幻想の現実≠東方空界霊 作:幻将 彼id・tactstock
【七色】
その姿勢、傍から見て、宛らカーテシーとボウ&スクレープをし逢う男女の様で、とは言え御立合いは小鈴と阿求の二人、後はアリスの人形数体が見詰めているくらいで。この、奇妙奇天烈奇想天外奇々怪々義理同義語の雰囲気に、人形劇の後片付けを手伝う小鈴と阿求は想う。
((この人って、ああ言う風に気になる女の子に近付くんだ……!!))
何だか要らぬ誤解を生んで居る気がするが。 この光景に逢引の様な、白昼堂々が赤面を生む事態だが、何方かと言うと、引き気味。
扨て、どのアリスかと尋ねられた。ジョークと言うか、常套句と言うか、アリスは女性英名の中でも、ジェーンには劣っても何かと話題になるレベルで在り来たりの名前。
アルファベット始まりのAから始まる英名なのだから、早速出てもおかしくない名前。という常套ジョークの由来は、―――じゃなくてだな、だな。
「勿論、幻想郷に居る’マーガトロイド’のアリスだとも」
建物の影から鑑賞して居た人形劇の終演後、激励を送ろうと接近を図るも謎の穴が現れ、火事場の馬鹿力で回避移動に回避移動を重ねて接近が急接近(二重)に早変わりしての現状の間際迄、捲り台の主演名をフルネームで視認出来て良かったよ。この際、主演人形師とかでも良いか。
「目が利くのね」
「―――狂ってるんだよ。素敵な名前の素敵な少女に寄る素敵な人形劇を―――改めて言うよ、有難う。はい、御捻り」
そろそろ良い加減体勢を立て直す。
「あら、受け取れないわね」
「―――個人的には悲しくも、ボランティア精神の劇とは矢張りアリスは優しくて暖かい。公認だよ」
「貴方の言い分は私が善意で受け取れないって聞こえでかも知れないけど、単純に外界の通貨だからって理由でも有るのよ」
その情報を聞いて、今になって、一番初めの霊夢とのやり取りが気になった。
一万円分の五円を賽銭箱に入れた理由だが、アレは最早、遭難道具と化して居るのではないだろうか。無駄って事ね。
「でも、そうね。何も受け取らないのも悪いし、恩人だし、私に付き合ってくれる?」
と、安易に腕を組まれるマーガトロイドアリス。
「構わないが、まぁ先ずはお片づけをしよう」
「大丈夫よ、私の人形たちが運んでくれるから」
それを只見ておくのも忍びない。何よりデザインが可愛い。一寸重そうな感じで一生懸命運ぼうとする姿に母性本能が燻ぶられる。
「なら―――」
合掌。
途端に椅子は、元の位置に戻される。
「―――行きましょうか、御三方」
椅子を二人係で持って居た二人は、急な軽量化にバランスを崩し倒れ掛かるも、ヒツキの出血大サービスで、圧力に寄る壁で、体勢を立て直す。
「あっ………と、いえ、大丈夫です。確か、この後の話は、霊夢さんと魔理沙さんが主題でしたっけ?」
「あ~……確かそうだったな」
「では、この後の話はお二人から直に聞いてきます」
「アナタ方お二人はお二人でごゆるりとお過ごしください~…」
そう言ったらば、ピュ~ンという音が良く分かる様に似合う様に当て嵌まる様に颯爽とそそくさ彼方へ走り去っていった。
「……二人きりね」
「責めてウサギとネズミがお供に居て欲しかったね」
三月類と、眠たがりの、ね。
「アフタヌーンティーでも飲む?」
「飲むか」
時間はそろそろ、正午に差し掛かりそうだった。
【茶会】
飛行中に午後となり、アフタヌーンティーは達成出来そうで、漸く念願の、コーマとか良く分からん不明の目的が初期頃には御座いましたが、アリス厨たる此奴、“陽月さくら”は現在、“アリス・マーガトロイド”成る名前の人形魔法使いに出会う事が出来、内心嬉々としたポーカーフェイスで空を共に飛んで居る訳だが……………………左腕を彼女の右腕で掴まれ絡まれ、明らかに距離バグ。いや、距離バッグ? 手提げ鞄?ちゃんと人間です。
であるからして、出会った瞬間結婚となる程の、丸で絵本童話の王子と姫。
運命という言葉が当て嵌り過ぎて、俺は新しい命を運ぶのか…と、内心むっつり思考が加速している。
それもそうだ、アフタヌーンティーと洋風に替えたとは言え、お茶の誘いなのだから、誘われてるのだから、二手先の話だって安易に考える。男であり、陽月さくらと言う個人は更けつつ、否定する。
「ねぇ、アレってどうやったのかしら?」
アリスが何やら尋ねてきた。
「…アレ?」
ココでアレに纏わる題目を予測立てれた者を、妄想にリソースを割き過ぎた。
