【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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二話

 《IS》。正式名称を《インフィニット・ストラトス》。

  元々は宇宙空間での活動を目的とした特殊スーツであったが、《白騎士事件》を契機にその様相が変わる。

 

 《白騎士事件》とは、《IS》発表から一ヶ月後に起きた世紀の大事件。世界中の軍事コンピューターが何者かによって同時にハッキングされミサイルが同時発射されたのだ。

 目標は日本。その数なんと二千三百四十一発。

 誰もが焦土と化す日本を幻視したその瞬間、それは現れた。

 

 空を浮かぶ人型のそれ。顔まで覆う機械鎧。

 純白の騎士は現れるなり瞬く間に日本を狙ったミサイルを落とす。戦闘機を上回る速度と自在な動きで空を無尽に駆け抜け、たった一機で半数以上ものミサイルを撃墜したのだ。

 

 日本は救われた。しかしそれだけでは終わらなかった。

 《IS》の性能を見た世界が、今度はハッキングなどという被害者ではなく、明確な欲望を持って攻めてきたのだ。

 しかしそれすらも白騎士は叩き伏せた。

 砲弾を躱し、銃弾を弾き、歩兵を蹂躙し、空母を沈め、戦闘機を落とした。

 世紀の大事件も、世界の欲望も、白騎士――――《IS》という新しい時代を前に消え失せた。

 

 圧倒的な性能を目の当たりにして世界が興味を抱かないはずもなく、結局《IS》は本来の目的である宇宙空間での使用より、飛行、パワードスーツとしての軍事転用が主として世界に受け入れられていったのだった。

 

 世界は競って《IS》を作る。しかし《IS》は謎が多すぎた。

 特に心臓ともいえるコアの部分がブラックボックスではたとえ外装が完成しても、ただの高価な人形に違いない。

 結局世界中の科学者が総出となってもコアを作るどころか解析すらまともに出来なかった。ただ一人の例外、製作者たる束を除いて。

 

 束が作ったコアの数が世界で活動出来る《IS》の絶対数となり、そして何故か女性にしか反応しないおかげで、世界は女尊男卑の様相を呈する。

 ――――しかし、ここにもまた例外(・・)が存在したのだった。

 

 

 

 

 

 

 学生に人気が高い窓際最後方の席をあてがわれた楓。これもきっと日頃の行いがもたらしたささやかな幸せに違いない。――――実際は遅刻した結果、とってつけたように用意された場所なだけなのは承知している。ただの逃避だ。

 逃避、というのはこの刺さるような視線。

 

「注目の男の子ひそひそ……」

 

「二人目の男子ひそひそ……」

 

「目つき悪いしピアスしてるけど不良系? ひそひそ……」

 

「あ、でも私案外タイプかもひそひそ……」

 

 無論ばっちり聞こえている。そして不良扱いを受けていたり怖いと言われていることに相当なダメージを受けている。

 

 女性にしか操ることの出来ない《IS》。

 必然、教員を含めたこの学園の九割以上が女性である。そこにポン、と男子が混ぜられれば注目を集めるに決まっている。

 それが仕方ないことはわかっている。わかっているのだが……、

 

「想像以上に落ち着かねえ」

 

 故に楓は窓の向こうに顔を背けて興味が無さそうなポーズを取っているのだが、いつまでもこうしているわけにもいかない。これから最低三年はここで、このクラスメート達と共に学園生活を過ごすのだから。

 

「ちょっといいか?」

 

 ここは第一印象の悪さを払拭するべく春休み中に考えた作戦Cを決行するか、などと考えていたところに声をかけられる。

 その声はまるで男のようで、視線を向けると男みたいな体つきと顔立ちの――――というか目の前の人物は間違いなく男である。

 

「たしかあんた……」

 

「一夏だ。織斑(おりむら) 一夏(いちか)

 

 楓とは違って人好きしそうな爽やかな笑顔で名乗る彼を少し羨ましく思いながら彼のことを思い出す。

 彼のことを楓は知っている。いや、楓だけではない。世界中の人間が、今まさに彼に注目しているといって過言ではない。

 この学園内で楓同様、異端に属する存在(おとこ)

