【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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三話

「そ、それで束さんはなにをしに来たんですか?」

 

 混沌と化したこの状況で、良くも悪くも太い神経を持つ一夏が尋ねる。

 それにハッとする束。

 

「そうだったよ! よくぞ聞いてくれました! さすがはいっくん!」

 

「はぁ、どうも……」

 

 コロコロとテンション起伏が激しい束にさすがの一夏でさえ引きつった顔をする。

 しかし束はそんなものも見えていないようで、たわわな胸を張って高らかに叫ぶ。

 

「さあさあ皆さん、大空をご覧あれ!」

 

 指差された空を見上げる。青い空に一点の光が現れる。光は徐々に形を帯びて、遂に面々の前へ落ちてきた。

 

 飛来したのは八面体の箱。銀色の滑らかな表面は鉄かステンレスか、はたまた『天災()』がこの為だけに生み出した未知の素材か。たったそれだけのことも誰もわからない。

 

「えいっ!」

 

 それを嘲笑うように、彼女が取り出したリモコンのスイッチを押すと未知の箱は星形の粒子となって霧散する。

 

「あれは……」

 

 楓の視線の先、消えた八面体の箱の中から現れたのは紅のIS。そして、束がわざわざここにやってきて、この場に彼女が加わっていることから、すでにその機体の主は決まっているのだろう。

 

「これぞ我が愛する妹、箒ちゃん専用のIS。その名も《紅椿(あかつばき)》!」

 

 やはり、この機体の主は箒だった。考えてみれば、あの身内贔屓……というより、自身が気に入った人間になら世界の半分だって気軽に渡しかねない束が、愛する実の妹である箒にISを渡さないわけがない。一夏の《白式》のときでさえ横から茶々を入れて自ら《白式》に手を加えたのだから。

 

「篠ノ之」

 

「はい」

 

 千冬に促されて、箒は緊張した面持ちで《紅椿》に歩み寄る。間近に立って一度その全景を視界に収めると『頼むぞ』と小さく呟いて装甲に触れた。途端、《紅椿》は一瞬粒子に変換され、すぐさま光は箒へ纏われる。

 

「うふふふー」

 

 その光景をだらしない顔で嬉しそうに眺める束。

 

「それじゃ、《初期化》と《最適化》終わらせちゃおっか?」

 

 言うなり束が右手を横に振ると虚空に透明のコンソールが出現する。それを凄まじい早さで操る。瞬く間に《一次移行》は完了した。

 

「こんな短時間で……」

 

「はっやーい! さすがワタシっ!」

 

 自画自賛、というのはこの場合当てはまらないのかもしれない。束の場合、事実やることなすこと全てが凄いのだから。

 ラウラまでも、初めて目の当たりにした彼女のスペックに口を挟めずにいる。

 

 そんな彼女達の存在を束は気にもしない。否、初めから眼中に無いのだ。

 

「次は試運転いってみよー!」

 

 一人だけテンションがうなぎのぼりのウサ耳博士。対称的に、いつもより、特に姉である束が現れてからずっとしかめっ面をしている妹は硬い顔で頷く。

 箒は目を閉じて念じた。――――翔べ、と。

 

「っ!?」

 

 消えた。消えたように思えた。

 映像のコマが飛んだように、真紅の機体はすでに遥か上空を飛んでいた。

 

「速い!」

 

 シャルロットのみならず、全員の感想だった。そんな観客のリアクションは心地いいとばかりに束はえっへんと胸を反らして鼻高々に告げた。

 

「ふっふっふ、当然なんだよ。なにせ《紅椿》は世界が開発した(・・・・・・・)現行ISをあらゆる面で上回る第四世代なんだから。基本スペックだけでいえばいっくんの《白式》より上だよっ!」

 

 第四世代。未だ第三世代の試作機を生み出すのが精一杯の世界の科学力では机上にすらあげることの出来ない未来のIS。一夏の《白式》もまたスペック上、第四世代に分類されるわけだが、《紅椿》はそれすら上回るらしい。

 

「………………」

 

 この場のほとんどの人間にしてみれば第四世代というISを作った束を流石だ、と思っているだろう。しかし、この場において二人だけ……楓と千冬だけはそれを別の意味で捉えていた。つまりは――――また彼女は第四世代(未完成)を生み出した、と。

 

 篠ノ之 束は天才でも天災でもない。彼女は完全なる存在。彼女の手にかかれば作れないものなどない。出来ないことなどない。

 ならばそんな彼女に出来ないはずがない。第一世代? 第二世代? 第三世代……第四世代……未だ発展途上のISなどで収まるはずがない。束は作ることが出来る。完全なるISを。無比なるISを。実際、兵器として完成されたISはすでに作られているのだから。