「里で椅子を一瞬で元通りにしたヤツ。アレって如何言う術なの?」
アレ事、簡単過ぎた。
「超能力によるサイコキネシスと、それに於ける移動時間を端折ったってだけの芸当だよ」
超能力、万能。
「何だか恰も凄い事を呼吸の様に言うわね。でも、元位置まで特定出来たのは説明不足じゃない?」
(ちゃんと元位置に戻して居た事を把握して居た事と、元位置が分かった事が凄い。俺なら覚えられないって意味でね)
「それも又、時空間を逆算して得た答えだよ。ナニブン時間停止世界に干渉し過ぎた所為で感覚を掴め過ぎた」
魔道関係の習得に於いて、主、魔理沙から「属性を我が物にする技量は普通寄りの低めだが、無駄に魔力色覚は高いな」との称賛ではあった。何だそれはと尋ねれば、咲夜とか空間に影響及ぼす系を息をする様に干渉出来るとの事らしい。
……其れについては周知の既知で、条件付きだったと想うが、まぁ成長…と言う事で。
「へぇ、ステキね。努力が垣間見えて居るって感じで」
「そう想うか?」
「そう想う」
片や何だか都合の好い様に彼女は語って居る様に見える。
操り糸で人形を操る魔法使いならば可能だろうと、さとり妖怪の心読能力が一人だけの者では無いと想う位には。
然し、一目推しで在るアリスから嬉しい言葉を頂いたのだから、甘い言葉を貰えたのだから、口車に乗ってあげようとかでもなく、悪い女に騙されてあげようとか、詐欺の反面教師を体現してあげようという思惑無く、単純に、気楽に、愉悦に、無邪気に、無神経に、無思考に、アリスだからという理由だけで、全面的信頼を置いて、鵜呑みにして、氾濫しそうな高揚感を余裕綽々で抑制して飛行を続ける。
続けるとは些か不適切な程には、アリス邸に到着する時が今すぐに至る。
辿り着いた頃には、御庭にテーブルクロスの敷かれた小さな円状テーブルと、木製の椅子が二つ用意されていた。
湯気の立ったポットに、ティーカップ、砂糖ケースに、三段アフタヌーンティースタンドには二人分に程良いお菓子が並べられて、お花も飾られ、お茶会と申し上げるには勢揃いの品々だった。
「力が入ってるな」
「ええ、アナタとのお茶会ですもの。気合入れなきゃとね」
何だか特別感を示されて居る様なとは想わず、普通に内心嬉しさを顔の周りに表現して居るような真顔のヒツキ。
そして二人は席に座る。
同時に、アリスの操る人形から、カップにティーが注がれる。
「ありがとう」
ハンドルを摘まみ、匂いを堪能し、「いただきます」と言い放ち、口へと運ぶ。
アリスは、未だティーを飲まず、カップに触れず、卓上に膝を付けて手の甲タイプの頬杖で此方を見詰めていた。
「美味しいな。何て種類のティーなんだ?」
アリスは満面の笑みで質問に返答する。
「Noli Veriteas」
「へぇ、ノリヴェリティースっていうのか。幻想郷らしいワンダーネームだ」
何なら甘くてクリーミーな飴みたいな名前だなと。味は茶らしい甘み3と苦み7のバランスが取れた味。
「一応私の自作配合茶でね。気に入ってくれて良かったわ」
「そりゃそうだ。アリスが作ったのなら身体が大きくなるケーキでも小さくなる小瓶薬でも頂くさね」
「流石に用意出来て無いわね」
「別の機会にでも」
「そうするわ。繰り返し聞く様で悪いけど、私の人形劇は如何だった? もっとこうするべきだとか、改善点を教えて欲しいんだけど」
改善点……改善点と来たか。と体が馬鹿大きくなる事を望んでクッキーを齧り、飲み込む。
「素人乃至は初めて人形劇を目撃した者の目線としては、何も悪い所は無いんだよな。リアリティを追求するに当たるんだったら、俺と彼奴との喧嘩は大袈裟過ぎる分、表現と舞台に於けるセットみたいなのが難儀するだろうし、だからこそアレンジと自己解釈であの戦闘を表現したのなら娯楽提供としては十分利に適っていると想う。後、演者の声が多彩の使い分けが美味くて何方にせよ可愛くて綺麗で好きだ。恐らく俺の気絶期間も別枠が有ったのかと想うと見れなくて残念だ」
「そう。それも別の機会ね」
「助かる」
「違和感とか無かったの? 娯楽だとかアレンジだとかは言ったけど当人である貴方が実感した戦闘とか会話に於いて、改変はした分、色々とぎこちない事とか有るんじゃないかしら?」
「少し有る。それだけだ。気持ち悪いとかだったら俺個人的な面だけで、劇に対して一切無いし、感情表現に筋違いが有れど無かれどと言う論点は、俺の見解は相互的に如何でも良いと想える。若し何かしらの伝記を舞台で披露するなら、キャラクターの心情を捉えるなら脚本家の解釈は色々有るだろうからな。……意外と語れるな」
