【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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二話

「失礼しまーす」

 

「御堂君?」

 

 

 一時休憩をもらい楓が訪れたのは、広大な敷地を持つ学園を管理する為のシステムルーム。そこには数人のオペレーターに混じって画面と睨めっこする副担任の真耶と、その傍らで全体を監視する役にある千冬がいた。

 楓がやってきたことに真耶が気付いて振り返り、千冬は怪訝な顔をした。

 

 

「何しに来た? ここは教員以外立ち入り禁止だぞ」

 

「まあまあ千冬さん。そんな堅いこと言わずに。頑張ってる先生方におすそ分けを……」

 

 

 楓が差し出したのはケーキが入っているような紙箱。中には楓達の店で出しているハニートーストやパンケーキなどが入れてある。

 

 

「わあ! ありがとうございますー! 私お腹ペコペコだったんですよねえ」

 

 

 そう言って目を輝かせる真耶。千冬は他のオペレーター達も物欲しそうな目で見ているのに気付き、諦めめいたようにため息をついた。

 

 

「……許可する。但し、休憩は交代だ」

 

 

 部屋に歓声があがった。

 

 

 

 

 持ってきたパンケーキを真耶達がワイワイとつついてる一方で、楓はこれまた持ち込んだ急須で注いだほうじ茶を千冬に差し出した。

 

 

「はい、千冬さん」

 

「……最近貴様わざと言ってるだろう」

 

 

 湯のみを受け取りつつそう言う千冬さんの目は据わっている。――――が、これで引いてはいけないと楓は己を奮い立たせる。『先生』呼ばわりをしていたらいつまでたっても『先生』と『生徒』の関係から脱却出来ない。最も怖いのは学園を卒業してからもその関係が維持されてしまう場合だ。それはまずい。それを避ける為の名前呼びである。少しでも自分をひとりの『男』として千冬に認識してもらわねばならないである。

 しかしわざとだといえば千冬のことだ。きっと怒る。

 

 なので、バレバレであってもここは白を切る。

 

 

「えー、そんなこたぁないっすよー」

 

「白々しい」

 

 

 ふん、と鼻を鳴らす千冬。しかしいつものように殴ってはこない。はて? と思いつつ、殴られなかったのだからラッキーだと思うことにして楓は今一度部屋を見渡す。

 無数の画面には学園祭のリアルタイムの映像が随時送られているようだった。併せて各国からの情報もここでまとめているのだというのから人手はいくらあっても足りまい。学園祭の間、千冬を始め真耶達もここに缶詰状態だと聞かされ、楓はまた差し入れのひとつでも持ってこようと思うのだった。

 

 

「あれ?」

 

 

 画面のひとつがやけに騒がしいことに気付く。場所は室内演習場。たしか今の時間は生徒会による演劇だとパンフレットには書かれているが、どうもただの舞台ではないようだった。箒、セシリア、鈴音、シャルロットにラウラ。五人は頭の上にティアラ。格好はドレスという絵に描いたような『お姫様』姿。となれば当然相手となる『王子様』がいるはずで、誰かなど見るまでもなかった。

 全速力で広い舞台を駆け回る一夏がいた。

 

 

「なにやってんだあいつら……」

 

 

 剣で斬り結び、銃で狙い撃ち……いや、本当に何をしているんだろうか。一夏を奪い合うというよりは、一夏を殺しにかかっているようにしか見えない。

 益々激化する戦場に更なる混沌が投げ込まれる。それは我がクラスメート達。イナゴの大群よろしく、やはり一夏に襲い掛かる連中。加えてセットの城のギミックなのか砲撃まで飛び交う始末。

 

 

「いやいや! あいつら店どうしてるんだよ!?」

 

「心配するのはそこなのか……」

 

 

 逞しく染まってきたな、と千冬は茶を啜る。実の弟のことであるのに彼女も大概であるが、それは誰もツッコまない。

 

 

「更識と戦っていたな」

 

「ぶっふぉー!!?」

 

 

 不意に飛び出した話題に楓は目に見えて動揺する。そのことに千冬の方が不思議そうに首を傾げた。

 

 

「何故それほどに動揺する?」

 

「み、見てたの……?」

 

 

 千冬が頷くと楓は盛大なため息と共にその場に座り込んでしまう。体育座り。所謂、いじけ体勢。

 

 楓にとって、あれは負け試合なのである。それもただの負けではない。散々大見得を切った上での敗北だ。はたして千冬がどこから見ていたのかは楓にはわからないが、好きな女性に自分の負けた戦いを見られていたというだけで充分落ち込む理由になる。

 

