼ぶ辺り、どうやら二人は学園以前の知り合いらしい。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 しん、とクラスが静まる。

 

「……あの、以上ですか?」

 

「以上だ」

 

 いつもテンションの高いこのクラスでさえ茶々を入れる隙が無い。

 

 するとクラスを見渡したラウラが、ふと視線を止める。そこは教壇の正面の席。即ち、

 

 パン!

 

 一夏の席だった。

 

「へ?」

 

 唐突に、一夏へ近寄ったラウラは前置きもなく一夏の頬を叩いた。予備動作も僅かで素早い。思わずお見事と言いたくなるほどの一撃だった。

 叩かれた一夏の方は呆然としている。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなどと」

 

 いつもながら見事な女難の相である。初対面の人間にまで強く想われるなんて、誰にも真似出来ない。

 楓がそんなくだらないことを考えている間に騒動は千冬が治めたようで、ラウラは空いている席――――楓の隣の席へ座った。

 

「よろしく、お隣さん」

 

 一瞥もくれない。否、石ころでも見るように一瞥された。

 はたして、きっと彼女は楓の名前どころか顔すら覚える気はないのだとわかる。

 

「つまらん」

 

 どうやら相変わらず自分にフラグは立っていないらしい。

 

 

 

 

 

 

「へえ、大したもんだ」

 

 壁際に腰を据えた楓は口笛を吹いて賞賛した。

 

 放課後、いつもの一夏の特訓風景に新しく加わったものがあった。

 空を舞うおなじみの一夏の《白式》。それを隙のない射撃と巧みな飛行で翻弄するオレンジ色の機体。《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》――――シャルルだ。

 

 束作の第四世代、《白式》の機体性能は今更言うまでもない。それをカスタム機とはいえ、第二世代の《ラファール》で圧倒している。文句なしにシャルルの腕は一級品だった。

 《リヴァイヴ》のアサルトカノンによって《白式》のシールドエネルギーがゼロになったのはそれからすぐのことだった。

 

「――――つまりね、一夏が勝てないのは射撃武器の特性を理解してないからだよ」

 

 戦闘終了後、練習相手としての率直な感想を伝えるシャルル。

 一夏のまともな戦いを見るのは初めてのはずだが、中々的を得ている。

 

「一夏の戦い方は行き当たりばったりだからなー」

 

「か、楓まで……」

 

 茶化すように楓が声をかけると一夏がうなだれる。

 

 一夏の戦い方は荒い。特に相手が射撃武器を使ったときの被弾率が高いのだ。

 元々剣道を習っていたからか近接戦の筋は良いのだが、一転相手が射撃武器を使うと動きが単純化する。逃げも攻めも動きが直線的。追い詰めればやがてがむしゃらに突っ込んでくる。そこを狙い撃ち、といった具合だ。

 

 だが今回に限っていえばシャルルが強かった。

 一夏の弱点を即座に見抜いた洞察力。操縦技術も去ることながら、目にも留まらぬ武器の換装にその速度での兵装の的確な選択。

 なにせ今の戦いで一夏は一度もまともに刀を振らせてもらえなかった。

 相性だけなら、近付いてしまえば勝機のある射撃一辺倒のセシリアより悪いかもしれない。

 

(俺ならどう戦うかな)

 

 そんなことを密かに考えていた楓だったが、直後アリーナがざわめいたことに意識を映す。

 視線の先、第二ピットから姿を現したのは漆黒色のIS。とはいえ極限まで装甲を削ぎ落とした楓の《八咫烏》とは違う。特徴的な両肩の厳つい装備、特に右肩のは砲撃兵装のようだ。

 誰かが呟いた。ドイツの第三世代。――――となれば搭乗者は当然、ラウラだった。

 

 

 

 

 

 

 ラウラはピットの上から視線を下ろす。その隻眼が追うのは学園にやってきてから常に唯一人。

 

「織斑 一夏……貴様も専用機持ちのようだな」

 

「だからなんだよ」

 

「ならば話は早い。私と戦え」

 

 冷たい瞳で、燃え盛る憎悪の声で告げた。

 一夏は一度だけ睨み返し、視線を外した。

 

「嫌だ。理由がねえ」

 

「貴様になくとも私にはある」

 

「知ったことか」

 

 朝の件が響いているのか、珍しく険のある調子で答えるとラウラに背を向けて立ち去ろうとする。

 

「――――そうか、なら仕方がない」

 

「っ!?」

 

 ラウラが右型に装備したレールカノンを無防備な一夏の背中に躊躇わず撃った。その弾丸は悲鳴があがるより速く、しかし一夏に届くことはなかった。

 一夏を庇うように盾を突き出して前に出たシャルル。しかしその彼女まで戸惑った顔をしていた。衝撃が、無い。

 

「おいおい転校生、それは玩具じゃないんだからそうポンポン撃つんじゃねーよ」

 

 壁際に座り込んだままの格好で声をかけたのは楓だった。

 ラウラが横目で睨みつけると、楓は嘲笑うように口端をつり上げた。

 

「やっと目があったな、転校生」

 

「黙れ」

 

 何かをしたと察したのか、それともただ目障りな羽虫を払ったつもりなのか、ラウラは生身の楓に向けて再びレールカノンを撃った。

 

「楓!」

 

 今度こそ惨劇を想像した誰かの悲鳴があがる。

 一夏が慌てて動き出すが明らかに間に合わない。

 しかし彼等が想像した通りにはやはりならなかった。

 砲弾より先に、花弁のように連結した三枚のシールドが楓と砲弾の間に展開されていた。

 

 ラウラの目が初めて一夏を見るときの憎悪以外の感情を見せた。

 

「ビット兵装のみの部分展開だと……?」

 

「それに展開までが早い……!」

 

 シャルルまで驚きの声をあげる。

 部分展開とは、ISの兵装を含めた一部のみを展開させる技術である。無論それなりの技術を持っていなければ使えない。その展開速度は人間の反射神経を超えることは無いといわれている。

 だが今の楓の展開速度はその限界に限りなく近いものだった。

 

 ラウラが黒い花弁の向こう側で不敵に笑う楓を睨む。

 

「貴様、何者だ?」

 

「クラスメートの顔ぐらい覚えろよ。お前のお隣さんだ」

 

 挑発的な彼の言い方にかっとなるラウラだったが、割り込んできた教員のアナウンスにやがて唇を噛み締めて引っ込んだ。




閲覧あざます!

>主人公つええええええ!を今のところ地でいっております展開。さすがは執筆時高校一年生の私。(…………あれ?今も作風はあまり変わらないような………………)

>相川さん登場の理由は、一期アニメを見てあのワンシーンだけで好きなったからです。なぜモブなんですか。二期の出番はいつですかああああ!!
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