人形劇素人にしては。
「成程ね。なら私の演じたキャラは、事実に基づけば、或る意味捉えていたかしら?」
「捉えて居よう居まいは、客観的、視聴者(ギャラリー)には知り得ない話かもな。結局のところ面白いか面白くないかで、あの話は最終的に拍手で賑わっていたから。まぁ、俺の物語の何が面白いのかって話では有るよな。此れは個人的な面。里で言った通り、出会う事を羨望していたあのアリスが俺の劇を武勇伝か何にせよ手製人形作って披露してくれた事が、この上ない感謝の限りで、思い出の余りで、誇りの積もりで、漸く出会えたご当人はマッドヘッダーとお望み通りの名で呼んでくれた美人で可愛くて綺麗で優しくて素敵で可愛くて少し茶目思考込みの知的で魔法使いで人形遣いで可愛くて尊敬出来る可愛く「ちょちょちょチョ~…ット良い加減で止まってくれない?!」
と、顔を下に伏せて両手を此方に伸ばして振る。
「あぁ、流石に褒め責め千切り過ぎてキモ過ぎたか。悪い悪い」
「いやあの、私がブラフ張って何だけど、ノリヴェリティースって意味を解ってやってるの?! ってくらい物凄く喋るからちょっと私頭が暴走しそうなんだけど!?」
ノリヴェリティース…言語は羅、「真実を吐くな」とかの意味で、逆自白剤とかをお茶に打ち込んで居たらしい? いやそれも嘘か? ブラフと言うからには。
ならば此れは心理ゲームの一種みたいなものだろうかね。
無いなら、ノリヴェリティースと言う名前のお茶の意味を理解して、本当を言えばそれは嘘にもなるし、嘘を言えば逆に本当に成り得る。只俺の劇に対する意見は長短所割合10:0って位に賛美レビューが言えたんで、又有ったなら『妄想』で【逆理】を使うだけで。使わないけど。
まぁ何方にせよ、演劇の短所や欠点を逆算的だろうと誠実だろうと余す事無く聞いてやろうって魂胆だったのならば、何て人形劇に熱心なアリスなんだろう。努力出来る子は素敵だ。俺とは一切違うぜ。
「解って居るが、別段アリスに対して隠す事は無いし、頭が熱暴走しそうならお茶でも飲んで落ち着けよ。照れてる顔が美味しいな」
「グハッ…!」
おっと、吐く程キモい褒め方だったらしい。マッドヘッダー此処に極まれりだな。キャラ路線は安定だが付き合い方を考えないとな。
「もう少し居たい所だが、主催者が斃りそうだから身勝手だけど俺は此処でお暇しよう」
「い、いえ。大丈夫よ……私も身勝手に自爆しただけの話よ……」
「そうか。お大事にな」
「でも帰る事を止めはしないわ。私……その………前々から…………貴方の事が……………キ………タ………ナ…………イ…………………………………………」
気になってたから。最初は何故で私を探しているのか不謹慎に思って居たけど、何時の間にか私自身が虜になって居たから、貴方の事を追いかけて、貴方に関する人形劇も始めたし、貴方の事がもうs……
(昏倒する程『汚い』ってのか俺は―――ッ!!!??? 何が汚い? 面? 魔力体臭? 茶会に於ける礼儀作法? 最早付き合い方がマイナス化してしまって居たッ! 何と言う失態、『アリス』と言う存在に近付き過ぎたかった余り、ゴミのコミュニケーション、ゴミュニケーション的言葉の選択をし過ぎて、拒絶領域にまで発展して居たなんて……いや、まぁ、褒め千切りが酷過ぎたのは納得の定義。女性百人にアンケートしたら百人中百人が否定コメントを残すだろうて。「軽い気持ちで言葉を使い過ぎですね」とか「多ければ良いってもんじゃない。と言うか多すぎて本当に気持ち悪い」……死ぬわ)
「じゃあ、本当にお邪魔しました」
椅子から倒れ落ちて、地べたに寝転がっているアリスを、人形たちが運べる訳も無く、先の人里の腰掛けの位置を元に戻す要領で、瞳を閉じて、彼女を浮かばせて、服に付く埃も落としつつ、申し訳無くもアリス邸の扉を鍵から開錠して、家へ彼女の身体が入れば閉扉して施錠して、ゆっくりと寝台の有る場所へ運ぶように、超能力を働かせた。
後、茶会の後片付けも済ませた。
「ハァ……」
彼女を丁寧に慎重に浮遊させた事の緊張より、人間関係が拗れ捲った事に対し、大きく溜息が出た。
「扨て、何処行こうかね……」
折角の切望が絶望に変わったかの様な結末。
今まで無駄に上手く行ってた事が嘘かの様な今回のバッシングが、増長して膨張して又行方を惑わせ迷わせた。
今はもう誰にも会いたくない具合には、主に自分に対しての不信感が募った。
