【未完終了】インフィニット・ストラトス ━風穿つ者━   作:針鼠

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三話

 一夏達を狙ったビームをシールドビットを操って防いだ楓はステージ中央にいる彼等の傍らへ降り立つ。その間も黒煙に揺らぐ、敵らしきシルエットへ警戒を続ける。

 

「楓!」

 

 喜々と弾んだ友人の声。

 こそばゆさを感じながら、とりあえず教えておいてやる。

 

「一夏、いい加減離してやれ。窒息死するぞ」

 

「へ?」

 

 キョトン、としながら彼は己を胸元でもがく存在にようやく気付いた。慌てて抱きしめていた腕をゆるめる。

 

「ぶはっ!」

 

「わ、悪い鈴」

 

 ぜーはー、と呼吸を荒らげる鈴音。その顔が赤い理由は、呼吸困難ともう一つの理由だろう。

 

「アンタ殺す気!?」歯を剥き出して一夏に一発パンチをくれてから、彼女は楓の存在に気付き「ていうか、アンタ誰よ」

 

「自己紹介したいところだけど、今はそんな余裕ないから後でな、チビ子」

 

「チッ……!? こ、殺すわ」

 

「待て待て鈴!」

 

 煽っておきながらワーギャーと喚く二人を放置して、楓はようやく晴れてきた黒煙のシルエットを視界に捉える。

 それは言うなれば異形だった。

 異様に大きな腕には人間でいう筋繊維のように太いホースが幾重も伸びていて、他にもいくつもパーツが露出した無骨過ぎる造形。極めつけはフルスキン。その頭部には禍々しく赤い光を放つ五つ目が付いている。

 それでも、それは間違いなくISだった。

 

 楓は鉄の塊にしか見えないISへオープンチャネルを飛ばす。

 

「そこのお前、目的はなんだ。ここがどこだかわかってんのか?」

 

 返答は腕部に装着されたビームの攻撃だった。

 一夏は鈴音を抱えたまま、楓は一人でそれぞれ回避する。

 

「問答無用かよ!」

 

 友好的に話し合いが通じるとも思っていなかったが、まさかこの状況でも話し合いにすらならないとは。

 

「セシリアと同じビーム兵器……」

 

「同じじゃねえよ」

 

 一夏の呟きを否定して、目の前に先ほど敵の攻撃を受け止めたビットを見せてやる。それは見るも無残にボロボロだった。

 

「セシリアより威力は上だ」

 

 クラス代表を決めたあの試合で、幾度もセシリアの攻撃を防いでいたシールドビットがたった一発でこの有り様。

 敵の力を改めて知った一夏は喉を鳴らし、尋ねてくる。

 

「先生達は?」

 

「そろそろ来てもおかしくないはずだけどなぁ。来ないってことは、来れない理由があるんだろ」

 

 実際、先程から副担任の真耶が切羽詰まった声で呼びかけてきている。

 

「ならアンタはどうやってここまで来たのよ」

 

 ようやく一夏の腕から解放された鈴音は胡散臭そうな目で睨みながら訊いてくる。

 楓は上を指差して、

 

「あのISがぶち破ったところから」

 

 指し示した場所はすでにシールドは復元している。あそこから教員達が突入、もしくは脱出というのは無理そうだ。

 

「でだ、どうする?」

 

 楓は二人に尋ねた。

 逃走は不可。敵はやる気。

 ならば答えは決まっている。

 

「俺達で時間を稼ごう」

 

 勇ましく一夏が答えると、鈴音は呆れたようにため息を吐き出す。

 

「元々そのつもりだったんだしね。もちろんアンタも手伝いなさいよ、ひょろ長(・・・・)

 

「当然。ここで活躍すれば学園でのイメージアップ間違いなし!」

 

「馬鹿じゃないの。アンタの戦闘スタイルは?」

 

「男は近接一本だろ」

 

「訂正。アンタは正真正銘馬鹿ね」鈴音は冷たくあしらい「ならアタシが援護するわ。馬鹿二人は突っ込みなさい」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 やや後方から五つ目のISを龍咆で牽制しながら、鈴音は先ほど現れた楓について考えていた。

 今戦っているISも異形だが、彼のISも充分異形だ。

 機械鎧であるISにしてはあまりにも脆弱そうな装甲。しかも本人の話では武器は無し。装備はシールドビットのみで、スタイルは近接戦一本だという。

 しかし、彼が救援として現れたときの一夏の声は紛れもない安堵が窺えた。つまりそれだけ楓の力を信頼しているということだ。

 その答えは、戦闘が始まってすぐに彼女も理解出来た。

 

「速い……!」

 

 飛び出したのは一夏とほぼ同時。それなのに、一夏が敵との距離を半分埋める内に楓はすでに接敵していた。

 

