World High school 〜CROSS〜 作:火神零次
活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。
異変調査、二日目。
ムラクモは一人、森の中へと入っていった。
爛たちは情報収集のために人里へと入り込む。
二手に別れての行動を見ていた者たちがいた。
「まさか、共にいる者が居るとはな」
男は意外だと思いながらも、その目線は爛と翔に向けられていた。表情には何も出ていないが、何処か懐かしげに見つめている。
暫くして、呆れたような表情をした。
「ふん……あれが『変異優性因子』を持っているとは到底思えないがな」
男はそう吐き捨てながら、森の奥へと消えていく。
──────────────────────
森の中へと向かっていったムラクモは、目的としている者を探していた。とてつもなく異質な気配を感じ、翔と同じようなものを感じさせている少女を見つけるために、ムラクモは森の奥へ奥へと歩んでいく。
「………それにしても………」
不可解な点が多くある。先日、尾行していた者たちはこの世界にいる者たちではない。時空間を行き来することが出来る技術は既にあるものの、易々とは技術を提供されるものではない。
だとすれば……一体誰が手引きしている?
嫌な予感を胸に抱えながら、何もない空間のところで足を止めるムラクモ。
「……彼のよりはとても分かりやすいな」
手を伸ばした先に、見えない何かに当たる。異変調査中に出会ったオルフェウスの見えない壁と比べると、目の前にあるのはとても分かりやすいものだった。
「この類いはあれか」
腰を落とし、左手を握り、拳を作る。手首、平、指、指先、そして全てを繋げる骨の一本一本に、神経をむき出しにするかのように左手に集中する。
「………………………………」
力を一点に集中し、拳を突き出す。
「ハァ!」
一瞬にして突き破り、何事も無かったかのようにその中に入っていく。
突き破ったムラクモは、手応えの無さに呆れた。
「これが爛とかだったらすぐに見破ってんだろうな。結界だってのに、どんだけ脆いんだよ」
ったく……と愚痴を溢しながら、歩いていくムラクモに、危険が迫っていた。
「にしても、これが忍の結界てわけなんで。別の意味で当たりを……」
迫り来る危険に気づいていたムラクモは、右腰につけられているホルダーから銃を引き抜き、迫ってきている危険に銃口を向け、引き金を引く。
───カキン!
弾かれた音が聞こえる。迫り来る危険という名の気配は、スピードに乗って此方に迫っている。
次の手を打つムラクモは、何もないところから、人よりも大きいハンマーを手に取る。
ムラクモは目を閉じ、気配が目の前に来た瞬間に───
「引いちまったかも知れねぇなぁ!!」
逆袈裟斬りの要領でハンマーを振り上げ、迫ってきた気配を弾く。しかし、吹っ飛んだとは言いきれるものではなく、固いものに阻まれたのは、手に伝わってきた手応えですぐに分かった。
「……にしても」
振り上げたハンマーを担ぎ、迫ってきた気配を確認するために、ムラクモは視線を向けた。弾いた際に、一瞬だけ見えたため、何となくではあったものの、誰なのかは分かっていた。
だがそれは、ムラクモにとっては少々、意外だったのだ。
目の前にいるのは、大剣を持ち、金髪の少女が、物凄い形相で此方を見つめているのを見ると、ムラクモは苦笑せずにはいられない。
言葉にするのは、嘘でもない。ムラクモが感じたものだった。
「こんなにも可憐なのに、んな物騒なもん持ってんだな……」
「これが私のスタイルです」
少女はキッパリと言い、仕掛けるために踏み込み、ムラクモのとの間合いを詰めるために駆けた。
「ッ!!??」
否、駆けようとした。
喉元に迫る剣気に、少女は足を止める。勘や培ってきた戦いの第六感というわけでもないだろう。
「その踏み込みは無謀すぎる」
ムラクモの冷静な一言が、森の中に響く。誰よりも強く有らねばならないムラクモの言葉は的確だった。
「ったく……容赦しなくていいんだったら、その首が飛んでるぜ」
呆れた表情をしたムラクモは、少女に向かって歩き始める。
彼を行かせてはならないことは少女はよく分かっている。あれだけの剣気を向けられたのだ。戦いの場に居る者であれば、すぐに気づく。
しかし、止められない。一瞬の出来事の筈なのに、思い出せば出すほど、鮮明に、その時だけを遅く感じる。
少女はムラクモに、恐怖を根底に植え付けられた。
冷や汗が額を流れ、息が荒くなる。
そのような状態の少女の肩に、ムラクモは手を乗せた。
「ま、恐怖は克服するもんだ。まだまだ伸びることができる者を摘むことはしないさ」
ムラクモはその一言だけを残して、少女の横を通った。
完全に剣気を向けられなくなると、少女はぺたんと座り込んでしまった。
ムラクモの剣気に呑まれ、自分が弱いということを見せつけられた。
そして、考えたくもない展開が頭の中に浮かび上がる。
もしあの男が、無闇矢鱈に力を振るうことになれば……ただでは済まないと。
仲間に、知らせなければ。
──────────────────────
気配を頼りに、ムラクモは歩みを進める。
狙いに来た忍たちに、気になることはある。
それもあるが、友の頼みもやらなければならない。
