【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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VS簪
一話


「妹を、お願いします!」

 

「へ?」

 

 

 部屋の扉を開けた一夏は、出会い頭にそう頼み込んでくる楯無を前に呆然とする。

 

 何故彼女が自分の部屋にいるのか。そんな当たり前の疑問を抱くことが出来ないくらい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更識 楯無には妹がいる。名を、更識 (かんざし)

 

 自由奔放でアクティブな姉とは対照的に、簪は生来内気な気質であるものの、その実力は確かなもの。なにせ日本の代表候補生だ。

 

 

「お嬢様、何故織斑君に今回のパートナーを頼んだのですか?」

 

 

 一夏に頼み事を終え生徒会室に戻ってきた楯無。通常業務を片付けていると、不意に生徒会会計の虚がそう尋ねた。

 

 

「んー? どうしてって?」

 

「簪ちゃんの専用機が今も無いのは、同じ開発元の倉持技研が織斑君の白式にかかりきりになってるからだと知っているでしょう。それなのに何故わざわざ因縁のある彼をパートナーに選ぶんですか」『どうせなら』、虚はそう続けて「もうひとりの彼の方がいいのでは?」

 

 

 ピシ、と楯無の手が凍りついたように止まった。

 

 

「……彼って?」

 

「御堂 かえ――――」

 

「駄目よ! ぜっっっっったいに駄目!!」

 

 

 声を張り上げて拒否する楯無。思わず勢い余って椅子がひっくり返っている。

 キョトンとした虚の表情に気付いたのか、楯無はハッ、として正気に戻った。

 

 

「あ、あれよ。そう……ほら、かんちゃんヒーローが好きじゃない? 楓君はどっちかというと悪者の顔してるし、あの子とは相性悪いと思うのよね、うん!」

 

「お嬢様、それで言い訳してるつもりですか?」

 

 

 呆れたようにため息をつく虚に、自覚はあったのか楯無は頬を染めて着席した。

 

 虚と楯無は主従である前に幼馴染だ。常に完璧超人を気取る楯無が唯一素の顔を見せられるのは彼女といるときだけである。――――いや、

 

 

(最近はそうでもなかったですね)

 

 

 丁度話題になっている二人目の男性操縦士の顔を浮かべ、虚は苦笑を浮かべる。幼馴染が自分以外の拠り所を見つけてくれた嬉しさと、半分は妙な悔しさを伴って。

 

 すでに自分の心の内が露見しているとはいえ、更識の頭首として、或いは生徒会長として、格好をつけたい楯無ではあったが、さしもの虚には無駄かと観念したのか、とつとつと語り始める。

 

 

「……だって、かんちゃんて可愛いじゃない?」

 

「は?」

 

 

 いきなりのシスコン発言に虚も思わず素で問い返してしまった。

 しかし楯無はそんなことにも気付かず、また、一度溢れ出した言葉はとどまることを忘れていた。

 

 

「スタイルは悪くないし! 可愛いし! 頑張り屋さんだし! あと可愛いし! ちょっぴり暗いけど、それも守ってあげたくなっちゃうし! それと可愛いし!」

 

 

 エトセトラエトセトラ。拳を握って最愛の妹自慢が始まってしまう。

 しかしそこは幼馴染。虚は『はいはい』とたまに相槌をうちながら仕事を進める。

 

 

「――――やっぱり可愛いし! それでね?」

 

「あ、話進みましたか?」

 

 

 意外と辛辣な対応の虚であるが、楯無は気にしていないのか、それとも気付いていないのか、それに対する反応は無い。

 正解は前者。今、彼女の頭には周囲に気を配る余裕が無い。

 

 

「困る、のよ」

 

「困る?」

 

「……かんちゃんと、その、楓君が仲良くなっちゃうと――――いいえ、別に二人が仲良くなるのはいいのよ!? むしろなってくれたら凄く嬉しい! ……でも」

 

 

 はてなマークをいくつも頭に浮かべる虚。

 らしくなく歯切れが悪い楯無は、それを自覚したのか遂に白状する。

 

 

「楓君がかんちゃんを好きになっちゃったら困るじゃない!!」

 

 

 場が沈黙する。

 

 たっぷり一分後。赤面させた幼馴染に対する生徒会会計の言葉は、

 

 

「あー、そうですか。それは大変ですね」

 

 

 やっぱりおざなりだった。やってられないと言わんばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室でとある乙女が乙女らしい悩みを抱えている丁度その頃、

 

 

「――――おう、簪」

 

 

 IS学園、開発及び整備室。

 

 放課後、そこへ足を運んだ楓は、入るなり見知った背中を見つけて声をかけた。

 声をかけられた少女は呼ばれた瞬間こそビクゥ、と体を跳ねさせたが、振り返って人物の顔を確認するとどこかホッとしたように息をついた。

 

 

「……うん、四日ぶり」

 

 

 更識 簪。

 

 肩に届くくらいの長さで切り揃えられた髪は、跳ねっ毛の誰かさんとは対照的に内向きに跳ねている。IS用簡易ディスプレイである眼鏡は理知的な印象を与え、しかしどこか自信の無さそうな顔付きが同時に暗そうな印象も与える。