すると、パキッ、と枝を踏み折る音を眼先にやれば、魔理沙が立って居た。
【主従】
(小鈴と阿求は尋ねれたのだろうか……ああいや、何だか俺事も入ってるのだから尋ねられるのも複雑だな)
「応、ご主人。如何した、悪古議巣の夜に魔女集会のお誘いでもするのか?」
「ならば使い魔は連れて行かねぇとだろ?」
(何だか魔理沙はご機嫌斜めの様だ、無理も無い、暑いからな)
想えば今は夏だった。楽しさの余り忘れる位に好環境だったが、現実はジリジリの日だった。そんな中魔理沙はヒツキにジワジワと近付く。
「良いか、お前は『私の』使い魔だからな! 其処ン所忘れるんじゃねぇぞ!!」
「叫ばなくても俺はお前の使い魔だな。その通りだご主人、疲れて熱中症になるぞ」
「~ッ…なら、ちょっと屈め!」
「んぁ、何なりと……」
と、屈んだ瞬間襟を掴まれ、向日葵畑での出来事を再現―――
「二度は喰らわないわな」
おまけに位置が前回より左にズレた為、マジに右手で顔の接近を防ぐ。
「自分を買い被る気も勘違いする気も無いが―――先約が居る。一番目は零番目に取ってるんだよ」
そう、零番目に。
「此れは其のネッチュウ症の所為だ!」
「嗚呼、危ないよな。水分補給はしないとな。飲みかけだがラムネ水が有る。保冷されてるから良く冷えるよ」
「~~~………」
と、ラムネ水を手に取る魔理沙は何だか、小刻みに震えて居る。察しが付けそうだが、大きな鍔の帽子はこういう時役立つな。
「安心しろ。色んな奴と関係性は有っても、一途に主は魔理沙、お前なんだから」
「………でも、お前は向こうに帰るんだろ…?」
何方かと迷ったが、寂しい方だったようだ。
「帰って、必然的に忘れる事になるんだろ?」
彼女の寂しさが、瞼に溢れていた。
「……そうらしいな。夢物語で終わるみたいな事を、他人から聞いたが…」
「私は嫌だ! お前と過ごした五日間を、夢を見ていただけで終わらせるなんて……」
しおらしい。しおらしくてらしくない。何度か見た光景だ。
「魔理沙。夢を見て居ただけの事を、俺は聞いただけだ。此処の大賢者さんが言ったらしいが、違う世界ってだけで如何言う理屈と根拠でそうなるんだって話だよ。まぁ、だからこそ忘れられない程の想い出って奴が欲しかったんだろうが」
「ヒツキ、私は本気で―――」
「少なくとも現状の俺はお前とのその五日間の付き合いで、一面単色斑点無しで染めれる位濃厚で忘れる気は無いな。魔理沙、お前の頭はそんなに妖精だったか? 使い魔の俺も総じて弱まりそうだな」
「ナっ、お前…………いや……そうだよな! 魔法使いでお前の主で有る私が忘れる訳無いよな!」
「それが魔理沙だ」
その魔理沙、勢い良くラムネ水を飲み干した。
「良し! なら更に忘れない位に想い出作るから今から私に付き合え! さっきの茶会より楽しい事をするぞ!」
ちゃっかり見てるのな。
「先ずは、会わせたい奴が居るんだ。こーりんって奴を紹介するぜ」
(こーりん、こーりん……想い出した、いろんな雑貨が置いてあったあのお店か)
「よし、乗れ!」
「ああまぁ別に俺個人で飛んでもオワ―――…ッ」
今日は妙に、引っ張られる。
【忠誠】
その後、魔理沙に連れられて”香霖堂”店主「森近霖之助」に出会う。
『幻想郷』現地にて二人目の男知人が出来たと言う理由で。ヒツキは親しみを込めて「森近兄さん」と呼ぶようになり、その「森近兄さん」はヒツキを君付けで呼ぶ仲となる。
―――最初元気に扉を開けて、魔理沙が挨拶と紹介がてら「私の初めての使い魔」が「初めて男」を連れて来たと言わんばかりのその光景に眼鏡を上にあげて目元を手で拭う彼は、丸で父親の心境の様だった。終いには「魔理沙を宜しく頼むよ」と頼まれる始末。
その途中は、何と此処のお店は外の世界……ヒツキの住む世界とはまた別の世界、「地球」と「日の本の国」と似た、言わば思想家衆、原初の能力集団『フィロノエマー』の最終目標「魔法が存在しない世界」より、流れ着いた物品を取り扱っているとの事で、霖之助はそう言ったアイテムの名称と用途が解る程度の能力者。
然し、知らぬ別文明は時に異なる解釈と齟齬を生むらしく、アレやコレやを錯誤してしまうので、恐る恐る尋ねる質問に、端的に代弁して、彼のお店に並べられるソレらアイテムに関する語弊を拭い晴らした。
その点で魔理沙が大いに感心した。森近兄さんの話は持論交えて悉く長くなるらしいから、簡単に説明したヒツキには、「無駄無何有解説者」と言う称号を得て、謎の感謝が施される。要らぬ名誉だ。
