【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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七話

 試合を終えた楓は観客席には戻らずピットの隅に設置されている画面で次の第二試合――――つまりは一夏達の試合を観ていた。

 

 先手必勝とばかりに開始の合図と同時に飛び出す一夏。

 それを見て、思わず楓の口から呆れのため息が出る。

 

 ラウラの停止結界は強力無比。捕まれば身動きが取れず、無防備なところを為すがまま砲撃を浴びせられる。

 それを考えれば捕まる前のスタートダッシュの奇襲は間違っていない――――が、それはこれが初戦であったならば、だ。前回その手は使っている。そして失敗しているのだ。

 

 案の定、警戒していたラウラの結界に捕まっている。

 まったくあの親友は考えなしすぎる。

 

「ま、学習能力が無いのはどっちもか」

 

 楓の呟きと、一夏の背後からオレンジの機体が飛び出したのは同時だった。

 

 一夏にばかり気を取られていたラウラは飛び出してきたシャルルの弾丸に反応が遅れ被弾。画面越しにも聞こえてきそうなほど歯を食い縛って一時後退した。

 

 《シュヴァルツェア・レーゲン》の慣性停止結界(AIC)は結界内の物体の動きを強制的に止めてしまう強力な盾であり檻。しかしその半面、発動及び維持には操縦者の多大な集中力が必要とされる。前回楓があれを破ったのもシャルルとの連携だった。

 もしこの戦いが一対一だったなら、ラウラが一夏を捕らえた時点で勝負は決していた。しかしこれはタッグ戦。それを忘れていた、いや甘く見ていたラウラの失態だ。

 

 千冬との一件からか、前より一層一夏に執着を見せるラウラ。その隙を突いて確実にダメージを重ねていくシャルルは流石だ。だがタッグパートナーがいるのはあちらも同じだ。

 

『はあああああああ!』

 

 《打鉄》を操るラウラのパートナーは箒。

 

 一夏達の取った作戦は先ほどセシリア達が楓達に対してやったものと同じだった。

 一夏がラウラを抑え、シャルルがその間に箒を倒す。最終的には二人でラウラを相手取るつもりだろう。セシリア達との違いを挙げるなら、危ないと思えば一夏達は互いのフォローを入れていることか。

 

 戦況は一夏とシャルルが優勢。差が顕著に現れているのはやはり箒とシャルルの戦いだ。

 専用機を持たない箒のIS起動時間は精々清香と同じぐらいのはずだ。しかしその動きは一年生にしてみれば上出来。清香と違い飛行操縦もしっかり出来ている。剣に至っては一夏をも上回るほどだ。

 

 だがそれも、結局は一年生にしてはというだけ。剣技は一流でも総合的な技術では専用機持ちのシャルルにはまだ到底及ばない。

 必死に間合いを詰めようとする箒だが、シャルルには届きそうで届かない。苦しくなって逆に大きく離れようとすればいつの間にか近接射撃を浴びる。

 

 結局最後まで、箒は一度もまともに剣を振ることも出来ずエネルギー切れに追い込まれてしまう。

 同時に勝負はこの時点で決したと言ってよかった。箒を倒して一夏に合流したシャルルとのコンビネーションに、いくらラウラといえどついていけない。

 

「もしあいつが箒とちゃんと協力してりゃ面白くなったかもしれないのに」

 

 本当に今更の話だ。

 

 ……戦いは進み、ラウラに最後の好機が訪れる。

 きっかけは相変わらずペース配分が苦手な一夏からだった。勝負を決めにいった一夏が切り札である零落白夜で追撃したのだが、決めきれない。供給エネルギーが足りずにアビリティーが消える。

 

 ラウラの隻眼が獰猛に光る。

 

『もらった!』

 

 プラズマ手刀で一気に間合いを詰めるラウラ。しかしその最後のチャンスさえまたしてもシャルルのフォローによって潰される。特訓でも一度も見せたことはなかったシャルルの瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 怒りに震えるラウラがシャルルへ右手を翳す――――が、シャルルのライフルを借り受けた一夏の射撃に邪魔される。

 

『こ、の死に損ないがああああ!』

 

「懲りない奴」

 

 怒りで周りが見えていないラウラは容易くシャルルを懐へ入れてしまう。

 密着した《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》の左腕部の盾が弾け飛ぶ。中から現れた杭にも見える巨大な槍。

 シールド・ピアース。第二世代でも最強の攻撃力を誇るシャルルのそれは、リボルバー機構で連射さえ可能な改造を施されていた。

 

