【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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復活一発目がサイドストーリーですみません。


VS???
?話


「バレンタインデー?」

 

 

 次の授業の準備をせっせとしていたクラスに、この声は不思議なほど響いた。もしくは、それほどに世に言う乙女である彼女達には聞き逃せない重要なワードだったのか。

 

 

「そうそう! もう来週じゃん? みんなは誰にあげる?」

 

 

 授業が始まる前の休み時間、話題の提供者であるクラスの眼鏡っ娘、岸原 理子は憚らず声を大にして問うた。

 

 世界各国のエリートが集められると世間では言われている学園だが、蓋を開けてみれば普通の学校と変わらないなぁ、と相川 清香は他人事のように思っていた。

 ちょうどいつものメンバーで雑談を興じていたところへの理子の質問に、教室中が騒然となった。

 

 

「えー! やっぱり織斑君でしょー!」

 

「私織斑君の為に今日まで必死に料理の勉強してきました!」

 

「でも手作りとかって引かれないかなぁ……」

 

「あー」

 

「結局市販の物には敵わないしねえ」

 

「市販のチョコっていえばさ、あの有名ブランドのお店、近くに出来たらしいよ!」

 

 

 ちなみに、この話題の中心である学園唯二(・・)の男子達は、前の体育の授業で使用した器材をえっほと片付けているので不在。聞かれることは無いと安心しきっている女子達の口は軽い。やんややんやと最初の話題から枝分かれして様々な話が飛び交う。

 

 

「相川さんは織斑君にどんなチョコあげるの?」

 

「え?」

 

 

 クラスのしっかり者と一夏の中で専ら評判である鷹月 静寐の不意打ちの問いに、清香は思わず言葉を詰まらせる。そうなればもうどうにもならない。我ながららしくない、なんとも歯切れの悪い調子でなってしまった。

 それには静寐の方が首を傾げてしまう。

 

 

「チョコ、織斑君にあげるんでしょう?」

 

「えーあー……と」

 

 

 痒くもない頬を掻いて明後日の方を向く清香。これでは暗に『何かあります』と白状しているようなものだ。

 

 清香が事あるごとに一夏に積極アピールしていたことはクラスでも周知のことである。持ち前の明るさと行動力、加えて出席番号のアドバンテージをフルに活かして、ともすればいつも一夏を巡って凄まじい争いを繰り広げる彼女達すら差し置いて先陣を切るのである。

 

 だから、静寐は清香が間違いなく一夏にチョコをあげるものだと決め込んでいた。それなのに彼女のリアクションがおかしい。似つかわしくない。まさか、と口にする。

 

 

「あげないの?」

 

「…………うん」

 

 

 まるで観念でもするように頷いた清香に、静寐は目を瞬かせた。続く言葉でさらに驚きを重ねることになる。

 

 

「私、御堂君にあげようかなー……なんて」

 

「えええええええええええええ!!?」

 

 

 静寐の絶叫という珍事に周囲の者達までぎょっとする。

 

 

「なになにあーちゃん、みー君にチョコあげるのー?」

 

 

 のそりと、清香の机に寄り掛かるのは布仏 本音。明らかにサイズのあっていないブカブカの制服姿の不思議少女は、最早机に寄りかかるというよりは乗り上げてしまっている。

 清香にとって親友とも呼べる少女の懐っこいのほほんとした笑顔に、清香はコクリと頷いた。今度はクラス中が絶叫。

 

 

「えー! 相川さんて織斑君推しじゃなかったっけ?」

 

「なになに修羅場!?」

 

「いやー、あれでしょ。タッグ戦」

 

 

 誰ぞやの言葉に一同が『ああ』と唸る。

 

 学年別トーナメント。すでに去年の出来事となるあれは、たしかちょうどシャルロットやラウラが転入してきたときぐらいだったか。今思い出すと懐かしくもある。

 話を戻す。その学年別トーナメント、例年とは少々趣向を変えてタッグ戦であった。そのとき清香と楓はパートナーとなって優勝候補筆頭であった鈴音とセシリアペアと一回戦から当たり、なんとなんと大金星をあげてしまったのだった。

 

 