そして、魔理沙を頼まれて、香霖堂を後にし掛けた直後に、「忘れ掛けて居た」と霖之助が店内の奥へ行き、「君の髪形は嫌に目立つだろうから、此れを着て行くと良い。僕の家も燃焼し掛けたし、外界の不可解アイテムの曇りを取り除いてくれたから、そのお礼だ」と、まるで中世文明の装備屋からの無償提供の様だった。
だが物は近代外界の忘れ去られた衣類で、数年前モデルの様な、サムホールが有る袖の膨大フード黒パーカー。中古品、着こなされたと言わんばかりに色は褪せて居た。
森近兄さんと言った手前だが、叔父さんがお下がりを渡して来た様にも想えて来た。
実際「森近霖之助」は、超長寿の半妖人だった。
見た目は二、三十代のお兄さんなんだが、或る程度の世紀を超えて、幻想郷の歴史を見てきた人物の様だ。
全く此処の者達の容姿、主に妖怪類と来たら、年齢詐欺にも程が有る程、若々し過ぎる。
話は戻りお下がりは、只現状英雄の和装を着て居る為、試着不可、まぁ肩に掛ける位なら、と、姿見鏡で自分を見やり、何時もの服装と着衣して居る事を想像するが……う~…ん、似合う似合わないは解らないな。色は只々モノクロ基調で統一して居るなくらいで。
「おっ、格好良いじゃん」
魔理沙はこう言う。彼女も白黒だから同調したのかね。と、まぁ、素直に彼女の意見を内心受け止められないのは、己に対しての自身の無さが否定的見解を導いて居るんだろうね。なら似合っているとは思って居らずって次第か。似合わないと言い切れないのも面倒な性格だ。
取り敢えず簡単に畳んで、風呂敷に包んで貰って、鞄に仕舞った。
で、到頭『香霖堂』を後にする。
「またおいで」
と、再訪を歓迎されて、ヒツキは
「ええ、必ず」
確実ではない約束を発言する。社交辞令の様だ。
場所は移って再び”人間の里”。
―――そう言って良いのか解らないが、一つお土産、此処の物では無い別の土地のお土産。記憶に保てるかは定かではないが、幻想郷で足を踏みしめた事を裏付ける思い出の品が出来た理由だが、前者通り、此の土地で得た物では無い事も含め、もう幾つかお土産を買おうと想う。
何が良いかと、魔理沙と土産相談をすれば、
「なら、あそこが良いかもな」
お勧めの土産屋を案内してくれる。
近いのか手を握って走って引っ張って連れてかれる。
慌ただしくも何とも言い難い良い雰囲気に、今更乍ら、こうやって付き合う事に、主従関係なく、自然に言葉をヒツキは零した。
「丸で逢瀬みたいだな」
急な発言に魔理沙の繋ぎ引っ張る手の握力が緩み、そのまま転倒に続かせない。
更に速くヒツキが動き、頭から地面までの距離一メートルの所で魔理沙を背中から抱き抱える。
「……大丈夫か? 天上の魔女様が地下とお近付きになる必要は無いって」
「お前も急に主従よりお近付きな発言と行動をするんじゃねぇよ!」
藻掻く彼女を解放し、魔理沙は脱げ落ちた帽子を手に取り、埃を払い被る。
「…それか? 里人が往来するこの大通りで、口付けでもするのか?!」
「あぁ良いぜ」
「ヘっ!?」
砂利の含んだ地を踏む足音が鳴る。
ゆっくりと近付くヒツキ、その場で立ち竦む魔理沙、元より表情筋の死んだ男が近付く姿は恐怖でしかないが、ベクトルは違いて含め、高揚、期待、不安、葛藤、緊張、熱烈―――雁字搦めに成って居る感情が、一点の出来事への可能性に寄って思考を混乱させる。
―――立ち止まるしかない、男がもう目の前、見詰める、怖い、身体が震える、目を必死にして閉じる。
一度は自ら、未遂の不発で二回目も有ったが、三回目は向こうが仕掛けて来るなんて、私は二元に於いて只の―――
「ンッ―――…!」
訳も分からなく触れられた事に身体が驚く。
「―――」
触れられたのは右手で、相手の左手に掴まれ、優しく、硬さが有りつつも柔らかさが勝る物が、甲に当たる。
もう片方の手の甲は、照れ隠しの心理か、無意識に口元に寄せて居た。
恐る恐る、震える中で、ゆっくりと瞼を開けば、男が跪いて、女の手の甲に、口付けを交わして居た。
男は口上を述べる。
「我、陽月春雪は、如何なる災厄、如何なる異変、如何なる幻象が降り注ぎ、貴女の行く手を阻もうとも、この身は貴女の剣となり盾となり、御身の命が尽きる其の日まで、我が主、白と黒を纏い、星と恋色の焔を宿す稀代の魔女「霧雨魔理沙」を、護り抜くと誓いましょう」
騎士道精神、何時の間に。
まぁ何かの書籍かを介して得た知識なんだろう。
