【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━ 作:針鼠
バターをあてたフライパンにまずは鶏肉、順に野菜を投入して炒める。ある程度熱が通ったのを見計らってケチャップを入れてまた炒める。水分が飛んだら白飯を入れる。塩コショウで味をつけて完成したチキンライスを皿に盛る。
次に油をひいたフライパンに今度はボールにあけた卵を入れる。フライパンに接している面がある程度固まったところでフライパンを軽く揺すって端に寄せる。皿に盛ったチキンライスを上へ卵をのせてやれば、
「オムライス一丁!」
「はーい」
パセリを添えた皿を受け取りにきた給仕係のクラスメートに渡す。
そう、今日は文化祭である。
IS学園では毎年厳重な警備のもと行われる秋の一大イベント。しかしあらゆる特殊性を持つこの学園といえど、生徒はあくまでも十代の少女達。文化祭の出し物は他の学校とそれほど遜色はなかったりする。実際、楓達1年1組の催しは喫茶店である。文化祭において定番といえよう。
ただ、死ぬほど忙しい。
「御堂、パンケーキ2だ」
「御堂さん、オムライス1、ミートスパゲッティ1、デザートにジェラート2ですわ」
「御堂、ホットケーキ2とフルーツサンド1いける?」
「っだあああああクソ! 了解ッッ!!」
忙しすぎる。箒、セシリア、シャルロットと立て続けに知らされる注文群。その前にも二件注文が入っている。
率直に言って、楓達の店は大繁盛であった。というのもこのクラスはあらゆる意味で注目度が高いメンバーが揃っていて金の卵をひと目見ようと企業のお偉いさん達がやってくる。さらに美少女がメイド服で給仕してくれるというのだから一般の男客もこぞって足を運ぶ。
だが、この忙しさの真の理由は他にある。
――――メイド&織斑一夏の執事喫茶。
そう、これが我らが1組の催しである。お分かりいただけるだろう。この忙しさの理由は間違いなくあの後半部分によるものだと。
世界でも希少な男性IS操縦士、さらに世界最強のブリュンヒルデ――――織斑 千冬の弟。そしてイケメン。ザ・アイドル。
そんな一夏目当ての客は外来はもちろん、同じ学園の他クラス、さらに他学年の女子まで引き寄せてしまう。それがこの忙しさの理由である。
「それにしても御堂君は器用だねえ」
クラスメートの清香が――――もちろんメイド服――――流れるような楓の手際を見て感心する。
「まあ、料理は昔からずっとやってたしな」
一人暮らしの間はもちろん、あのウサ耳博士が自分で料理をするはずなどない。以前束に料理ぐらいやってみろと言ったら、彼女は僅か3分で料理ロボを作ってきた。過程ではなく結果に意味を求めるのは科学者らしいが、それは違うとスクラップにしてやった。
そんな感じで料理には自信……というよりは別段苦手意識ももってなかった楓だが、当初彼は料理担当ではなく一夏同様執事姿で接客をする予定だった。楓とて貴重な男子要員。知名度等で一夏には負けるものの、それなりの集客も見込める。
ならば何故それがなくなったのかというと、超絶的に執事服が似合わなかったのだ。……いや、ある意味似合いすぎていたともいえる。ただそれは執事というより――――マフィアだった。
つり上がった三白眼に黒スーツ。洒落っ気のない髪をオールバックで纏めた姿を見て、クラスは大爆笑の渦だった。
それなりの付き合いで楓の性格を知っているクラスメートならば笑いで済んだが、初対面ならば間違いなく目を合わせることを拒否する強面。楓は心が折れて料理担当となった。
「むむ、こうも女子力の高さをアピールされると私達としては複雑」
「たしかに。結局料理担当決めたのも、一番御堂君が美味しかったからだもんね」
微妙な顔をする理子と苦笑する静寐。
というかみんな働け、という楓のツッコミは忙しさのあまりなかった。料理担当は楓を中心にして交代で2~3人が入っている。本格的な料理が必要なものは楓が、野菜を刻んだり湯を沸かしたりの簡単な下準備、パンケーキなどの簡単な調理をヘルプのメンバーがやっている。飲み物をいれたりお菓子類など市販の物をあけるだけのものは給仕係も含めて手が空いている者がやっているのだが、それでもやはり料理の方は手が足りないのが現状だ。
するとセシリアがやれやれと頭を振る。
「仕方ありませんわ。わたくしが調理に入って――――」
『それはやめて』
咄嗟ながら揃った全員の意見にセシリアは納得いかなそうにぶーたれていた。
しかし彼女にだけは調理を任せることは出来ない。彼女が奮った料理で生まれる地獄絵図が目に浮かぶ楓は必死に手を動かすのだった。
★
(なんとか昼の山場は乗り切った……)
半ば放心状態になりながら、しかし手はサンドイッチを作っては皿に並べている辺り彼の料理経験の長さが窺える。
昼時を過ぎてお客は目に見えて減った。なにより一夏が休憩に入って不在というのが大きいだろうが。
一夏達が戻ってくる前に少し休憩を貰おうか、と楓が考え始めたところでメイド服の少女が調理場にやってくる。そちらに目を向けた。
