World High school 〜CROSS〜 作:火神零次
活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。
「……ねぇ」
「ん?」
森の中を歩くムラクモたち。
特に警戒をすることもなく、前を歩くムラクモに声をかける。
「本当にショウに会えるの?」
「そこまで信用されてないかね……」
疑いの視線をムラクモにぶつけながら尋ねると、彼は苦笑を浮かべてぼやいた。
「ま、んなことはいいか。……会えるとも」
「………………そう」
間が空いて言ってきたので肩を竦める。
「─────────」
ムラクモの足が止まる。
右腰につけられているホルダーに籠められている銃を手に取る。警戒の色を明らかにしたムラクモを見た三人は、同じように周りを警戒する。
「!」
何かを見つけたムラクモが、見つけた方向に銃口を向け、引き金を引いた。銃口から火を噴いて銃弾が発射され、木に着弾する。
「チッ」
思うように行かなかったのか。舌打ちをしたムラクモは、銃を連射する。連射をしている最中、ムラクモは三人の耳に届くように大声で言った。
「先に行け! このまま真っ直ぐいけば目的地だ! 嬉しいことに、これはお前たちに関係のねぇもんで、俺だけに関係のあるもんだ! 俺が殿を務めてやっから、走ってこの森を抜けろ!」
「そんなこと言ったって……!」
「良いから行け! 死にたくねぇならな!」
皮肉混じりに先に行くように言い放つ。ムラクモに指示され、真っ直ぐ森を抜けるように琉綺たちは走り出す。
先に行った琉綺たちを追うように気配が動く。
「おっと」
しかし、ムラクモはそれを許すことはなく、銃の引き金を引き、先に行かせようとはしない。
「こっから先は通行止めだ。出直してきな」
琉綺たちを追いかけることが出来る最短のルートを潰すように立ち塞がる。
ムラクモは動き回る気配の位置を常に感じ取っている。彼女たちの邪魔をするように動くのであれば、即刻、首を跳ねて殺すつもりだ。
何故なら、ムラクモにとって、彼女たちは必要だからだ。何しろ、翔との関わりがある。彼が『アレ』を引き起こさないようにするためには、彼女たちが居なければ困るのだ。
「悪いが、彼女たちを易々と引き渡すわけにゃ行かねぇんだわ。どういう用途で彼女たちを使うのかは知ったこっちゃねぇが、内にあるものがどれだけのものなのかは知ってるんでね。お前さんの手に渡ると大変なんだわ。なぁ?」
ムラクモは期待していた。琉綺たちを追うものが誰なのか分かっていたから。この異変と、そして『彼女』と関わっているのだから、期待せずにはいられない。
今回はどんな選択をしてくれるのだろうかと、毎日が楽しみの連続だ。暇な時間があれば、誰かの選択を見る。何てことを前はしてたものだが、今はめっきりしなくなった。
その楽しみを埋めて、更なるものを見せてくれる者たちが集まっているからだ。例え、一日中、暇だろうが次の日は楽しくなる。
あいつらを見てると、此方も楽しくなるからな。
だからこそ、お前にも期待をしているんだよ───
「オルフェウス」
彼の前に立ち塞がる。
彼はムラクモの前で立ち止まった。彼からしたら意外だろう。狙っていた彼女たちに関わっていたのだから。
「そこを退け」
オルフェウスは威圧するように言った。急いでいるということを隠そうとしているように見える。オルフェウスにとって、外にいるのは何かしら理由があってだろう。急いでいるところを見る限り、長時間、外にいる理由は彼にはないはず。あるとすればそれは琉綺たちが狙いだ。
ムラクモは首を横に振った。言葉は必要ないと思っている。退くつもりは毛頭ないというのを感じ取ったオルフェウスは体勢を低くした。
