とある戦争のお話   作:Redeyesers

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続・とある新兵のおはなし

 かつては画期的であったVRにすら飽きてきた大衆を相手に、利益を上げるべく、とある企業が画策した、新技術による娯楽。それは、死ぬこともなく本物の殺し合いができる、正気では考えられないほどの人道に反する素敵なものだった。あまりにもナンセンスなこの発想に、しかし経済的に行き詰まるところまで来ていた政府は、それを公共事業にまで引きずりあげた。今まで小規模だった軍需産業が、だからこそそれを伸ばせば、どれほどの経済成長があるのか。

 自国民を傭兵として雇用し、軍事産業の拡大でまた雇用が生まれる。しかし、それは最初期に徴兵された数多のニート共の犠牲の上に成り立っていることを、俺は忘れない。

「目が覚めたか」

「…………」

「返事ぐらいしろ」

「はい」

 新兵の大半が、ここで折れる。そしてそのほぼ全てが、自分の躯の代金という借金を負って帰ってゆく。予備の自分の対価はぼったくり価格かと思うくらいには高い。普通に働いて返済していくとなると、結構な時間がかかる。ナノマシンや機械化などをすると更に増える。

「先輩は」

「あ?」

 新兵が恐る恐るといった風に訊いてくる。だいたい何のことかはわかっている。

「なんで、あんな怖いこと、何度も……耐えられるんです」

「そうするしかなかったからな。俺の時代はニートは強制で傭兵にさせられたし」

「…………」

「傭兵契約書はしっかり読んだか?」

「いえ、あまり……」

「第9条。傭兵は戦場における肉体的・精神的損害を全て出撃前回復処置により回復したとみなす。傭兵は出撃前回復処置にかかった費用を負担しなければならない。また、傭兵はこの処置を拒否する権利を持たない。原文はもっと回りくどいが、だいたいこんなもんだったはずだ」

「え……でも、俺」

「出撃前回復処置で元通りにならなかったものは知ったこっちゃねぇ、ということだ。PTSDになろうとな。何度か裁判が起きてるが、全部敗訴だ」

 死は、たとえ蘇生できると言っても、人間の精神はそれに耐えるようにはできていないらしい。プロパガンダで傭兵志願者は増えるばかりだが、同時にイカれた連中が世に増えつつある。

「俺みたいにマトモにイカれるんであれば、まぁ、いいんだがな。ガチキチになっちまう奴も少なからずいる。そうなったらオシマイだ。マトモに働けなくなって、躯のぶんの借金返済もできない」

「そんな……」

「で、どうする。俺らと違って、お前は傭兵を辞めることができる。真っ当に生きる道がまだある」

 体力は皆無だったが、根性はそれなりにあった。迫撃砲で三人仲良く塹壕の中でバラバラになるまで、必死についてきていた。あれほど劣る体力で。あまつさえ、初陣で敵を射殺できていた。

「…………」

「今答えを出す必要はない。次の出撃までよく考えろ。ただ、次出撃したらもう戻るためのお膳立てはしねぇ。戻りたかったら自力で稼いで自分の躯を買うしか無いってことだけは言っておく」

 傭兵の絶対条件は、全て自己責任ということだ。多少の例外はあっても、たいていはその4文字で言い尽くせる。死んで、新しい躯に移ってアホみたいな額の請求書を突き出されても自己責任。それが納得できない奴は、傭兵になるべきではない。

「英雄って……」

「ん?」

「英雄っていうのは嘘なんですか?」

 戦場の幻想、その最たるものである英雄。そんなものはいない。今の、俺の知る戦場には殺して稼ぐことに慣れただけの人間しかいない。

「嘘だ」

「じゃあ、なんで、そんな嘘を」

「仕事だからさ。政府のプロパガンダに協力するのも」

「仕事だからって英雄だって偽るんですか!」

「ああ。お前みたいなのを釣るためにな」

 絶句する。認めるとは思わなかったのか。

 戦争は経済の成長とともに拡大する一方だ。傭兵は増え、消費も増え、軍需産業が潤い、政府は税収を増やし、それをプロパガンダの資金として使い、それに騙されて傭兵になる連中が増える。増やさないと、この加速しすぎた経済が崩壊してしまう。

「よく調べてよく考えろ。次は騙されるな」

 返事はなかった。

 

 

 

 俺の隣には相棒、新兵は狙撃銃を持って窓際。比較的楽な戦場で、俺達は静かに過ごしている。

 何を考えているのかわからないのが増えた。ただそれだけだ。

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