【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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一話

 ――――遂に始まりましたー。

 

 ――――これは、秘密の対決です。

 

 ――――一夏! もてなしてやる!

 

 ――――わたくしの一流のサービスに酔いしれてくださいな。

 

 

 

 

 

「あー……俺なにしてんだろう」

 

 無意識に口から漏れたぼやきは虚しく空気に溶ける。逃避の為に彼方へ向けた視線は、しかし薄暗い天井に遮られてさらに陰鬱な気分になった。

 仕方なく視線を眼下へ戻す。

 

 今尚ステージで展開している一夏と少女達の乱痴気騒ぎ。それを裏方で眺める少年――――御堂 楓の目は完全に死んでいた。

 

「御堂君! 照明もっと右に!」

 

「…………」

 

 いつも騒がしいが、今日もやっぱり騒がしい我がクラスメートのひとり。岸原 理子は、眼鏡の向こうの瞳に爛々とした光を灯してステージを凝視しながらこちらを見ずに叫んだ。

 危なすぎる友人――――と思いたくないけど――――の指示に、楓は無言のまま照明機器の首を右に回した。スポットライトがステージに立つ一夏を照らす。

 

 さて、と体と切り離した思考で、改めて何故自分がこんなことをしているのか少し思い出してみることにした。きっかけは数日前。最早誰だったかは覚えていないがクラスメートの発言だった。

 

 ――――織斑君の誕生日来週なんだって、と。

 

 知っていたからこそ黙っていた2人の幼馴染は顔を険しいものに変えた。

 情報収集の際に知っていたが、やはり同じく黙っていた仏・独の少女達はぎくりと体を硬直させた。

 少女達の中で唯一知らなかった英国貴族の少女は、他のクラスメートの少女達以上に鋭い光を獣の如く光らせた。

 

 織斑 一夏といえば学園の――――否、今や世界規模のアイドルである。女性しか操れないとされていた現行最強の兵器、インフィニット・ストラトス――――通称、ISを男にして操った最初の人物。しかも彼の姉は、各国のISが競い合う世界大会の第一回優勝者。おまけにルックスは爽やか美少年とくればお茶の間どころか異世界だって騒がせそうだ。メディアも腕が鳴るというもの。

 

 そんな今世紀大注目の男性操縦者、一夏の誕生日。それを見逃す手はない。見逃せるわけがない。

 現在一夏はISの養成学校であるIS学園に在籍している。日本にあるこの学園は、しかしISの特殊性故にあらゆる国、企業等の機関に干渉を受けず、属することはない。それは日本政府も同様である。

 一夏が学園にいるかぎり、おいそれと他人が接触することは出来ない(それでも毎日100単位のファンレター諸々が届けられている)。

 

 つまり、彼に関われるのは一部例外を除けば学園にいる人間だけである。

 ISは本来女性にしか扱えない。イコール、学園の9割は女性である。有名人で憧れる女性の弟で、しかもイケメンとくれば年頃の少女達の心に恋心のひとつやふたつ生まれるのも致し方ないといえよう。無論、程度の差はあるだろうが。

 

 そんな男性の誕生日。それは一夏との心の距離を縮める一大イベント。教室がざわめく。後に恐ろしい静寂が支配した。

 

 ちなみに、世界の認識では(・・・・・・・)2人目に数えられる男性操縦士が同じクラスにいるのだが、彼はそのとき我関せず机に突っ伏していたという。

 

 そんなこんなで始まった乙女達の血を血で洗う争い。誰が一夏を祝うか。誰が当日一夏と共にいるか。誰が、誰が、誰が。

 時に謀略を。時に実力行使で。

 共闘、裏切り、闇討ち、奇襲、戦国時代も真っ青のなんでもあり(バトルロワイヤル)

 

 数多の屍が積み上がり、しかしてそこに立つのはやっぱりいつものメンバーだった。一夏に本気で想いを寄せる5人の少女。

 戦いは始めこそ生身で行われていたが、誰が口火を切ったか遂に専用機まで持ち出すいつもの(・・・・)大乱戦。世界最強、それも最先端の兵器達が荒れ狂う修羅場は、各国首脳陣が見れば卒倒したことだろう。

 

 ふと、楓は思考を過去から現在へと戻した。そこから先、戦いが――――やはり――――いつも通りの泥沼へ突入した辺りで楓の記憶は途切れている。何故なら流れ弾が直撃して気付いたら救護室のベットの上だったからだ。

 

