【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━ 作:針鼠
異常事態のアラームが鳴るなり楓は一目散に管制室を飛び出した。すぐさま通信が入る。接続を許可すると、視界に真耶と千冬の映像が映る。
「どこ行けばいいっすか!?」
学園祭は毎年常に最大級の警戒態勢を敷いている。中でも今年は男性操縦者という異例があった為、例年より警戒レベルは高かったはずだ。
それを突破して侵入してきた者がいる。
そんじょそこらの盗人程度ではないのは明らかだ。実際、相手は第二世代のISまで持ち出してきている。
楓の質問に、しかしふたりは苦々しく顔を歪めるだけで指示しようとはしない。
学園の主な戦力は皆教員である。それは学生との経験の差、というのももちろんある。――――が、それ以上に、子供達を戦場に立たせたくないという『大人』である彼女達の矜持だ。願いと言い換えてもいい。
しかし今、学園戦力は皆学園の外の警戒に当たっていた。内部の問題を伝えて急行させるにも時間がかかる。それに問題はもうひとつある。現在セシリア達が戦っている相手は学園の外からやってきた。それが意味することはひとつ。
上空の敵は警戒網を何らかの方法で抜けたか、或いは、学園戦力を撃滅してここにきているはずである。
実際、連絡が取れていないのだろう。先ほどから映像の向こうから怒鳴るようなオペレーターの声が聞こえている。
だからこそここは楓が動かなければいけないのだ。たとえ代表候補でなかろうと、現状学園の戦力に数えられる自分が呑気に見ていることなど出来はしない。
「千冬さん!」
千冬が唇を噛むのが見えた。千冬は真耶に目配せして、意図を受け取った真耶は頷くとこちらを正視する。
『ロッカールームで織斑君が交戦中。屋外でも、現在オルコットさんと凰さんが交戦してます』
緊張からか、真耶の声がいつもより硬い。或いはこの状況で、守るべき生徒を頼らなくてはならない己を恥じてからなのかもしれない。
とても優しい大人達。それでも、それは無用な心遣いだと楓は言ってやりたいが、言葉にせずに目で訴える。直接的な指示を求めて千冬を見る。
『――――屋外へ迎え』観念したように千冬は告げる『オルコット達の援護だ』
ようやく与えられた信頼に嬉しさが込み上げる。だが同時に湧いたのは疑問だ。
「いいのかよ千冬さん。敵の狙いは――――」
一夏だ。間違いない。
二箇所同時攻撃。内部と外を同時に。役割を考えれば自ずと敵の狙いが読める。
堂々と包囲網を突き破ってレーダーに捉えられるのも構わず上空に現れた敵と、事を起こすまで存在を隠していた中の敵。しかもそこに一夏がいるとなれば確定だ。
上は陽動。となれば本命は中だ。
一夏はあらゆる面で興味をそそられる素材なことだろう。それこそ、同じ男性操縦士ながら楓との価値の差は雲泥の差であることはご覧の通り。
安堵する一方、癪に思わなくもない。
『わかってる。だが、問題ない』
「? いやに断言すんね」
『向こうは学園最強がいる』千冬は数瞬沈黙を挟んで『――――更識は織斑の護衛を国から任されている』
『お、織斑先生!?』
『構わんさ』
更識 楯無。対暗部用暗部、『更識』の現頭首。彼女がここ最近一夏につきまとっているのは、今回のような輩が現れたときの対処を任されてのこと。加えて一夏自身にも、それら火の粉を自ら払えるだけの力を持ってもらうことが目的なのだという。
「どうりで。無茶苦茶だとは思ってたけど……」
『口外はするなよ?』
「その気はないし……言っても信じるかねえ。あの露出狂が国の裏側の人間つって」
妙なところは多々あるが、楯無は見た目普通の女の子だ。それが実は正体は、血を血で洗う暗部の人間でしたといって果たして信じられるだろうか。今のように千冬辺りから話されれば別だろうが。
「まあ、とにかく了解。外へ出てセシリア達の援護に向かいます」
『頼むぞ。……急げよ』千冬の声音がひとつ低くなる『上の方が危ういかもしれん』
★
(間一髪)
千冬の許可をもらい、屋内でのIS全身展開をして駆けつけることすぐ。外へ飛び出して目に入ったのは、砲口を突きつけられているにも拘らず、呆然と立ったままのセシリアの姿だった。
千冬の指示を仰いでいる暇は無いと、独断で行動を開始。ビットを射出。全速力でセシリアと、彼女に砲口を突きつける紫色のビットとの間に滑り込ませる。
どうにか間に合い、楓自身もセシリアの傍らまで昇る。
