【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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三話

「私の名前は更識(さらしき) 楯無(たてなし)。この学園の生徒会長なのだー。はい、拍手拍手」

 

 

 空か海といった綺麗な青い髪。箒並にスタイルの良い肢体は学園指定の制服を纏っている。そしてなにより特徴的なのが、表情だ。

 甘えるような、しかし決して媚びる様子の無い艶やかな微笑み。

 

 例えるなら猫。普段用がないときは呼んでも一顧だにしないくせに、自分が構って欲しいときは擦り寄って甘えた声を出す。

 わかっていながら憎めない。払いのけることが出来ない魔性を秘めた少女。

 

 きっと彼女はたくさんの人に好かれているのであろうと、楓は目の前の少女に漠然とした印象を持った。

 

 そんな彼女の正体は、彼女自身が口にした通りこの学園の生徒会長である。

 最近までなにかの用事で長期不在だったが、ついこの間ようやく帰ってきて、全校集会で改めて自己紹介をしていたのは記憶に新しい。

 

 

「んん? もしもーし? みんなの生徒会長だぞー」

 

「知ってるし!」

 

 

 リアクションが無いことが不満だったのか、あまりにも異性に対して不用心に顔を近付けてこちらが慌てて身を引くと嬉しそうにコロコロ笑った。

 

 

「ならもっとリアクションが欲しいなぁ。ノリが悪いと女の子にモテないぞ!」

 

 

 ちょっとグサリときた。

 

 

「――――って違う違う! なんであんたこんな所いるんだよ! ここ男子トイレだぞ!? 右向いても左向いても、ついでに上向いても女ばっっっっかりのこの学校で数少ない男の安息の場所なんだぞ!?」

 

「上向いても……。君、女の子のパンツ覗き見たら犯罪だよ?」

 

「たとえだけどごめんなさい!」

 

 

 全力で頭を下げた。

 

 恐ろしい。もしこの少女、楯無が『御堂 楓は女の子のパンツを覗き見る変態だ』とか言いふらせば冤罪だろうと関係ない。この学園内で彼女と楓、女と男の発言権、どちらが上かなど今更考えるまでもない。

 

 しかしそこでふと楓は思い出す。

 

 

「なら男子トイレで待ち構えてるお前はなんだよ?」

 

 

 そう、男が女のパンツを覗くのは犯罪だ。けれどそれは逆の立場であっても同じことが言えるはずだ。

 

 楯無は顔を背けた。開いた扇子で口元を覆い隠した。

 

 

「だって仕方ないじゃない。一夏君とコンタクト取るのは簡単だったんだけど、貴方はそうはいかないんだもの。さすがの私もあの織斑先生の部屋で裸エプロン……に見せかけた水着エプロンで待ち伏せは出来ないわ」

 

 

 なんか凄い耳を疑うワードがたくさんあった。

 

 

「一夏にはやったのかよ!」

 

「あら、まだ未遂よ?」

 

「やる気満々だよな?」

 

「今夜」

 

「逃げろ一夏あああああ!!」

 

 

 教室にいるであろう親友に向けて警告を叫ぶ。

 だが無駄であろう。この少女はやるといったらやる。

 

 楓の直感であったがそれは正しいのである。

 

 

「――――で?」

 

「ん?」

 

 

 コントじみたやり取りはもうそこそこにして話題を戻す。

 楯無の方はわかっているくせにわからないといった調子で首を傾げる。

 

 一々の仕草、視線や間に至るまで計算され尽くされたかのように奇妙な好感を抱かせる。

 実際どうなのだろうか。全て計算なのだとするとかなり恐ろしいものだが。

 

 内心で抱く恐れを、わざとつっけんどんな態度を取ることで誤魔化す。

 

 

「生徒会長様はこんな所になにをしていらっしゃったのでしょうか?」

 

「そんなに畏まらなくていいわ」

 

「違えよ。皮肉ってるんだよ」

 

 

 荒んだ視線も軽やかな笑みで受け流される。

 

 

「フフ、用はもう済んだわ」

 

「はあ?」

 

「御堂 楓君。公式上(・・・)、2人目の男性IS操縦者の貴方に会いたかったの」

 

 

 赤茶けた瞳を細める。

 

 

「貴方は一夏君とは違って心配なさそうだから。それでも顔合わせだけはしておきたかったの」

 

 

 本当に本気で、楓は少女の言葉の意味がわからなかった。

 

 しかし彼女はその疑問に答えることなく『じゃあまたね』とだけ言って極々自然に男子トイレから出て行った。

 

 旋風のような少女だった。そしてその風があの朴念仁にちょっかいを出すというならば、それは彼の周囲を巻き込んで大きな嵐となるのだろうと予測出来た。

 

 

「はぁ……」

 

 

 それに巻き込まれるとすると、今から憂鬱で仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楓との接触を済ませた楯無は、すでに次の行動に移っていた。本命である(・・・・・)一夏との接点はすでに作ってある。

 

 更識家。

 

 それはこの日の本において特別な意味を持つ家の名である。更識が負うその役割とは、対暗部用暗部。

 文字通り、裏で蠢く不貞の輩を排除するさらなる裏。闇を喰らう闇の一族。

 

 そして彼女が背負う『楯無』の名は、代々更識家当主に受け継がれてきたもの。

 代を数えれば彼女で十七番目である。

 