 再び発動させた瞬時加速でラウラの壁際に追いやり、槍を突きつけた。

 

(決まったな、こりゃ)

 

 断続的に穿たれるダメージは程なく《シュヴァルツェア・レーゲン》のエネルギーを消滅させる。誰もが決着を確信した。

 ――――突如、ラウラのISが紫電を纏うそのときまで。

 

 

 

 

 

 

「シャルル!」

 

 勝ったと思った。零落白夜は決まらなかったが、シャルロットに教わった射撃は上手くはまった。彼女が言っていた奥の手の槍は凄まじい速度でラウラのエネルギーを奪っていく。

 あと少し、一夏がそう思ったその瞬間、異変は起こった。

 

 突如紫電を纏ったラウラのIS。密着していたシャルロットが弾き飛ばされた。

 最初はラウラの奥の手かとも思った。しかし様子がおかしい。シャルロットを弾き飛ばしても雷は止まず、それどころか苦鳴をもらしたのはラウラの方だった。

 

 ドロリと、ラウラのISが崩れた。

 

 変形したのではない。そもISに変形機能は存在しない。

 

(なら、あれはなんだ?)

 

 重厚に思えた装甲が溶けていく。まるで泥のように粘性のある動きで《シュヴァルツェア・レーゲン》は完全に溶けて原型を無くし、遂には主である少女を悲鳴ごと呑み込んでしまう。そうして姿を変えたそれに、一夏は唇を震わせた。

 

「雪片……?」

 

 黒い泥は人型を象った。右手から伸びる剣。それらはかつて、世界大会を戦った姉の姿に重なった。――――否、あれは千冬だった。

 

「……っ!」

 

 思わず一夏が剣を構えた瞬間、千冬の形をしたそれが一足のもと間合いを詰める。腰溜めからの一閃。

 剣先を弾かれ体勢が崩れる。同時に肩の当て身で無理やり転ばされた。

 見上げたときには、振り上げた漆黒の剣が振り下ろされていた。

 咄嗟に腕で防ぐが、転んだままでは踏ん張れもしない。そのまま吹き飛ばされる。

 地面を転がる間に遂にエネルギーが完全に尽きてISが強制解除される。 

 

「一夏!」

 

 シャルロットの悲鳴。

 

 起き上がると防いだ左腕に痛みが走った。見れば血が滴っていた。残存エネルギー不足でダメージが吸収しきれなかったようだ。

 

 ――――だが、そんなことより一夏は目の前のそれを睨みつけた。シャルロットの声も、周囲の悲鳴も、何も耳に入らない。

 

(今の、技は……)

 

 奥歯がしなるほど歯を食いしばる。傷のある左腕を強く握りしめた。

 

(今の技は!)

 

 立ち上がる。だけではない。一夏は千冬の形をしたそれに向かって駆け出した。ISも展開されていない生身のままで。

 

「なにをしている一夏!」

 

 それを間一髪羽交い締めにして止めたのは箒だった。避難の指示はされていたが彼女が一夏を置いて逃げれるはずもなかった。

 

 そんな幼なじみの気持ちにも気付かず、一夏は箒を振り解こうともがいた。

 

「放せよ箒!」

 

「馬鹿者! どうしたというんだ一夏!?」

 

 正直箒の方が動揺するほど一夏は興奮していた。これほど感情を剥き出しに、強い感情を押し出す姿を初めて見た。

 だがこの手を放せば彼はあのISに向かって行ってしまうだろう。生身であれに勝てるはずがない。いや、勝てる勝てないではない。このままでは一夏が死んでしまう。

 それがわかるから、箒は今の一夏が恐ろしくても決して手を放さなかった。

 

「あれは千冬姉のものだ! 千冬姉だけのものなんだ!」

 

「千冬さん……?」

 

 言われてようやく彼女も気付いた。あの姿、さっきの技、それらは確かに箒の記憶にも残る織斑 千冬のものだ。

 だが何故ラウラのISが千冬の姿になるのか。そも形が変わろうが操縦士はラウラに違いないはずなのに。

 

 いや、あれが本当に千冬なのだとして、だからといってこれほどまでに一夏が怒る理由がわからない。このままでは死にに行くようなものだ。

 ならば止めなくてはならない。腕尽くでは止まらない。だから、彼女は意を決して言う。

 

「《白式》のエネルギーも無いお前に何が出来る」

 

 一夏の抵抗が弱まった。しかし感情だけが痛いほど伝わってくる。己の弱さを嘆く彼の想いが伝わってくる。

 

