【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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六話

 楓、鈴音が加わってからの戦況は硬直した。そのことに鈴音は奥歯を鳴らす。本来ならこんな膠着状態などあり得ないのだ。

 総合的な実力は間違いなく鈴音達の方が上だ。それは慢心ではなく事実として。しかし如何せん彼女達は我が強すぎた。互いの邪魔こそしないものの、互いのフォローは最低限。代わる代わるで放たれるそれは絶え間ない怒涛の攻撃に見えるが、実際はただ順繰りに撃っているにすぎない。

 

 だとしても、本来ならそれで充分のはずだった。想定外だったのは清香の活躍。緊張でガチガチだったのを見たときは当初の作戦通り戦いは進むと思っていた。清香を迅速に排除して、その後二人がかりで目下最大脅威として認識している楓を倒す。

 鈴音とセシリアは、おそらくこのトーナメント参加者の中で楓を最も高く評価していた。その実力はあのラウラをも上回ると確信している。故になるべくエネルギーを温存して楓との戦いに入りたかった。なのに、緊張が解れた清香は驚くほど粘り強い。楓のサポートが入ってからは直撃が一切無い。

 

 圧倒的な性能差、実力差があるのに思い通り戦いが進まないことに鈴音は徐々に焦りを感じていた。

 

「ああもうっ!」

 

 そういった気持ちばかりは通じるのか、焦れたセシリアが苛立ち気に怒鳴ると遂にビット兵器を展開した。

 今までは作戦と彼女の中のプライドが邪魔をしていて出し渋っていた。

 

「これで本当に終わりですわ!」

 

 宣言と共にセシリアの周囲に浮かぶビット兵器、四基のブルー・ティアーズとメインウェポンのライフルから光が迸る。それもたて続けに。作戦にあったエネルギーの節約など度外視した高速連続射撃。

 青い光の雨が降り注ぐ標的は清香だった。

 

「駄目! 避けられない!」

 

 セシリアの全力面制圧射撃。範囲が広い。数が多すぎる。

 もし清香が自在な飛空技術を持っていれば、ブーストを全開にして逃れられたかもしれない。しかし彼女にはその力が無い。これは走るだけでは逃げ切れない。

 

 鈴音はほっと息を吐く。予定は大分狂ったがどうにかこれで清香は退場させられる、と。

 

「諦めるな!!」

 

 アリーナに声が響き渡る。それに、一瞬前まで呆然と空を見上げていた清香は体を跳ねさせた。

 声の主は、今までプライベートチャネルに徹して会話していた楓だった。彼は会場中の視線を集めても意にも介さず声を張り上げる。

 

「全部が全部当たるわけじゃない! よく見ろ! どこが薄い(・・・・・)!?」

 

 諦めかけていたはずの清香の目に光が戻る。覚悟を決めた表情で再び空を見上げる。

 

(薄い? 一体なんの指示を……)

 

 楓の言葉の意味を鈴音はすぐには理解出来なかった。しかしあの言葉から何かを受け取ったらしい清香は埋め尽くすような空の弾幕を見上げ、疾走する。

 それは無駄な行為だ。鈴音や楓ならともかく、今の清香ではセシリアの攻撃範囲から逃れるスピードは出せない。

 ならば、それでも逃げられるだけ逃げようと思ったのか? ――――そう考えた鈴音を裏切るように、清香は途中で止まってしまう。それだけでなく彼女は精一杯身を縮めて頭の上に剣を翳す格好をとった。直後、光の雨が大地を穿つ。

 

 濛々と立ち込める噴煙。清香が一体何をしていたのか遂に鈴音にはわからなかったが、これでようやく当初の作戦通り楓に集中出来ると彼女は考えていた。そんな思考を、次の瞬間飛び込んできた光景が吹き飛ばす。

 

「あ、あっぶなー……」

 

 清香は健在であった。健在どころかほとんど被弾したように見えない。

 

「そんな……」

 

 呆然自失とするセシリア。今の攻撃は今までのとは違い、正真正銘彼女の本気だった。それがまるで効果を出さなかったのだ。

 

(なんで……?)