 

「知ってる。お前有名人だからな」

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ」

 

 惚けた奴だ。しかしわざとやっているようには見えないので天然だと断定。

 

 この一夏という少年は入学式直前に急遽発覚した楓とは違い、とある入れ違いから偶然《IS》を起動させてしまい前々から世界的に注目を浴びている。今や時の人。

 彼のおかげで楓は『二人目』として扱われるので、多少気苦労が減ったと思う。まあ、結局この学園に入学したら一緒だが。

 

「俺ってそんなに有名なのか? 別に大したこと出来ないぞ?」

 

「お前さんが思ってるよりはな」兎にも角にも名乗られたなら名乗るのが礼儀か「御堂 楓だ。よろしくな、織斑」

 

 差し出した手を嬉しそうに取る。

 

「ああ! 一夏でいいぞ」

 

「んじゃこっちも楓でいい」

 

 元気が良くて気のいい奴、というのが楓が抱いた一夏の第一印象だった。

 今まで見ていた彼は全て画面越し。それも当時は他人事として眺めているだけだった。

 実際にこうして話してみて、改めて同類がこいつで良かったと思えた。

 

「それにしても楓がいてくれて助かった。男が俺一人で心細かったからさ」

 

「そりゃお互い様だろ」

 

 一夏が話しかけてくれなかったら多分まだ意味もなく窓の向こうを眺めていたに違いないのだから。

 周囲のひそひそも、一夏との交流を傍目から眺めてからいい方向に流れているみたいだ。

 意外と怖くない……? これが大切である。

 

「――――ちょっといいか?」

 

 一夏との他愛ない会話を、少し硬さを感じた声が遮った。

 見れば立っていたのは今度こそ女子だった。

 

 長髪を長いポニーテールに結った少女。その佇まいはしゃんとしており何か武道でもしているのだろうか。

 学園の制服であるものの、古風な雰囲気を抱かせる綺麗な女の子だった。

 

(ほうき)?」

 

 少女が名乗るより先に一夏は少女を見るなりそう呼んだ。

 どうやら知り合いらしい。――――というか、

 

(箒?)

 

 それは楓にとっても聞き覚えのある名だった。

 しかし別に互いに面識があるわけではない。それどころか向こうは、仮に楓の名を聞いたところで何かに引っかかるということもないだろう。

 これはあくまで楓が一方的に知っているだけなのだから。

 

「どうかしたのか?」

 

 少女、箒に尋ねる一夏。

 けれど少女の方は歯切れ悪そうに、チラチラとこちらを見ている。

 察したのは楓。

 

「行ってやれよ」

 

「おう?」

 

「………………」

 

 不思議そうに首を傾げる一夏と、どこかホッとした顔の箒。

 

「じゃあまた後でな、楓」

 

 手を振る一夏に応えて手を振る。それに続く箒の背を目で追うと、自分にもお迎えが来ていることに気付いた。

 

「御堂 楓、ちょっと来い」

 

 扉の前でこちらをじっと睨む千冬は有無を言わせぬ声色でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 命じられるまま彼女の背について歩く。

 教室を出て校舎を出て、馬鹿広い学園の敷地を真っ直ぐ歩く。

 ようやく彼女の足が止まったのは大きな池の畔だった。

 

 楓の記憶の限り、今のところ常時不機嫌な調子の千冬。振り返った彼女はやっぱり機嫌が悪いのか、眉間にシワを寄せている。

 美人なのに勿体無い。

 

「貴様は束を知っているのか?」

 

 駆け引きもない。マナーもない。

 回り道一切無しのド直球の質問だった。

 

「あいつは今どこにいる?」

 

 いや、これだけ高圧的だと質問というより詰問……尋問か。

 

「さあ。世界中が知りたがってるけどね」

 

「……まともに答える気はないということか?」

 

 千冬の瞳の温度がさらに下がった。

 

「まさか。俺も知らないだけだよ」

 

 これは本当のことだ。

 楓が最後に束と会ったのは一人暮らしを始めた中学二年のとき。以来直接顔を会わせていない。

 