 洗練さなど欠片もない乱暴に繰り出された拳。敵の巨大な腕に防がれるとすぐさま体を反転させて蹴りを放つ。

 それすら予測していた敵はもう片方の腕で防ぎにかかるが、突如楓の蹴りの軌道が不自然に曲がる。頭部を狙っていたはずの蹴りは魔法のように敵の腹部を蹴り上げた。

 

 しかし敵にダメージは見えない。まるで作業のように、淡々と振り上げられた鋭い爪を振り下ろす。

 楓は冷静に腕を受け流す。攻撃と比べて防御は舞いのような美しさすら感じた。

 

 そこでようやく一夏が追いつく。

 エネルギー無効化攻撃の《零落白夜》を発動させた刀を振り下ろす。

 

「…………」

 

 敵は過敏にそれを察知すると即座に大きく回避行動を取る。

 

「ちっ!」

 

 悔しそうに顔を歪める一夏。

 

「そう簡単に逃がすかよ!」

 

 すかさずそれを追う楓に向けて五つ目のISは腕部のビームを射出。

 このビームの威力は脅威だ。先ほど、楓のシールドビットをたった一撃で破損させている。

 しかし楓が取った行動は回避ではなく、周囲に展開していたビットを正面に回す。それもたった一基。

 

「やりようはあるんだよ!」

 

 シールドビットはビームを防ぎ、尚、半壊未満に抑えていた。正確には防いだのではない。受け流した。

 正面から受けるのではなく、ビットを微妙に調節してビームを逸らしたのだ。

 

(強い……)

 

 素直に鈴音は認める。

 あのISの異常な速度もさることながら、ビットの精密な制御。何より攻撃時の荒っぽさに比べて、彼の動きは自分とは比べ物にならないほど滑らかだった。正しくISを生身の如く操っている。

 一体どれほどの時間を経ればあれほど自在にISを操れるようになるのか。

 

 芽生えた僅かな尊敬と悔しさ。

 しかしあの男は自分を『チビ子』と罵った。故に絶対この気持ちは口に出してやらない。

 そう固く決意しながら、鈴音は衝撃砲を放った。

 

 

 

 

 

 

(妙だ)

 

 幾度目かわからない攻防を終えて、敵の牽制射撃を躱しながら後退する楓はその違和感に眉をひそめていた。

 

「一夏馬鹿! ちゃんと狙いなさいよ!」

 

 後方から衝撃砲で敵を押さえながら鈴音ががなる。

 楓達の作戦は当初の大雑把な作戦から少しだけ形を変えていた。

 まず機動力に優れる楓が敵を撹乱。鈴音の援護を混じえながら敵の動きを止めて、そこで一撃必殺の威力を持つ一夏の《白式》が決める。――――のだが、どうにも最後の一撃が決まらない。今のはちょうど四度目の失敗だ。

 

 しかしそれも実は仕方がない。理由はわからないが、敵のISはどうにも《白式》の攻撃を最優先で対処している。たとえ楓の攻撃や鈴音の衝撃砲を受けようとも、決して《零落白夜》にだけは当たらないよう躱している。

 

「狙ってるつうの!」

 

 怒鳴り返す一夏。誰よりも彼自身が己の不甲斐なさに頭にきている。

 

 二人が噛みつき合っている間にも、懐へ潜り込んだ楓の当て身が五つ目を吹き飛ばす。その感触に(・・・)、やはり楓は顔を歪めた。

 

(やっぱり、手応えが無い)

 

 弱い、というわけではない。文字通り手応えが無い。

 疑問を胸に抱きながら好機とばかりに追い打ちを仕掛ける楓。完全に頭部を捉えたと思った拳を、敵はブリッジのように身を折り曲げて躱す。それどころかそのまま背中から四つん這いになって駆動している。

 

「んなのありかよっ!?」

 

 あまりにも無茶苦茶な駆動。あれでは中の人間もただでは済まないはずだ。

 だというのに、敵は平然と体勢を立て直して、どころか攻撃を放ってきた。

 

 大きく空振りさせられた体勢の楓はビット二基で防ぐ。その間にブースター代わりの風を前に向けて放出。瞬く間に敵との距離を開けて離脱した。

 呼び戻したビットは半壊。すでにここまでの攻防で半分以上がおシャカにされていた。

 

「ったくどうすんのよ!」

 

 通信向こうから鈴音の声が届いた。

 

「なにか作戦がなきゃ、アイツには勝てないわよ!」

 

 代表候補生とはいえ彼女も人間。それもまだ十代の女の子だ。

 敵の力を目の当たりにして、みるみる自分達が追い詰められていくことに焦りを覚え、そして本人は自覚していなくとも恐怖が顔を見せてきたのだろう。

 

