幻想の現実≠東方空界霊 作:幻将 彼id・tactstock
【蚊帳】
「意外と早く起きたのね」
左から‘一期一会’が声を掛けて来る。
右には人間体の神獣候補兼守髪神’鳥皇零刀(ちょこれいと)’が寝て居た。
御守は良いのね。
「んあぁ……どれくらい寝ていた?」
「ざっと一分位」
寝てる内には入らねぇな。
「寝てる内には入らねぇのは、きっと長く寝て居たから回復エネルギーが有り余って居たんでしょうね」
さとり以上のさとり妖怪だ。
「エスパーじゃなくて水よ。おまけに格闘付きで」
何の話だ。
「残念、さとり妖怪かよって思ってた」
「そっちか。居るもんね、あの桃髪と赤い目玉の子よね?」
「良く知ってるな」
「まぁ、貴方が寝て居た三日間くらいは、観光気分で色々と回って来たから、割と友達は増えたわね」
そうか、此処の連中と上手くやってるみたいで何よりだ。
と言うか彼女も彼女で相当深手を負って居た筈なのに、回復の速さは流石と言うか、流れる水その者で、流水(さすい)の戦闘玄人。
枕は石では無いし、口を漱ぐに朝は先だが、高さが合わないから、両手を後頭部に添える。漱石枕流って奴ね。枕でを寝耳を漱いで口を石で磨くとか逆に読んじゃって強情張ってるやつ。強情張って無いけど。
でも間違っても居ないよね、耳塵は耳搔きせずとも自然に落ちたり、歯磨き粉ってのも粉だけど砂みたいなもので石にも変換出来るんじゃない? 知らんけど。
「人里へは向かったのか?」
「は? 行く訳無いじゃない……」
地雷選択でした。
他にも紅魔館とか守屋神社とか特定地が候補に挙がってましたが、丸で俺が特別視してるみたいでエンディング分岐が変わるかも知れないじゃあないか。選択は間違ってないです。
「急に温度下がるな……」
「涼んだでしょ?」
「凍り付かせる勢いで如何するよ」
「結果往来」
「何にせよ酷い嫌い方だな」
「当然よ……道中と言い、この近場に人里が在る事もムカッとしてる……此れなら……いや、何でもない……」
言いたかった事はもっと酷い事だったろう……水は温製にもなれるが冷静にもなれる。
ふと、イチエとの空での会話で彼女が放った言葉を想い出す。
「―――情が移らなかった。その割には童子に食い下がったよなぁ~……」
別に煽情を掻き立てた積りは無いが、ふと言葉に出していた。
「あなたも急に掘り返して来るわね……飽く迄、そう飽く迄、異変解決を生業としてる巫女友達の霊夢が負傷して居たがた…やったことなのよ……!!」
彼女はとても冷静だな。夜中だから音量を抑える。
巫女友達って……巫女って生業か?
「それに、後にも先にも、あなた里民に良いように思われて無かったみたいじゃない。アレが精神操作モノだったとしても、頑張った人を邪見に扱うなんて、頭で解って居ても、私は許せないわね……」
当事者で在る身を思っての、彼女がもっと酷い事を言い掛けた事を含めて、理性的な反面は当然感情的だが一理有るし、嬉しい言い分だけど。
「ソレを言っちまえば霊夢と魔理沙も該当するじゃないか」
「あの二人は……ほら、ちゃんと反省して謝罪の印に膝枕が有った訳だし」
さも膝枕が贖罪になるみたいな風潮止めようぜ? 此れこそ漱石枕流だよ。
「まぁアレは良く分からんが、取り敢えず明日には人里に向かうよ。土産でも買いにな」
「あなたはあなたでタフねぇ~……って、土産?」
「んぁ~言って無かったか。明日には”幻想郷”を出るよ。元居た場所に戻るよ」
「……そっか。じゃ、明日は思いっ切り満喫しなきゃね」
「そうだな。別れの挨拶って理由で。まぁまた来る予定として……未だ人里の奴らに邪慳見舞われる様ならさっさと退散して、霊夢からお守りでも貰って、魔理沙から魔導書でも借りてくぜ」
「そんで咲夜からナイフ、妖夢ちゃんは匕首、優曇華からは銀の弾丸を頂いて、早苗からは婚姻届けを貰うのよね」
「オチみたいに早苗さんへの要求で変化球を出すなよ」
て言うか関係性を知り得過ぎだろ。
後、無駄に縁起物揃い。
……いや匕首は願望か。ああでも妖夢なら縁起で良い。
「良いじゃない。寧ろ将来性が出て嫌でも勝たなきゃってなるじゃない」
「婚姻前提で話すなっての。確かに早苗さんは良い人だけど、付き合いが浅過ぎる。向こうが多重大なり矢印で俺が無印なら苦労と理想を掛け過ぎて老年離婚するって」
「あなた歳幾つよ……」
頼むからマジナイでも祈りでも神楽でも良いからそう言った事を早苗さんにして貰いたい。
其れに本命はもう決めてるんだから……無下にしたくないし、多制は取りたくない。
「―――幾つと言えば、幻想郷を創ったって言う『大賢者の妖怪』に会ったわね」
マジの偉人じゃないか、三日って有意義だな。
「女か?」
「女よ? 云千年前から生きてるらしいけど、驚く程凄く大人びて美人だったわ」
其奴が若作りババアだとか、女だったら男の性としてみたいな軟派思考とかではなく、何か此れ迄のエンカ率に対して納得の行く思考が纏まった気がする。
「胸もデカいわ」
「聞いてないわ。で、その大賢者様が何だってんだ?」
「先ず幻想郷って、忘れ去られた人物事を半強制的に送り込むって、その大賢者様の能力で出来てるのよね」
「んぁ、そうだったか」
聞いた事有る様な無い様な……細かい事を言えば、「忘れ去られたシステム」は覚えている、それが大賢者によって創られたかって話を聞いたか教わって居ないかと言われれば……ま、以前に話して居たとしてもしてなかったとしても忘れた体なら誤魔化し利くよネ、物語的には。或いは知らない所で聞いて居た、とか。