 彼女は世界で唯一《IS》のコアを生み出せる科学者だ。世界中が血眼になって彼女を探しているが、彼女はそれを嘲笑うように捕まらない。

 というのもどうやら彼女は移動型ラボなどというものを開発して常に動き回っているらしいのでそう簡単に捕まるはずもない。

 

(まあ、会ってないだけで電話で連絡はちょくちょくしてるんだけど)

 

 居場所は知らない。会ってもいない。故に嘘ではない。

 心の中でそんな屁理屈をこねる。

 

 それも当然だ。

 血の繋がりこそ無いとはいえ唯一の家族の安全に関わる。

 それほどまでに、まだ楓は千冬を信用しているわけではないのだ。

 

 一体どこまで見通しているのか。まるで心を直接覗くような刃の視線に自然息を呑む。

 千冬は一旦、目を伏せた。

 

「ならば質問を変えよう。貴様は束とどういう関係だ?」

 

 ここで嘘を答える必要もないだろう。

 

「あの人は育ての親、かな。まあ親ってよりは姉ちゃんみたいに思ってるけど」

 

 それも相当に手のかかる駄目姉貴。

 なにせ彼女はやりたいことは何をしてでもやる。やらないことは頑としてやらない子供みたいな性格をしている。

 おかげでその『やりたくない』ことのしわ寄せが悉くとしてこちらにくるのだ。

 

「あんたの話は束から聞いたんだ。というか、あいつの話はいつも『ちーちゃん』か『ほうきちゃん』か『いっくん』のどれかだったから」

 

 『ほうきちゃん』が彼女の実の妹である篠ノ之 箒。『いっくん』が妹の幼なじみの一夏。そして『ちーちゃん』が親友の千冬のことである。

 彼女の子供っぽい好き嫌いは筋金入りで、興味のない人物は何度会おうと名前も顔も覚えない。逆に好きになった人はたった一度しか会っていなくても絶対に忘れない。

 

「特に千冬さんの話はいっぱい聞いてたよ。ブリュンヒルデと呼ばれたあんたの武勇伝」

 

「その名で私を呼ぶな」

 

 一層機嫌が悪くなってしまった。

 楓は肩を竦める。

 

「私の話はどうでもいい。貴様と束の関係だ」

 

「孤児だった俺をあの人が拾ってくれただけだよ。その後数年間一緒に暮らしてた。それだけ」

 

 楓は孤児院の出身者だ。孤児院の院長の話では物心が付く前に施設の前に捨てられていたらしい。寂しい話だが、今の時代それほど珍しい話でもない。

 しかし見ず知らずの、何の背景も持たない自分を束が拾ってくれた理由は未だわからない。慈善家とは思えない性格だが。

 まあ、彼女の気紛れ可能性が高いので、考えるだけ無駄だが。

 

「本当か? 本当にあいつの居場所を知らんのか?」

 

「知らない。俺が一人暮らししてからは一度も会ってない」

 

 どうせ今もどこかで呑気に笑っているに違いない。

 

「そういう千冬さんは? 友達なんだし知ってるんじゃないの?」

 

「知らん」

 

 こちらの質問はばっさり切って捨てる。

 

「わかった。手間を取らせたな」

 

 用は済んだというように背中を向ける千冬。

 

「ああそれと」校舎へ戻る足を止めて「私のことはちゃんと『織斑先生』と呼べ。今のは私からの呼び出しで、プライベートの会話だったから見逃してやる。以後は容赦無く罰をくれてやるからそのつもりでいろ」

 

「了解。織斑先生」

 

 彼女は満足そうに頷いて、今度こそ立ち去る。

 その場に残された楓は側にあったベンチに腰掛けて、ズルズルと体を沈ませた。

 

「うーむ……生で見ると凄い美人だったな」

 

 そして怖い。




閲覧ありがとうございましたー。

>すでに完結してて展開決まってるからスイスイ書ける……などと言ってみましたが、意外と筆ないし指が進まないもんですなぁ。
やっぱり書きたい作品が他にもいっぱいあるからですかね。

まあまだアニメの二期が始まったわけでもないのだし、慌てる必要はないですよね

>ちなみに、彼がISに乗るのはまだまだ先でござる。
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