World High school 〜CROSS〜 作:火神零次
「ここに爛たちが居るのか? 楽しみだなぁ! 久しぶりに会えるとなると、楽しみで仕方ないぜ!」
嬉しそうに跳ねながら、オレンジ色の髪の少年は、隣に並んでいる少女に尋ねている。
「まぁまぁ……落ち着いてくださいよ。『ショウ』さん。爛さんたちも居るみたいですよ。それに、あの噂の人も居るみたいですし……」
「ん? 噂の人って、誰だ? 『エリー』」
苦笑をする少女に対し、少女が言った『噂の人』という言葉に反応する少年は首をかしげる。
「ショウさんは話を聞いてなかったんですか? この学園が続けられる理由の中に、学園の抑止力が居るからですよ? 圧倒的な強さを持ち、どんな状況だろうと決して負けない。不敗の人が居る話ですよ」
「そんなヤツが居るのか!? ソイツに会ってみたいぜ! 戦ってみてぇなぁ!」
そんな話をしながらも、目的の場所である学園にたどり着いた二人は、その大きさに驚愕する。
「デケェ……」
「大きいですね……」
二人が学園に目が釘付けになっているなか、一人の声が二人の耳に届く。
「『天崎翔』と『エリシア・ヴェルモンド』だな?」
二人が声が発生した方を向くと、茶髪で黒服に身を包めた少年が居た。
「誰だ? お前」
翔と呼ばれた少年は、黒服の少年に尋ねる。
「俺か? 俺は、椎名ムラクモだ。お前たちが入ることになるこの学園の生徒。理事長に頼まれてな、理事長室まで案内させてもらう」
その少年はムラクモだった。
ムラクモは学園の理事長から天崎翔とエリシア・ヴェルモンドの案内をしろとのことを聞かされ、まぁ理事長のことならと、ムラクモは渋々、その事を了承し、現在に至る。
「ここが理事長室だ」
ムラクモは二人を理事長室の前まで連れていく。ノックをする前に、確認をとらないと行けないなと思いながら、ムラクモはノックと一緒に尋ねる。
「二人、客を連れてきたが、理事長。まさか、俺が用意した茶葉を勝手に一人で堪能なんてしているんじゃないだろうな?」
ムラクモのその声に、「ギクッ」という声が聞こえてきた。信じたくはなかったが、理事長の性格が故だ。そういうのは仕方がないのか。
一方、翔とエリシアに関しては全くもってなんのことだか分かってはない。当然だろう、理事長と生徒との間でこんなことが起きているなんてあり得ないのだから。
「え、えぇ。ナニモシテナイワヨ」
気のせいだろうか。棒読みのように聞こえる気もしながらも、エリシアは尋ねたい気持ちを抑えながら、ムラクモの指示があるまで待つ。
「結局、飲んでるじゃねぇか。嘘はいけないぞ? 嘘は」
ムラクモは呆れながらも、理事長室のドアを開ける。
中には誰がいるのだろうか。二人は思いながらも、理事長室の中に入っていく。
「は?」
「え?」
二人は素っ気ない声を出す。それを聞いてしまったムラクモは苦笑をせずにはいられなかった。
それもそうだろう。何せ、理事長が座る席に座っているのは、ムラクモよりも幼く見える少女なのだから。
「えっと、理事長……?」
目の前にいる赤い服を着た少女が本当に理事長なのだろうか。疑問に思いながらも、エリシアは声をかける。
「何で疑問系なのよ。ムラクモ、しっかり二人に説明をした?」
「以前、俺の用意した茶葉を勝手に扱って台無しにした理事長殿は俺のした行為に文句を言わないと、この案内の時に関してだけはそうすると言ってもらったが、俺の聞き間違いだっただろうか。説明をする気はない。とはっきりあのときに言ったぞ? 理事長、『
「うぐ……そういえば、前に言ってたわね……。っていうか、まだ根に持ってたの!?」
「そりゃそうだろ。俺が大事な客用とかに用意した大事な大事な茶葉をたった一日で台無しにされたら根に持つわ! 普通!」
一応、生徒よりも理事長の方が立場が上なのだが、ムラクモは平然と口答えをしていく。
そんな二人の関係に、翔とエリシアは唖然とするしかなかった。
「え~っと、コホン。二人とも長旅ご苦労様。そこのソファに座って」
言われるがままに二人は凛に座るよう促されたソファに座る。
ムラクモは立ったまま、二人に尋ねてくる。