「大丈夫か、セシリア」
『え、ええ……。ありがとうございました』
セシリアと鈴音。ざっと見たところ、ふたりとも大したダメージを受けた様子も無い。
それを確認し終えてから改めて意識をこの場にいるもうひとりに向けて、
背筋を嫌な汗が流れた。
すでに周囲をビットに囲まれていた。仄暗い砲口から光が溢れる。
『楓ッ!』
鈴音の悲鳴より先に、それぞれのビットから紫色のレーザーが放たれた。四方を囲んだ攻撃は、上から見れば十字を描いていただろう。
足場にしていたビットの上でしゃがむ。頭上を光が交錯したのを見計らって、反撃とばかりにビットを蹴りつけて突進。ビットの連射性能は高が知れている。チャージが完了する前に本体を叩くつもりだった。
そう思っていた楓の頭に、セシリアの切迫した声が響く。
『駄目です御堂さん! 避けてください!!』
「なっ……!?」
躱したはずのレーザーが曲がる。一度避けたはずのそれが、まるで海を泳ぐ魚のように空を旋回して再び牙を剥いてきた。
予想していなかった方向からの攻撃に対して、楓は自分のビットを足蹴にして急転換。
しかし紙一重で躱すも前進は止まってしまった。そしてそこは、敵の真正面だ。
『――――――――』
冷酷無比な相手の主武装による攻撃。
体勢はすでに崩れている。これ以上のアクロバティックな回避は出来ない。そう判断して、楓はビットのいくつかを自分の周囲に呼び寄せた。
「コネクト!」
漆黒の盾に紫色の光が叩きつけられる。
ただの射撃。しかしそのエネルギー量に、防御に回したビット本体が軋みをあげる。追撃を受けたらまずいと焦っていたものの、何故か相手は追撃してこなかった。
疑問に回答を出す前に、一先ず体勢を立て直す。
(今の射撃……)
偏向射撃。
放ったレーザーの軌道を任意で変更出来る誘導射撃。光学兵器を操る特性の中でも極めて難易度の高い超高等技術である。現状世界でこれを出来る操縦士は発表されていないはずだが。
そしてなにより、それを高速戦闘を主としている楓に当ててきたこと。それこそが最も脅威である。加えて相手はビット兵器まで併用しているのだ。
未だ世界未踏の技術である偏向射撃。速度特化したISに当てる射撃技術。6基ものビットを苦もなく操る並列思考《マルチタスク》。
この操縦士の実力は、間違いなく楓より格上だった。
今まであの楯無相手でさえ実力で劣っているとは思わなかった楓が、たった一度の攻防で彼我の実力差を認めてしまった。それほどまでに目の前にいるゼフィルスの操縦士の力量は凄まじい。
どうする。対峙しながら楓は思考をフル回転させる。
楓が真っ向から戦ったとして、精々相打ちが関の山。禁じ手の神威を使うにしてもその隙を与えてくれるかは怪しい。下手をすれば何も出来ず撃墜される。そも、こんな味方が混雑している戦場で使えるはずもないのだ。
(――――どうするッ!?)
ゼフィルスの一挙手一投足に神経を張り巡らせる。たとえ動きを察知出来ても、それに対処出来るかは不明だが目を切れば一瞬で撃ち落とされる可能性がある。
――――そう思っていた矢先、ゼフィルスは構えていたライフルをおもむろに下ろした。
『なるほど。少しは使える者もいるようだな』
オープンチャネルで繋がれた回線から、声音だけはまだ幼い印象を受ける少女の声が届けられる。その言葉は、唯一口元だけが露出したゼフィルスの操縦者のそれと同期しているようだった。
どうするべきか、などと考える必要は無い。
「話す気があるってことは……交渉の余地ってのもあるのか?」
時間を稼ぐしかない。実力差はわかった。ならばこのまま真っ向からやり合うのはうまくない。
なんでもいいから時間を稼いで、個の実力を封じ込めるだけの戦力がこちらに揃うのを待つしかない。――――そんな思惑、透けて見えて当然だ。
『無い』
無情な一言がゼフィルスの操縦士が告げるのと同時、機を窺っていた鈴音とセシリアの同時攻撃が襲う。しかし当たらない。蝶の羽のようなスラスターが生んだ推進力は、しかし鋭い風切り音を出すほどに凶悪だった。蝶のような舞いとは程遠い、その動きは、獲物を追う狼のそれだった。
『なっ!?』
不意を打って一発当てることすら出来なかったことに唖然とするふたりをゼフィルスのビットが狙う。気付いて回避行動を起こすが、遅い。
回避は間に合わないと感じた楓が操作したビットがゼフィルスの攻撃からセシリア達を守るが、それが敵の狙いだったと気付いたのは残りのゼフィルスのビットが楓の周囲を囲んでいた後だった。