「で、その忘れ去られる対象の日之丸国は、国名も地形も政経も似て非なるモノで、私達が暮らして居る国とは無関係なの」
「………はァ」
気の無い返事は、次にろくでもない答えが来るかと、何となく聞きたくない様な事を無意識に表現して居たのかも知れない。
其れを察してか、イチエも言葉を出す前に時間を流す。
一呼吸突いて、彼女は言葉を整えて、口に出す。
「大賢者様も確信ではない発言だったけど、若しかしたら、私たちが向こうへ帰ったら、お互いに互いの事を忘れて終うらしいのよ……」
………そんな事だろうと思った。
抑々ゲームが元の世界とされているが、その世界観に倣い吟じるならば、空想と幻想、相互が過干渉しているだけでも超越至極・常軌逸失・現実不明・奇想天外・無名旧跡の事象。
浄玻璃の鏡に映らない、基、ノイズで映らない死人の原因、確信に近しい事例は妖夢との記憶共有とかも恐らくコレが原因だろう。
本来入れ替わりに於いて、他人の記憶を自身の記憶と追加して精神交換する事なぞ、イレギュラーが起きたから重ねてイレギュラーが起きたからとしか言いようが無い。
浪漫畜風で些か寒気がするが、何も無い空想と、何もかも在り過ぎる幻想。
何方としても、或る意味何方にも無い物を持ち合わせて居るのだから、羨ましさが有ったんだろう……。
在り過ぎるってのも、有るから良いって理由では無い。宝の持ち腐れや、負担……神様ってのも万能だが、同時にやる事が多過ぎて、在り過ぎるに怠慢も含まれるのだから無能でも有るのだ。
身近を言ってしまえば、何故で寿命制定や、自然現象がその日その時その場所で起こるのかって事。
運命と捉えて仕方ないと割り切れても良いし、有限に巫山戯るなと罵るのも自由。
それが多方面から聴こえるのだから。時に、神様も思うのだ。
―――何も無い「自分」が欲しいと。
其処に空想と言う何も無い人が現れれば、無意識に要求し羨望し依存してしまうのは、少し解ってしまうだろうの事。
逆に言えば空想も、何もかも在る存在に憧がれるのは必然と言う理由で。
簡素にもヒツキと妖夢が既に体現したが、此処が浪漫畜風些か寒いポイントで、
【コレは、空想と幻想の恋物語】
なのだ。
ソレは、陽月春雪と言う存在が幻想郷に降り立った瞬間、始まって居たのだった。
然し、その物語も、織姫と彦星の毎年出会える七夕一日で終わってしまうような、夢物語の様な理由で。
「若し、長い夢の様に、朧気に覚えて居るのなら―――……」
もう一度来たい。言いはしたが、確信が持てないのだから、言葉を遮る。
「……如何でしょうね。狡い様だし、大事なのかもだし」
彼女の発言は、依存と思い出を混濁させては行けないと、己も含めた戒めの意を込めて、諭してる様だった。
「……携帯でも有れば良かったのに。何せ私たちは情報機器で察知され兼ねない身分だからね……」
扨て、俺は此れ迄携帯を持って居た仕草を取って居たか、持って居たけど失くした。元々持って居なかった。リアタイ文通はしたし、メアド交換を持ち掛けもしたが、持って居る設定を施して居たか、或いは忘れて居るか。
何にせよ、今は無い。残念乍ら、本当に残念乍ら。
「まぁ、射命丸にでも撮って貰うか」
途端にイチエは薄い布団を口元まで運ぶ。
「私あのカラス天狗記者さん苦手なのよね。質問が品曲がってるし、宴席だとお酒をグイグイ進めて来たし……」
彼女が酔ってしまった、体感の要因かな。
「鰊のパイとどっちが嫌い?」
急な作品ネタ。
「食べた事無いからカラス天狗かな?」
まぁ夜の星を見上げる魚の包み焼きなんてお目に掛からないわな。
「まぁ現代っ子の若人宴に赤飯は無いわな」
「そう言う物なの?」
「わからん」
「そう。まぁ何にせよ、背に腹は代えられないわよね。とは言え何かしら要求はして来そうよね……」
明日に憂鬱さを思うイチエ。
「写真集でも出せば良いんじゃない? タイトルは、『英雄補佐の補佐(?)』」
「貴方のネーセンは何時でも意味深で良イワネェ~……でも写真集は有り寄りの無しよ」
有り寄りでは在るんだ。
「あっ―――」
と言う間に「文」、「赤飯の赤」、「鰊のパイの元ネタは魔女」、「此処の魔女は金髪」、と言うキーワードが過りに手繰り寄せ、締めとして「有り」と言う言葉から辿り着いた想起は―――
「アリスに会えてねぇ……」
忘れても一生後悔する所だった。
「どっちのアリス?」
「少なくともこっちのアリスだよ」
あっちのアリスは先ず無理だろ現状。
「アリコンだからそろそろアリスレス発動するかと思ったけど、亜種が有ったのね」
喧しい、年がら年中だよ。
「その人なら宴会に居たわよ。貴方の英雄譚を人形劇で披露して居たわね」
う~わ見事見逃したッッッッ!
音楽だけって情報しかなかったから完全に観賞じゃなくて鑑賞してたわ。
「明日頑張って探そう」
「何だかストーカー問題になりそうね……このゴシップをネタに射命丸さんに提供しようかしら」
英雄、人形師にろくでもない事思い付いてる奴がいる。
「なら今探そうアリスハウス」
「バカね、彼女も魔法使い類だけど睡眠は取るわよ、きっと」
「とは言え矢張り此処は『マッドヘッダー(イかれた頭)』としての矜持を魅せなければ……」
「新手の夜這いかと想われるわよ」
ガッツポーズを決めていた俺は、硬直し、腕を布団の中に仕舞う。
「……眠れないな」
「夜這いするの?」
「しねぇよ」
「何でも、アリスは優しいから、森で迷った人を自宅に泊めてくれるみたいよ?」
「話進めてる?」
森に迷えとも聞こえる。
「夜目が利くなら、業とでも迷った方が良いわね」
「それで何方も見付からず迷うだけなら元の木阿―――」
夜目?