魔女は白黒の服に身を囲む中で赤らむ頬を落ち着かせ、少しだけ瞼を落とし口角を上げ、男の忠誠心に、告げる。
「―――はい、汝の忠義、確とお受けします。宜しくお願いしますね」
その時の微笑は、魔女で在る身乍ら、魔女と呼んで居るが人間の領域で有り、されど誰が為に鐘が鳴ったかの様な、降臨せし女神の如く。
騎士も又、人の身ならば、女神を拝謁直視する事は、昇天を意味する程に……恐怖は無いが、頭首(こうべ)を垂れて閉じ続けて居る目は、言葉の柔らかさに安堵し、口角が緩やかに上がって居た。
「……あの~、店前で稀代の逢引なんてされましても、唯々商売上がったりなんですけど……」
途んだ場所、否、富んだ場所で茶番を繰り広げていた。
我に返ると何だか小っ恥ずかしくなって来た。特に魔理沙だが。
【土産】
「悪い悪い。土産屋を模索している会話中、今日の気温の様に上がりに上がってしまった。お詫びに是非お宅で何か見繕わせて頂きたい」
「あら。よく見たら魔理沙さんに英雄様じゃない。何々、霊夢さんと良い関係って噂だってのに、英雄様って隅に置けず魔理沙さんともそういう仲だったりするの? いやぁ~…若いって良いわねぇ~…」
此処の店主さん、物凄く若々しく見えるのに、言動が急激に年増しくさい。
「そうだな。彼女は命に代えても守るべき存在だからな」
「~…」
「まぁ、男気溢れる愛情表現ねぇ、立派だわ。貴方たちの関係が、命有る限り続く事を祈ってるわ」
「ありがとう。此処は何を売ってるんです?」
「装身具よ。祭事からお粧しまでの幅広い付属品を提供して居るわ」
アクセサリーショップか、良いね。幻想郷産地の天然石やら生地を使っているのなら、忘れる事は無い対策にも成り得る……のか?
また旅行気分で来たい者だからな、未来がどうなってるかは、文字通り未知が来るから解らないが。
いい加減、魔理沙は現状復帰する。
「丁度此処を紹介しようと想って居たんだ。此処のアクセサリーは逸品物ばかりだからな」
「も~煽てても安売りなんてしませんよ? 後、以前貸した私の首飾り、返して貰って良いですか?」
又もや身体がビクつく魔理沙。
「フッ…! あ~…今は家に置いてるから、また今度~…」
「此処でも借用してるのか……」
「本当、彼氏さんからもきつく言っといてください」
「―――はい、汝の忠告、確とお受けします。宜しくお願いしますね」
「お前ええええええええ!!!!」
赤面乍らの魔理沙に体をブンブン前後に振り回されるヒツキ。
いやぁ、短文な台詞の復唱って楽~。
「アハハハハッッッ……面白いですね貴方たち。元より英雄様は恩人ですので、この店全ての商品とは申し上げれませんが、十二個迄でしたら、無料で貰ってってください」
羽振りは良いが、個数がまたアバウトな。
「じゃあ、物色させてもらおう」
―――とは言え、何を頂こうか、悩むに悩む。
天然石、宝石、金属類、布物をベースに、ネックレス、ブレスレット、リング、スカーフ、帽子が並べられて居る。
ヒツキは悩ましかった。
お出かけ、ショッピング、引いては衣装センス、乃至デート、魔理沙と二人で共に歩む行動は現在進行形で有れど―――勘違いに過ぎず、以上四つの日常イベントをイチエ又は誰かと繰り広げた事等、追われ身ならば有る筈も無く。
何よりも十二の数から十二の恩人、或いは忘れて欲しくない人物に何を贈れば喜んで貰えるだろうと、贅沢にも真面目に脳を苦悩で働かせて居た。
今、此の場にすぐ近く居る我が主魔理沙、博麗の巫女さん、咲夜パイ先、早苗さん、愛弟子妖夢、幼馴染の鈴、最推しアリス。此奴等は確実だ。後五人。
イチエ、チョコ、カラヒナ、後はアイツと―――
黄、赤、青、薄萌葱、碧、赤紫、パープル、そして―――橙、黒、紺色の布と……ふと何故か、桃色或いは、桜色の布を選んで居た……本当に何故なんだろうか。
未練……と言えば、名前からして有るのだが、望んで付けた理由でも無ければ、親御の話を持ち掛ける訳でも無し……新しい出会いによって名前の出自と未練についての二つ共々最早気にする事も無いが、だとしても誰かに渡そうと特定の人物を想定した理由でも無い。無論、自分用でも無い。似非国産外来品では有るが、それを差し引いても忘れる気は無いのだから。
只そうした方が良いと、何かに突き動かされて、此の色の布を選んだ。
だが矢張り無い無いだらけの裏腹に嫌気が差すのも有り、もう少し濃い色にしよう。マゼンタ位の色相だな。
「じゃあ、此れ等のスカーフを頂くよ」