調査を始める前、爛に頼まれたことがあった。
『できれば、傷つけることは止めてくれ』
あいつが悲しむ、と釘を刺された。頼まれたからにはやるが、傷つけるな。というのは無理がないかと思うが、相手は少女たち。
他でもないムラクモ自身、必要のない戦いは避けたい。
洞窟の穴を前に、ムラクモは足を止める。
探している少女たちは居るのか。
居なかったら居なかったらで考えなければならないが、今はどうにかして傷つけないようにしないといけない。
平和的解決ができるのであれば、それは大いに助かることだ。無駄な手間は省いておきたい。
「平和的解決をしたい。と、言いたいところだが───」
目の前の洞窟の穴から男が出てきた。
どうやら敵対視しているようだ。
上手くいくわけはないかと、溜め息をついた。
「ここに何のようだ?」
男が尋ねてきた。その視線は鋭い。此方の考えていることは分かっていると考えていいだろう。
それであれば、此方も隠す必要などない。
元より、簡単には終わらないだろうとは分かっていたのだから。
「三人の少女に用があってだ。できれば、攻撃も何もしたくない」
一番いいのは、戦わないことだ。どちらも消耗をしない。平和的解決が一番だということはムラクモ自身も心得ている。
無意味なことをしたがらないのは、ここから来ているといってもいい。
「『詠』はどうした」
言葉が冷たく感じる。だが、言葉自体は冷たくはない。しかし、男がその言葉に含んでいる感情が、とても冷たい。だからこそ、言葉が冷たいと思うのだろう。
はて、詠とは一体誰のことを指しているのか。思い当たるのは金髪の少女のことぐらいだ。どうやら、結界を壊したときに、いち早く此方に飛んできたのを知っているのか。
「あぁ、あの可憐で大剣を担いでいる金髪の少女のことか? それだったら適当にあしらっておいた。後は、傷はひとつもつけてはいない」
敵だというのに、傷をつけないのは可笑しいだろう。しかし、ムラクモの言ったことに嘘など何もない。
疑いの念を未だに持ちつつも、男はもうひとつの質問をぶつけてくる。
「どうしてここだと分かった?」
「……ちっぽけなものだな。気配を頼りにしていけば、すぐに分かる」
男の質問に、ムラクモは呆れた表情をしながら、答えを返す。
爛の記憶から勝手に見たものを思い出す。悟られないように記憶を覗くのは面倒だが、爛の記憶は役に立つ。その事はよく分かっている。それを探れば、すぐに分かることだった。目の前にいる男が、爛と関わりを持っていることを。
「お前が『光牙』だな?」
光牙、そう呼ばれた男は眉をひそめた。
何故、この男が名前を知っているのか。それは分からない。分からないが、あるとすれば……そんなことは考えたくもなかったが、あり得る話ではある。
「何故、お前が俺の名前を知っている」
俺の名前。そう言った光牙は、質問と同時に、ムラクモの質問に肯定したということになる。
独自の情報網から入手している情報が正しければ、光牙は『秘立蛇女子学園』と呼ばれる忍の育成校に入っており、わけあって抜忍となった。それからは『焔紅蓮竜隊』の一人となった。
「答えるまでもないだろう?」
勿体ぶった言い方をしているが、光牙も既に分かっていた。余り考えたくもなかったことだが、間違いではないだろう。
「……爛か」
「ご名答」
光牙が言った名前に、ムラクモは頷いた。
彼が爛のことを知っているというのは、ムラクモも知っている。
爛が繋がっているとは思ってもみなかった。確かに、爛の情報網の広さには舌を巻く程だ。
それ故に、どのように繋がっているのかは分からなかった。
だが、標的としているムラクモと爛が繋がっているのには、少し疑問があるものの、納得してしまう部分があるのも間違いではない。
事前の情報を爛から受け取っているのだ。それも、詳しく書かれていた。その事に、爛に信頼を寄せているものの、敵になれば強大な敵になることは間違いなかった。
機密情報でさえ抜き取ることができる爛に、情報戦では負けることは確実だろう。
「……やはり、あれは爛だったのか……」
二手に別れていたその時に、見ていたのは間違いなく爛だった。
なら、自分たちがここに来ているのも爛にバレているのではないのか。
「通してくれないか? ここで立ち往生をしていたくはないからな」
光牙を置いて進もうと、足を前に出した瞬間、ムラクモの眉間に迫る一撃が放たれる。その一撃は、戦いに馴れている者でも反応ができず、そのまま貫かれるだろう。
相手の油断をつき、致命傷となる一撃を与える。
だがそれは、化物と例えた方が早いムラクモの前では───
「おっと」
「ッ!!??」
防がれた?
いや違う。眉間に迫る一撃の光の矢は、これ以上にないほど完璧なタイミングだった。
しかし、今、目の前で起きた現象を言葉にするのなら、光の矢は、
消えていった。
というのが一番正しいだろう。
余りにも受け入れ難いものを見た光牙は、唖然とした。
「ん?」
微かに聞こえてくる足音に、ムラクモが反応をする。耳を澄ましてみれば、三人ほどの足音が洞窟の方から聞こえてくる。
その事実に、光牙は動揺を隠すことができない。中に居るのが誰なのか、それを知っているからこそ、来てほしくなかった。
ムラクモと光牙のところに来たのは、ムラクモが探していた少女たちだった。