【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━ 作:針鼠
「楓、本当にあの生徒会長と戦う気?」
第二アリーナの端っこで黙々と準備体操をしている楓。
それを窺っていた一夏達だったが、意を決したようにシャルロットが口を開いた。
「ああ。もちろん」
事も無げに即答する楓に、シャルロットは益々不安を覚える。思わず力の入った手が拳を作ってしまう。
「そんなに強いのか?」
「……うん」
柔軟を続けながらの楓の質問にコクリと頷いて答える。
「IS学園において、生徒会長っていうのは生徒達のトップなんだよ。あの人も言っていたように文字通り最強の称号。今日までその座を狙って襲ってきた人達を、あの人は全て返り討ちにしているらしい」
それに、と続ける。
「あの会長は僕達候補生とは違う。ロシアの国家代表なんだ」
国家代表。セシリアや鈴音、ラウラ達候補生とは違う。正真正銘、国を背負って戦うことを許された本物の代表操縦者。
「ロシア?」一夏が首を傾ぐ「あの人ロシア人なのか?」
「ううん。詳しい情報はわからないけど日本人、のはず」
シャルロットが父の命令で学園に入る前に与えられていた知識の中には勿論、学園の重要人物ということで楯無の情報も入っていた。否、正しくは、ほとんど情報らしい情報は存在しなかった。
先程一夏達に説明した以上の情報を得ることが出来なかった。腐っても未だ世界クラスの大企業たるデュノア社の総力をもってして、更識 楯無という少女の情報をほとんど得ることが叶わなかったのだ。
たしかに国家代表ともなれば、その個人情報は秘匿性も最高機密に類する。だがしかし、彼女に関してはあまりにも情報が少なすぎた。
ただ父が、学園に出立する直前こう言っていたのは覚えている。
更識には手を出すな、と。
それが果たして学園の長たる彼女を敵に回すなという意味だったのか。それとももっと別の……。
「へえ、代表ってことは千冬さんとまではいかなくてもワールドクラスの実力ってわけだ。そりゃ楽しみ」
シャルロットの不安と裏腹に、当の本人は手を叩きそうなほど喜んでいた。
「はぁ……まったく」
一夏といい楓といい、どうしてこう男の子は男の子なのだろうか。正直自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
シャルロットが苦笑を浮かべているとピットから1機のISが飛び出してくる。つい見惚れてしまうほど華麗なターンを決めながら、ISを纏った楯無はシャルロット達の目の前に降り立った。
「お待たせ」
楯無の登場を機にシャルロット達はアリーナの客席へ移動する。
アリーナ中央で楓と楯無が向かい合う状態になった。
「それがあんたのIS?」
開始の合図を待つ間に、自身もISを纏った楓が尋ねる。
集中を高めるべき戦闘前に軽率な行為とも思われるが、訊かれた楯無の方も特に気にした様子はなく、不敵な笑みをたたえて答えた。
「ええ。名前は《
ミステリアス・レイディ。
機体カラーは彼女の髪の色と同じ水色。機体装甲が全体的に薄いのが特徴的で、見た目通りの性能ならば攻撃力か、はたまた楓の八咫烏と同じスピードに秀でているのだろうか。
武装は右手に携えたランス。加えて、左右一対に浮かぶ謎のパーツ。ビット、或いは非固定型の特殊武装。
最強と謳われる彼女の専用機だ。外見だけで性能の全てを予測するのは不可能な話である。
名の通り、正しく謎という
『それじゃあ、始めましょうか』
軽々な調子で楯無は言う。
そも、霧というならば機体の主たる彼女も同様だった。
一見お調子者に思える彼女の表情ひとつ、挙動ひとつ取って隙があるようでまったく無い。それはつまり彼女はそう演じているのだ。
学園の生徒会長にしてロシアの国家代表。元より実力が抜きん出ているのは明らかだが、彼女には他にも秘密があるのではないか。
『学園最強の実力、じっくり教えてあげるわ。可愛い
「っ!」
空気が変わった。それは楯無が戦闘態勢に入ったことを意味しており、同時にそれが単なる小手調べの威嚇であることをシャルロットは理解した。理解して尚、直接向けられてない気迫に気圧された。
思わず制服の胸元を強く握り締めてしまい、相対する楓を見やり、シャルロットは再び驚く。対峙する楓に緊張など欠片も見えなかったのだ。
直接圧をかけられている彼は、それどころかその顔に楯無同様不敵な笑みを浮かべていた。
『……ふーん』
楯無の眼の色が変わる。僅かにその瞳に興味が滲んで見えた。
『少しは楽しめそうかな』
『楽しむどころか、その霧吹き飛ばしてやるから覚悟しろ』
『やれるものならどうぞ』
互いの牽制は終わった。直後――――戦闘開始のブザーがアリーナに鳴り響く。
『――――っ』
最初に動いたのはやはり楓。
瞬間加速並みのゼロスタートで一気に間合いを潰しにかかる。
いきなりの特攻に、或いは八咫烏の速度に面食らった様子の楯無だったが、そこは流石学園最強。即座に突き出したランスは正確に楓の動きを捉えていた。
迫るランスを得意の見切りで躱す楓だが、楯無の巧みな槍捌きにあと一歩が詰め切れない。
攻めあぐねていると見た楯無が微笑を零す。
楯無はやはり強い。
開始と同時に仕掛けた楓の突進を初見でありながら見切って止めた。その後も重武装のランスを巧みに操り懐に入れさせない。
楓が不用意に飛び込めば薄い装甲を狙いすました一撃が襲うだろう。
誰が見ても、戦いの流れを掴んだのは楯無であると思っただろう。
(いや違う……!)
