【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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九話

 一段と強い日差しの日中。海岸には多くの少女達が和気あいあいと戯れていた。

 

 今日で臨海学校も最終日。午前中は変わらず授業だったが、午後は教員達の粋なはからいで帰宅時刻まで自由時間が与えられた。

 

「うー……」

 

 そんな光景を……否、正しくは友人達の楽しげな笑い声を旅館の一室で聞かされるのは楓だった。生殺しのような状態で、彼は向かい合った画面と睨み合う。

 

 旅館へ帰還した後、当然のように楓達は揃って千冬の叱りを受けることとなった。学園へ帰った後、反省文の提出。加えて懲罰用の訓練メニューが課せられる羽目になる。

 しかし楓だけはそうはいかなかった。

 楓の場合、箒と一夏の最初のアプローチ作戦時にも待機命令を無視して独断行動を取っている。さらに千冬との約束を破って神威まで使ってしまった。

 結果、楓は一夏達より一足早く反省文10枚のノルマを本日中提出で執行されたのだった。

 

「手が止まっているぞ」

 

 そんな楓に厳しい声を浴びせるのは、窓際に立ち楓及び海岸の生徒達を監視する千冬。

 

 楓は腕を組んで直立する千冬の背中に恨めしげな目を向ける。

 

「千冬さんの鬼」

 

「レポートの枚数が足りないならそう言えばいいものを。プラス2枚だ」

 

「悪魔……」

 

「3枚だ」

 

 バタンキューと座卓に突っ伏す。

 

 千冬は嘆息を漏らし、楓へと向き直る。

 

「どうせその足では遊べないのだからいい加減諦めろ」

 

 千冬の視線は座卓の下に伸ばされた楓の右足に向けられる。足首から膝までを固定するように包帯がぐるぐると巻きつけられ、脇には歩行用に松葉杖が置かれている。

 福音との戦闘……というよりは、例によって神威の発動によって負った怪我。幸い折れてはいなかったが、靭帯が伸びていた為、全治1週間を言い渡されている。

 

 一瞬、千冬の瞳に悲痛な色が滲んだ。

 

 その傷は、本来楓が負うべきではなかった傷だ。全ては指揮官である自身の判断ミスが招いた代償である。

 今回はたまたま運が良かった。一夏や楓が傷を負ったものの、取り返しのつかない事態にはならなかったのだから。

 しかし、それはやはりたまたまでしかないのだ。それで自分自身を許すことが、千冬には出来ない。

 

「なあ、御堂」

 

 千冬は思わず声をかけてしまう。

 

「貴様は今の世界が楽しいか?」

 

 彼女(・・)にされた質問を、そのまま問いかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、御堂。貴様は今の世界が楽しいか?」

 

 不意に千冬はそう問いを投げかけてくる。その質問の内容が、はたして千冬自身から出たものかどうか、それくらいは楓にだってわかるつもりだった。

 動かしていた手を休め、楓は視線をどことなく遠くへ向ける。

 

「元々俺にとって世界なんていうのは孤児院の中だけのものだった。あのときあいつに会わなきゃ、きっとあのまま世界は閉じたものだったと思う。IS学園に通うこともなく、一夏達とも出会うこともなく……多分それは、すげーつまらなかったと思う」

 

 あの日、あのとき、彼女に会って世界は広がった。全てに色がついた。

 

 たとえ束がこの世界をどう思っていようとも、楓は彼女に感謝している。返しきれない恩を感じている。

 

「だから俺は今の世界が好きだよ。もったいないくらい幸せにしてくれるこの世界が好きだ。――――それにほら、千冬さんにだって会えたし」

 

 こっ恥ずかしい台詞を言っていると自覚して、最後は茶化すように締めた。

 見れば千冬は目を丸くしている。その顔がふっと弛む。

 

「そうか」

 

 『ところで』と千冬は体の向きをくるりと反転させる。人差し指で唇を撫でる。

 

「あのときは油断した。一本取られたと言わざるを得まい」

 

「!」

 

 楓の顔が一瞬で赤くなる。思考が空回り爆発。頭の中では『あのとき』の光景が目まぐるしく再生される。

 

「いや、その、あれは……」

 

 なんと言い訳しようか。いやそもそもとしてあれに言い訳など存在しない。無理矢理襲って唇を奪った以上の事実は無い。

 かといって謝るのも違うと思う。それはそれで失礼な気がする。

 

「……それじゃあ、あの、合格点でしょうか?」

 

 いっそ開き直ってみた。

 

「調子に乗るな、馬鹿者」

 

 ガツンと出席簿アタックを受けて悶絶する。怪我人にも容赦がなかった。

 

「…………だがまあ」

 

 はたかれた頭を擦る楓はとんでもないことを耳にする。

 

「赤点には補習が必要だろう。今度飯ぐらい付き合ってやる」

 

「――――へ?」

 

 姿勢を崩してうっかり座卓のコンソールの上に手を置いてしまう。その際、半ばまで書き途中だった反省文が全削除されてしまうが楓は気付かない。

 

 日差しが熱い。夏はまだ終わらない。




閲覧ありがとうございましたー。

>てなわけでエピローグです。超絶的に短くて申し訳ありませんが、まあエピローグって本来こんな感じだったかなと開き直ったりしてみます。

>千冬さんのデレ!でももちろん彼女は楓を恋愛感情云々で見てはいません。生徒達の中で、一夏に次ぐ、もしくは一夏並に特別意識しているというのは事実ですが、それも楓君が束さんと繋がっているからというのが主な理由ですし。
けどまあまったくそういった方面で意識してないといえば嘘になる(どっちなんだ)

>なんだかんだとこうして一期終了まできました。ということで次話からは私にとっても皆さんにとっても未知となる二期突入です。
ただ二期突入に際して重要なお知らせ……というか注意事項が発生するので、次話更新前に注意書きを投稿します。ぶっちゃけ危険タグが増えます。

まま、そこら辺もぼちぼちということで、また次回までお元気で。
そしてこの一期まで付き合っていただき改めてありがとうございました!
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