 

「楓の《八咫烏》とどっちが速いのかしら……」

 

 ふと漏らした鈴音の言葉に、束は答えることをしなかった。いつも通り外野の声とシャットアウトしていたのか。それとも、聞こえていて答えなかったのか。

 

 やがて、箒と《紅椿》の派手なお披露目は途中慌ててやってきた真耶の持ってきた案件により途中で仕舞いとなった。

 

 

 

 

 

 

 逼迫した様子の真耶が千冬に何事かを伝えると千冬の顔もまた険しいものに変わる。すぐにその場にいる箒を含めた専用機持ち達へ旅館の大広間へ集まるよう告げると、自身は真耶と共に足早に旅館へ走った。どうやら緊急性の高いなにかが起こったらしい。

 千冬の様子からそれを察した一夏達も後を追うように旅館へ向かって走った。

 

 楓も千冬と真耶の様子から一夏達と同様の意図を感じ取り、今すぐにでも旅館へ戻ろうと思っていたのだが、どうしても置いてけぼりを喰らった彼女の背中が視界から外せないでいた。

 そも、束との再会は自分だって本当は嬉しいのである。しかし友人、特に想い人である千冬の目がある手前、さっきはいつもより少しばかりつっけんどんな態度を取ってしまったのだ。

 

「なあ、束」

 

 その名を呼んだのも妙に久しぶりな気がした。

 

「元気だったか?」

 

 ピクン、ピクンピクン! と彼女のウサ耳が跳ねて、次は背中を折って前かがみに蹲ると震えだし、最終的に、

 

「元気だったよー! 元気だったけど……かーくんいなくて寂しかったよおおおお!!」

 

 やっぱりタックルのようなダイブだった。大袈裟なほど涙を流し抱きついてくる彼女を、楓は拒まず受け入れる。押し当てられる頭をあやすように撫でてやる。

 これで母を名乗るのだからおかしなものだ。どっちが保護者か傍目ではわかりゃしない。

 

 そうしてしばらく、およそ二年分。正確には約一年半の再会の抱擁を受け止めて、楓はいい加減自分も一夏達を追わなければならないと束を引き剥がす。

 

「相変わらずの馬鹿力め!」

 

「バカは偉大なんだよー!」

 

 グギギギ、と子供の意地の張り合いのように押しのけてなんとか束を引き剥がす。束の方はぶーたれてはいたものの、少しは満足したようではにかんでいた。

 

「そういやそうだ。……束、一つ訊いていいか?」

 

「なにかなかーくん? 愛する息子の質問にはお母さんばっちり答えちゃうぞ! 子供のでき方はコウノトリが――――」

 

「それはどうでもいい」

 

 立ち去ろうとして振り返った楓。束はウキウキと瞳を輝かせて息子の言葉を待った。

 

 楓は顔色一つ変えずに尋ねた。

 

「お前、なにか企んでるのか?」

 

「………………」

 

 その質問には楓にとってあらゆる意味合いが込められていた。そしてまた、その全ての意味を完璧なる束は汲みとっていた。その上で彼女はこう答える。一切笑顔に翳りを見せずに。

 

「やだなーかーくん。お母さんも女の子だから、秘密の一つや二つ持ってるよー」

 

 イヤン、と頬を赤く染めて答えるいつも通りの束に、楓は『そうか』とだけ答えるとそれ以上の追求はしなかった。初めからまともに答えが返ってくるとは思っていなかった。

 ――――だがそれでも、彼女は(・・・)嘘をつこうとはしなかった(・・・・・・・・・・・・)

 

 それだけで楓は満足してしまった。

 

 

 

 

 

 

 現在時刻より二時間前、ハワイ沖で試験稼働していたアメリカ、イスラエル合同開発の軍用IS、名称《シルバリオ・ゴスペル》……通称福音が原因不明の暴走。監視空域を突破した、というのが今回起きた事件なのだと千冬の口から語られた。

 

 授業は一般生徒達も含めて一旦中止。彼女等は自室待機。専用機持ちは旅館の大広間の一室を借りきった、即席の作戦室に集まっていた。無論、楓もその一人に加わっている。

 部屋に持ち込まれた巨大モニターを初め、機器の数々。それらを単独で処理している真耶の表情はいつになく真剣だ。

 

 ISは兵器だ。誰がなんと言おうとも、最強の兵器たる力を備えている。それも二つの大国が共同開発していた第三世代、それも軍用となれば、暴走した今市街地にでも現れて暴れれば簡単に人死にの大事件になる。

 それを怖れて通達が降りてきたのだ。『福音を止めよ』――――と。

 

