【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━ 作:針鼠
波乱の夏が終わった。
臨海学校での
出来ることならば二学期は平穏無事に過ごせたらいいなぁ……。
――――と、そんな楓の願いは当然の如く打ち砕かれる結果となる。
それを楓本人が『ですよねー』とか言いながら現実逃避気味に受け入れてしまっている辺り、彼もこの騒がしい日常に慣れつつあったのだった。
★
さて、夏が終われば当然季節は秋がやってくる。
スポーツの秋。芸術の秋。食欲の秋。エトセトラエトセトラ。
とまあ様々なことが思いつく季節なのだが、学生にとって夏休みの次にやってくる一大イベントの到来であった。
――――文化祭の出し物を決めてください。
朝礼で副担任の真耶がほわんとした笑顔で言った。
秋における学生達の一大イベント。即ち文化祭である。
それはここIS学園も例外ではない。
元より、仮に建前だとしてもここはあくまでも学校。本分は学業。一般常識を学び、社交性を養う場である。
ISという一点を除けば、水準は変われど基本的に他の学校とやっていることは大差が無い。
だが、その
学園は基本的に外部からの入場を厳しく制限している。関係者であってさえいくつもの書類と許可が必要になる。
各国のIS機のデータも去ることながら、金の卵である学生達の情報。そしてあわよくばパイプ作り。
形があるものから無いものまであらゆる宝が眠る学園から外に持ちだされると困るものは多い。
しかし、以前のクラス対抗戦然り、対外的に行われる行事というのは存在する。学園祭もそのひとつである。
無論、通常の学校がそうであるように誰もがフリーパスというわけにはいかない。先に挙げたように学園の外に持ちだされては困るものは数多くある。加えて、学園に妙な工作をされるのも困る。無制限の入退場を許せば必ず問題は起こる。
そこで学園側は、生徒達に1人2枚ずつ招待状を配布。当然招待されるのは生徒達の親類もしくは知人。数の制限のみならず素性も容易く調べることが出来るようにする。
他は学園運営側に関わる御偉方となる。
これでも当日の警備――――教員達及び一部生徒――――よりずっと多い人数になるが、それでも問題が起きる可能性はかなり低くなる。
とまあ、話はかなり逸れたものの、物々しさとは裏腹に文化祭というイベントの内容はやはり概ね他の学校と同じである。
クラスごと、あるいは部活で出し物をしてワイワイやる。
楓が在籍する1組も同じ。こうして冒頭の真耶の発言に戻るのである。
「お前らな~~ッ!!」
クラス委員長として一時的に教壇に立つ好青年、織斑 一夏は眉間に険しいシワを寄せていた。
原因は黒板風ホロに記された出し物の案である。
1,織斑一夏のホストクラブ
2,織斑一夏とツイスター
3,織斑一夏とポッキー遊び
4,織斑一夏と王様ゲーム
「お前ら真面目に決めろよ!」
一夏が叫ぶ。
しかしクラス一同、つまりは女子一同は『ええー、大真面目だよ?』とか真顔で言っている。実際彼女達は本気である。
一夏という少年は見た目良し。古き日本男子たる男気あり。初の男性IS操縦者という話題性有り。さらには世界中の憧れ、織斑 千冬の弟という肩書まで持っている超々優良物件なのである。
朴念仁のきらいはあれど、大したマイナス要素にはなりえない。
つまりは彼はクラスのちょっと格好良い男子ではなく、ワールドクラスのアイドルなのである。
上記の案はクラスの女子というより、世界中の淑女達が望むといって過言ではない。
だがまあ、振り回される方はたまったものではない。同情しようではないか。ああ同情してやるとも。
「――――俺は悔しくなんてないからな!」
「おおう、どうしたんだよ楓?」
窓際最後方。今まで悟りでも開きそうな雰囲気で、死んだ目で静止していた楓は、唐突に覚醒、立ち上がるなり人差し指を教壇の一夏に突きつけてやった。
悲しいかな声が上擦っていた。
「畜生っ!! 織斑一夏とポッキー遊びに1票!!」
「うおい!?」
唯一の味方かと思っていた親友のまさかの裏切りに一夏は絶望した顔になる。
だが知ったことか。向こうが世界中の女子の願いならば、この叫びは世界の男子の呪詛だと知れ。
楓の目からキラキラとした光が散った。けれど誰も見ていなかった。
今日も学園は騒々しいぐらい平和であった。
★
休み時間。廊下を歩く楓は独り言を漏らす。
