【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━ 作:針鼠
入学式を終え、クラスメートとの顔合わせも終わるとさっそく授業も本格的に開始され始めた。
なにせ覚えることは山ほどある。基本性能然り、機器の名称然り、操作方法然り。兵器でもある《IS》を運用するのだから法律関連も精通していなければならない。加えて社会に出る上で必要となる普通教科の内容も含まれているので、それはもう文字通り山のような教材が存在する。
故にこの学園の偏差値は高い。《IS》適正の高さもさることながら、一般的に優等生と呼ばれるレベルが水準の集まりである。
だから、仕方のない話かもしれない。
比較的丁寧でわかりやすいよう工夫された副担任の山田 真耶の努力虚しく、今まで男であるが故に《IS》と関わりのなかった一夏が『何一つわからない』という発言をもって、ひとまず終礼の電子音が鳴った。
「ようよう一夏、ちょとシャー芯くれね? ――――ってか生きてる?」
「ああーうぅー……」
呻き声をあげるだけの屍だった。
先ほどの『わからない』発言による千冬からの出席簿アタックで、すでに授業でオーバーヒートしていた一夏の脳はトドメをさされたようだった。
机に突っ伏した一夏が顔をこちらに向けて縋るような視線を送ってきた。
「楓は授業わかるのか?」
「ハッハッハッ! 当然だよ君。俺を誰だと思ってるのかね!」
思わず自慢気に鼻が伸びる。
しかしこれは別に楓が所謂優等生である証明ではなく、彼はかの世紀の科学者、束と一緒に住んでいたのだ。別に彼女の作業を手伝っていたわけでもなんでもないが、《IS》に関しては並みの者より遥かに知識を有している。
その証拠に、一般教科については学年でも底辺に近いだろう。
「くそー。裏切り者め」
恨みがましい声をあげる一夏。
しかし彼については楓も同情しないでもない。
事前の勉強を怠っていたのは自業自得とはいえ、元より自分達に《IS》の知識など不要なのだ。何故なら楓達男には、本来あれは動かせないものなのだから。
開発者になろうとでも思わない限り、少なくとも縁のある代物ではない。
それを急に膨大なマニュアルを覚えろと言われても頭に詰め込めるわけがない。
「――――ちょっとよろしくて?」
会話を遮る声。
どことなく似たシチュエーションだったが、今回の人物は箒ではなかった。
金髪碧眼の白人。長い髪を縦ロールに、日本人より体つきや顔つきがどこか大人びて思える少女が目の前に仁王立ちしていた。
「……ちょっと、聞いていますの?」
楓、一夏共に視線を向けるだけでそれ以上の反応を見せなかったので、少女は不機嫌そうに眉根を寄せた。
楓としてはてっきりまた、一夏の知り合いなのかと思っていたのだが。
「んあ? 聞いてるけどなんか用か?」
「んまあ! なんて返事の仕方なんですの! このわたくしに話しかけられたのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくて?」
どうやら違うらしい。
色々と限界で、主に熱くなった頭を休ませるのにいっぱいでぞんざいな返事をした一夏を責める少女。
さっぱり要件が掴めないが、なんだか面倒そうな女の子だなぁ、と楓は心の内でぼやいた。
だというのに、
「だって俺お前のこと知らないし。楓は知ってるか?」
「そこで俺に振るなよ。……いや、知らないけどさぁ」
一夏は馬鹿正直に彼女の怒りの炎に薪をくべる。
「知ら、ない?」
案の定、顔を赤くして身を震わせる少女。
「イギリス代表候補生にして入試首席であるこのわたくしを、セシリア・オルコットを知らないとおっしゃいますの!?」
縦ロールを振り乱して絶叫するセシリア。
おそらく自己紹介のときもこんな感じで名乗ったのだろう。遅刻した楓は知る由もないが。
しかも、その自己紹介を聞いていたはずの一夏は、
「なあ、質問いいか?」
「よろしくてよ。下々の要求に応えるのが貴族の役目」
「代表候補生って、なんだ?」
「期待しちゃいなかったけど、お前どんだけだよ……」