走り抜けるつもりか。オルフェウスの速度は発射された銃弾をただの走りで避けられるほどの速さ。それを全力で出されたら、どれだけの速度が出るのかは見当がつかない。
ともあれ、オルフェウスの手に琉綺たちが渡ることをムラクモは望まない。何しろ、翔にとって、琉綺たちにとってみても、やっと再会が出来るのだ。人の世ではこれを感動の再会とも言うらしい。彼らにその再会とやらをさせるのはムラクモが己に課したやるべきことだ。
「感動的な再会をするんだ。お前さん、このまま見届けるってぇことは出来ねぇか?」
ムラクモは提案をしている。
その意図に気づいたオルフェウスはムラクモの提案に頭を捻った。
───なるほど。こいつはそういうことを言っているのか。
何を提案したのか。それはすぐにわかる。とはいえ、危険を少なくしたいのは両者だ。ムラクモは危険を少なくして感動の再会を果たしてもらいたい。オルフェウスは邪魔が来るよりも早く琉綺たちを捕まえること。どちらにせよ、ムラクモはオルフェウスが琉綺たちを狙う真意を知らない。
……いや、詳しく言えば、知らない振りをしていると言った方が正しい。
今はもう確認することができなくなったもの。それを持っているのが琉綺たちだ。それはムラクモも分かっている。だからこそ、オルフェウスを行かせることはできない。
ここでムラクモを走り抜き去れば、まだ琉綺たちには追い付ける。彼女たちが向かっている先は博麗神社だ。そこに行かせてはならない。彼にとって、博麗には思うところがあるからだろう。
見届けるよりも、走り抜けた方が危険が少ない。そう判断したオルフェウスは───
「抜かせてもらう!」
一気に駆け出した。
土煙を起こして駆け抜けるオルフェウスをムラクモを行かせようとはしない。
銃をオルフェウスに向け、引き金を引く。それを物ともせず、オルフェウスはムラクモを抜き去った。
「チッ、行かせねぇよ!」
ムラクモも駆け抜ける。彼女たちを奴の手に渡らせてはいけない。
銃弾をものともしない時点で人間じゃない。
───まぁ、
博麗神社まで距離がない。さっさと止めなければ、オルフェウスが目的を果たすことになる。それはムラクモが許さない。
博麗神社に着くまでに止めるか。博麗神社に行き、他全員を白玉楼か爛の神領まで退かせるか。いや、神領の手はないな。白玉楼になるか。
───二者択一か。オルフェウスがどうでるかが鍵になりそうだが……どうする?
一応、邪魔はしてみるものの、銃弾をものともしないのであれば、別の手を使う他ない。
「フッ───」
「ッ───!?」
ムラクモが更に加速する。先には行かせまいとスピードを上げて邪魔をするつもりか。
オルフェウスも負けじとスピードを上げる。
「ふぅ───」
少し、息を吐いた。
何故だろう。緊迫した状況だと言うのに、自分でも驚くぐらいに落ち着いてる。思考はクリーンで、すぐに最善策が導き出せる。視界も良好で、とても視野が広くなっている。
この状態のまま、オルフェウスを何とかできるのが一番だろう。博麗神社までの距離はない。だったら、白玉楼まで退いてもらうのが一番だろう。
「フッ───!」
なら、更に先に行って、白玉楼に行って貰わなくてはならない。それより前にオルフェウスに辿り着かれるのは危険だ。
行動しろ。早く、駆け抜けろ。
「よっと───!」
オルフェウスよりも前に出た。その瞬間に、ムラクモは拳を作り、地面に叩き付けた。
地が動きだし、分厚く、幅広く、それでいて高い壁を作り上げる。少しでも時間稼ぎになれば良いが。一種の賭けのようなものだ。これが簡単に抜けられるようでは、別の方法を使うしかない。
今の内に、離せるだけ距離を離しておくんだ。
「もうすぐ───」
辿り着く。感動の再会とやらの邪魔をするのは気が引けるが、それよりも命が大事だ。