……そうか、目か。
(―――視力増幅〜姥桜(Feast dumpling)〜)
ヒツキの瞳孔が、白い円に五枚の合弁桜の形状になる。
その視界は、丸で空を飛ぶ鳥の様に、動き、進み、潜って、躱して、突っ切り、森の中を掻い潜り続ける。
「……まさか家の中迄覗くなんて事はしないわよね?」
この時が集中モードとか一切関係なく、普通に返事をする。
「する訳有るだろ。何なら御本尊、服の中、身体の中、骨の髄、細胞の細胞の隅々迄確認するわ」
キモイ。
だが此れは飽く迄、誓約。
妄想を司る者は逆説が有効なのだから、堂々異常酔狂気色奇行変態領域変態宣言は、逆に叶わないようになるのだから。
「……えーっと、怒って良い奴かしら?」
そう尋ねる一会だが、何方かと言うと真逆の感情が渦巻いて居ると窺える。
「まぁ冗談と捉えてくれ。本当に見れたら問えば良い」
彼女は何時だって嘘か本当かを見抜く心の波紋が頭上越しに見れるのだから。
「そこまで言うなら必要は無さそうね。何より眠いから……ふぁぁ……本当だったとしても…今更よね……」
俺そんな堂々異常酔狂気色奇行変態領域変態宣言及び行動した事、此れ迄に有ったかな?
まぁ何にせよ、会話の内に居場所は掴めた。
何でもして良い理由じゃないが、そうだな、英雄の肩書を使って、お友達になってくださいと…………尋ねるのが………得……策……………
【世話】
日差しが眩しい。
雀の声が聞こえる。
朝と言うには正に今此の瞬間こそが相応しい。
緑色の網で構成された蚊帳に囲まれた環境、気温は未だ馬鹿みたいに暑くなく、涼しい。そんな気分が上半身を起こし、凝って居る体の筋肉、主に肩から力ませ、幼女が案山子(かかし)の仕事を初めて、労基法は遂にバカになりましたと言った回り諄い言い方せずとも、両腕を横に伸ばして、更には脚へと流すように解す。
続くように一会が唸ってからすぐさま上半身を目覚めさせる。
寝惚け眼の中ヒツキの姿を捉え、弱弱しく「おあよぉ」と挨拶を投げる。
「おはよお。前開けてるぞ」
右腕を上げ、左腕は曲げて右腕の関節部分に左手を掴んだ状態で伸びて、筋肉を解しながら、彼女は言葉を返す。
「別に良いわよ、アナタとチョコしか居ないし……」
白い寝間着を着込んだこの二人は、昨日の風呂の件でも相互の裸体を見ても尚、何なら脱衣の時間、覗かないでよねとかが一切無い程にも信頼らしき奇妙な絆なのかも解らない具合に距離感をバグらせてる様な理由でも無いが兎に角―――付き合って居ない。
「……で~、当のチョコレイトは何処に居るんだ?」
「此方ですよ、ヌシ様」
声のする方を見やれば、和装で整ったチョコレイトが、何やら布の束を腕に抱えてその場を歩いて居た。
「此方先日、ヌシ様が眠って居る間に拵えて貰いました、新しい衣服です」
と、各々の服装が用意されており、早速着てみる。
「わぁ~」
「ほぅ…」
一会の衣装のベースは巫女っぽくて、ヒツキの衣装は元より着ていた衣類に準じてアレンジが加えられている様なそんな和装だ。
「繕ったお方曰く、『英雄らしい衣装』がコンセプトの作りだそうです」
此れをマジの三日三晩で二人、いやチョコも合わせれば三人分作ったのならば、相当な技術職。まぁ製作一人と憶測して居るが、分担で出来そうな―――いやまぁ抑々裁縫は珍紛漢紛。
何にせよ生地の感触から良い物だと実感できる。
「とても可愛いわねぇ。勾玉も付いてるけど……此れ良いの?」
「良いんじゃね? 幻想郷製の特殊な現地石で削られた勾玉だと想えば」
事、国宝たる三種の神器の消えた八尺瓊勾玉の内の一つだとか、何か呪いか呪いの類が込められて居るのではとかは此奴が呪怨特攻水属性だから問題無しとして。
「ま、そう言う事にしときますか」
「お二方良くお似合いですよ」
「……」
「………ヌシ様、貴方の顔が物凄く驚愕と戦慄が混じり合った表情を為されているのですが…?」
「お前が俺を何の皮肉とか余計とか無しに褒めるってのが、明日の幻想郷の天気は雨になる」
「何故確定予報なのです。下名だって率直に褒める時は褒めますよ」
「大雨だわ」
「何故ですか、それに本日発たれるのですから此方の天候は把握出来ないでしょうに」
今日此処を発つ―――それを聞いて二人はオモった。
((嗚呼、此の衣装も本日限りか………))
英雄的な衣装は、限定装備。
【邪魔】
そんなこんなで、簡単に朝餉を済まして、早々に命蓮寺から退出する。
イチエ、チョコ、ヒツキは各々に用意された草履を履き、戸を潜る。
「「「お世話になりましたっっ」」」
「行ってしまわれるのですね……」
戸から出て少し歩いたところで振り返り挨拶を交わす三人。
続々と寅丸、雲居、ナズーリンと、もう一人セーラー服の……ガチの水兵が着用して居た意味のセーラー服を着た人物一人、命蓮組勢追加情報。
まぁそんな愉快な仲間たちを後ろに、白蓮さんが寂しそうにお見送り。
「私も余り関われなかったからなぁ……出来れば英雄さんのお背中も流したかったんだけどねぇ」
と、村紗水蜜は残念そうに両手を後頭に付ける。
挨拶は、ご飯の時に済ませました。
何か皆ムラサって苗字で呼ぶ、名前呼称距離感瞬間友達文明である幻想郷では珍しい。
「いいえ駄目です。幾ら御恩が多大で在れど、矢張り殿方を薄着同士で持て成し持て成されるのは、不純です、不純異性交遊です!」
ある意味、準不純異性交遊となった一輪が声を荒げて水蜜を説く。
狭い個室、男女二人きり(仕切り在り。備考:片方女三人追加)、何も起こらない筈も有る。実話(昨日)。
とは言え水蜜は舟幽霊と言う水難事故を起こす妖怪類らしく、風呂場で水難とは不吉甚だしい。勿論そんな事をすれば住職並びに本尊が黙っては居ないだろうが。
―――そんな訳で大入道の雲山がヒツキの洗体に抜擢された理由で、後は命蓮寺への宿泊招待勧誘と案内、イチエの洗体は誰がするかの然拳(ぜんけん)を、一輪と水蜜で決めて居たとの事。