「話が長くなるから紅茶を持ってくる。二人は何がいい? 取り合えず、色々と揃えてあるんだが、悩むようであれば今日の俺のおすすめを持ってくるぞ」
「あ、じゃあ俺は、よく紅茶とかわかんねぇから、それで頼むわ」
「私も、おすすめでお願いします」
「承知した。ではしばらく時間をいただく」
先程とは違う口調。コロコロと変わっていくムラクモに追い付いていけないが、二人はムラクモの今日のおすすめを選ぶと、ムラクモは頷き、部屋から出ていこうとする。
「ムラクモは、私は───」
「理事長殿にはカモミールティーをおすすめする。二人にはバレリアンティーを出すつもりだが?」
ムラクモは背を向けながらも、凛の言葉を遮り、話を進めていく。
「じゃあ、私はカモミールティーでお願いするわ」
「承知。では紅茶を持ってくるとしよう」
凛は少し笑みを浮かべて頷きながらムラクモに頼むと、同じようにムラクモも頷き、理事長室から出ていく。
「ごめんなさいね。話をそっちに回せなくて」
「いえ、此方こそ、手厚い歓迎で」
「質素なものだけどね。あれでも、ムラクモで最大限のできるものを貴女たちに渡すつもりよ」
全員で祝うわけでもなく、静かなものだが、小さなもので祝い、まずは馴染んでもらおうという凛の考えだ。
ムラクモが紅茶を持ってくるまで、時間があるため、できる限りの話をしていく。
「部屋の案内は全てムラクモに任せてあるわ。貴方たちの授業クラスは爛たちと同じところにしてあるから、知っている人がいるはずよ」
「ホントか!?」
「えぇ、エリシア、貴女には確か、ステラが妹に居たわね?」
「あ、はい。ステラちゃんは妹ですよ」
「ステラも居るわ。安心して」
凛からの説明を受け、爛たちが居ると発言した凛に、目をキラキラさせて、笑みを浮かべる翔と、エリシアは妹であるステラがこの学園にいることに、小さく笑みを浮かべる。
「もし、連れてきたい人がいれば教えてちょうだい。教えてくれれば、その人に連絡を送っておくから。来るか来ないかは、その人次第だと思うけどね」
凛は二人に紙を渡す。紙に書かれている内容は、生徒関係者をこの学園に入学させようというものだった。
二人がどういうものが書かれており、何を書かなければならないのかを確認しているときに、理事長室のドアをノックする音が聞こえる。
「いいわよ」
凛がそう言うと、ガチャリとドアが開けられる。そこに居たのは、紅茶を持ってきていたムラクモの姿だった。
「っと、持ってきたぞ」
ムラクモは翔とエリシアの前にあるテーブルに三つ、理事長の机に一つ、華奢なティーカップを置き、翔とエリシアの目の前にあるソファに座る。
「熱いから、気を付けろよな」
微かに笑みを浮かべたムラクモはティーカップを手に取り、紅茶を堪能する。
「あ、別に紅茶本来の楽しみ方をしなくてもいいぞ。俺はいつもこうしているだけだから、気にしなくていい」
ただ飲むだけではなく、大人な楽しみ方をしているムラクモを見た二人は、彼は一体何歳なのかと、思うほどの優雅な雰囲気をムラクモは纏っていた。
「この学園について大体把握してもらうために、俺が学園を案内する。何か、聞きたいことはあるか?」
ムラクモはティーカップを置き、二人に尋ねた。しかし、二人はまだ凛からの説明を少ししか受けていない。まだ分かっていないことは多く、聞きたいこともある。二人の表情を見て、察したムラクモは凛の方を向く。
「まだ、説明が終わってないみたいだな。さっさとやってくれ。面倒なことはやりたくないんだわ」
ティーカップを持ち、紅茶を堪能しだしているムラクモを見て、凛はため息をつく。
「はぁ、分かったわよ。すぐに終わらせるわ。あとは、自分で体験してもらうしかないわ。知り合いもいるから、助けには困らないでしょうし」
凛はムラクモに促され、聞くよりも見たりした方が早いんじゃないかと思いつつも、そんなことは口が裂けても言えるはずがない。説明は終わっていないのだ。ムラクモのいっていることが正しい。それをわかっているからこそ、凛は何も言わない。
二人は、何とも言えない空気に割って入ることはできず、凛の説明を聞くのだった。