 

 わからないのは鈴音も同様だ。

 困惑する鈴音は周囲を見渡し、あることに気付く。清香の周囲だけ何故か地面が荒れていない。それはつまりセシリアの攻撃が届いていないということだ。

 何故――――と考えて思い至る。清香の周りに攻撃がいかなかったのではない。彼女のいる位置には初めから攻撃が届いていなかったのだ。

 

 セシリアの面制圧射撃。たしかに大した威力と範囲をもっていたが、しかし精密さは普段のそれよりずっと落ちる。それは攻撃範囲内にムラが出るということだ。清香はそのムラを見切って最も弾丸が飛んでこない位置へ移動しただけ。

 そうなれば先ほどの楓の指示の意味も理解出来る。薄い場所、というのは弾幕の薄い場所という意味だ。

 指示をした楓もさることながら、即座にそれを理解し実行した清香も賞賛に値する。最早、彼女を単なる素人と見下すのはやめるべきだ。

 

「それなら今ここで!」

 

 ショックからいち早く立ち直った鈴音は即座に地上まで降下、着地。龍咆を向ける先はセシリアの攻撃を凌ぐために身を屈めて動きを止めている清香。剣を頭上に翳している今、横からの攻撃を防ぐ術はない。

 放たれる衝撃砲。しかし、何処からともなく現れた漆黒の板に阻まれた。

 

 奥歯を砕かんばかり噛み締める鈴音。楓だ。

 

「今だ相川!」

 

 楓の声が飛ぶのとほぼ同時に清香は鈴音に向かって駆け出していた。鈴音は今地上にいる。遥か上空にいるときは届かなかった手が今なら届く。

 鈴音の取れる行動は二つ。一つは真っ向からの正面衝突。二つ目はこのまま急速後退しつつ上昇。空へ逃れてしまえば清香を再び一方的な攻撃の的に出来る。鈴音の腕ならたとえ清香が空まで追ってこようと追いつかせない自信がある。そうなれば清香には届かない中距離から龍咆を撃ち続ければいい。清香の粘りはたしかに凄いが、結局こちらが落とされる脅威は無い。

 

 だからこそ、鈴音はその場で構えた。ここで退けば間違いなく必勝だ。しかし所詮素人に違いない者を相手にここで逃げることはどうしても出来なかった。

 それは彼女の代表候補生としてのプライドか。はたまた愚かな傲慢か。

 

 どちらにせよ楓が清香を送り出したということは勝算があると見たからだ。そんなもの、真正面から粉砕してみせる。

 

「舐めんじゃないわよ! 接近戦なら勝てるっていうの!?」

 

 怒り吼えながら鈴音は青竜刀を構える。清香の武器は標準装備のブレード一本。今までの速度を考えれば接敵は五秒。けれど鈴音の間合いに入るのは一秒早い四秒後。

 

 冷静に、的確に、鈴音は状況を計算する。普段メンバーの中でもお転婆な面が多く見える彼女だが、彼女の根はとても真面目だ。他の学校ならば優等生と呼ばれる者が多く集まるIS学園。その中でも代表候補生の彼女達は破茶滅茶なようでいて、実は誰よりも基本に忠実である。才能ももちろんあるだろうが、それを形にするだけの反復練習と試行錯誤の日々。彼女達の強さは努力の賜物である。それは同じ候補生であるセシリアやシャルルも同じく。

 

 だからこそ、基本を頭に叩き込み、常にセオリーから確率を計算する鈴音は一瞬頭が真っ白になるほどの驚愕に襲われた。――――駆け出していた清香が唯一の武器であるブレードを投げた。

 

「っ!!?」

 

 身を反らした鈴音の鼻先を剣が掠めていく。

 

 まさか、唯一の武器を投げ捨てるだなんて。教科書になど書いてない。セオリーなど度外視した奇行だった。

 清香のハンドボール部での経験が今の投擲に活きたことなど鈴音には知る由もないことだった。

 兎に角、結果として鈴音は虚を突かれ、優位のはずだった一秒を逃した。前を向いたときにはすでに清香が懐に飛び込んでいた。

 

 再び鈴音に二つの選択肢が与えられる。後退か、迎撃か。無論、彼女は迷うことなく後者を選んだ。

 

(こんなの全然ピンチじゃない!)

 

 接近戦。それは本来の自分の距離だ。

 退けない。退くわけにはいかない。これは間違いなく彼女の、鈴音の意地だった。

 

 けれど、鈴音は一つミスを犯す。

 清香はすでに互いの呼吸音が聞こえるほど近くにまで迫っていたのだ。《甲龍》はたしかに近接戦闘を土俵とするISだ。しかし、今清香がいる位置は拳が届くほどの超接近戦。

 大型武器を振り回す鈴音より、清香の拳が届くほうが早いのは必然だ。

 

「やああああああああ!!」

 

 裂帛の気合いと共にラッシュする清香。それはただ力任せに拳を突き出すだけの子供の喧嘩と同じ。けれどISを纏って繰り出されるそれはれっきとした攻撃であり、間違いなく鈴音のエネルギーを削っていた。

 

「こ、の……!」

 

 出力を最大にして剣を振り回す鈴音。強引に清香をひっぺがした。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 互いに荒い息を吐く。

 実際のダメージでいえば、鈴音のそれは大したものではない。所詮は拳。それもただがむしゃらに振り回したような格闘術とは到底呼べない拳打。効くはずがない。実際失ったエネルギーは精々十パーセント程度。