 その後どんな方法で手打ちとなったのか経緯はわからないが、兎にも角にも『一夏の誕生日を祝いたい』という同じ目的を持つ少女達はそんなひとつの目的の為に一致団結した。脱落した者達も含めて。

 すぐさまイベントの企画会議が開かれ、方針が決まってからはセットの作成、当日の役割分担等など、つい先程までの血みどろの争いが嘘のように目覚ましい手際でイベントの準備は進められた。

 

 ちなみに、楓はそんな彼女達を見て女の友情とはなんぞやという一生かけても解明出来なさそうな謎に挑んでいたら、『サボるな!』とクラスメートに怒られて力仕事を手伝わされていた。

 もうひとつ驚いたのは、今回のイベントに教員まで参加するということだ。

 

 こうして開幕に至った織斑 一夏誕生日パーティー改め、『織斑 一夏にサービス対決』。死闘を勝ち抜いた件のメンバーがあれやこれやと一夏に尽くして喜ばせるというもの。事前に一夏にはこれが誕生日パーティーであることは伝えず、最後にサプライズさせるのが大まかなコンセプトらしい。

 なので一夏への呼び出しは真耶が、夜中に資料を届けて欲しいという名目で誘い出す。そこを闇討ちして拉致する。

 

 ……作戦立案者には本当に祝う気があるのか言ってやりたい。そしてそれを承認した真耶も真耶である。

 

 その他にもいくらなんでも、と思う部分はあれど、けれどあの天然少年ならあっさりひっかかるのだろうなという確信があった。実際彼は机上の空論としか思えない偶然頼りの作戦のフラグを余さず拾ってくれた。まったくもって期待を裏切らない男である。

 

 そんな一夏は現在箒、セシリアと続いて3番手のシャルロットのサービスを受けている。未だに詳しい事情は説明されず、それなのに言われるがままサービスを受けているステージの男を天然だからとだけで断じることがすでに楓には不可能だった。

 

(というか、そもそもなんで俺がこんなことせにゃならんのだ!!)

 

 凄い今更感な怒りが湧いた。爆発した。

 一夏は友達だ。この学園では唯一の男友達。友達の誕生日を祝うことに異存は無い。しかし理不尽な流れ弾で気絶させられて、目を覚ましたら今度は重いセットを汗水流してえっこらと昼夜運ばされて、当日は裏方で一夏が美少女達とイチャコラするのを見物させられるこれはなんて拷問。怒っていい。怒っていいはずだ。

 

「御堂君照明もっと強く!」

 

「…………」

 

 まあ、逆らえるはずなどないのだが。いつだって少人数は黙るしかないのだ。

 

 ホロリとしょっぱい汗を、光を失った目から流しながら、楓はキリキリ照明担当を務める。

 

(イケメンがそんなに偉いか畜生め!)

 

 心の中では血の涙を流していた。

 

 

 

 ――――教育的指導です! デュノアさんは強制終了です!

 

 ――――ええええええ!?

 

 

 

 高らかに鳴らされたホイッスルの音の後に、真耶はステージ下からステージ上のシャルロットにレッドカードを突きつけた。どうやらシャルロットのサービスが不健全であると判断されたらしい。

 ちなみにその内容とは、胸の谷間に挟んだクッキーを食べさせようとしたこと。

 まったくけしからん。でもその前に口に咥えて食べさせてあげようとしたのはオッケーみたいなのだが、はたして学生の倫理とはなんなのか。

 

(それに……一番不健全なのはどう考えても山田先生だよなぁ)

 

 ステージ脇で司会進行を務める真耶の格好はいつも授業で着ている服ではない。水着にも見える露出過多な白と黒の斑模様の服。頭にはぴょこんと伸びる短い耳がなにか動物のコスプレであることを示している。

 今回女性陣は皆なにかしら動物のコスプレをしている。1番手だった箒は巫女服姿の狐。2番手のセシリアは白バニーガール。3番手のシャルロットはフレンチプードル。まだ出番が回っていないラウラと鈴が、それぞれ黒兎と猫。こんなイロモノ全開の催しなのに容姿抜群の彼女達が着れば呆れるよりも思わず見惚れてしまうのだから本当に凄まじい。

 そして真耶の格好は牛。彼女にその動物があてがわれた理由は推して知るべし。ただ、理不尽な扱いに怒りを覚える楓がこの茶番に唯一価値を見出すならこの絶景である。眼福眼福。

 

 そんなときにふと照明が切れた。

 

「あれ?」

 

 突然のことに首を傾げつつ楓は機器を弄る。しかしスイッチは切れていない。それに消えているのは楓の担当するものだけでなく複数の照明全てが落ちている。ということは個々の機器の故障ではなく、照明全てを制御している大本に問題が起きたようだ。

