【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

8 / 45
二話

 天空を白が駆ける。それを追うのは随所に黒いカラーが混じった赤い機体。両肩の浮遊型装備が特徴のISだった。

 白は言わずもがな《白式》。搭乗者は一夏。

 そして、赤と黒の機体の名は《甲龍(シェンロン)》。中国の第三世代。つまりその搭乗者は一夏の二人目の幼なじみ――――鈴音だった。

 

 遂に始まった学年別トーナメント。我等が一年一組代表、織斑 一夏はなんという縁の深さか、因縁のある鈴音と初戦からぶつかることとなったのだった。

 

「あいつも悉く運が無いよなぁ」

 

 きっと一夏には常に女難の相でも出ているに違いない。

 しかし考えてみるとそれは、常に女子に囲まれていなければ起こりえないことだ。何故なら端から女に縁が無い者には女難の相など出るはずもないのだから。

 

「あ、なんかむかついてきた。ざまあみろ落ちちまえ」

 

 醜い嫉妬だとわかっていながら天空を逃げまわる一夏へ暴言を吐き捨てる。

 

「……貴様今、よからぬことを口走らなかったか?」

 

 むっと眉をひそめた箒の刃のように鋭い視線がこちらを射抜いていた。とても怖い。

 楓は両手を挙げて無抵抗をアピールしつつ首を横に振る。

 どうにか納得してくれたのか、箒は『それならいい』と言って再び上を見上げる。

 

 ほっと息をつきながら、楓も再び空の戦いを見上げた。

 戦いは終始鈴音が優勢だ。他の代表候補生に比べれば彼女は代表候補生になってから日が浅いらしいが、操縦技術もさることながら、とにかく間合いの取り方が上手い。

 彼女の武器は大型の青龍刀。《白式》の雪片より間合いが広く、中々一夏に懐に入らせない。刀しか武器の無い一夏にとって、間合いが詰められなければ一方的に嬲られるしか道はない。そしてそれ以上に一夏の踏み込みを鈍らせているのが、《甲龍》の肩に装着された浮遊装備である。

 

「龍咆ねえ」

 

「空間に圧力をかけて撃ちだす衝撃砲。砲身がありませんので射角は無限。それに砲弾も、あくまで衝撃に過ぎませんので目で見ることは不可能ですわ」

 

 呟きが聞こえたのか、セシリアが空の戦いを見守りながら説明する。

 

「それにあの中国の第三世代は、第三世代型の欠点でもある燃費の悪さと不安定な性能を改善した機体と聞いています」

 

「つまり長期戦は不利ってことか」

 

 コクリと彼女は頷く。

 

 確かに機体は優秀だ。しかしやはり、それを使いこなす鈴音の実力が高い。

 いくら適正が高かったとはいえ、短期間であれほど見事に操るのは類稀なる才能と確かな努力があったからこそであろう。

 それもこれも想い人が、一夏が、IS学園にいると知ったから。

 彼女だけではない。楓はアリーナの最前列に腰を下ろしているが、さらに前ではステージを包むバリアに張り付くように立って観戦する箒とセシリアがいる。彼女達もまた、一夏を想って今ここにいる。

 

 その姿は眩しくて、愛おしくて、特に彼女達に恋愛感情を持っていない楓だが軽い殺意を覚えるほどに甲斐甲斐しい。

 

「……果報者め」

 

「さっきからなにをぶつぶつ言っているのだ?」

 

 再び彼女は振り返るが、今度も聞こえていなかったようだ。

 そんな彼女へ楓は指で上を示して教えてやる。

 

「なんでも。――――それより、ピンチだぞ」

 

「――――ッ! 一夏!!」

 

 遂に龍咆に捉えられた《白式》が錐揉しながら落下する。だがなんとか体勢を立て直した。

 再び対峙する二人。僅かに、一夏が間合いを取ろうと考えたのか下がった。

 

 苛立ちが募る。

 実は観客側としてここにくるのは初めての楓。友人の戦いをただ見ていることがこうもじれったいものだとは思わなかった。

 また一歩《白式》が下がる。

 苛立ちが頂点に達した。

 

「そうじゃないだろうが馬鹿!」

 

 思わず叫んだ楓。周りの生徒も、箒やセシリアも驚いていたが目に入らない。

 ここからでは一夏に聞こえないのは承知。それでも叫ばずにはいられない。これほどまで想ってくれる女の子達がいるのだ。無様であるなど誰が許しても許さない。

 