 福音は偶然かどうかはさておいて、予想進路にこの空域近くを通るらしい。現状ここには学園から持ちだした訓練機が四機。それと一年には楓を含め専用機が六機――――いや、今は箒と《紅椿》がいるので七機もの最新鋭のISが揃っている。ちょっとした国なら冗談ではなく攻め落とせる戦力を保有している。

 そこで今回の任務の白羽の矢がこちらへたったというわけだ。

 

(偶然、ねえ)

 

 誰にでもなく心の中で楓はぼやいた。はたしてこれが本当に偶然なのか否か。

 

 ――――まあ、今はそんなことどうでもいいのかもしれない。

 

「福音がこの空域を通過するのはおよそ五十分後。学園上層部からの通達により、この件は我々が対処することとなった」

 

 いつにも増して千冬の硬質な声が部屋に響く。そのことに各々の顔にさらに緊張が満ちる。

 

「教員は訓練機を使って予想空域、及び海域を封鎖する。よって本作戦の要は貴様達専用機持ちに担当してもらう」

 

「ちょっと待った千冬さん!」

 

 千冬の発言に楓は手をあげて意見する。

 

「百歩譲って作戦への参加はともかく、なんで教員じゃなくて俺達が直接対応するんだよ?」

 

「『織斑先生』だ」ドスのきいた声で注意してから「私達だけで片をつけたいのは山々なのだが……残念ながら、福音のスペックを見る限り訓練機での対応は難しい」

 

 苦々しい顔で千冬は答える。実際彼女もこんな事件に生徒を巻き込むのは本意ではないのだろう。

 

「はい!」セシリアが手を挙げる「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「いいだろう。だが情報は決して口外するな。情報が漏れれば、査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられることになる」

 

 こんな突然の事態であるにも拘わらず、セシリアに動揺や怯えた様子は無い。見てみれば他の面々も。

 よくよく考えてみれば、この場にいる人間のほとんど、楓と一夏、箒を除いて皆軍に所属、もしくはそれに準ずる機関での訓練を修めている。いつもは子供より子供っぽい少女達であるくせに、こんなときは凛々しい。

 

「女ってのは逞しいなぁ、おい」

 

「御堂。作戦参加を辞退するなら退室して構わんぞ」

 

 むしろ余計な情報を耳に目に入れる前にそうするべきだと千冬は促す。その心遣いは――――心外だ。

 

「冗談。暴走ISを止めたヒーローインタビューで明日から俺のモテ期がやってくる予定だぜ!」

 

「馬鹿め。情報漏洩すれば裁判と監視だと教官が言っていただろうが」

 

「あ、そっか」

 

「なんかアンタと作戦こなすのが不安になってきたわ……」

 

 ラウラに窘められ、鈴音に呆れられる。

 

「織斑、貴様はどうする? 別に作戦への参加を拒否しても罪には問われんぞ」

 

 千冬の言葉はこの場で特に動揺が見て取れる少年へ向けられた。それも仕方がない。一夏は正真正銘、単なる一般人に過ぎないのだ。

 クラスマッチでの無人機の乱入。VTシステムの暴走。そのどちらも突発的な発生で偶然その場に居合わせ、半ば自棄で対峙していた。

 しかし今回は時間的に余裕は無いとはいえ、初めて『逃げる』という選択肢が与えられた。こんな殺伐とした事件には関わらず、ただの生徒として自室に篭ったところで誰も咎めはしないだろう。

 

 そして問いかけた千冬もまた、その言葉に弟への不安が感じられた。出来うるならばそうしてくれという願いのように思えた。

 

「――――千冬姉、俺にもそのデータ見せてくれ」

 

 楓は小さく笑う。親友が危険な作戦に参加するのはいい気はしない――――が、そうでなくては彼ではないとも思ってしまうのだ。

 多分、千冬も同じ気持だったのだろう。ふ、と一瞬だが小さく笑った。誇らしそうに。

 

「わかった。この場にいる全員に、本作戦の概要を伝える」




閲覧どうもありがとうございます。

>うー……早くバトルを書きたいです!

>前話でヒロインを千冬に確定させたわけですが……はっは!予想通り評価落っこちてましたね!
まあでも誰がなんと言おうと今作のヒロインは千冬さんなのです。だがしかし、サブと公言するのはあれですが、ヒロインが出尽くしたとは言っていなかったり……………………(ぼそぼそ)
詳細につきましては二期突入前の『注意事項の章』で説明致しまする。

>さあさあ一期もラストスパート!!

そこ!まだ一期とか言わない!!

……ぴーえす、なろう出身らしい『劣等生』というのがいい具合に厨二っぽくて激しく書きたくなっております。
とりあえず原作買ってみようかしら
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