「英雄様って、意外と、いや、見た目通り淡泊なんですね」
「選ぶの、面倒だったんだな…」
色々と失礼だな。当たりだが。
「此のスカーフは、俺が本当に特別だと想った奴等に贈る……何だろうな……仲間……みたいな証にしたい。チーム名…とかは今は良いか。何言うか、表現し難いな……子供の頃に、その日々だけだけど物凄く思い出に残る程遊んで、長らく会えてない、でも何時の日か会えると信じている、みたいな、そんな感じの贈り物」
「それ、マジに忘れちゃう奴じゃね?」
言われると意味がネガティブ過ぎた……い~や、和国思考だな、謙虚人め。何方かと言うと西洋寄りの衣装なんだからもう少し、マジに少し、傲慢たれ、自信過剰たれ。
「十二とは何とも大人数ですが、詩的で良いですね、その仲間意識。プロミスリングにも近しい物を感じます」
ミサンガの事だな。あの文明は好きだな。解ってるな此の店主。
「先ずは一つ、お前に此の黄色いスカーフだ。大事にしろよ、主」
「お、おう、ありがとよ、貢物って奴だな」
矢っ張返して貰おうかな。
なーんて。
「俺は今から残り十一枚の証を渡して来るべく、某所を転々とテレポートするから、此れでお別れだ」
「ああ」
「生きて居たら、また会える。そうだな、来年の春にでも想い出して此処に来るよ」
「―――絶対だぞ」
「魔女との契約に賭けて……」
次元の歪曲、異質の固定、時空の制御、地理の把握―――
「じゃあな魔理沙、達者に暮らせよ。店主さん、沢山の土産を有難う御座いました」
「いえいえ、勝手乍ら人里を代表して、貴方にはそれ相応の恩義が返せたのなら、何よりです」
結局、諸処廻れ無かったのは少し残念だ。
「―――が、皮肉交じりに爆破とかしないですよね?」
―――対象は一人、移動は想いに、四つの概念を解放して可能と可動とする。
「ドカン!」
今日一の大声も加えて、二人は、見開いて少し後退って驚く。
「…只のテレポートですよ。……あ、そうだ、魔理沙に最後……―――いや、何でm」
合掌の瞬間、ヒツキはその場から消え去った。
「…えっ、彼奴、何か尋ね掛けてた?」
「その様ですけど、何でも無いとも言い掛けたような?」
「なら、何でも良いか」
「早く貸した物返してくださいね?」
「……はい」
死んだらとは、里の界隈では言えない魔法使いだった。
【玉兎】
瞬時刻、場所は竹林、その何処か。魔理沙への想いを返す。
(…何時だかのチャームアップの魔法について、男を口説けると良いな的な事を言おうと口走り掛けたけど、流石に魔理沙の行動を見れば察しが付くし、野暮だわな……と、この思考事態が出来れば妄念で有って欲しい…)
魔理沙は賢い部類だと本気で信じているから、主従関係で留めて居るのだろう。
そうでないと、申し訳無さ過ぎる。
ヒツキには取れる手が二つしかないのだし、此れ以上増やす気も無いし。だからと言って誰かに取られるのも何だかと、多幸の呪(まじな)いと、―呪(のろ)いを兼ねたスカーフ。此れを気休めに渡す、十二人に。欲深しい限りだが、自覚を持っての行動だ。気付いて指摘されようものなら、否定はしない。其れがヒツキの想いなのだ。
テレポートにて移った場所はランダムでは無く、勿論誰かを想って対象が近くに居る事を定めて顕れた場所で在り、少し涼しい空気に居座る石を椅子にして座って休んで居る兎が真横にて発見した。
何だか田舎の婆ちゃんが田畑で農業を勤しんで居る様な姿をしている人型に兎耳と兎尾を生やした、玉兎と言われる生物、個体名「鈴仙優曇華院イナバ」。
何だか研究者みたいな言い方だったが。
「よっ、鈴(れい)」
「ひっ…ヒー君か。呼び名の通りの肝が冷える登場ね。何処から現れたの?」
「人里から、ワープして此の場に」
「そ、そう……達者で便利な力ね」
「鈴は? 何してたんだ?」
「お師匠様が作った薬を人里に売り付けてたって所」
「そうか。物の見事に鉢合え無かったな」
「驚きね、そんな格好してさぞ持て囃しの盛り上がりだったろうに」
人里付近の門外では確かに人の集まりが森林の様だったのに―――
「阿求と小鈴をパーティーに入れてからはめっきり絡まれる事は無くなったな」
途端に鈴仙の顔が沈む。今宵の月は下弦の三日を昇らせて。
「へぇ、又女の子と仲良くなったんだぁ…」
表情に臆する事無く、平常運転で、変化球で返答する。
「それもそうなんだが、今回は初めて男友達も出来た所だ。にしては歳離れ過ぎて友達なんて呼んで良いのか難しいけどな」
「話を逸らしても本題は掘り返すが?」