白く清楚なエプロンと紺地のスカートは見事なコントラストを演出している。口元を隠す扇には墨字で書かれた『神出鬼没』の四文字。赤茶けた瞳は悪戯好きの猫のように細められている。
「…………」
そんな楯無へ、楓はスッとサンドイッチが盛られた皿を差し出した。
「サンドイッチあがり」
「ちょっと!?」
まさかのスルーにさしもの生徒会長が悲鳴をあげた。
「せっかくメイド服を拝借してお披露目してあげたのに感想もないのかしら?」
「お客様、こちらは関係者以外立ち入り禁止なので戻ってください。あと服は返せ」
「こ、ここまで無視されると流石に堪えるわね……!」
ふん、と頬をふくらませて機嫌を損ねる楯無は一向に調理場から出て行こうとはしない。実際、言って聞く輩ではないので楓も作業を続けながらおざなりな注意である。一体どのような手段を用いてここまで入り込んだのか。
「それで? 何しにきたんだ。一夏なら今いないぞ」
「そうなの?」
彼女は一夏の護衛役でもある。クラスにちょっかいを出すときは決まって一夏を巻き込むのは、悪ふざけが4割に暇つぶしが4割。護衛の責任は精々2割がいいところだろうというのは楓の予想。
「休憩中。っつても、多分そろそろ帰ってくるだろうけどな」
「そ。じゃあもう少しここで待たしてもらうわね」
「警備員さーん、不審者がいますよー」
「ふっふーん、邪魔者は全員一時待機を生徒会長権限と更識の名前で命じているから無駄無駄」
「職権濫用じゃねえか!?」
基本自由人の本領発揮である。
楯無の相手をしていては仕事が進まないと思い直し、楓は一旦使用した調理器具を洗い出す。楯無は勝手に引っ張りだした椅子に腰掛けている。
「ねえ、楓君。貴方生徒会に入らない?」
「なんだよ突然」
楯無の提案は本当に唐突なものだった。しかし意外にも彼女は真面目な声色で続ける。
「自覚はないかもしれないけど、織斑君同様、貴方だって狙われているのよ?」
「一夏のおまけくらいでだろ?」
「これは冗談じゃないわ。見方によっては注目度が低い貴方の方が狙い易いと考える者だっている」
スポンジで包丁を拭いながら考える。
世界でも稀少な男性のIS操縦士。その希少価値はともすれば最新鋭のIS兵器技術より高い。広告塔としてはもちろん、楓や一夏の情報を突き詰めれば楓達以外にも男性の操縦士を
「生徒会に入ってくれれば私だって目を光らせることが出来る。貴方なら実力は申し分ないし」
その提案が彼女の優しさであると理解しながら、楓は首を横に振る。
「悪いけど柄じゃねえよ。そういうのは一夏辺りを勧誘してやれよ。あいつの方が年がら年中部活とかにも誘われてるからなぁ。生徒会にでも入ればみんな納得して引き下がるだろうし」
蛇口を締めて楯無の方を向き直る。
「でも、心配してくれてありがとう」
楯無は目を丸くしてた硬直していたかと思うと、我に返るなり扇で顔を隠してしまう。扇には『顔厚忸怩』。はて? なんと読むのだろうかと楓は首を傾げながらも、次の調理をしようかとガスコンロの前へ。
今は調理番が楓ひとりなのでホットケーキを焼きにかかる。
「……なら、ふたり一緒になら問題ないわね」
「なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないわ。――――それより、美味しそうね!」
ひょこ、と顔を脇から覗かせる楯無。
「食うなよ。お客に出すんだから」
「なら私にも作ってよ」
「列に並んで客として来店して注文すればな」
「いけず。おねえさん楓君の手料理食べたいなー。ねえねえ」
「ええい鬱陶しい!」
肘で横腹を突いたりと邪魔をしてくるので振り払うと、身軽な調子で躱される。
クスクスと笑う楯無は閉じた扇子の先端を向けて言い放つ。
「生徒会長権限で命令します。私に料理を作りなさい」
「今度暇があったらな」
「やったぁっ! どんなフルコース料理作ってもらおうかしら」
「うおい!? お前俺になに作らせる気だ!」
所謂一般家庭で作られるようなものしかレパートリーが無い男にフルコース料理など作れるはずがない。だというのに楯無は意図的に聴こえないフリをしてお気楽に鼻歌をずさんでいる。
「じゃあね、楓君。1ヶ月専属シェフの件、楽しみにしてるから」
「なんかどんどん上乗せされてる!?」
調理場から出て行く自由過ぎる少女の背中を止める術を、楓は持っていなかった。
閲覧ありがとうございまっす。
>日曜日ということでさらっと書いてしまった冒頭をそのまま投稿してしまいました。さすが二期となれば楯無さんのヒロイン力を発揮せずにはいられない!
だがしかし、全国の千冬さんファンの皆様、次話では遂に我らが千冬さんが登場です。だがしかし(2回目)、彼女にヒロイン力を発揮させる自信がありません!!
>束さんの女子力は科学力。彼女は料理をしろと言われれば料理ロボットを。掃除しろと言われれば掃除ロボットを。もっと女の子らしくと言われればパーフェクト女の子、メカ束さんを作ってしまう人です。色んな意味で駄目な人ですわ。
>ではでは次回まで!