【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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VS鈴
一話


「なあ楓、空を飛ぶってのはどういう感覚なんだ?」

 

 どこか落ち込んだ一夏の声に、非情にも楓は呆れた目で質問してきた一夏を見る。

 

「それ俺に聞く? 俺の《八咫烏》の場合、『飛ぶ』わけじゃなくて『跳んでる』だけだからな」

 

 楓のISは超軽量化による速度上昇のために浮遊機能を犠牲にしている。本来基本性能として備わっているはずの飛行能力が機能していないのだ。シールドビットを足場に空を無理矢理に飛んでいるに過ぎない。

 ずっと乗って浮いていることも出来なくはないが、いくら軽量化しているとはいってもその重みで徐々に高度は落ちていく。故に飛び跳ねる手段を取っている。

 

 楓の答えに『だよなー』と溜息を吐き出す一夏。

 さっきの授業で一夏はスムーズな飛行も出来ず、挙句着陸もまともに出来ず大失敗をやらかしたのだ。

 

「あれじゃねえの? こう……ぶわー! とか、もしくはうおおおって感じ」

 

「わからん」

 

 ガクッ、と一夏は机に突っ伏す。

 

「そういえばさぁ」

 

 二人の会話を笑って聞いていたクラスメートの一人――――もちろん女子――――が言う。

 

「二組のクラス代表が変わったらしいね」

 

「そうそう。たしか今度中国から転校してくる人らしいよ」

 

 転校生とはまた時期はずれな、と楓は思った。

 セシリアがいつもの腰に手をあてたポーズでフッフッ、と笑う。

 

「今更ながら、イギリスの代表候補生であるこのわたくしを危ぶんでの転入かしら」

 

「危ぶむもなにも、お前クラス代表じゃねえじゃん」

 

「なにか言いまして? 楓さん」

 

「ハッハッ、なんでもねえです」

 

 どうやら余計なことを言ったらしい。セシリアの後ろに憤怒という名の炎が見える。

 

「どんな奴なんだろ。強いのかな?」

 

 一夏としては純粋な興味から出た言葉だっただろう。しかし、彼を想っている箒、それとつい最近一夏を気にし始めているセシリアが顔をむっとさせる。何故ならこの学園にやってくるなら、それは間違いなく女の子に他ならないのだから。

 

「一夏、他人のことなど気にかけてる場合か」

 

「その通りですわ一夏さん。ですからわたくしと一緒に特訓を」

 

「なにを言っている一夏は私と!」

 

 ワーワーギャアギャアと最近見慣れた言い合いが始まる。

 こうなったら放っておくのが一番だというのが、一夏を除いたクラスメート達の結論であった。

 

「まあ楽勝だよ。なんたって一年で専用機持ってるのうちと四組だけだから」

 

「――――その情報古いよ」

 

 クラスメートの言葉に突然割り込んできた声。一斉に視線が向く。教室の扉に小柄なツインテールの少女が背中を預けて立っていた。

 少女は勝ち気そうなつり上がった目を開いて楓達を睥睨する。

 

「二組のクラス代表も専用機持ちになったから。そう簡単には優勝出来ないよ」

 

 突然やってくるなり宣戦布告する少女。そんな彼女の正体を想像していた楓達だったが、隣にいた一夏が突然立ち上がった。

 

「鈴……鈴か?」

 

 ニッ、と笑った少女は扉から背中を離す。そうして彼女は一夏へ指を突きつけた。

 

「そうよ。中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)。今日は宣戦布告にやってきたってわけ」

 

 あれがさっき話していた中国の代表候補生。なるほどこの時期にやってきていきなりクラス代表に収まるぐらいなのだ。大した自信っぷり。

 しかしそれよりも楓が気になるのが一夏との関係だ。

 

「なに、知り合い?」

 

「おお!」彼は嬉しそうに笑ってから「それにしても鈴、なに格好つけてるんだ。すっげー似合わないぞ」

 

「なあっ!? なんてこと言うのよアンタ!」

 

 鈴音はさっきまでの堂々とした立ち振舞から一転して、歯を剥き出して子供のようにがなった。

 いやにその姿がしっくりくるのは、きっとこちらが彼女の地なのだろう。

 そうして文句を言おうと思ったのか彼女は一夏に詰め寄ろうとして、その背後に立った人物を楓は見つけた。

 

「あ」

 