 しかし、今の攻防は鈴音の精神に多大な傷を負わせていた。

 剣を投げるという奇策で間合いを詰められ、見事懐に潜り込まれてラッシュを浴びた。正真正銘、今の一幕だけでいうなら完全に鈴音は清香に力負けした。

 

(あれほど自分で言ってたのに、結局アタシは驕ってた……)

 

 代表候補生であるということ。第三世代という世界最新鋭の専用機持ちであること。そして、それらを成し得た自身の努力と才能に。

 侮ってはならないとあれほど言い聞かせていたのに。セシリアとの戦いを見て清香の粘り強さはわかっていたはずなのに。

 鈴音は結局己の力を過信した。だから追い詰められたあの瞬間、強引に迎え撃ち挙句ミスを犯した。結果がこれだ。

 

 腹立たしい。自分の甘さに歯ぎしりする鈴音は、ハイパーセンサーで急速接近する存在を感知した。避けようとして、それが何か気付いた彼女は受け止めた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 飛んできたのはセシリア。ということは、

 

「ナーイスキャッチ、チビ子」

 

 ブチン、と彼女の決して強くない血管が容易く切れた。ついさっきの反省も吹き飛び、感情の赴くまま両肩に展開される空間兵器にエネルギーを収束する。狙いは馬鹿にしたように笑う楓の顔面だ。

 

「誰がチビですって!?」

 

「り、鈴さん!」

 

「なによ!」

 

 見れば抱きとめたままのセシリアが顔を青くしている。それでようやく怒りで狭まった視界にそれが入ってきた。

 

「コネクト」

 

 ニヤリと笑う楓。告げられた主の声に応じて鈴音達の周囲を漆黒の盾達が囲む。展開されるシールド。それは謂わば箱。彼女達は今密閉された空間に閉じ込められた。――――ならば、そんな場所で膨大なエネルギーを放てば?

 

「ちょ、ま――――」

 

 すでにその声は遅く、どーんというコメディチックな轟音と煙に埋もれて彼女達の姿は見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 囲われた黒い箱から噴煙があがる。清香は呼吸を整えながらそれを見つめる。

 やがて、目を回したセシリアと鈴音がその場に倒れていた。

 

「おーおー。さすが第三世代兵器。すげー威力」

 

 ケラケラと笑うのは自分のパートナーである男の子。

 しかし清香は未だ状況を呑み込めずにいた。否、受け入れられていなかった。だから率直に聞いた。

 

「勝った?」

 

 すると彼は親指を立てる。

 

「おう。大勝利だ」

 

 まるでそれを合図にするように試合終了を告げるブザーが響き渡る。次いでそれを掻き消すほどの大歓声。

 

 徐々に、清香の中にあらゆるものが湧き出てくる。疲労であったり、安堵であったり……。しかし何よりも大きく感じるものがある。

 

「や、やったあああああああ!!」

 

 歓喜だ。

 

 思わずISのまま楓に飛びついてしまう。すると会場から『おお!?』とどよめきが起こったが、今の清香には気にならなかった。顔を赤くして慌てふためく楓の声も耳に入らなかった。

 

 後に、衝動的に取ったその行動を映像で見た彼女はぽつりと呟く。IS越しは勿体無かったかな、と。




遅ればせながら、あけましておめでとうございます!至らぬところは多々ありますが、今年もどうぞどうぞよろしくお願いいたします。

>年が明けました。しかし就職先が小売業な私は絶賛働いている……つうか年末から一向に休みがありませんで、はっはっは!死んでしまいそうです。
ようやくのお休みですが明日は仕事だぜ☆もう一週回って面白くなったものが、もう一週して絶望に戻ってしまいそうです。

>はい、仕事の愚痴はここまでに。
今回のお話でひとまず相川さんの出番はしゅーりょー。次回はいつになることやら。次話でVSラウラ章終わりです。……うん、いい加減これ章タイトル詐欺なんじゃないかと思ってます。前回も鈴ちゃんとは戦ってないですしね!

>ISアニメ終わりましたねえ。さてさてあれっておそらく、というか絶対オリジナルっぽいですが、一体どこからどこまでオリジナルなんだか、ノベル原作無しの私にはさっぱりです。京都旅行そのものがオリジナルでしょうか?
予想通り原作に影響なさげに終わらせてくれまして、じゃあこっちはどうすればいいんだ!と思っております。まあ、おいおい考えましょうか。
まずは頑張って二期スタートまで書きましょう。

>さあ私としてはさっぱり年を明けた感じはしませんが、改めて今年もよろしくお願いします。今年もより一層皆様と私(重要!)が良い年でありますように!!
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