【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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四話

 ――――戦いは終始ラウラが圧倒した。

 

 巧みにワイヤーを操りセシリア達を追い詰め、迂闊に近付けばAICで動きを止める。彼女達のあらゆる攻撃もAICの結界に阻まれてしまった。

 セシリアが自滅覚悟で撃った至近距離からのミサイルもまるで効果はみえず、遂に二人はワイヤーに絡め取られて身動きが取れなくなってしまう。

 

 それで終わりではなかった。

 ラウラはシールド向こうの観客席に一夏の存在を確認すると嗜虐的な笑みを浮かべて二人を嬲り始めたのだ。間合いを開けたくてもワイヤーで動きは制限され、反撃しようとすればAICで止められたところを殴られる。

 それは明らかに一夏に対する挑発だった。

 

「やめろラウラ! ラウラ!」

 

 堪らずシールドに拳を叩きつける一夏。それを見るとラウラはさらに口端を歪めた。

 その顔を見て、楓の堪忍袋の尾が切れた。

 

「一夏――――斬れ!」

 

 はたして、一夏は楓の言葉を瞬時に理解したのか、それとも初めからそのつもりだったのか、授業のときとは段違いの早さでISを展開させると《零落白夜》でアリーナのシールドを斬り裂いた。

 そのままの勢いでラウラへと突進する一夏。

 それに気付いたラウラは向かってくる一夏へ手を翳す。ピタリと、空中で一夏の体が静止する。

 

「な、く……っそ!」

 

「感情的で動きも直線的。絵に描いたような愚か者だな」

 

 不様だと酷薄に笑う彼女は怒りに満ちた一夏の鼻先にレールカノンを突きつけた。

 

「死ね」

 

 積年の憎しみを込めて、ラウラは躊躇いなど見せず引き金を引く。

 しかし砲弾は一夏の遥か頭上を通過し、明後日の方向へ飛んでいってしまう。

 

「だからそんなもんポンポン撃つなって言ってんだろうが!」

 

 一夏に続いてステージへ侵入していた楓は瞬時に《八咫烏》展開し、寸でのところでレールカノンの砲身を蹴り上げていたのだ。

 

「貴様またっ!」

 

 あわや憧れの人(千冬)を穢した男の抹殺を邪魔した痩身のIS。それを纏っているのが楓だとわかると一層顔を憤怒に染めてラウラは吠える。

 けれど楓は彼女には取り合わない。

 

「一夏! 二人を回収しろ!」

 

 セシリアと鈴音はすでにワイヤーの拘束から解放されており、その場で崩れ落ちている。意識はあるようだがすぐに動けそうにない。そのままにしていては巻き込みかねないのでは気が気でない。

 

 楓の声に応じた一夏は大胆にもラウラへ背中を晒してセシリア達のもとへ駆けつける。

 ラウラの憎悪に染まった瞳は、目の前の楓を無視して執拗に一夏だけを追う。右肩の砲身を旋回させて、砲弾を再装填。

 しかし今度はシャルルの強襲が動きを寸断させる。

 

「雑魚が……どいつもこいつも邪魔ばかり!」

 

 癇癪を起こした子供のように喚くラウラ。

 楓はそんなラウラを警戒しつつ、一夏がアリーナの端へ二人を避難させたのを確認して安堵する。シャルルが傍らへ立ったことで万全だと意識を移す。

 

 正面へ視線を戻すと、凍りつくような隻眼がこちらを睨みつけていた。

 腕部から射出したレーザーブレードを殺意と共に突きつけてくる。

 

「そんなに殺されたければそうしてやろう。この私と《シュヴァルツェア・レーゲン》の前では、所詮貴様等など有象無象の一つに過ぎない!」

 

 スラスターを吹かせた《シュヴァルツェア・レーゲン》が真っ直ぐ突っ込んでくる。

 先ほどの戦いを見る限りラウラのISは全距離(オールレンジ)対応型。なら近接型にしか見えない《八咫烏》相手にあえて接近戦を挑もうとする意図は、間違いなく自信の現れだ。それが傲慢かどうかはこの後の結果が決める。

 

「っ!」

 