「逃げたきゃ逃げてもいいぜ、鈴」

 

 そんな彼女へ一夏は言う。

 

「誰が逃げるっていうのよ! これでもアタシは代表候補生なのよ」

 

「そうか、なら――――」

 

 一夏は彼女と背を合わせる形になる。

 

「俺も、お前の背中ぐらいは守ってみせる」

 

「へ?」

 

 鈴音の頬が瞬時に赤く染まる。

 

「あ、ありが――――」

 

「おーい、危ないぞー」

 

「え? ――――ひゃ!?」

 

 鈴音の鼻先をビームがかする。

 

「ちっ、当たっちまえばいいものを」

 

「あ、アンタ!」

 

「あーもー、そういうことはせめてプライベートチャネルで勝手にお願いしますよ。お二人さん」

 

「くっ!!」

 

「?」

 

 わかっているからこそ今のやりとりの羞恥心から益々赤くなる鈴音。

 そしてなにもわかっていない一夏。

 こんな状況なのに、空気を読んで端っこで大人しくしていた方がいいのではないかと本気で考え始める楓。

 

 まあしかし、大した男だと楓は内心思っていた。折れかけていた鈴音の心がいつの間にか持ち直している。

 無自覚だろうがなんだろうが、織斑 一夏という少年にはそういう力がある。

 事実楓自身も、彼に無根拠な信頼寄せている。だからこそ何度失敗していても、彼の攻撃を信じて足止めに徹しているのだから。

 

「まあ漫才はこれくらいにして――――実際どうする?」

 

 楓は二人に問う。

 敵の攻撃は主に二種類。接近戦ではあの大きな腕を振り回すだけだが、厄介なのは両腕と両肩から放たれる強力なビーム兵器。

 仮に消耗戦に持ち込んでも、先に《白式》と《甲龍》のエネルギーが底をつくだろう。

 

「なあ」不意に一夏が聞いてきた「あれって、本当に人が乗ってるのか?」

 

「はあ?」

 

 鈴音が呆れたような声をあげる。

 

「人が乗らなきゃISが動くわけないでしょう」

 

 確かに敵は未だ無言のまま。フルフェイスなので搭乗者の顔は確認出来ない。しかし、それでも、ISは人が乗って初めて動く。あくまであれはそういう機械なのだ。

 

「いや、無人だ」

 

「はあ!?」

 

 それを楓はあっさり肯定した。

 

「何度かあいつを殴ってわかった。あれに人は乗ってない」

 

 それが違和感の正体。あの手応えの無さ、そしていくら攻撃を与えてもまるで動じない動き。無人ならば、あの無茶苦茶な駆動も理解出来る。

 

「たとえあれが本当に無人機だとしてもどうだっていうの? 無人機なら勝てるっていうの?」

 

「ああ」一夏は迷わず応えた「人が乗ってないなら、容赦なく全力で攻撃出来る」

 

 《零落白夜》。エネルギー無効化攻撃であるそれは、搭乗者の安全をほぼ補っているバリアすら打ち破る強力過ぎるアビリティー。故に一夏は常に八分程度に抑えて能力を使用している。そうでなければあの刀は、シールを超えて、搭乗者そのものに傷を負わせかねない。

 しかし相手が無人機ならば、気兼ねなく力を解放出来る。

 

「全力だかなんだか知らないけど……その攻撃自体当たらないじゃない」

 

「次は当てる」

 

「言ったな一夏。男に二言は?」

 

「無い!」

 

 上等、と楓は笑う。

 

「一夏、チビ子、残りのエネルギーは?」

 

「もうあんまり残ってないわ」

 

「俺もあと一発が限界だ」

 

 二人が答える。

 

 それも仕方がない。彼等は直前まで代表戦を戦っていたのだ。

 ならば自分の役割は自ずと決まっている。

 

「なら二人で、確実にあいつに攻撃を当てる作戦を考えろ。時間稼ぎは俺一人でやる」

 

「一人って……!」

 

「わかった」

 

 反論しようとした鈴音だったが、一夏は素直に頷いた。

 これぞ男のみぞ知る男の友情というやつだろうか。

 

「ああもう! わかったわよ!」

 

 渋々と、鈴音も了承した。

 

 楓は周囲に四基のビットを展開させつつ、地面を蹴った。




閲覧&感想ありがとうございます!

>明日……つか今日仕事だけどなんか筆が進んだのであっさり次話更新!皆様は三連休楽しんでくだされー。

>主人公強いのは書いてて爽快だなぁ、としみじみ思います。だからこそ受け付けない人の気持ちもわかりますが……自分は努力成長型も最初から強いのも大好きです!
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