「たしかにあのときの御堂君、ちょっとかっこ良かったもんね」

 

「ちょっと、ね」

 

「あのときは、ね」

 

 

 褒めているのか貶しているのか微妙なところだが、女子一同は各々感想を出す。トーナメント以外でも臨海学校や普段の授業態度まで持ちだして厳しい評価が下される。しかし幸いにも概ね称賛に意見は傾いていた。

 

 

「けどさ」と言ったのは理子「御堂君のファンて織斑君よりもずっと少ないけど、だからこそ結構ガチで狙ってる人いるっぽいよ」

 

 

 ピクン、と清香の耳が動く。

 

 

「あー……わかる。織斑君と間違いなく世界クラスのアイドルだけど、御堂君は学校の有名人くらいだもんね。例えるなら織斑君は高級料理。御堂君は」谷本 癒子は少し間をあけて「地元のよく行く中華料理屋さんくらい?」

 

「あー、そうかもそうかも!」

 

 

 ピクピクン、と清香の耳が動いた。遂にがー、と叫ぶ。

 

 

「いいじゃんいいじゃん! 地元の潰れかかった古い中華屋さんだって! 庶民の味方! ほっとするじゃん親しみ深いじゃん!!」

 

「うん、相川さん。さすがにそこまで言ってない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにもまた、清香とは別の少女が来週のイベントを前に心踊らせていた。

 

 生徒会室。たかが学生には些か立派過ぎる執務机を、しかし一介の取締役より堂々と乗りこなす水色の少女。口元を隠すように広げた扇子から時折悶えるような忍び笑いを漏らすのは、更識 楯無。

 

 

「うふふ。虚、頼んでおいた物はちゃんと手配してくれた?」

 

「はい、お嬢様」

 

 

 そんな生徒会長に影の如く付き従う眼鏡の麗人は布仏 虚。生徒会会計にして『更識』に仕える楯無の専属メイド。ちなみに1組のいる本音の姉でもある。

 

 

「今から楽しみだわ。当日のために体を清めておかなくちゃ! ビターとブラック、どっちが好きかしら?」

 

「お嬢様、すでにオチが見えています」

 

 

 楓曰く露出会長。または残念美人と名高い彼女は、当日楓の期待を裏切ることはなかった。本当に残念ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらにさらに、某バーにて。

 

 

「そういえば織斑先生は明日チョコあげないんですかぁ?」

 

 

 ぶふぉっ、と千冬は盛大に咳き込んだ。隣を見やると真耶はニコニコ笑顔。

 千冬は口元を拭って乱れた精神を持ち直す。

 

 

「――――勘違いするな。御堂と私はそんな関係じゃあない。大体あいつは私の生徒で、私は曲がりなりにも教師だ」

 

「ふふっ」

 

「?」

 

「私、御堂君にって言ってないですよ? 弟さんにあげないんですかって意味でした」

 

「………………」

 

 

 しばし、店の空気が静止した。

 

 千冬はひきつった笑みで真耶を見る。

 

 

「真耶、良い性格になったな」

 

「織斑先生のご指導のおかげです」

 

 

 いつの間にか逞しくなった元教え子は、今や隣りでえへんと胸を張っている。

 

 

「お前に男が出来ない理由がわかった気がする」

 

「ひ、酷いですよー!」

 

 

 明日、千冬から真耶に大量の資料整理が言い渡されたとか無いとか。




閲覧ありがとうございます。

>こちらのみの読者の皆様にはお久しぶりでございます。長らく更新止まってしまい申し訳ありませんでした。……いやほんと、私自身四ヶ月超空いてしまうとは思ってもいませんでした。
改めてごめんなさい。

>重ねて、いきなり番外編でして、本編お待ちの方はすみませんでした。とりあえずこういった作品だったなぁ、と思い出していただけたなら幸いです。
このバレンタインデー回の続きがあるかないかは不明です。構想はありますが、番外編に少ない執筆時間を使ってしまうのは本末転倒ですしね!

>とまあ、ちょいとリアルの生活事情が変わったのもあって執筆速度は相変わらずとなりそうですが、とりあえず数話程度はこちらの更新になるかと思います。

ではでは、改めまして宜しくお願いいたします。
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