 それがここ最近特に暗く見えるのは、勘違いではない。

 

 

「専用機、まだ出来ないんだな」

 

「……うん」

 

 

 簪が向き合うものを、楓は見上げる。

 鈍く光るシルバーカラー。背面に搭載されたミサイルポッド。無骨なデザインは、原型である打鉄の名残だろう。

 

 打鉄(うちがね)弐式(にしき)

 未だ未完成である(・・・・・・)彼女の専用機の名だ。

 

 楓と簪が出会ったのはもう随分前になる。場所はここ、整備室。

 元々数年間、ISの生みの親である篠ノ之 束と過ごしていた楓は、自然とISの関する知識が深い。大掛かりな改修や開発は流石に出来ないが、整備程度ならば自分で出来る。

 

 故にIS学園に入学してからも八咫烏の整備は自分で行っていた。そんなとき、簪と出会ったのだ。

 

 最初に声をかけたのは楓だった。整備に立ち寄ったとき、整備科でも無い人間がいるなーと思っていて、確か三度目くらいに見掛けたとき、なんとなしに声をかけたのだ。

 

 そのときも突然声をかけられたことにビビりまくっていた簪は、最初は挨拶も返してくれなかった。だがそんなことを何度か繰り返している内に幾分慣れたのか、最初は挨拶だけ。続ける内に一言二言言葉を交わすようになり、近頃はようやく会話と呼べるものになるまでに至った。

 

 

(なんかあれだな。感慨深いものがあるよなぁ)

 

「?」

 

 

 ひとりで勝手にジーンときている楓に、コテンと首を傾げる簪。

 

 散々浸ってから、さてと話を戻す。

 

 

「でもこれ、大体は出来てるんだろ?」

 

「うん、機体自体は大分安定してきた。……でも、武装はまだだし。それに稼働データも全然足りない」

 

「まあ、焦ってもしゃーねえし。事故ったら危ないからな」

 

 

 稼働データが不十分ということは、どんな不具合が起きるのかわからないということだ。ブースター点火。再点火。スラスター稼働。重力制御。短時間の稼働なら問題なくとも、一定時間以上の連続稼動で出てくる問題だってある。

 それらを発見するためにも稼働データは多ければ多いほどいい。

 

 

「目玉の武装はマルチロックオンのミサイルだっけか? 整備の誰かに相談したのか?」

 

「………………」

 

 

 押し黙る簪。

 

 

「あれは第三世代の技術だからなー。独自で完成させるのはちっとばっかキツイかもだぞ?」

 

 

 それでも、簪は黙ったままだった。

 

 そも、日本の代表候補であるはずの簪の専用機が遅れているのには理由がある。それは日本にひょっこり現れた男性操縦士の機体開発元が、簪の専用機を作る研究所と同じ研究所だったからだ。

 搭乗者は世界でも二人しかいない男性操縦士。それも機体に手を加えたのは、ISの生みの親、篠ノ之 束。

 研究所が本来開発するはずだった簪の専用機を後回しにしてそちらに人手と時間を割くのも仕方のないことだといえた。

 

 当初は大人しく待っている簪だったが、中々進まない開発と、それに個人的な理由からもあり、未完成の機体を預かり自分で専用機を組み上げる決意をした。

 

 しかし、そう上手くはいかなかった。簪もプログラム自体は得意な方ではあるが、やはり生粋の技術屋ではない。クラス対抗、ツーマンセルトーナメントと、立て続けの行事にも機体は間に合わなかった。

 

 だからこそ、今度の専用機タッグマッチには、この弐式で参加したいと簪は思っていた。そしてそこで勝つことが出来れば――――姉さんとも。

 

 

「……それに、白式も落としたい」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

 

 ちょっぴり漏れてしまった本音。聞き返してくる楓に簪は『なんでもない』と答える。

 

 

「――――まあ、いいんじゃねえの? ひとりでやれるだけやってみれば」

 

「え?」

 

「んじゃまあ頑張れよー」

 

 

 ヒラヒラと手を振ってその場を後にする楓。その背中を、簪は暫し呆然と見送るのだった。




閲覧ありがとうございます!

>とてつもなくお久しぶりでございます。一年以上と更新を止めていましたが、この度ようやく復活出来ました。一時スランプ的なものに陥り執筆そのものが止まっておりまして、その後復活し、もうひとつの作品の区切りがついたのでこちらを再開致しました。
停止中、いただいたメッセージありがとうございました。嬉しかったです。
てなわけで出だしの感謝文はここまでで!

>簪ちゃん登場!やったね眼鏡っ娘!そしてこの作品でメインよりずっとヒロインらしいヒロインやってる楯無さん。すでに妹さんとはエンカウント済みなのでした。

>やっぱりシャルのパンツは無理だったよ……。セクハラ以上にやることが無いのだもの

>とまあまあ、相変わらず章タイトルは大嘘つきなのはこの作品の特徴だと割り切りまして。とりあえずこの調子で進めていきたいと思います。
改めまして、宜しくお願いいたします。

ではまた次回ー
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