ナズは一方的にパスし、宿泊勧誘は毘沙門天代行で在り命蓮寺の御本尊で有る台頭、星が打って付けと満場一致。それを見越してナズは参加しなかったんだろうな、宝塔無くすだろうから。
逆に白蓮が案内する選択肢は無かったのかと思うが、彼女の言葉は余りにも正論、否、聖論過ぎて、逆の逆に委縮して命蓮寺への一宿一飯を断ってしまうかもと言う意見の元もある。
簡単に言えば、感謝の積りが後々重く感じてしまうと言う事だ。
棘の抜かれた完全無欠で優美高妙の高嶺の一輪青薔薇には近付き難い。昨日の白蓮との会話でイチエが謙遜し過ぎるのも、ヒツキが彼女の言葉に、実は少し動揺し掛けて居たのが良い例だ。
ヒツキは正直少し否定的な意見をした事を、大いに悔やんで居る。当人は気にしてないだろうが。
「……二人とも、会話そのものが不純ですよ?」
と、星が諫め、途端に姿勢を直す二人。
「あらあら、失礼しました、お二方」
「いえ、宴席とは違う……何て言うんでしょうね、兎に角見ていて微笑ましい賑やかってのも、悪くないなって思います」
「お前がそれを申すか……」
「ナズ…!」
「コレでも応援してるんですよ? …小僧、男なんだから確りとしなよ?」
「……分かった」
ヒツキはナズーリンの意図に気付き、頷く。
「まぁ、問題は無いか、昨今のを見ればな」
「?」
「?」
白蓮とイチエは首を傾げる。さてこの空気を切らなければな。
「そんじゃま、お邪魔しました」
「お邪魔しました」
「お、お邪魔しましたっ」
「フフッ、世辞の令句とは言え、とんでもない事です。何時でもいらしてください。昨晩も申し上げた通り、此処はアナタたちの、幻想郷での”家”なのですから……」
その言葉に二人は虚を突かれる。
イチエは嬉し恥ずかし乍らも言葉を放つ。
「……じゃあ、こういう事かな………行ってきます!」
片や男は顔を前に向かせて、気障事を語る。
「俺には堅苦しいのは難しいな。家は出るが、出家せずの親不孝で悪いな、母さん」
聖は目を見開いて赤面硬直し、他の面々が色々な感情で聖の背中を刺す。
「母さん……」
「聖……何時から養子を………」
「いや、彼女の髪色が少し金髪要素が有る分―――ああいや、今は……「ワァ―――!!! 村紗さん、水難事故だって!!!」
と、口を両手で紡ぐ村紗。
「……別に今の髪色は如何でも良いって」
「そうだな。私と聖が子を為せばこのような子供も有り得なくもない」
「「「ナズーリン!!!」」」
星、一輪、水蜜、流石に絶叫。
「そんな大声上げなくても聞こえているとも」
鼠耳を手で塞ぐ。
「そう言う事じゃなくて―――」
と、四人で論争が始まった。
「……じゃあ本当に」
踵を返して歩を進める。
「………あっ、気を付けていってらっしゃい!」
「「「いってらっしゃ~い!!!」」」
イチエはその賑やかさに於ける表現と言う答えを出せなかったが、俺は彼女が何と言いたかったかが分かった。イチエにとっては有って無い様なモノだったからな。
若しと言う願望は口に出さず、又、妄りに耽らず、勿論だがその話は、未だ来るかも知らない。
命蓮寺の門を潜り、左には人里、右には林道、博麗神社へと続く道。
「俺は先刻通り、里へ向かうが、お前はどうするんだ?」
「ん~…そうネ―――」
途端に景色とイチエとチョコがモノクロに変貌し、動作が停止する。
時間停止能力……こんな真似が出来る様な奴は此処で知る内でも二人だが、急に射程範囲内で発動する分には該当者は一人だろう。
「里へ向かう前にちゃんと主を持て成す準備をしやがれコノヤロー?」
「あ、パイ先おはようござい」
「ますまで言え。ほら、身支度は済ませてるんだから後は向かうだけよ?」
「いやあのイチエに置手紙とか残し置きたああああぁぁぁぁ…………」
腕を掴まれ為されるが儘、ヒツキは空へと連れてかれた。
「大丈夫よ。既にカードは配って居るわ」
「ぇ~………アレ? タッくん?」
「ヌシ様……?」
「………あ」
「え………あ」
辺りを見渡し、ヒツキが居た位置の地面には確かにカードがナイフと一緒に刺さって居た。
『本日、アナタの相棒(partner)は頂いた。返して欲しくば、数時間程度で返します。 Sakuya Izayoi.』
「…………ナニコレ?」
「怪盗なのか、強盗なのか、とは言え返すと言う……矢張り怪盗?」
守髪神が擬人態化して行動する事例は、向こうの歴史上文献が残って無いとされるが、取り敢えず今回の事例からして、案外遠隔でも護られるし、守髪神も引き戻されるとか無く、行動出来るようだ。
―――ハァ、酷い目に遭ったが、奇しくも新しくも仲間が出来た事は儲けだ。
陰の支えなんてのが最も格好良い、浪漫溢れる、男ってこういうの大好きシリーズ。
扨て、道の流れで初めて人里へと訪れた時の門前へと辿り着いた。
物凄く地響きが聞こえる。
何やら人集りが土煙撒いて走って居り、それは真っ直ぐ此方に向かって来てる者達だと―――………
『ヒーノーヅーキーサーマァーッ!!!!』
様付けしてる所、まぁ警戒する事は無い、絶対感謝される部類かなとも想ったりもして、面倒だけど面倒だから面倒を見る。
「本当に申し訳なかった!」
「貴方が幻想郷を救ってくださったのですね!」
「初めて見掛けた時も詰まらぬ疑心を抱いた!」
「恐らく本心だろう酷い事を言って貴方を傷付けた事深く詫びたい!」
「腹は減って居らぬか? 是非家で朝飯を食すと言い、勿論タダだ!」
「いやいや家で食べていきなされ。若いモンは良く食べるが吉じゃ」
「いや家のお豆腐で!」
「家の蕎麦屋に来て!」
「団子を食うかいヒノヅキ様!」
「何時になったら寺子屋に来るのです?」
「英雄様!」
「本日の衣装は正に英雄に相応しき荘厳のお姿!」
「その髪型も神々しい!」
「家には飯の他反物とか揃ってるよ!」
「占いとかどうさね?」
「貸本屋はいかがですか?」
―――嗚呼、皆並ぶように話してくれるけど、どう対処しよう……全部は無理だわコレ。ご厚意が分厚過ぎる……今、さり気なく敬語だったけど慧音先生居たか?