 操作技術は鈴音が上。武器の間合いも。たとえ長期戦に持ち込んでも不利になるのは一夏の方だ。

 なら、やることはたった一つだけ。

 

「退いてどうする!? 今退いたら、戦う場所を失うぞ!」

 

 声が届いたとは思えない。それでも、一夏自身の本能か、それとも破れかぶれの偶然か、彼は後退を踏み止まる。そうして一転、真っ直ぐ突っ込んだ。

 迎撃に《甲龍》の衝撃砲が放たれる。しかしそれは眼前にかざした雪片によって弾かれた。

 

「それだそれ!」

 

 たとえ弾が見えなくとも軌道は直線のみ。そしてたとえ射角が無限でも、砲身が無限にあるわけではない。一度に撃ってくる弾は一つか二つ。下手に躱そうとするより真っ直ぐ行った方が被弾は少ない。

 見る者が見れば偶然上手くいっただけだと言うだろう。それでも、勇気を振り絞って前に踏み出したからこそ見えた光明だ。

 

「男は黙って正面突破だ! そんで派手に撃墜されちまえ! 爆散しろ!」

 

「お前応援してるんじゃなかったのか!?」

 

 ふと湧いた本音が思わずダダ漏れとなり、箒にツッコミを受けるが聞き流している間に戦況が動いた。

 龍砲の再チャージに一瞬焦りを見せた鈴音。一夏はここを好機と睨み奥の手を出すことを決めたようだった。だが、

 

 ――――突如落ちてきた光の柱がステージを諸共吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

「なによ、これ……」

 

 鈴音は爆煙の向こうを見つめる。

 思わぬ一夏の反撃に戦況が傾きかけたその瞬間、ステージ中央が突然吹き飛んだ。一夏の攻撃が逸れたわけでも、無論彼女が何かしたわけでもない。

 なら残る可能性は、第三者の介入。

 

 しかし、あり得るのだろうか?

 学園の周囲は常に厳重な監視体制が敷かれており、このアリーナには遮断シールドが展開されていたはずだ。それらを掻い潜りここに襲撃を仕掛ける者など――――否、仕掛けられる者など(・・・・・・・・・)いるのか。

 

「っ!」

 

 鈴音は唇を噛み締めISを操作。通信をオープンチャネルに切り替える。

 

「一夏! 試合は中止よ今すぐ逃げなさい」

 

 彼女にとって、この騒ぎを起こした者のことなどどうでもいい。これほどの騒ぎだ。すぐに優秀な教員達がやってきてくれるはず。

 けれどそれには今少し時間がいるだろう。観客の避難を同時に行っているはずだからだ。

 ならば気にかけるべきは、この戦場に場違いに突っ立っている彼だけだ。

 

 案の定、逃げろと声をかけた向こうは戸惑ったように声を返してきた。

 

「逃げろって……お前はどうするんだよ!?」

 

「アタシが時間を稼ぐから逃げなさいって言ってんの!」

 

「そんなことっ……! 女を置いて、鈴を置いてそんなこと出来るわけないだろ!」

 

 ああ、まったく。

 

 鈴音は微かに笑い、その頬を染める。

 無自覚に気障なセリフを吐くのは相変わらずだ。

 それでも今はその言葉に甘えるわけにはいかない。自分は代表候補生で、一夏はまだISに乗って日が浅いひよっ子なのだから。

 自分が守らなくてはいけない。

 

「別にアタシも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、すぐに先生達が駆けつけて――――」

 

「危ない鈴!」

 

 黒煙を斬り裂く光が鈴音の眼前に迫る。

 いち早くその攻撃に気付いた一夏が問答無用で鈴音を抱き抱えて緊急回避。しかし第二射。三射とすかさず黒煙の中からビームが放たれる。

 

(躱しきれない……!)

 

 せめて鈴音だけでも、と庇うように強く彼女を抱き締める。

 二人に襲いかかったビームは、しかしその寸前で何かに阻まれて霧散した。

 

 ビームを防いだのは菱型の黒色の板だった。

 

「真打ちは遅れてやってくるんだったよな、一夏」

 

 遅れて、二人の前に立つ長身痩躯のIS。

 

 御堂 楓。参戦。




閲覧どもでしたー

>てなわけで鈴編二話です。
かなーり早い展開で無人機突入していますねえ。それってつまり鈴ちゃんの出番が少なく……いや、みなまで言うまい。

まま、次回は楓君の初まともなバトルになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。