 

「ちょっとちょっと御堂君どうしたの?」

 

「まだボーデヴィッヒさんの時間終わってなくない?」

 

 同じく裏方に回っている女の子達が騒ぎ出す。声しか聞こえないがステージの上でラウラが喚いているようだった。その後は一夏の叫び声と、トリである鈴音まで出てきているらしい。もうひとり分、声が聴こえるような気もする。

 

「んー、配線とかは平気そうだなぁ。となるとやっぱ問題は制御盤の――――ん?」

 

 楓は暗闇の中しばらくガチャガチャと機器の調子を確かめていたが、不意にどうして自分がこんな必死にならなければならないのかと思い直す。他人のハーレムの引き立て役など真っ平御免だ。

 

「考えてみりゃ馬鹿らしくなってきた」

 

 よくよく考えてみればこれは合法的にこの場を抜け出すチャンスである。幸い今は突然の暗闇に周囲の人間は慌てふためいており、楓を監視する者などいない。

 配線を剥き出しにしていた照明機器の蓋を閉めてから、楓はそっとステージ下にある控室に足を向けた。

 

 控室は出番を待つ女性陣が、文字通り準備する為の空間である。そこへ足を運ぶというのは漫画アニメよろしくラッキースケベが手ぐすねひきそうなシチュエーションだが、生憎そんな星の下に生まれた覚えは楓にはない。実際今日に至るまでそんな素晴らしい出来事が無いのだから間違いない。

 それに楓にも考えがあってのことだ。女性陣は皆出番を終えた後は舞台脇の椅子に座って待機するのがルールになっていた。他の邪魔をさせない為だ。先ほどステージには最後の順番である鈴音も登場していた。つまり現在控室に人は残っていない。そんな場所にラッキーもなにもあるはずがない。

 すでに用済みとなった空間は絶好のサボり場所。とりあえず全部終わるまで暇を潰そう。

 

 そう考えながら、楓は辿り着いた控室の扉に手をかけた。もちろんノックなどせず、誰もいない部屋に入ってひとり寂しくハーレム野郎を恨みながら過ごす為に扉を開けた。

 

 はたして、

 

「そういや山田先生がスペシャルゲストがなんとかとか言って、た、よう……な?」

 

 はたして、一夏誕生日パーティー開始前、どこか楽しげな真耶の話をこのタイミングで思い出したのは何故だったのか。

 

 楓は見てしまった。扉を開けた先は以外に広い空間だった。いくつもの衣装をかけたハンガーラックが壁際にズラリと並び、中央には控室を使う人間用のテーブルとソファー。テーブル上の飲みかけのペットボトルやお菓子は箒達のものだろう。

 テーブルの前、部屋の右手一番奥に位置するステージの様子を映す液晶画面。今は灯りが無いからか真っ暗で様子はわからない。

 

 そして、部屋の一番奥。扉を開けた楓の真正面。

 2メートルほどの姿見はもちろんここで着替えをした女性達がステージに出る前に己の姿を確認する為のもの。今、その前に立つ人物がいた。

 

 女性の髪は長かった。腰ほどより下、一番長い先端部分は膝裏に届きそうなほどの漆黒の長髪。女性は背も高かった。無論女性にしてはだが。容姿の特徴だけ見れば現代の大和撫子という感じで、着物でも着ればとても似合うと思った。

 そんな彼女は、今そんな楓の想像とは真逆の格好をしていた。

 

 メイド服。

 

 色は紺を基調にしていて、ロングスカートタイプではなく、日本文化に染まりきったそれは随所にフリルをあしらい、かなりきわどい位置まで黒のロングタイツを穿いたふとももを露出していた。

 一瞬前まで想像していた着物とは真逆の西洋服であるが、不思議なことにこれもまた女性にはとても似合っていた。いや、不思議なことはないのかもしれない。モデル顔負けのスタイルと整った顔立ち。たとえどんな服であれ彼女ならば無理矢理着こなしてしまいそうだった。

 

 さて、そんな女性は部屋に備え付けられた全身を映せる大きな鏡の前で己の格好を確認している最中だった。

 姿見の前で、最初は着崩れているところはないかとあれこれ確認しているだけだった。しかし存外鏡の中の自分はメイド服を着こなしているように思ったのだった。普段は立場からも、また己のキャラクターからも、こんなヒラヒラした服を着る機会は無い。彼女もやはり女性であり、いつしか身嗜みを整えることから鏡の前でそれらしいポーズまで取っていた。普段らしからぬテンションは、やはり今日が親類の誕生日だったからか。いよいよ調子に乗ってきた彼女は、部屋の扉が開くそのときまで気配に気付くことが出来なかった。そしてそのときには全て手遅れだった。