誰も目の前で死なせるわけにはいかない。それは望まないし、嫌いだ。それだけは、お断りだ。
「居た───!」
見つけた、博麗神社だ。
琉綺たちは……居る。爛たちも既に合流している。手間が省けて何よりだ。
森を一気に駆け抜ける。足場は安定していないが、それをものともしない体幹を備えているムラクモは、難なく走り抜けていく。
琉綺たちが既に博麗神社に居るところを見る限り、安定していない足場を走り抜ける体幹は備えているようだ。それは何より。
───と、こんなことを考えている暇はないな。
どうやら、作り上げた壁が破壊されたようだ。追いかけてきている気配がする。十分───とは言えないが、これぐらいであれば、問題はないだろう。
「よっ───!」
茂みを跳躍で飛び越え、博麗神社の裏手に出た。早く表の方に行って、白玉楼に行くように伝えなければ。
「おっ、居るな……!」
「──────────」
聞いてはいけないような声が、ムラクモの耳に届いた。その声の主は言うまでもない。それにしても、ここまで追い付くのに妙に早い。
「もう少しだけ、大人しくしててくれねぇかなぁ……」
「大人しくなんか出来るものか。もうすぐ念願の力を得られるんだ……! 誰にも邪魔させない!」
───こりゃ、説得しても無理だな。
完全に獲物を狙う目をしてる。どう説得しても行動は変わらない。こうなったら、ゆっくりはしてられない。さっさとやって白玉楼に戻るだけだ。
溜め息をついた。面倒事を増やさないでほしいものだ。
「ムラクモ!」
爛がムラクモに気づく。気づいてくれたのが爛で助かる。用件だけさっさと伝えるとしよう。
「爛! 翔たちを連れて白玉楼に行け! 琉綺たちが狙われてる!」
ムラクモの言っていることに嘘はない。その事にすぐに気づいた爛は、ムラクモがここまで声を張っていることに、危険はすぐに近づいてきているということを察したようだ。
「分かった!」
「───行かせるか!」
爛が走り出したと同時に、ムラクモの視界にオルフェウスが映る。
先程の会話を聞いていたのか。そこまで考えていなかった自分を殴ってやりたい。と、思いたいところだが、それはできない。
「やらせっかよ!」
オルフェウスの目の前に一息で現れ、そのまま右足を降り下ろす。
「チィ───!」
間一髪でムラクモが降り下ろした右足を防御する。思いっきり降り下ろしてきたからか、オルフェウスの周りの地面が陥没する。
「くっ、おぉぉぉぉ───!」
「ッ───」
これ以上、潰されまいとムラクモの右足を弾く。真上に弾かれたのを利用して、後ろに距離を取る。
───やはり、コイツは……
嫌な予感が頭に過る。考えたところで無駄だというのに、考えたくもないことばかりが頭に浮かぶ。
「邪魔をするなぁぁぁぁあ───!!」
特攻か。いや、彼に限ってそんなことはしないはずだ。こんなところで死ぬなんてことはお断りのはずだ。深追いはしないはず。
そんなことすらお構い無しに、感情の流されるまま、オルフェウスは拳を振るっていた。
右ストレート。ムラクモの胸部を狙った、見え見えのパンチ。落ち着いて対処すれば、反撃をすることができる。
ムラクモは左手で軌道をそらし、潜り込むようにして反撃をする。狙うはオルフェウスの腹部。
「ガッ───!?」
その拳が突き刺さり、オルフェウスは腹部に強烈な衝撃貰ったと同時に吹き飛ばされ、後ろにあった木に背中をぶつける。
「──────────」
ふぅと息を深く吐く。激情されたらされたで考えるが、今の内に自分も白玉楼に行くか。そんな考えが出てきたとき───
「行くぞ!」
「うおっ───」
襟を後ろから掴まれ、引っ張られていく。そのまま、ムラクモの視界が暗転した。