「お前がやらなくても、いずれ事態は収拾される」

 

 それでも箒は言葉の刃で一夏を斬りつける。たとえ恨まれようと、一夏が悲しもうと、殺されてしまうのは嫌だった。それしか出来なかった。

 

「違うぜ箒」

 

 しかし、だけど、一夏はそんなことでは萎えなくて、

 

「俺がやらなくちゃいけないんじゃない。俺がやりたいからやるんだ!」

 

 それこそが彼の姿だった。箒が好きになった彼の強さだった。

 

 一夏の想いに思わず手を放してしまう。しまった、と思うより先に彼は駆け出すが――――、

 

「だからって無謀に決まってんだろ、阿呆」

 

 足を引っ掛けられて一夏は盛大に転んだ。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ふぅ」

 

 一夏をすっ転ばせて、兎にも角にも楓は息を整える。なにせステージの端から端まで全力疾走だったのだ。体力自慢だといっても限度がある。

 

「楓……」

 

「よっ、箒。試合はいいとこ無しだったな」

 

 スパーン、と叩かれた。和ますつもりだったのだが。

 

「なにすんだよ楓!」

 

 ガバっと立ち上がった一夏が食って掛かる。その鼻先に指を突きつけて、

 

「大馬鹿野郎に馬鹿野郎って言ってやったんだよ大馬鹿助! 生身で世界最強の兵器に殴りかかる馬鹿がどこにいる!?」

 

 ぐっ、と押し黙る一夏。

 

「でも、アイツは! 千冬姉の技を!」

 

 チラリと楓は例のISを見た。今は動きが無い。どうやらこちらが動かなければ向こうも動く気は無いらしい。つまりこうしていれば無害だということだ。中のラウラを除いて、だが。

 

 こうして待っていれば、やがて事態の鎮圧のためISを展開した教師や先輩がやってくることだろう。あのISの実力は未だ未知数だが、それら戦力を打倒するほどとは思えない。目的にしても、破壊にせよ逃走にせよ、今この瞬間に何もしないところをみると特に無いのだろうともわかる。

 

「エネルギーが無いなら持ってくればいいんだよ」

 

 そう言ったのはシャルルだった。彼女は一夏に傍らに立つと、《リヴァイブ》からコードを伸ばして待機状態にある《白式》のガントレットに繋ぐ。

 エネルギーの譲渡。といっても、彼女の方もさほど残ってはいなかった。渡せたのは精々武器を含めて一部程度。

 

「ありがとうな、シャルル」

 

「うん。約束だよ。絶対負けないでね」

 

「おう。これで負けたら男じゃねえよ」

 

 二人は笑顔でそう掛け合う。

 一夏は雪片を展開。やはり、剣と右腕の展開が限界だった。

 

「止めるなよ、楓」

 

「止めても聞かねえだろうが。とっとと行って来い、大馬鹿」

 

 頷いて、一夏は千冬を象ったISへ向かっていく。

 

「何故だ! どうして止めないんだ!」

 

 悲痛に叫ぶ箒はその場にへたり込む。その肩をシャルルがそっと支えた。

 

「あいつが行かなくてもあのISは止められる」

 

「だろうな」

 

「なら!」

 

「憧れている人の技を使われた。それも、そこにどんな想いがあるのかも知らない機械なんかに」

 

 その気持ちは楓にもわかる。剣は習わずとも同じく千冬を憧れる者として、一夏の怒りは理解出来る。

 

「だとしても、一夏がやらなくちゃいけない理由なんて……」

 

「あいつも言っただろ。あれはあいつがやりたいからやってるんだ」

 

 利口じゃないのはわかってる。無謀なのも。

 しかし理屈ではない。そうではないのだ。

 

「何故……?」

 

「あいつが織斑 千冬の弟だからじゃねえの?」

 

 勝負は一瞬だった。一夏の一刀が千冬の形をした《シュヴァルツェア・レーゲン》を斬り裂き、中から倒れるように出てきたラウラを抱きとめる。

 そのときの剣技は、まるでかつての千冬のように楓には見えた。




閲覧ありがとうございまーす。

>あれ?一番中身が無い章だと思っていたのにやたら長くなっています。どうしてでしょう……。
次話で三章エピローグ。そして次々話で一期最終章の福音になります。

>大変です。箒さんがヒロインしていません。なのにこのシャルのヒロインっぷり。
そして実は実は、楓君今回なんもしてない!!マジでなんもしてない!!

>また次回!
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