歯噛みし、手持ちのビットで身を守る。『受ける』のではなく『いなし』たいのだが、敵の間断ない射撃にその余裕は無い。機を見計らったかのように、再びゼフィルスの主武装による一撃。
「――――ッコネク……がっ!?」
一枚では守りきれないと判断して手近の三枚による多重防壁を作るが、数度の攻撃に晒されて耐久に限界がきていたのか、ビットは着弾と同時に爆発する。幸い、敵の攻撃の威力の大半を削いでいってくれたので直撃のダメージは無い。だが、
『さあ、その板切れはあと何枚残っている?』
嗜虐的に歪んだ敵の顔が物語っている。端から狙いは楓にあった。厄介者だと睨んだ楓の武力を削ぎにきたのだ。
(守りに徹すれば……多分こいつは無関係の奴等を狙うな)
会ったのは初めて。言葉を交わしたのもさっきのだけ。顔も名前を知らない相手だが、この少女はそれをやるだけの覚悟を持っていると確信出来た。無関係の他人を傷付けることを覚悟と呼べるかはわからないが。
多分、彼女は目的の為なら手段を選ばないタイプの人間。
常に冷徹なまでの計算で攻防をこなし、機械のように戦いを作業のようにこなしていく。
そうでなければ先刻のように、楓がセシリア達を守ることまで計算に入れた戦術は組んではこないだろう。
格上相手に防衛戦。最悪の展開は一般人に被害が出ること。ならばどうあろうと目の前の敵を、ここに釘付けにする必要がある。
最善の策とはなにか。
特攻だ。
――――跳ぶ。
地を蹴り、建物を蹴りビットを蹴る。跳躍に跳躍を重ねて、あたかも自身をピンボールの球のように跳ね回る。
天地左右。高速で切り替わる視界を脳が処理。熱をあげながら正しく認識する。
ゼフィルスは――――不動。動けないのか。はたまた動かないのか。まずはそれを確かめると、ゼフィルスにとって後方からの蹴撃。動けないなら、見えていないならばそのまま側頭部を蹴り抜く。
「――――つッ!! やっぱ見えてんのね」
高速からの回転蹴りは八咫烏とは形状の異なる盾によって防がれた。
他のビットがこちらに砲口を向ける前に離脱。
今度は楯無戦でもやった緩急からの急加速。
『何度やっても無駄だ。追えない動きでない以上、その過程をどうしようと意味は無い』
左側面からの攻撃を、ゼフィルスの操縦士は確実に捉えていた。バイザーの向こうで目が合ったかのような感覚。
「初列風切」
『!?』
急加速からの急停止。そしてそこから更なる加速。
限界だと思わせていた速度をさらに上回る加速。初見。それも最初の一撃ならば追いきれないはず。
途中まで捉えられていた攻撃方向とは逆、右側面に回り込んで右拳を引き絞る。意識の外、意識の死角から放つ一撃の狙いは敵の巨大スラスター。機動力を削げば今よりずっと手段の幅は増えてくる。時間稼ぎはもちろん、撃退、鹵獲だって、
『無駄だと言った』
そんな願いにも似た思惑も、放った拳が呆気無く掌で止められた瞬間儚く散る。
瞬間的に拳を引いて後退するも、複数方向からのレーザー攻撃に逃げ道を潰される。凶悪なまでの主武装の一射。
やむなくも繰り返される光景。さらにビットを2基破壊される。
これでは増援が来るより先にこちらが丸裸にされる。そう思った瞬間、下方で屋内演習場から爆炎があがった。
閲覧ありがとうございましたー。
>ちょうど一ヶ月ぶりの更新……ほんと遅くて申し訳ありませんでした!出来れば毎日、せめて一週間に一度の更新が出来ればいいのですが。よほどで無ければ内容忘れちゃうレベルです。すみませぬ!
>忙しさもそうですがモチベーションが中々上がりませんね。書けるときはばああああ!っと書けるときもあるのですがね。
さすがに新作の余裕は無いので頑張って控えてますが、気分転換の作品て大事です。あんまり完結させるつもりの無い作品書くのもなんですしね!
>さあさあ、久しぶりなのに若干愚痴っぽくなりましたが本編あとがき!
>まどかちゃんの強さってイマイチわからんですが、実際楯無さん辺りと比べるとどんなんなんでしょう?一応こちらではまどかちゃんのが強い感じにしてますが……彼女は直情的なイメージあるからハメ手にやられそうな気がしないでもないです。
オータムさん?いやいや彼女は物語に必要な方ですよ!主に噛まs(殴)
>ではでは、次の目標を2週間後として、はたして達成出来るか怪しいですががんばろうかと思います。
閲覧ありがとうございましたー