霊夢はこんなチヤホヤされたのかと思うけどならばもう少し境内が盛況で良いか。
「コレコレ止さぬか皆の者」
と、渋い声の者が一声で騒動を止める。
「里長…」
「里長だ……」
里長…普通に落ち着いた色の和装で両袖を繋げて腕を隠して歩き、歳も白髪と言うか灰色染みた感じの大分老年の寄りの中年さが長っぽい風格だが……先ず取り仕切るボスが居たのか。
まぁ居るか、縄文時代から。
「我先にと一斉に礼と詫びを差し向けても、英雄は一人、困り果てるではないか。結果操られてた時の罵詈雑言事と二の舞であろうて」
「ウッ…」
うわ、的確だけど痛い所突くなぁ……。て、被害当事者が想ってます。
「いやはや続けて済まないことをした。この度は不可解な異変から我々を救ってくださり、里を代表して感謝と謝罪を」
と、組んでいた袖を外し、頭を下げる里長。
「謝罪なんてとんでもないです。里の皆さんがご無事で何よりです」
両手を動かしてそれっぽく謙虚さを現す男。
里長は児戯の姿勢から又、腕の位置を袖に戻す。
「ハハハ、若者にしては礼儀正しい。その寛容さに改めて感謝するよ。里は自由に見て回られなさい。では」
皆の者、自生活に戻られよと蟠りに告げ、去り行く……あの里長、俺は戦闘経験が豊富みたいな人生は送ってないが、然しなんか歪って感じな……あの白髪鬼とは違う気質を感じ取れる…………若しやの若しやと妄想を膨らませるが、まぁ妄想なのだからこう言う。
「まさかな……」
と、同じく里の敷地に入ろうと彼らの後ろから着いて行くように歩を進めれば、左袖を引っ張られる感触が其処には有る。
「シッ…」
振り向けば、小柄で鈴を髪留めにツインテしてる和色の赤と黄色チェック柄が際立つ和装の黄色いエプロンをした……この格好、大正時代の女子学生みたいな。ロングブーツとか履いてる分、確信近付けていて、俺この格好エモくて好きだわ。
そんな娘が静かにしてと、上げた人差し指を口の前にしてジェスチャーを取る。
「あの、私’本居小鈴(もとおりこすず)’って言います。貸本屋の”鈴奈庵”って所で店番をしています」
貸本屋……意味合い的に図書館的なモノか。
「―――宜しければ、貴方の、幻想郷に来てからのお話を聞かせて貰えませんか?」
「身の上話って事ですかい? あんまり面白いもんじゃないですよ?」
「何を言ってるんですか。新聞を読みましたけど、久し振りに濃くて面白い内容で、此れはご当人に直説色々と根掘り葉掘りと聞き出したい具合ですよ?」
久しぶりに濃くて面白い内容の新聞を刷れて居る文屋の一定評価を恐らく垣間見た。
「そうやって抜け駆けしようとするんだぁ…」
後ろの方から何時の間にまたもや小柄なお嬢さんが立って居た。
十三の殺し屋じゃなくて良かったな。
だが見た目が十三と言えよういや適当、紫の髪色をして白い花のヘアアクセがアク
セントを出し、いや適当、上から黄緑着物花柄着き黄色い羽織赤い袴と足袋で嗚呼もう和装だわって感じの和装、上だけ着崩してるって感じですわ、ハイ適当。
「こんにちは」
俺、挨拶。
「ハイ、こんにちはヒノヅキ様。私は幻想郷の生活に於ける知恵を記して居ります家柄の当主を務めて居ります、’稗田阿求(ひえだのあきゅう)’と申します―――」
以下感謝の発言同文の為、省略。
「阿求……あぁ、『阿礼乙女』だとか『御阿礼の子』とか呼ばれてる、兎に角転生しまくり滅茶賢い名家だったか」
以前『阿礼乙女』については八意先生から聞いたっけ。
そんでもって今は九代目だとか、後日慧音先生から教わり、初代は’稗田阿一’っ言(つ)う、長々と続く幻想郷での人間サイドが当たり前に生命危機の根源足る妖怪についての攻略法が記されている『幻想郷縁起』を書いて、老いたら転生して絶対完全記憶能力で記憶も引き継いで、今も尚、更新やらで記していると言う希望の光だな。
「はい、英雄であるヒノヅキ様の耳にも届いて居るとは光栄です」
「英雄で無い時から知ってましたよ」
「おやおやフフフ。それは人除けの為の一策でしょうか?」
「結果だけだと凄みが有りますでしょうが、でなければこうして里の皆様と話す機会も無かったでしょうから」
「合縁奇縁ですね」
「ちょっと。抜け駆けと言いつつ、後手でも貴女も目的は一緒でしょ?」
と、本居が俺の身体からひょこッと顔を出して、稗田に問い掛ける。
「そうね」
軽くお認め。
「それ即ち?」
「えぇ、私も貴方の身の上話についてお尋ねしたい事が九代に渡る稗田の年代程度有ります」
その繁栄期間、大体千年近く。一世紀分ってマジっすか……。
「解った。両手と言うか前後の花に囲まれては俺も話さない理由には……実際花に話しかける野郎ってキモいな」
「い、意思が有りますから大丈夫ですって!」
本居がフォローしてくれた、ありがとう。
「自分を花と過大評価してるのね」
「何も言ってないって!」
「まぁ、里を散歩しながら話しましょうや。先ずはキモイ繋がりで、博麗神社の階段を上がって、博麗霊夢に悲劇のヒロイン振って同情を買った所から」
「「何その早速情けない話」」
直、女の子二人に突かれると、来るモノ有るな。落胆。
「まぁ俺も正直何故でそんな風に話したのか、粗一週間前だが鮮明に覚えていて、だけど未だに解らない。取り敢えずこんな情けなくてダサい事だらけの物語だが、止めるか?」
「いえ聴きます」
「文化の発展、時代の改革、歴史に名を刻む名人物には、個を晒せばイメージと違ったエピソードも有りますよ」
「そんじゃま―――巫女さんと出会した時、俺は賽銭を入れて居たんだ。神社は願いを祈る所だからな。だが生憎入れる両分を間違えてな。魔法で両替をするズルをした結果、賽銭箱を壊す重さに耐え切れず、その瞬間巫女さんがやって来たんだ」
「だ、大丈夫だったんですか?!」
「相当御怒りだったのでは?」
「そうだな。唖然とした状態で『私の賽銭箱は?』と質問を投げて来て、俺は冗談で返答したからちゃんと鈍器を振り翳して来たよ。その後だが~……―――」
と、包み隠さず有った事順番通りに話す。