さすがに少し引いた。ものを知らないにも程がある。
セシリアに至ってはもう言葉も出ないようだった。
なので不本意ながら楓が説明を請け負うことに。
「文字通り候補生だよ。国家代表の《IS》乗り……その候補。候補っつっても待遇は格別だ。国によって扱いは違うだろうけど、まあ大抵はかなり優遇されてるな」
「そう! つまりエリートなのですわ!」
楓の説明の甲斐あって、ようやくセシリアは自分のペースを取り戻して高らかに告げる。くびれた腰に手を当てたポーズがやけに自然。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間と同じ教室で教えを受けるなど、頭を下げて頼んでも実現出来ないほど名誉なこと……。もう少しその幸福を理解してくださる?」
「そりゃラッキーだな」
「……貴方、馬鹿にしてますの?」
この二人、相性が悪いらしい。
天然と高飛車は混ぜると危険。
セシリアは眉をひくつかせながら一夏を一瞥。
「大体貴方がた、よくもまああの程度の学力でこの学園に入れましたわね。男性で《IS》を操る方と聞いていたので、てっきりどんな知的な方かと殿方かと思っていましたのに」
「ついでとばかりに俺もまとめないでくれ」
さすがに一夏ほどの世間知らずの汚名は着せられたくはない。それに知識にしても、《IS》に関してなら遥かに上だと自負している。
そんな楓の主張も何処吹く風と聞き流している様子のセシリア。
「まあですが、わたくし優秀ですので? 泣いて頼むのであれば色々教えて差し上げてもよくってよ。なにせわたくし、入試の実技試験で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから!」
これで高笑いでもしてみれば似合いそうだな、と思った楓。見下されている上にとても馬鹿にされているのだが、外見と違ってこの程度で突っかかるほど気の短い性質でもない。
この手の人間は気持ちよく喋らせてやるのが一番良い。
どこか彼方を見ながら流し聞いていた楓だったが、隣の一夏が『ん?』と疑問気な声をあげた。
良い予感がしない。
「入試ってあれか? 《IS》を動かして戦うやつ」
「それ以外ないでしょう」
語りに水を差されて僅かに不機嫌さを滲ませる。
それは一夏の次の発言で決定的に歪むこととなった。
「それなら俺も倒したぞ」
「んなっ!? わ、わたくしだけと聞きましたわ!」
「女子だけってオチじゃないか?」
あぁ……、と額に手をあてて天上を仰ぐ楓。この男、水を差すどころかぶちまけやがった。
ピッキーン、という音が聞こえてきそうな感じでショックのあまり硬直してしまったセシリア。一夏は己が何をしたのかわかっていないようで首を傾げている。
ちなみに、もちろん楓はそんな試験受けていない。
入学が決まったのは二日前。渡されたのはいきなり合格通知だったわけだから。
「あ、貴方達も教官を倒したというのですの!?」
硬直から復活したセシリアが顔がぶつかりそうな勢いで一夏に詰め寄った。
「え、えーと……多分」
「いや、俺は別に倒してなんか――――」
「どうなんですの! はっきりしなさいな!!」
「まあまあ、落ち着けって」
「これが落ち着いていられますか!」
仲裁に入ろうにもセシリアには楓の言葉が耳に入っていない。このままだと巻き添えで噛み付かれそうな調子だった。
そんなとき、楓にとっては都合よく、彼女には都合の悪いタイミングで次の時限のチャイムが鳴った。
「くっ」
電子音を鳴らすスピーカーを睨みつける。
そうして次に楓達を睨みつける。
「また後で来ますわ!」
返事は求めていないとばかりに告げるなり自分の席に戻る。
結局、最後まで彼女が何に怒っていたのかわからない一夏は首を傾げ、とばっちりを受けかけた楓は安堵の息を吐いた。
★
次の授業で教壇に立っていたのは千冬だった。
彼女は授業を始める前にわざとらしく、今思い出したかのように言う。
「そういえば、再来週にあるクラス対抗戦の代表者を決めねばならんな」
また一夏が、何のことやらと首を傾げているのが後ろから窺えた。しかし今回に限っては楓以下、クラス全員が知らないワードだった。
