【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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九話

「………………」

 

 

 いつも通り遠い男子トイレの扉を開けたらそこにはまたも水色髪の少女が仁王立ちして待ち構えていた。さすがに2回目となると楓も叫ぶことはしない。それでも相手が美少女なだけにそんな変態行動をする性格は残念極まりない。

 

 

「あんたほんとなんなんだ。通報すんぞ」

 

「2回目のリアクションが薄いのはちょっぴりつまらないわね」

 

 

 相変わらず楯無の方は何故か堂々としたものだ。本当になんの自信に溢れているのだろうか。知りたくはないが。

 

 

「昨日は結局模擬戦の後話せなかったでしょう? だから、ね」

 

 

 模擬戦と聞いて楓が顔を顰める。というよりは合わせる顔が無いというやつだろうか。あれだけ大見得を切っておいて結果は失神ノックアウト。穴があったら入りたい。

 楓の表情から幾分かその気持ちを汲み取った楯無はしかし閉じた扇子を口元に当てて微笑。

 

 

「悔しがるのは立派立派。さすが男の子! でもまだ学園最強の座はあげられないわ」

 

 

 なーんて言いながら楯無は扇子を勢い良く開く。いつも通り自身の気持ちを直接的に表す文字がそこに記されているわけだが、そこには筆文字で2文字『屈辱』。

 

 

「おい、勝ち誇ったセリフと顔の割に言葉が残念だぞ」

 

 

 パシン! と閉じられ、再び勢い良く開かれる。『恥』。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 言葉が出てこないで2人で沈黙。すると楯無は扇子を閉じて、一転して勝ち誇っていた笑みを消した。目尻を下げて羞恥心からか頬を赤く染めた。

 

 

「……私だってあんな手に頼ったのは不本意だったのよ。それでも負けるわけにはいかなかったの」

 

 

 どうやら、彼女にとってもあの決着は思い出したくもないものらしかった。勝利が全てと言うには彼女には最強を名乗るプライドがあった。

 

 

「だから昨日の勝負は引き分け、ということで手を打たない?」

 

 

 小首を傾げるようにして楯無はそう提案した。楓としてはどうであれ自分の負けには違いないと思っている。公式な試合などで無い以上、勝ち負けは己自身で割り切ればいい話なのだから。故に返答は決まっている。

 

 

「まあ別に好きにしろよ」

 

 

 楓がそう答える。楯無もそれで踏ん切りをつけたらしく『ありがとう』とだけ言ってこの話題は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか負けるだなんてねえ……)

 

 

 先程待ち伏せて話し合った結果、先日の模擬試合は引き分けと決まった。しかし楯無にしてみればあれは完全な敗北である。思い返せば楓が本来の戦い方を思い出してからは終始一方的な展開だった。最後を除いて一度たりとも楓に攻撃は当てられず、こちらは確実にエネルギーを削られていた。相性でいえば決して悪くはなかったのにこの様である。

 

 

「ふふっ」

 

 

 それを悔しがると同時に嬉しがる自分がいた。今まで彼女は誰と競うこともなかった。自分が何をやっても誰よりも優れているだなんて言うつもりはないが、それでもなんでも出来る超人だと言われて遜色ないスペックを持っている。それも世界水準で。そんな彼女と張り合える存在というのは、少なくとも現状存在し得なかった。一夏をはじめ才能ある者は多々いれど、しかし現状では誰も彼も楯無にとって守るべき存在である。それが嫌なわけではない。ただ、少しだけ寂しかったといえばそうだった。

 

 そんな楯無をして勝てなかった。御堂 楓。彼は楯無に勝った。

 手の内全てを晒したわけではないもののそれは向こうも同じ。あくまで学内の模擬戦という範疇でだが、互いに全力を出し合った。その上で楯無は敗北した。

 悔しさはある。しかしそれ以上に嬉しかった。自分と対等の存在がいてくれたことが嬉しくて堪らなかった。

 