 楓の選択肢に後退は無い。友達を傷付けられて頭にきているのは一夏だけではないのだ。

 《八咫烏》の鱗のような装甲が風を吸い込む。

 圧縮された空気が爆発し、その推進力をもって超スピードを叩き出すのが楓のISの特性。今まさにそれが為されようとした瞬間、目の前に人影が割り込んできた。

 

「な……!?」

 

 絶句したのはラウラだった。シャルルやセシリア達、周囲の観客達も同様。

 突然のことにつんのめるように緊急制動をかけていた楓は、絶句を通り越して笑いが漏れた。

 そんな彼等彼女等を代表するように、目を丸くした一夏が口を動かす。

 

「千冬姉?」

 

「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

 ため息混じりにそうぼやく千冬。そんな軽口を叩く彼女の手には人ほどの大きさはある大剣が握られている。おそらくは打鉄に標準装備されているブレード。

 そう、千冬は仮にもISを用いて振り回すべき大剣を生身で振り回し、あろうことかラウラの……《シュヴァルツェア・レーゲン》の攻撃を受け止めたのだ。

 誰も彼も声を失って当然である。

 

「パワフルすぎんよ千冬さん」

 

「『織斑先生』だ。馬鹿者」

 

 おまけに余裕たっぷり。

 

 世はこの人を世界最強と呼ぶが、それは正しいのかもしれない。ただしISという世界最強の兵器を乗りこなすが故の最強ではなく、正真正銘、織斑 千冬は最強の存在なのかもしれない。

 

「模擬戦をやるのは構わん。――――が、アリーナのバリアを破壊するような事態にまでなられては教師として黙認しかねる」

 

 鋭い視線で面々を見渡す。

 楓はすでに両手を挙げて降参し、一夏は怯えたように体を竦ませ、ラウラに至っては借りてきた猫のようにだんまり押し黙っていた。

 

 少しばかり気が収まったのか、千冬は一息挟んで告げる。

 

「この決着は学年別トーナメントでつけろ。それまでは私闘の一切を禁じる。――――ああ、それと」立ち去ろうとした彼女はふと足を止めて「今度のトーナメントはより実戦的な戦闘を行えるよう二人組での参加が必須になる。ペアを作れなかった者はこちらで自動的に選ぶから、そのつもりでいろ」

 

 最後にそんなことを言い残して今度こそアリーナを去る。彼女が去ったからとはいえ今更ここで暴れようなどと考える輩はもういない。

 颯爽と現れるなり事態を治め、去っていく。

 その背中があまりにも逞しすぎて、隙がなさすぎて、楓はちょっぴりへこんだ。

 

 

 

 

 

 

「凄いなこりゃ」

 

 その声に楓は顔を上げる。

 着替えていたはずの一夏が更衣室に備え付けられた画面を見て感心していた。画面に映るのはアリーナのVIP席の中継。楓も見覚えのある顔からない顔まで、総じて結構な数がいる。

 

「三年にはスカウト。二年は一年間の成果の確認のために集まってきてるからね」

 

 楓同様一夏の声を聞きつけたのか、スーツに着替え終えたシャルルが現れる。

 

 ISは今や世界の中心といっていい。たとえ昨日まで弱小国弱小企業であっても、優れたISを開発することが出来れば他国他企業とのパワーバランスが容易に崩れてしまうほどの影響を持っている。

 となれば当然、優秀な技術者やパイロットを欲するのは当然だ。

 そんな彼等にとってこの学園は人材の宝庫であろう。

 

「ふーん。ご苦労なことだ」

 

「他人事じゃねえだろ。お前もその対象なんだよ」

 

「俺が?」

 

 惚けた顔の一夏に楓は呆れ果てる。

 

「俺達は数少ない男のIS操縦者だ。今回に限っちゃ、それを目当てに来てる奴もいっぱいいんぞ。多分」

 

 なにせ今回のタッグマッチは今年初の外部を招いたイベントだ。噂の男性操縦者がどんな人物なのか、あわよくば自分達の方に取り込めないかと考えてる輩は多いだろう。言い方は悪いが、希少種である楓達はその体に眠るデータの塊としても、また広告塔としてもとても魅力的であるはずだから。