こんな話の何が良いのか、彼女たちの顔を見やるが、目が輝いて居たり、口が開きっ放しだ。頬が赤くも見える。
そうしてベラベラと話している中、前方の里人が、気付かない具合にヒツキサイドを眺めていた。
「おやおや若いモンってのは、抜け駆けして狡賢い者だねぇ~……」
「そう言いなさんな。英雄様も同じくらいの歳頃さね。囲まれるなら若い子達で在りたいだろうし、良くご覧よ」
「何だい?」
「若い者同士の和気藹々としたあの空間には、何だか元気を貰えるねぇ~…」
「……確かに、コッチも笑みが零れる程、朗らかな光景だぁ」
……何だか、目の前の人たちが物凄く微笑んでいらっしゃると、流石にヒツキは気付く。
何だ何だと疑問に思いつつも、語る程食い付く二人に、幻想郷に来てからの物語を、簡潔に丁寧に、話していった。
今日の天気は、暑くも涼しい風が吹く晴れの日。
【人形】
扨て、貸本屋の‘本居小鈴’、稗田家九代目当主‘稗田阿求’と共に、人間の集う唯一の安地、儘”人間の里”を闊歩し乍ら、自分語り、時折、二人からの質問を割り込めて。
語り手は疎か、夏の日差しに当てられ続けている者なら汗を掻き、喉が渇く、渇いて来た。
無駄に長い陰陽師みたいな雰囲気を出す烏帽子を流石に脱ぎ、紐を伝いに首の後ろへ回す。
丁度、飲料水を売って居る店へ趣き、英雄様が内に来たと高揚を堂々顕わにする店主を前に、何か喉を潤せる飲み物を頂きたいと頼めば、此れは驚き、まさかの瓶ラムネが登場。
有るもんなんだなと内心感心して、では三つくださいと、お勘定を出そうとするも、英雄から御足は頂きませんよと無償提供……発言とご厚意に有難さの反面、タダで貰える物程、怖い者は無い。
とは想う者の、彼等は目の色変えて持て囃して接してくれたのだからこのご厚意、言葉通りに受け取り、体勢を戻す。
「そう言う事なら有難く……」
三人は銘々にラムネ水を貰う。
「後でこの二人からだけ集るとか止めろよな?」
「ハッハッハ。流石に七、八人以上の団体様で来られては少し考えますがね。然し乍ら英雄様は物腰柔らかで隅に置けない色男で御座いますから……」
含みを感じる。
「褒めでは有るのよな……」
と、此の場を借りて炭酸飲料水を口に含む。
ちゃんと炭酸水で泡が興奮する様に出来て居て、冷たく、甘い。
然し飲んでいる途中、ヒツキは在る事に気付き、噯気を静かに抑えてから、店主に一言物申す。
「余計なアドバイスをお代替わりに良いですかね?」
勿論、控えめに。
「貴重なご意見、お聞きしましょう!」
矢張り流れ着いたんだなと言う意見は置いとき。
「ラムネ瓶には、ビー玉を入れたほうが良い」
「ビー玉……ですか?」
「簡単には割れない硝子の玉って言って伝わるかな?」
「此れは失礼。ビー玉でしたら流れ着いてますよ」
話は早くなるので、話を進める。
「其奴を栓代わりにして、押し込む様な形で瓶の中に落とすんだ。底じゃなくて、摘まみでもありちゃんと水が流れる具合にこの辺りで停滞出来る様瓶本体を狭める構造にしてね」
瓶全体の下から六分目を指す。
「瓶の…瓶に……ハイハイハイ」
しっかりとメモを取って居た。
「で、此れが一番大切なんだが、ビー玉は瓶から取り出せるようにしないといけない」
「取り出す……フムフム、外界ではその様な取り組みをされて居ると……して、それに於ける利益とは?」
「風情」
「勉強になりましたっ!」
其れで良いのかと連れみたいな二人は唖然として居たが、まぁそれがヒツキにとっての普通なのだから、違和感と言うか、ビー玉の物価が如何とか、有り無しで言えば有り。その程度の希望だ。
「―――では店主さん、加えて情報提供料を差し上げますので、私にもラムネ一本くださいな」
手から沢山のビー玉が入った網袋をカウンターに置き、注文をする女。
「出たな、アラカジメ」
「アラカジメじゃなくて”テララ”だよ、英雄君。コングラッツの鬼退治だったね、良くやったよ」
「お前がマジ予め鬼の所業を教えてくれたら面倒は降り掛からなかった気がするがな」
微笑む彼女の眼は少し下がる。
「私とて予想は万能じゃないんだよ。仮定を隠すなら仮定の中で……店主さんを蔑ろに話し込んでるね、この話はまた今度…」
「要らぬ自己紹介だな」
「嫌われてるよ私。で、店主さん、物々交換は問題ないですか?」
「情報とも仰いましたが、ビー玉の製造方法なら知人に伝がございまして、まぁ英雄さんのご友人って事でしたら此方でも喜んで商売します」
「勿論、情報も予め用意してますよ……」
こんな会話の所で、本居小鈴が耳元で尋ねる。
「あの、彼女は一体どういった方なんです?」
「ああ、予想を司る奴でな。速い話、未来予知が出来る程度の能力者だ」
稗田阿求も続いて口を開く。
「確かに、今回の異変を未然に防げそうな感じですが、彼の異変首謀者である方は仮想と言うモノを司ると言う……似て非なる言葉と能力には何か因果関係が有りそうですね……」
まぁ、俺も彼奴の攻撃を負傷的に食らって無かった理由では無いし、ポテンシャルだとか強弱は有るだろうね。
「ほう…その情報とは?」
「ちょっと失礼―――」
と、一つビー玉を摘まみ床に落とせば、砕けた音と同時に、ラムネ瓶が直立して現れた。
更にもう一つと、落とせばラムネ瓶のプラスチック製の蓋や、良く見るビー玉を落とす為の栓にと出て来る。
情報とは、サンプルの様だ。
「彼が言ったのは正に、この感じのが外界でのラムネ瓶でね、此れをこうして―――」
と、商談が入った所で、飲料店を後にする。
「では、頂いて参ります」
「あ、毎度有り~」
「まいどありー」
さて、「まぁ彼奴と初めて会った話も後々出て来るとして……」という発言を始めにラムネを飲み乍ら、噯気を静かに抑えつつも、俺の中で名場面で在ろう妖夢との出会いと別れに語り更けて居り、矢張り何故か彼女らは顔を赤めたり涙を流したりとしてる最中、子供が二、三人嬉しそうに何かへ駆けて行く。
「急げ急げ。向こうで英雄様の人形劇をやってるって!」
人形劇……人形………ドール…………アァアリィイスゥウ?!