 楓が何も言わずにいじいじしてしばらく、千冬はようやく楓の心情を察して、それは無用な話だと断じた。

 

 

「お前と更識の戦いは間違いなく世界水準のものだった。誇りこそすれ、恥じる理由にはならん」

 

 

 滅多に人を褒めない千冬にしてみれば最大限の称賛だったのだが、楓の態度は変わらない。それは最早男心の域の話であり、世界最強といわれているといってもやはり女性である千冬にはわからないのかもしれなかった。

 その後も思いつく限りの褒め言葉を浴びせる千冬とそれでも復活しない楓。

 

 ――――しかし、なんとなくでも察せる人間もいたりする。意外な人物が。

 

 

「あれー? 織斑先生、珍しいですねえ。織斑先生がそんなに必死に慰めるなんてー」

 

 

 差し入れを食べ終えた真耶がひょこ、と首を出して一言。続けてもう一言。

 

 

「そういえば」にっこり。邪気の無い笑顔だった「織斑先生ずっと心配してましたもんねー。御堂君のこと」

 

 

 ピクン、と顔を膝に埋めた楓の耳が動く。

 カチン、と千冬が凍りついた。

 

 静寂が部屋を満たす。ちなみに差し入れを平らげた周囲の者達は業務を続けている――――風を装って興味津々だ。

 

 微動だにしなかった楓が千冬の顔を見上げる。その瞳は潤んでいた。

 

 

「………………ほんとう?」

 

 

 うっ、と千冬が身を引く。されど反射的に『違う』などと言うことを避けた辺り、彼女も立派な大人なのであった。

 腹を括ったといったふうに、渋面だった千冬は敢えて真っ直ぐ楓を見下ろす。

 

 

「うおっほん! …………ああ」

 

 

 普段からは到底信じられないくらいの小声だった。

 

 

「千冬さん大好きいいいいい!!」

 

「調子に乗るな」

 

 

 飛びついてきた楓の首筋に回し蹴りが見事に入った。

 

 

 

 

 一夏争奪戦で学園祭が大乱戦となってからしばらく。一夏の姿が忽然と消えるが、少女達の争いは熱を増すばかり。

 

 

「店の方心配だからそろそろ戻るわ」

 

「さっさと出て行け」

 

「御堂君、差し入れありがとうございましたー」

 

 

 すっかり元気を取り戻した楓と、先程から頬を赤くして口数少ない千冬。真耶達周囲の者達は暖かくニヤニヤと見守るだけだった。

 

 おそらくはまともに店はやっていないだろうと思いつつも、根は真面目である楓はそこそこにして管制室を後にしようとする。――――そのとき、突如としてけたたましいアラート音が鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オルコットと凰は哨戒につけ。他は織斑の援護。ロッカールームへ向かえ』

 

 

 千冬の指示にそれぞれが従う。箒、シャルロット、ラウラは現在戦闘中らしい一夏の援護へと向かう。

 

 

「セシリア、アタシ達も行くわよ」

 

「はいですわ」

 

 

 粒子が体を包み装甲を展開。《ブルー・ティアーズ》、《甲龍》をそれぞれ展開したセシリアと鈴音も役割を果たす為空へと昇る。

 

 敵は現在一夏と交戦している一機のみ。情報によれば敵の機体は以前アメリカで強奪された第二世代、《アラクネ》と呼ばれるISらしい。セシリアは己の知識でその名を検索。多腕武装のキワモノらしく、量産には至らなかったらしい以外セシリアにも大した情報はなかった。――――が、シャルロット達が向かった今、そちらはすぐに片がつくだろう。敵が如何ほどの者かわからないが、一夏を加えて4人という数的有利、しかも内2機は第四世代となればよほどの相手だとしても負けはしない。

 

 となれば、問題はむしろこちら側。まさか一機だけでこの学園の中心で暴れて無事に済むとは思っていまい。増援は必ずやってくる。それを止める、あわよくば拿捕することこそがセシリア達の役割。

 敵の目的が一夏なのか、はたまた学園の機密情報、或いはテロ、なんにしてもただでは帰さない。

 

 

「レーダーに反応!」

 

 

 セシリアがそう意気込んだそのとき、鈴音の声が届く。無論、すでにセシリアも補足済みだ。

 

 

「……っ、そんな」

 

 

 しかし、セシリアは拡大された敵機の姿を見た瞬間、戦場だというのを忘れて呆けてしまう。

 

 敵IS。深い、セシリアのブルー・ティアーズよりも深い蒼色。紫にも近い色の機体の背中から両側に備えられた大きなスラスターは、まるで蝶の羽のようだった。その機体を、セシリアは知っていた。だがあり得ない。アレはここにあるはずがない機体。何故ならあれは、

 

 

「BT二号機……《サイレント・ゼフィルス》!」

 

「どうしたのセシリア!? 早く撃って!」

 

 

 英国本国にあるべきはずの機体の襲撃に動揺を隠せずにいたセシリアは牽制射撃を始めていた鈴音に遅れてライフルを構える。

 

 

(是が非でも逃すわけにはいきませんわ!)