「ふぎゃ!?」

 

 楓の警告は間に合わず振り下ろされた拳骨。鈴音は涙目になりながら文句を言うべく振り返って、硬直した。

 

「もうSHRの時間だぞ」

 

「ち、千冬さん……」

 

 ガツン、と再び鉄拳が落ちる。

 

「織斑先生だ。そんなところに突っ立っているな。邪魔だ」

 

 一夏と知り合いならば千冬と彼女が知り合いなのも道理である。故に彼女は有無を言わさぬ千冬の言葉に、先ほどまでの強気っぷりを投げ捨てて素直に道を譲る。懸命だ。

 しかし今一度一夏を見ながら、

 

「また後で来るからね! 逃げないでよ一夏!」

 

「さっさと戻れ」

 

 千冬の一声に身を縮こまらせて一目散に逃げる鈴音。

 楓としてここで彼女が何者なのか一夏に訪ねたいところであるが、

 

(うん。今は席に戻ろう)

 

 大人しく席に戻る。

 しかし箒、セシリアを筆頭にクラスメート達が一斉に一夏に詰め寄って、案の定千冬の制裁に合う光景を彼は教室の後ろから眺めていた。

 

 今日も一日、平和である。

 

 

 

 

 

 

 ジリジリとつま先で距離を詰める。相手の呼吸を感じ取る。目を見つめ、同時に全体をぼぉーっと眺める。

 隙がない。呼吸も読めない。

 飛び込むタイミングが計れない。それでもこのまま睨み合ってるだけでは埒があかない。

 

「――――ふっ!」

 

 風を切るような短い吐息と共に突進。身を低く、突き上げるように右の掌底を喉へ。

 相手は体を半身にして紙一重の回避。

 ならばとこちらは体を回転させて、相手の背後から蹴りの強襲――――を考えていたのだが、空を切った右腕を取られる。

 気付けば足は地面を掴んでいなかった。優しく、鋭い足技は痛みを感じさせずに楓の足を刈った。

 後は為すがまま。体は半回転して楓は天上を見上げる形となった。

 

「これで私の八勝だ」

 

 そして楓の八敗目である。

 

 楓に勝利宣言したのは鋭い顔つきを嗜虐的に歪ませた千冬だった。その格好はいつもの黒スーツではなく、今は白と藍色の道着に包まれている。

 

 何故楓と千冬が道場で戦っているのか。

 それはいつもの放課後、箒とセシリアに引きずられるように連れてかれる一夏を生暖かい目で見送って、さて自分も訓練――――もとい《八咫烏》の慣らしをしようかとアリーナに向かっていたところ、偶然にも千冬に出会った。

 そこで、どうせなら千冬に訓練に付き合ってもらえないかと思い立ったのだ。

 といっても半分以上断られるのを覚悟したお願いだったのだが、なんの奇跡か彼女はそれを承諾。しかしISの訓練は楓に贔屓になるとして、ISを使わない運動となった。

 ついでに昼間の鈴音という少女についても尋ねたら、時間がもったいないから運動しながら教えてやると言われて今に至る。

 

 おそらく世界最強のIS操縦士。イコール世界最強の女である織斑千冬。

 彼女の強さはテレビで観て知っていたつもりだったが、甘かった。彼女はおそろしく強い。

 男である楓相手に一方的。それも彼女は、自分は片手を使わないというハンディまで勝手に課しながら戦っている。

 

 千冬自身、剣の達人であることは世界的にも有名だ。だからたとえ無手でも同じ武道である以上ある程度心得があるのは想像していたが。

 

 床を蹴って後転。勢いのまま立ち上がって拳を構えた。

 この試合にルールは無い。開始の合図もなければ終わりの合図もない。故に八敗というのは、正確には八回楓が投げられて床を転がったことを意味する。

 そのまま寝転がっていては追撃がある――――といっても彼女はしないだろうが――――あくまで実践的な模擬戦だ。

 

「……素手の勝負なら有利かと思ってたのに」

 

「馬鹿め。貴様等程度相手なら、素手でも剣でも大して変わらん。それに貴様は技が粗すぎる」

 

「へーへー。所詮我流の喧嘩格闘術ですよ」

 

 ぐうの音も出ない。事実その通りなのだろう。

 それでも自分の土俵で、そも女性相手にハンディ付きで打ち負かされるのは悔しいものだ。

 