「お二方済まねぇ。負んぶか抱っこならどっちがいい?」
小鈴。
「負んぶですかね?」
阿求。
「私は抱えられたいですが、不可能では?」
行動僅か一秒以内に右手で小鈴を背中に、左手で阿求を腹に抱え―――
「いや寧ろ俺にされるのは勘弁とかじゃなくて良かったッ―――」
「ウワアアァァッッ……―――」
「キャアアァァッッ……―――」
空を飛んだ。
背中全体に乗せ、首を絞められる形で小鈴を乗せると言うか、靡かせる状態にして、腕には背中と膝腋を腕に抱えられた阿求を運ぶ。
「何だか此れ私、役得の逆で役損じゃないですかーっ?!」
「今度ちゃんと負んぶするからちゃんと掴まってて」
「要求が悉く身勝手!」
負んぶしたいみたいに言うな。
「……ラムネを少なくしてて良かった……」
何か阿求が呟いた気がしたが、取り敢えず、人形劇らしき現場は飛ぶより跳ぶと表した方が適して居る具合に、近場で人が集った地点を視認し着地を試みる。
―――試みに於いて、脳内で二つの選択肢が過る。
派手に着地するか、静寂に着地するか。
派手に着地した際を想定すれば、マッドとしての狂喜乱舞っ振りを登場にて披露出来るが、今し方話に走っていた童達の人形劇の題目を想い出すれば、ヒツキと言う英雄の人形劇と言う事で、自身の人形が作られて居るのかと嬉しみ有るも、其処でご本人登場となれば興味は絶対ヒツキに向けられ、完全に営業妨害でアリスとの好感度最低から始まる事間違い無し。其れだけは避けたい。
ので、静かに且つ、静かな場所に着地して、遠目から劇を眺める選択肢を取る。
建物と建物の間、見事三人分は通れるであろう通路にゆっくりと降り立ち、阿求と小鈴を丁寧に降ろす。
「……てっきり土煙を舞う勢いで人形劇の場に降り立つのかと」
と、阿求。
「素早く私達を抱えて飛んだ割に、意外だったね」
と、小鈴。
「折角のラムネが勿体無いし、広い個室でも、青空組み立て舞台でも、上演中はお静かにってヤツだ」
劇が見える陽陰(ひかげ)での観賞、日傘の有る涼台が幾つも置かれ、小鈴と阿求は席に座ろうと駆け足で寄る。
内容は『幻想郷の為、異変を起こした者を倒す、英雄の戦いのお話』。
最近だなと言う記憶の振り返り、だけど確かもう三日は経って居るから、続けてやってるならそれ位の話になるかとも想われ、然しどれだけ俺の情報が彼女には伝わって居るのだろうと、少しこそばゆい。こそばゆくて、顔を下に向け頬を掻く。
中くらいの枠の中、カーテンは開かれ、物語が始まる。
『燃え盛る人里の中―――博麗神社から瞬く間にヒノヅキは現れ、今回の異変の主犯、ムジャドウジの前に立ち開かる』
―――先に俺はキモイと言う感想を述べて置き……恐らく此の語らう声が、アリスだろう……可愛くて美しい声だ。
『俺たち二人は流れ者だ。俺は見えるモノ全てを壊すが、お前は俺を止めて何の為になる?』
悪役を演じるような声、上手いな。彼奴はもっと狂乱染みて居たが、子供に見せる芝居なら、此れ位が丁度良い。教育観念的な見方で別に上からとかじゃない。
『友達を傷付けられた、闘う理由なら此れだけで充分だ』
勿論、俺も演じられる理由だが、確かに何かこんな台詞吐いた様なと想えば、加えて面映ゆい。三人称で見る自分とは何とも気障だ、少年誌の主人公みたいな発言が痛々しい。
『―――激しい戦闘の末、ヒノヅキが押され、倒れて、もう駄目だ、幻想郷は此れでお終いだと思われたその時、彼の仲間である水の乙女、イチエ。ヒノヅキが到着する前まで、ムジャドウジを足止めして居たが、人里を家毎丸呑みにする鬼の様な圧倒的な力に敵わず、結果ヒノヅキと共倒れになった……』
今に想うが、ドウジ、俺、イチエをモデルにされた二頭身パペット人形が、五十×百センチ位の枠の中で劇を演じてる理由だが、人形と言い、動きと言い、丸で生きてるかの様で、背景も動けば、オブジェクトも動き、小道具の様な物もしっかり作り込まれていて、総合的にクオリティが高いな。
『水を操る能力の彼女が、残り僅かな力を込めて、傷を癒す水をヒノヅキに託す様に浴びせ。彼女は言う』
『生きて―――アナタなら…救え……る……』
何を以て救えると言ったのかは定かではないが、確かに彼女はそう言った。本人居なくて良かった~…。
と言うか台詞の感情表現と……後アクセントとかも上手過ぎるだろ。声優成れるわ。声優になろう。
『その言葉を最期に―――ヒノヅキは立ち上がり、命を削る、最大限の力を開放し、鬼に挑む』
命……強ち間違ってはいないな。時間が掛かり過ぎると言う意味で使い続ければの話だからな。三日眠るで済んで良かったよ。
さて、戦闘シーンだな。
『鬼は、大地を揺らして、雷の雨を降らせ、燃ゆる火を龍に変えて、ヒノヅキに喰らい付く。龍に燃やされても彼は倒れる事無く、友の為、幻想郷の為、拳を握り締め、全力を込めた左拳で、鬼を討ち、ヒノヅキは勝利した』