 

 女性――――織斑 千冬にとってそれは人生最大の不覚であった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 この瞬間に至るまでの千冬のあれこれを知らない楓にしてみれば、扉を開けた先にいるはずのない人間がいたことにまず驚き。その女性が自分の初恋にして現在告白中の人物だったことに2度驚き。そんな女性が普段からは想像すらしたことなかったミニスカートの、しかもメイド服を着てることに3度驚き。鏡の前で艷のある微笑をたたえてポーズを取る姿を目撃して――――己の死期を悟った。

 

「……御堂」

 

 まるで地の底から響く呪詛のような重く低い声だった。

 

「頭を差し出せ。私が忘れさせてやる」

 

「物理的に!?」

 

 辞世の句がツッコミであった楓が最後に見たのは、最近見慣れた我がクラスの出席簿だった。

 

 鈍い音と共に、バタンと控室の扉が閉まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んが……?」

 

 あまりにもマヌケな声が一体どこから聞こえたのかと思ったら、自分自身の口からだと気付いて楓は独り気恥ずかしくなる。

 

「――――っぅ!」

 

 どうしてこんなところで寝ているのかと思いながら上体を起こすと同時に側頭部に鋭い痛みが走る。思わず伸びた右手が腫れに触れた。たんこぶになっている。

 しかし何故。そもここはどこで、どうして自分はこんなところにいるのか。なにか気絶する前にとてつもない何かを見た気がするが思い出せない。

 

「あらん? 意外と早いお目覚めね」

 

 顔を上げるとまず目に入ったのは千冬の姿だった。彼女はいつも通り(・・・・・)髪と同じ黒色のスーツ姿で立っていた。その姿はいつも通りなのに、何故か強烈な違和感みたいなものを覚える。それがなんなのか必死に思い出そうとすると朧気に――――、

 

「御堂、それ以上無理はするな。いいな? これ以上思い出そうとするな。これは命令だ」

 

 何故だろうか。無言で首を縦に振る楓の姿がそこにあった。

 

 背筋に理由なき冷や汗を流しながら、もうひとりこの場に立つ存在に気付く。

 ここが学園内である以上当然のことながら、そこにいたのは女性だった。肩ほどまでの長さの空色の髪。いつも周りにいる少女達も美少女だが、その人物も負けず劣らず整った容姿だった。おまけに抜群のプロポーション。非の打ち所のないというのを体現したような女性は、しかし何故か猫のコスプレをしていた。

 

 女性は楓の視線が自分に向いていると気付くとこちらに向けて手を振った。

 

「やっほー楓君。朝からこーんな美女2人に囲まれて幸せものね」

 

「あんたは……」

 

 人好きしそうな魅力的な笑顔で手を振る美少女に楓は言ってやった。

 

「露出会長」

 

「生徒会長よ!」

 

 少女は叫んだ。そうして頬をぷぅとふくらませると、わたし怒ってますといった態度をとる。

 

「もう! 私だって立派な淑女なのよ? この柔肌を見せるのは将来を誓った相手だけだって決めてるの」

 

「ツッコミ待ちか? なら思う存分ツッコんでやるからまずはそこの姿見で自分の格好を――――あれ? 粉々になってる?」

 

 視界の端で千冬が反応した気がしたが、教員たる彼女が学園の備品を壊すことなどあり得ないので気のせいだと思う。そんなことを考えていると空色髪の少女は顔を赤らめて、目を伏せる。

 

「存分に突っ込むだなんて……さすがのおねえさんもそんな積極的にこられるとちょっと」

 

「自分の愛機で頭冷やせ」

 

 もじもじと体を捩らせると、少女の育った随所に思わず男の本能で目が追ってしまう。わざとらしい反応も、この行為も発言も、全て彼女の計算なのだから恐ろしい。それでも本能には逆らえないのだ。

 

 そう、彼女は出会ったときからそうだった。あれは臨海学校から帰ってきてしばらくのことだった――――……。




閲覧ありがとうございます。

>ようやく辿り着きましたアニメ2期!

新たなスタートはいきなりアニメ5話でしたが、ここから遡って再びこの時間軸に戻って参ります。相変わらず大まかな構想だけしかないですが、どうぞ行きあたりばったりな作風をよろしくお願いします。
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