クラス対抗戦。
その名の通り、クラスの代表者達によって行われるリーグ戦。無論、競うのは《IS》による戦闘だ。
その代表者だが、なんでも今回限りの代表ではなくこれからの行事全てに関わる、謂わばクラスの学級委員のような立場になるらしい。
「ちなみに、クラス対抗戦は入学時点からの各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないだろうが、競争は向上心を生む。それと一度決まれば最低一年間変更はきかんからそのつもりでいろ」
最後に千冬はそう付け足した。
ふむ、つまりは面倒な役回りなのだと身も蓋もない解釈をする楓。
事実普通の学校の学級委員でさえ物好きでなければやりたがらないのだ。《IS学園》などという特殊環境下の代表を、たかがクラスのリーダーだと断じることは出来まい。
それぐらいクラスメートの大半は理解している。その上で、一人の女子生徒が手を上げた。
「はい。織斑君を推薦します」
立候補でなく
「うえっ!?」
前触れもなく名を呼ばれ、しかも当然のようにそれを受け入れる千冬に、彼は奇声じみた悲鳴をあげた。
さすがに同情しなくもないが、いっそこのまま一夏に決まってしまえと内心ほくそ笑む楓。
世にも珍しい男の《IS》操縦士。それならいっそクラスのシンボルにしてしまおうという彼女達の魂胆だろう。その証拠に何人かの視線は楓にも向いていたが、未だ強面の効果が働いているのかあと一歩踏み出せないでいるようだ。
それはそれで傷つくのだが、今に限ってはそれで構わない。
何処それの某かが無駄な勇気を振り絞らない内に一夏に決まれ。
「納得いきませんわ!」
そんな楓の願いを、一つの声が断ち切った。
「このような選出認められません! 男がクラス代表など……」彼女は一夏を仇のように睨みつけてから「わたくしに一年間生き恥を晒せとおっしゃるのですか!? そもそも! 実力でいけばわたくしが選ばれるのが必然。それを物珍しいというだけで決めるなんて認められませんわ!」
「酷い言われようだな」
「当然ですわ」
完全にとばっちりを受けている一夏だった。
しかし、セシリアの言い分もわかる。一度きりのものならまだしも、一年という長い期間、クラスの代表を務める人間を選ぶのだ。
それに彼女の首席発言が本当ならば彼女には相応の力があると認めざるをえない。
彼女には彼女なりの、イギリスの代表候補生としてのプライドがあるのだろう。
自分には関係の無い話であるが。
楓は無責任に推移を見守る。
「大体、文化としても後進的なこんな島暮らしだけでも耐え難いのですのに。これで貴方のようなお猿さんがわたくしの上に立つなどと――――」
「イギリスだって大したお国自慢なんてねえだろうが」
今まで黙っていた一夏が怒鳴り返す。
「世界一不味い料理で何年覇者だよ」
「貴方!? わたくしの祖国を侮辱しますの!」
「そっちが先だろう」
睨み合う二人。
やがて、わなわなと体を震わせていたセシリアが白く長い指先を一夏に突きつけた。
「クラス代表を懸けて決闘ですわ」
「おう。望むところだ!」
売り言葉に買い言葉とはこのことか。
一夏もこの場の雰囲気と感情に乗せられるまま応じた。
何やら思わぬ面白イベント発生にクラスがざわめく中には楓もいた。
それにしても今どき決闘とは古風な。
どちらにせよ、周囲の自分への視線も掻き消え、安堵の息を一人ついていた。
――――それを見ている者がいた。
「今ならば一票でも入ればその者も戦いに参加させよう。自他推薦構わんぞ」
「「御堂君を推薦します」」
さらにクラスが盛り上がった。
明らかに悪意ある後押しだ。
その証拠に目があった千冬は意地悪そうに笑っている。
「畜生。千冬さんめ……」
ゴン、と机に額をぶつけて楓は突っ伏した。
閲覧どもでしたー。
>書いてて思ったんですが、楓って本当に特別な色のないキャラだなぁ、と思いました。
一般的な男の子をイメージして書いてるんですがまさにそのままになってるような……。
>バトルは次々回くらいですかね。