地震、雷、火事……怖い物シリーズだな。親父は……鬼も似た様な者か、挿げ替えても差し支えないか。
『―――然し、彼は一瞬、鬼を討つ手前、ほんの僅かの鬼の細やかな声を聞き取り、目を閉じて討伐する』
……ん? 大体子供向けの劇は「こうして幻想郷に平和が訪れた―――」みたいな締め括りかと想えば、未だ続くのか。
『―――鬼にも大切な人が居た。家族と同じくらいに大切な人。然し失った。失う様な出来事が、別の人によって齎された。鬼も人だったのだ。心有る私達と同じ人だったのだ。その大切な人を失った悲しみが、彼の心を鬼へと変貌させ、見るモノ全てを破壊する様になってしまった。ヒノヅキがその大切な人の名前を呟いた鬼に、少しばかり、許す事にした』
「そうだったのか……」
「おにさんかわいそう……」
…何だか、敵側も壮絶な過去が有って同情される慈愛話は良く見て来た気がするが、其れ此れ論で彼奴のプライバシーが無さ過ぎるのも感慨物だな。
『博麗神社の宴席の隅、参加していたヒノヅキと縛られた鬼。鬼の名はキヨスミと言う、ヒノヅキと年同じくらいの少年』
そうなの?
『彼らは語り合う』
『―――何故止めを刺さなかった? お前は友を傷付けられた事を俺と同じ位、憎んで居たじゃないか』
『ヒノヅキは言う』
『そうだな。傷ならお前も受けて居たんだし、人の心が有ったからな。見逃してやる』
『そのお人好しさは何れ痛い目を見るんじゃないのかねぇ……』
『そのお人好しさにお前は生かされたんだろ。俺たちは流れ者で、時代が同じなら良くても悪くても友達にはなっていたかもな』
おっと、其処を流用するんだな。
『……ケッ、くだらねぇ』
『キヨスミは、何時の間にか縄を解いて居り、すぐさま高い木に登り、ヒノヅキに言い渡す』
『俺と渡り合えた事を光栄に想え。またな!』
と、枠外から出ていくキヨスミドール。
『ヒノヅキは、手を挙げる』
『誰が逃げて良いと言った?』
『コノヤロウ……オボエテ…ろ…』
会場は、何故か笑いに包まれていた。
『その後、彼等が如何言った行動を共にしたのかは、彼等にしか分からず。こうして、昨日の敵は今日の友と言えようか者同士の戦い、並びに幻想郷の異変は、此れにて幕を閉じました』
幕切れ、そして拍手喝采が響く。
俺が彼奴を叩いたくだりを落ちに採用されるとはな。
カーテンコールの様に、人形舞台の袖から、誰かが出て来てカーテシーを決める。
「―――以上、三日間行われました、ヒノヅキ幻想郷漫遊劇の演目は、此れにて完結しました。今日まで見て頂いた方、本日初めて見に来て下さった方、ご観覧、ありがとうございました」
と、更に皆が拍手で讃える。
その人物、金髪、空に近しい水色服とスカートの他、フリルの付いた赤いリボンを首に腰にと巻いて、肩は白いケープで覆われていた。
カーテシーをしてたから茶色いブーツもよく目立った。
この何時もの衣装チェック僅か0.19233秒での視認と脳の情報伝達から導き出せる知識と記憶を呼び起こして、あの人物は間違いなくアリス。いや、捲り台にもアリス・マーナンタエラ主演と書かれて居たのだし、確実にアリス。
(大丈夫だ、俺は正常、俺は正常、マッドヘッダーの名は髪型だけにしておいて)
深呼吸をする。あんまりやった事無かったし体感した事無かったが、成程、此れが緊張。
客衆が引くのを待ち、周りに人形が集って共に後片付けに勤しむ所を―――
(重力を一点緩和し、脚力と圧力を一点増幅……)
謎の趣味の悪い目だらけの穴が見えたと想えば、ちゃんと穴として落下し掛けたので、同じ轍は文字通り踏まないと、跳躍台を緊急設置し、前進する。
然し、瞼の様に開く目だらけの穴は空上にも出没し、おまけに目頭と目尻の端々にはリボンが付いている如何でも良いわ。
(左腕にて重力一点緩和と、腕力圧力一点増幅……!)
何気に今知れっと能力に於けるデメリットを最小限に抑える技量を見せた気がしたが、お陰で今、ヒツキは良く分からない屈折態勢、アリスが丁度顔を上げた所に、距離は顔一人分の顔と顔―――此れにてアリスとの邂逅完成。
運命は幾星霜通り有った筈なのだが、此れなのかとも言いたいが、昼では白い月も見えやしないか。何となくだが、この緊急接近が何ともいい具合に心を落ち着かせて、頭の中での台詞を纏められたような気がした。
「やァ。素敵な舞台をありがとう。会いたかったよ、アァ↑リ→ス↓」
彼女は呆気に取られたが、取れた烏帽子から見える頭と共に、彼女はプスッと吹き出し笑い、はにかんで彼女は応える。
「ええ! 私もお話ししたかったけど、どのアリスなのかしらね! マッドヘッダー?」
矢張り運命は、アリスと言う存在に『可笑しい頭』の名前を授けた。