「たく、ラウラは時々とんでもないこと言い出すもんなぁ」
結局、出し物は今流行のメイド喫茶に決まった。一夏には執事となってもらう形で。
発案者はなんとラウラだった。
飲食店ならば経費の回収を望めるし、且つ噂のイケメン操縦士や美少女勢が奉仕となれば一般来場者にも大受け間違いなしだ。
ドイツ出身の、しかも一夏に出会うまでは根っからの軍人であった彼女がどこでそういった俗物の知識を手に入れているのか訊いてみたところ、どうやら彼女の部隊の副官の入れ知恵らしい。
はたして彼女の副官がわざとなのか本気なのかはわからない――――が、面白いので楓は黙っておくことにした。
なにより今回に限っていえばグッジョブであるし。
「ウチの学校レベル高いからなぁ」
クラスメート達が超ミニのメイドさんコスプレ(願望)で動き回る姿を思い浮かべて今から顔をだらしなくゆるませる。
いっそ担任ということで千冬もメイド服を着てくれないだろうか。着てくれないだろうなぁ。真耶ならゴリ押せば着てくれると思う。
などと邪念に満ち満ちていた思考は、体がブルリと震えるのを機に本能に割り込まれる。
そも楓は休み時間にどこにいこうというのか。次の授業は普通座学で移動教室ではない。ならばどこにいくのか。
トイレである。
別段特別なことでもなければ、人間として当たり前の生理現象といえるだろう。
ただ問題がひとつ。
改めて言う必要もないが、この学園は本来女子校といって相違ない。ISが女性にしか乗れない以上、それは当然だ。一部教職員及び従業員に男性がいるだけで、基本この敷地内に男はほとんどいない。
自然、施設も女性専用となる。トイレも。
そう、学園のトイレのほとんどは女子トイレなのだ。
しかし、楓や一夏がまさか女子トイレを使うわけにはいかない。
無論、男子トイレがまったく無いわけではないのだ。一部従業員や時々訪れる来賓用に、ひとつだけ存在する。この馬鹿広い建物にひとつだけ、だ。
それも使う人間が生徒を前提にしていない為、トイレの場所は職員室に近い。そして楓のクラスは建物内で最も職員室から離れている。
イコール、男子トイレが遠い。
これが中々不便なのである。
休み時間が始まるやいなや真っ直ぐ目指して、用をたして真っ直ぐ戻ってきてちょうど短い休み時間が終わる。故に普段は時間が多い昼休みまで我慢するのだが、体の要求をそう毎度コントロール出来るわけもなし。
「これ真剣になんとかなんねえかな。けどトイレ増やしてくれって誰に言えばいいんだ?」
ぶつぶつ独り言をぼやきながら、ようやく見えてきた青い人型マークを見つけて足を早める。
少し重い扉を押して開けて――――、
「待ってたわよ」
バタン、と間をあけず閉めた。
「………………」
今、トイレの中に女の子が見えた。学園の制服。青い髪。扇子を持っていた気がする。
楓は眉間を揉む。最近色々あって疲れているのかもしれない。
今一度、扉の上にある標記を確認。うん、間違いなく男子トイレである。
ほっ、と安堵した後扉を押し開けた。
「いやぁ、参った参った。男子トイレで女の子が待ち構えてる幻覚だなんて、どんなアブノーマルな出会い求めてるんだっての。我ながら恐ろしい――――」
「急に閉めるだなんて酷いじゃない。おねえさん、悲しい」
「………………」
いた。女の子がいた。
学園の制服を着た、青い髪の、控えめにいっても美少女が。開いた扇子で顔の下半分を隠しながらわざとらしくシクシク泣いている。
けど彼女がいるここは男子トイレだった。
「ふっ」
「?」
小さく笑った楓に、少女が訝しげに首を傾けた。
可愛らしい仕草だと思う。でも楓はそんなことをとりあえず頭の片隅に置いておいて、叫ぶことにした。
「きゃああああ! 変態!!」
「なんでちょっとオネエなの?」
少女の方が堂々としていた。男子トイレなのに。
閲覧ありがとうございましたー。
>更新が二ヶ月も空いてしまい、お待ちしてくださっていた方(がいればいいなぁと思いながら)申し訳ありませんでした!
>というわけで、今話は時系列的には前話より遡って、アニメ2期の2話になります。会長とは初対面です。
>トイレ問題は実際原作どうなってるかは知らなくて、私の想像です。寮は部屋についてるとして、なら学園内はどうしょうかな、と。でもまあさすがに一箇所は酷すぎましたかねw
>次話も問題なければわりとすぐ更新出来るかと思われますのでー。
ではでは次回!