シャルロットが、いいやおそらくは一夏やセシリア、彼と戦ったことのある者がこの戦いを見ていたなら誰もが気付いただろう。
「ああ、違う」
同じことを考えていたのだろうか、隣りにいた一夏が思わずといったように口に出した。
「あいつはもっと速い……!」
『な!?』
ランスの先端をくぐり抜けた楓の姿が一瞬霞む。その残像が消えるやいなや、楓は楯無の懐深くに踏み込んでいた。
決して楯無が油断したわけではなかった。その証拠に、驚きに顔を歪めたのは一瞬。一歩下がったそこは再び彼女の間合いである。だが、そこにいるはずの楓は消え去っていた。
『いない!?』
今度こそ、楯無は驚愕に動きを止めた。
改めて周囲を探す必要はなかった。楯無の背後を、楓は完全に取ってみせた。
『油断……じゃないわね。噂以上の機動性能だわ』
肩を竦めて楯無は言う。槍を下ろして脱力した姿は、すでに己の敗北を受け入れているかのようだった。
(楓が勝った……?)
たった一度。されど実力を示すには充分な結果である。
真正面から撃ち合って、楓は見事彼女の背後を取ったのだ。
あまりにも呆気ないようだがこれで勝負は、
『おいおい、負けた芝居するつもりならもうちょい悔しそうな顔しろよ』
「え?」
突如楯無へ向けてかけた楓の言葉をシャルロットはすぐに理解出来なかった。
ただ、言葉を投げかけられた楯無だけがクスリと笑う。
『あら、バレちゃった?』
妖艶に微笑む少女の姿がドロリと溶ける。否、水となって弾け飛んだ。
『ざーんねん。油断している後ろからイタズラしようと思ってたのに』
再び楯無が姿を現したのは楓の背後、数メートルの間合いを取った位置だった。
先ほどまで彼女の姿をかたどっていた水はまるでそれそのものに意志があるかのように空中を漂い楯無のもとへ。水のヴェールとなって主を包み込む。
「水?」
『ただの水じゃないのよ。これはISのエネルギーを伝達する特殊なナノマシンで出来ているの。つまりこの水は私の自由自在に動かせるってわけ』
観客席にいるシャルロットの呟きを耳聡く拾った楯無が自慢気に語る。
それだけ彼女はこの武装に自信を持っているのだろう。だからこそ、楓を見る目にはプライドを傷付けられた僅かな怒りが見て取れた。
『よく見破ったわね。どうやったの?』
『どうもこうも見たまんま。それが本物で無い以上、違和感は存在する。ISの
『まあね。さすがにハイパーセンサーを誤魔化せるほど精巧な擬態は作り出せないもの』
シャルロットは思わず喉を鳴らす。
はじめからわかっていたことだがまざまざと思い知らされる。この2人のレベルは自分達とはひとつもふたつも違う。
そんな自分に勝敗の予想など出来るはずもない。
しかしこれだけは言える。
この戦いは確かに、学園の最強を決める戦いだと。
閲覧ありがとうございましたー。
>今年はあと何度更新出来るかしら、と思いながらあと1回、2回更新はしたいなぁと無謀な想いを抱く今日このごろでございます。
>さてさてVS楯無さんです。実はこのバトル以降のストーリーが大筋以外さっぱり浮かんでいませんが大丈夫でしょうか!?大丈夫じゃないですねはい!
>次回もバトル。次々回にでもこの章を区切れたらなぁと考えております。
ではではまた次回ー