 そんな今代の楯無は、今最も厄介な案件を抱えている。厄介さでいえば歴代でも1、2を争うやもしれない。

 なにせ世界を一変させた兵器、インフィニット・ストラトスを、まさか男で操る者が現れたのだから。

 

 ISが発表された直後――――正確には、現在も表向きには(・・・・・)まったくの原因不明とされている『白騎士事件』の直後――――も慌ただしいものだったが、男性操縦者の出現はそれに輪を掛ける衝撃だった。

 なにせそれを解明することは、今尚未知数であるISを解明することになるかもしれない。そうならずとも、今は女性しか操れないISを一夏達のように他の男でも扱えるようになるかもしれない。

 そうなれば再び世界はひっくり返る。

 

 別に、彼女個人としては世界がひっくり返ろうが宙返りしようが知ったことではない。最愛の妹さえ平穏無事ならばどんな世界でも受け入れるだろうし。

 しかし、急激な変化は望まない。

 ISの登場がそうだったように、急激な変化は世界を酷く歪ませる。

 

 ISという超科学の結晶は確かに世界の技術レベルを大きく躍進させ、多くの人間に感動を与えたが、その裏では同じ数の人間が……いいや間違いなくそれより多くの悲劇が生まれた。

 

 それもこれも、世界はあまりにも急激な変化に耐え切れなかったのだ。

 

 軍事技術は天井知らずに伸び続け、国同士の争いは小競り合いを含めれば目に見えて増えた。

 どこもかしこも表面上は友好を謳い、腹の中は他国を出し抜くことばかり考えている。

 女尊男卑は露骨化し、今や女が男をあごで使う光景は日常風景だ。

 国のトップの多くが女性に取って代わり、ISが兵器の主軸に置かれる今、女性軍人も珍しくはなくなった。

 

 ――――だとしても、やはり楯無には関係の無いことだった。

 『楯無』としては頭に入れて理解しておかねばならない事柄だが、彼女個人としては世界の舵を男が取ろうが女が取ろうが構わない。真っ当な人間が、上手く舵をきってくれるならば文句など無い。

 

 けれど、やはり悲劇は少ないに越したことはない。

 誰だってバットエンドよりハッピーエンドを望むように、楯無という少女もまたハッピーエンドを好む人間であった。

 

 だから彼女は件の男性操縦士達にコンタクトを取ったのだ。今世界が最も注目している彼等に。

 

 ISの生みの親である篠ノ之 束はもちろんのこと、世界にとってイレギュラーである織斑 一夏。そして御堂 楓。

 

 束は各国が多額の賞金まで懸けているにも拘らず未だ行方知れず。

 しかし一夏と楓の2人は居所はもちろんのこと、なんなら個人情報だってそれなりの力を持つ者なら容易く得ることが出来る。

 

 束は無論、ISというブラックボックスを解明する鍵になり得る者。

 どちらが手に入れやすいかと問われれば、考えるまでもないだろう。

 

 幸いあまりにも多くの目があるあまり、互いに互いを牽制し合うこととなって、結果どこも身動きが取れずにいる。下手に動いてしくじれば、待ってましたと追い落とされ爪弾きにされてしまう。

 

 しかしそれも時間の問題だ。彼等を狙うのは国だけではない。

 企業。組織。個人を含めれば綺羅星の如く存在する。

 その中の誰がいつ痺れを切らすとも限らない。

 

 それを防ぐべく楯無は『更識』として行動を起こした。

 

 といってもやることは大方決まっていた。ひと通りの情報はすでに揃っていたし、これから必要になりそうなあらゆることへの根回しは同時進行で進めている。

 

 あとは、2人に直接会うことで、事前の情報で構築したプランに修正を加えるだけ。

 データや人づてのものももちろん必要だが、生の情報というのはどうしても必要になる。机上だけで物事を全て上手く回そうとする輩は、神になったつもりの大馬鹿者だ。

 

 そんな事情から実際に顔を合わせてみた結論は、まあ概ね予想の範疇といったものだった。

 

 織斑 千冬の弟である織斑 一夏は噂通り見た目は美形、中身は天然君。頭が悪いわけではないようだが、少々回転が遅い。それになにより危機意識が絶対的に足りない。

 自身や、彼の専用機である白式の価値というのがわかっていない節があり、楯無がその気になれば今日だけで3回は誘拐強奪殺害の機会があった。

 彼については要監視及び対策の必要性有り。

 

 逆にもうひとりの男性操縦士は落ち着いたものだった。

 コントじみたやり取りの間も、常に楯無との距離を一定に保ち警戒をゆるめなかった。

 

 実力もあの千冬の御墨付きだというし、彼については特別対策を立てる必要はなさそうだ。

 

 ――――でも、

 

 

「んー。それはそれでこう……悔しかったりするのよねえ」

 

 

 ――――『次はお色気で迫ってみようかしら?』。そんなことを考えながら少女は、当面目を光らせる必要のある問題児の背中を見つけて歩を早める。

 

 扇子を閉じた小気味良い音が廊下に反響した。




閲覧ありがとうございました!

>きました次話!といっても時間的にも展開的にもそれほど進んでおりませんが……。

>次回辺りにでもバトルシーンに突入できたらよいなぁ、と思いつつ、意外とこの作品はこんな日常を繰り返す方が性に合っているような気がしないでもない。

>次も割りと早めに書けたら、いいや書いてみせると意気込んでどうぞゆるりとお待ちくだされ。
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