 

 

 鈴音の龍砲の射程は中距離。しかしセシリアの主武装であるスターライトMKⅢにはすでに射程圏内。牽制ではなく確実に仕留めるつもりでセシリアは引き金を引いた。

 迸る青白い閃光。

 

 そのとき、セシリアはサイレント・ゼフィルスの搭乗者の口元が嘲るように引き裂くのを見た。

 

 レーザーがサイレント・ゼフィルスの羽を捉えようという瞬間、割って入るモノがあった。

 

 

「シールドビット!?」

 

 

 レーザーを止めたのはサイレント・ゼフィルスの周囲を浮遊する二基のビット。中心が吹き抜けになっている逆三角形のそれはエネルギーシールドを展開してセシリアの攻撃を散らしていた。

 エネルギーアンブレラ。ビーム射撃とシールド、どちらも備えるビット兵器。

 

 

「ならばこちらもっ!」

 

 

 エネルギー兵器ではシールドに弾かれると悟ったセシリアはブルー・ティアーズ唯一の実弾武装であるミサイルビットを射出。ビット同士の戦いならば、適正においても経験においても自分が勝ると踏んでの攻撃。

 瞬後、ミサイルの一基が爆発した。

 

 

「な……!?」

 

 

 黒煙を突き抜いて放たれる紫色のレーザーがもう片方のミサイルビットに向かう。セシリアは残ったビットの軌道を逸らす。なんとか躱すことが出来たと思ったのも束の間、レーザーがその軌道を変えてミサイルを追跡。貫いた。

 

 

「今の……BT兵器の偏向射撃(フレシキブル)!?」

 

 

 偏向射撃とは、レーザー兵器の軌道を発射後に任意で変えることが出来る技術である。理論上だけならすでに方法は確立されているが、現状BT兵器適正値が最も高いセシリアでさえ発現は困難であった。それを、目の前の操縦者は実践している。それだけではない。

 敵はビットを六基射出してきた。『六基』だ。セシリアは未だ『四基』が精一杯のそれを、しかも鈴音との戦闘をこなしながら見事に操っている。

 

 それはセシリアの精神に多大な衝撃を与えた。己の価値観を根こそぎ奪われてしまったかのような錯覚に今度こそ彼女の動きが完全に停止する。

 

 無情にも、二基のビットの砲口がセシリアを狙っていた。

 

 

「セシリア!!」

 

 

 鈴音の声に我に返るもすでに手遅れ。セシリアはただただ迫り来る光を見つめることしか出来なかった。

 

 ――――そのとき、漆黒の壁がセシリアをレーザーから守る。

 

 

「悪いなセシリア。ご期待の王子様じゃあねえけども、今回は勘弁してくれ」

 

「御堂さん……?」

 

「………………」

 

 

 サイレント・ゼフィルスの操縦者がそちらに視線をやる。漆黒の鎧を纏ったもうひとりの男(・・・・・・・)は正面から立ちはだかった。




閲覧ありがとうございましたー。

>てな感じで二話!執筆遅くて本当に申し訳ないです。

>今回ようやくメインヒロイン千冬さん登場!誰がなんと言おうとメインヒロインです!メインヒロイン!大事なことなので3回言いました。

>ちなみに、千冬さんの好感度は見ての通りすでに良好くらいには達しております。アニメ見る限りの彼女ならばこうも簡単にはいかないでしょうが、基本この作品の彼女のメンタルは実はあまり強くなかったり(福音作戦時のときとか)なので、実はもう結構楓君の恋は成就していたりします。

>次回はエムことまどかちゃんとの戦い。原作ノベルを集めていないので、基本アニメ路線の展開なのをもう一度述べておきます。

>セシリアさんの成長はどうしようかまだ悩み中。原作だと偏向射撃出来るようになっているようで、けどアニメだと特に触れていないんですよねえ。どうしようか。

>まま、そんなこんなの亀更新ですがまた次話でー。

>そういえば、どなかた感想を書いてくださっていたみたいで、履歴……というかはあったのですが中身は見れませんでした。お返事遅くて削除しちゃってたとしたら申し訳ありませんでした。
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