 その辺り、一夏という男は自覚が無さ過ぎる。

 

「そんなことより楓、本当に大丈夫なのか?」

 

 心配してやったのに『そんなこと』で済ましてしまうお気楽一夏は、逆に気遣う表情でこちらを窺ってくる。

 隣では同様にシャルルも不安そうにしていた。

 

「腕はもう大丈夫だっての」

 

 今まさに自分の心配をしろと言ったのに、他人を気遣う彼等に楓はむず痒さを感じながら誤魔化すように笑って左腕を回す。

 骨折をしていた左腕は数日前に学園の養護教諭御墨付きで完治していた。よって楓は今回のタッグマッチに参加するので今ここでスーツに着替えている。

 実は、千冬や真耶からは今回は辞退しても構わないと言われていたのだが、自分だけ見物していても暇を持て余すので参加の旨を伝えたのだ。

 

「無理しちゃ駄目だよ?」

 

「シャルルまで心配症だなぁ。――――そういえばお前等コンビ組んだんだっけ?」

 

 気恥ずかしさを隠すように話を変える。

 

「ああ。楓は誰と組んだんだ?」

 

「誰とも組んでねえよ」

 

「そうなの?」シャルルは少し驚いた様子で「御堂君なら色んな人から誘われたんじゃない?」

 

「…………いや?」

 

「「………………」」

 

 空気が冷えた。

 

「ま、まあもし誘われてても断ってたよ。ランダムの組み合わせのほうが平等だからな! 本当だからな!」

 

 微妙な空気を精一杯の虚勢で振り払う楓。一夏とシャルルは同意してくれるのにこちらと目を合わせようとしない。

 

 実際、楓の腕の怪我を考えてクラスメート達含めて生徒達はてっきり楓は不参加かと思っていたのだ。そうでなければ数少ないとはいえ存在する楓のファン、もしくは今回の優勝権利の為(・・・・・・・・・)実力では代表候補生達に引けをとらない楓を誘おうとした者は確実にいただろう。

 そんなこととはつゆ知らず、目から溢れるしょっぱい水を楓はそっと拭った。

 

「あ、見て! 対戦相手が決まったみたいだよ!」

 

 必死に場の空気を取り繕うシャルルが画面を示す。

 二人もそれを理解しながらあえてそのフリに付き合った。

 

「あ……」

 

 表示されたトーナメント表にシャルルは声を漏らす。

 楓は笑った。

 

「一夏、お前くじ運良いな」ただし、と続けて「相変わらず女運は悪いけど」

 

 『ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之 箒VS織斑 一夏、シャルル・デュノア』。

 

 なんと一夏達の初戦の相手は念願叶ってラウラだった。ただしそこに表示されたラウラのパートナーは箒。

 なんとも意地の悪い組み合わせ。これが偶然だというなら、神様とやらは相当性根が悪い。

 

 相変わらず絶えることのない女難の相を持つ一夏に半分の同情と半分の冷やかしで笑っていると、お返しとばかりに一夏は笑ってきた。

 

「そっちはくじ運も悪いみたいだぞ」

 

「あん?」

 

 指し示された画面を見て、楓は頬を引き攣らせる。

 

 『御堂 楓、相川 清香VSセシリア・オルコット、凰 鈴音』

 

 楓の初戦の相手は、優勝候補筆頭の代表候補生コンビだった。




毎度閲覧ありがとうございます。アクセス数を見て日々ニヤニヤしております。

>少し短めですみません。本当なら三話でここまで書く予定だったのですが、繋げると長くなりすぎると思ってわけました。

>アニメ版からの改変。セシリアと鈴ちゃんは一夏の介入がアニメより早かったので幸いにもダメージが深刻ではなかったという設定です。
当時も書きましたが、ラウラとのタッグも考えたんですが、そうなるとただでさえ少ない箒ちゃんの出番が壊滅すると思いボツ。しかし結局一夏達の戦闘は飛ばし気味になるので結局壊滅!
ごめんねヒロイン!

>次回は相川さんとのタッグ戦!
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