 彼女の当初の目的は希少な男性操縦士の護衛及び降りかかる火の粉をある程度自己で対処出来るレベルに彼等を育て上げること。前者後者どちらも必要であるのは織斑 一夏。その点、楓にはどちらも必要無いといえる。なにせ彼は楯無より強いのだから。となれば最早楯無は定期的な監視以外楓に接触する必要は無くなるわけだが。

 

 

「御堂 楓君か……」

 

 

 コツコツとどこか弾むように床を鳴らして廊下を歩く楯無はそんなもの気にしていなかった。『更識 楯無』の任務として接触する必要は無い――――が、『更識 刀奈』として、ひとりの少女として彼に興味が出てしまった。関わりたいと思ってしまった。

 

 

「どうにかして生徒会に入ってもらえないかな?」

 

 

 少女はそんな独り言を漏らすのだった。

 

 

「………………」

 

 

 思い出したように不意に廊下で立ち止まる。指先が自身の唇にそっと触れる。その温かさが心地良くて、高鳴る鼓動に急かされるように再び動き出した足取りが早くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――……この一件から後、楯無は頻繁に楓の近くに出没することなる。ある時は旧スク姿で更衣室で待ち構え、ある時は千冬が不在を狙って部屋でメイド服姿で出迎えたりしたこともあった。そして今、彼女は猫のコスプレ姿で千冬と対峙している。

 水色髪は変わらず、破天荒さも変わらず、ただひとつ変わったことといえば、

 

 

楓君(・・)、ほらほらナイスバディのおねえさんの猫姿になにか感想はないの? 今日は織斑君の誕生日だっていうから張り切ってきたのよ?」

 

 

 初対面は苗字呼びだったのに対して今は名前になっていること。逆に、一夏は苗字呼びになっていた。

 

 

「てかそれチビっ子から剥ぎ取ってきたんだろうが。あいつ絶対怒り狂ってるぞ」

 

「ふふ、借りたのよ。でもちょーっと胸が苦しいかな」

 

「………………」

 

 

 わざとらしく言いながら胸元を直す楯無。流し目でこちらを見ている辺り確信犯なので全力で理性を保つ努力をする。けれどチラチラと横目で見てしまう。努力は必ずしも実るとは限らないのだ。

 

 

「――――ほう、そんなに気になるか? 御堂」

 

 

 ゾクンと寒気が走る。それほどにその声は低く、冷たさを帯びていた。見れば口から蒸気でもあげていそうな千冬が右手をゴキゴキ鳴らしていた。

 

 

「お、おい楯無。お前が煽ったんならちゃんと始末を――――ってあれ?」

 

 

 縋るように探した少女はいち早く姿を消していた。畜生、と思う余裕は無かった。唯一の扉の前を陣取る千冬。一体全体楓が気絶から目覚める前に何があったのかはわからない。しかし何故だろうか。千冬と楯無が事あるごとに衝突し、最終的に被害を被るというのはここ最近の展開であった。

 

 

「納得いかねえ……」

 

 

 表舞台ではいつものメンバーと一夏がじゃれあい、裏では楓が悲鳴をあげる。

 

 ああやはり、学園は平和である。




閲覧ありがとうございますー。

>VS楯無章、結です!いやぁ、途中の更新途絶えたりと随分長い道のりに思いましたがようやく辿り着けました。さて、そしてもうひとりのヒロインが楯無さんと相成ります。
これで本命、千冬さん。ライバル、楯無さん。まさかの伏兵、相川さんの今作の三大ヒロインが揃いました。最後の伏兵は果たして伏したままの可能性が極めて高いですが(!?)

>2期は1期であんまり書けなかった恋愛要素書きつつ、アニメ本編の重要回を中心に物語を進めます。恋愛要素を進めるにあたってこれからは特に原作キャラのイメージを崩さないよう、しかしデレさせる努力をしていこうかと思います。時期的にもバレンタインデーのおまけ話も書きたかったなぁ、と思いましたが。

>さてここからまたしばらく他作品を進めますので、再びローテンションで戻ってくるまで気長にお待ちいただければ幸いです。それでは次回ー
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