「さて、どこまで話したかな」

 

 千冬はあくまで自然体。軽く足を開いてるだけで、構えらしい構えも取らずに相対する。

 それは余裕の現れか。はたまたこれが彼女の構えなのか。

 

「凰は以前あいつと同じ学校に通っていた。篠ノ之とは入れ違いでやってきた」

 

 だから箒は彼女を知らず、一夏と鈴音は知り合いだった。

 つまり彼女もまた幼なじみ。

 

「だが家庭の事情でな。中学のとき中国へ帰ったはずだ」

 

「家庭の事情?」

 

「そこまでは私も知らん。――――だが、そうか」彼女は呟くように「帰ってきたのか」

 

「なるほ――――どっ!」

 

 昔を思い出しているのか千冬の意識が一瞬逸れたのを感じて、不意打ち上等とばかりに踏み込む。

 今更男のプライドもへったくれもない。こうなれば一撃入れるか、あわよくばあの胸にタッチしなくては悔しくて夜眠れない。

 

 そんな邪な思いも、華麗な体捌きで躱され、そのまま前方に投げ捨てられる。顔面から床にダイブ。痛い。

 

「容赦なさすぎでしょ、織斑先生」

 

「今は先生でなくてもいいぞ?」獰猛な笑みを浮かべて「私にとっても今はあくまでプライベートで貴様をストレス発散に使っているからな」

 

「鬼か畜生!」

 

 打った鼻を涙目で擦りながら再び構える。

 

「こちらからも聞きたいことがある」

 

「はい?」

 

「貴様が束にISを貰ったのは聞いた。だが、ならば織斑やオルコットとの試合でも見せたあの戦闘経験はどこで積んだんだ?」

 

「ああ、そのこと。束の作ったゲームのおかげだよ」

 

「ゲーム?」

 

「その名も――――《天才束さんクエスト!》だって」

 

 千冬はなんとも言えない表情を浮かべていた。それも仕方ない。

 

 《天才束さんクエスト!》とは、つまりIS訓練用のシュミレーションプログラムだった。

 ステージは全部で百。難易度は数字が上がるほど上がっていき、一番最初のステージは動かない的を壊すといったゲームのチュートリアルのような代物だった。

 しかしさすがはあの天才が作ったもの。実際にはISを装着してただ突っ立てるだけなのだが、その体験は実戦とまるで遜色が無かった。しかも搭乗しているISの機能もそのまま反映されるので、まさに実戦さながらの戦いが畳一畳のスペースで出来る。

 各国の研究者、特に戦闘訓練のプログラムとして軍などは喉から手が出るほど魅力的なものだっただろう。

 

 実際に、楓は軍人としての戦闘訓練を積んだわけではないが、あのゲームをクリアするための試行錯誤がそのまま生きた経験として技術を、心得を現実の肉体にも刻んだ。

 

「なるほどな。貴様のその強さはそのゲームによって培われたのか」

 

 千冬は一旦言葉を切って、

 

「貴様はそれを全てクリアしたのか?」

 

「まさか。たしかレベル八十七辺りで詰んだ」

 

 思い出すだけで怖ろしい。秒間約五百発の馬鹿げた数字を叩き出すビーム兵器で弾幕を張る固定砲台タイプのISに、それを守る亀のような見た目の重武装タイプのISのタッグ。

 装甲が薄い、つまりは防御力の低い《八咫烏》にとって防御手段は回避が基本。もはや壁に近い弾幕は相性最悪だったし、運良く接近出来ても、《八咫烏》の軽い打撃では分厚い多重装甲を貫けずそのまま蜂の巣。まさに天敵のタッグだった。

 果たして、あのゲームのレベル百とは一体どんな化け物が出てくるのか。

 

「さあもう一本だ」

 

「うわー笑顔が怖い」

 

 くい、っと手を招く千冬。

 きっとレベル百は目の前の最強のような人物だったに違いない。




閲覧ありがとうございましたー

>何故か出張帰り一発目がこっちになってしまいました。何故だろうか。特に理由がないので考えるのをやめます。

>ってなわけで、鈴編スタート。私にとってヒロイン組で二番目に好きな子ですねえ。でも彼女の章なのに出番が少なかったような?……あれ?
ちなみに一番はラウラです。銀髪って可愛い!

>楓は箒とか鈴派(教え方)
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