「そうだ本題。俺のその目立つ格好と反対に、目立たず大概歳食って相応にした薬売りの格好をして居り、丁度適したブツを人里で頂いてだな……」
「歳食わせたかの様に老眼にしようか?」
「何をムキになってる? ほい、パープルカラーの風呂敷だ」
感情の変化が激しい娘は、途端に静まり返る。
「……此れを、私に?」
「達者な能力持ちがお達者になるんで、別れの贈り物にっ」
「…フン、物で機嫌を取ろうなんて浅ましいにも程が有るわよ」
「別に良いさ。幼馴染乃至は仲間って証に配って居るんだがな。嫌なら構わない」
幼馴染関係終了の可能性。
「機嫌取りが嫌なだけで、物に嫌がってなんかないわよ」
と、手練れた素早い動きで頭巾として着用する。
「今更処で、何故で幼馴染なの? 月で暮らしてもなきゃ、歳は離れなのに」
「男の欲望(ロマン)」
「……………え、それだけ?」
「まぁ強いて言えば、陽月なだけに? 実質俺が月みたいなものだから一緒に暮らしてた様なものだけど、この言い回しはキモイからパスで」
「本当、御達者ね。確かにそう思えば私たちは幼馴染なのかも?」
「波長を合わせんで良い」
「合わせたいから波長なのよ」
微笑に、己の欲望が成就して居る事を確信し、嬉々として手を振りその場を去ろうとする。
「今夜の月が綺麗だと良いな」
「住めば都、言わずもがな都、されど故郷の地ならば綺麗で在る実感湧かず、平凡と言えるだろうけど、今なら確実に、手は届くでしょうね」
照れ隠しの言い回しだったが、兎に角、最後の一言で答えは得たな。
如何しよう、嬉しいと同時並行で物凄く戸惑う。
「じゃあ先ず、呼び名を”鈴(れい)”から”優(うぅ)”に変えて置こう」
「な、何故で?」
「今後の勘」
「本当に何故で?」
「まぁ取り敢えずだ。幼馴染通しの関係性ってのは祝福が程遠いらしいが、果たしてどう動くだろうね?」
「またもや何故で事だけど、物理的にも撃ちましょうか」
あ、また日が沈んだ。
「あの座薬を? 攻めがハードだな」
「座薬って言うなっ!」
マジで撃って来たので、感覚は掴めたのでそのまま無詠唱で他へ移動した。
「…ったく、何て別れ方すんのよ」
【人形】
―――何だか湿っぽい別れは嫌だよネ。後味が炭酸水(ラムネ)みたいに残るみたいな。此れを後十人もやるとなると、流石に心無さ過ぎる。
転移場所は再び人形師の家。
短期間内にアリスとの関係が結果的にギスギスで片付いた(と想い込んでいる)と言うのに、仲間の証を贈るとは何とも身勝手。
赤紫色の風呂敷を渡す予定だが、色の心理とかで深読みとかするだろうか……と思慮が繊細になっている。
扉を叩き、応答の返答に自己紹介して直に会って手渡しして大丈夫だろうか。いや、嫌われて居るなら門前払いも在れば受領拒否も想定出来る。
ならば投函でどうだろう? 「貴女は私の仲間です。証としてどうぞ、ご査収ください。 敬具」…等と書いた手紙でも添えて。
此れなら後に手に取り、贈呈品諸共破ろうが燃やそうが、魔法の素材として調理しようが、此方に伝わらない限りは何も気にする事は無い。詰まり伝われば気にすると言う事であれば、それは仲間拒否を現す事で、気にする。
でも身勝手に渡して居る訳だし、それに文句を付けるのは究極の勝手であり、我儘だ。
抑、優にしたって無理に押し付けた感は有る。
あの場で焼き切っても良い物を態々顔に括りつけて迄要ると言ったけど、折角貰った物をと人妖兎も角まぁ有り得なくも無いがそうしても良かっただろう。後にやっても俺が彼女に咎める筋合いは無い。とは言え優の場合、あの発言文章に対しての答えを正当に返したのだから、若し波長動向で合わせて居たのなら中々魔性の下衆が度過ぎる。流石に信用するが、今は信用されてない側への問題だ。
彼是(あれこれ)考えようが、実行する事には変わり無く、ポスティングする為にポストは確認したが、矢張り直接話がしたい。汚い者から汚い物を受け取る……止めた方が良いよな。
責めて消毒液や芳香剤等を用意すれば良かったなと、衛生面と心療面を考慮するも、人里と優と杜撰に別れた手前、ハッキリ言って気まずい。
如何しよう、今になって矢張り戻って買い直そうかと、くだらない慢心が葛藤に邪魔をする。
目を瞑って上を見上げれば、立派な羽音が聞こえ、空かさず声にする。
「射命丸じゃねぇか」
「…ん、え、あっやややややっ、陽月さんじゃないですか?! 奇遇ですねぇこんな所で会えるなんテェア―――………ッッッ!!!」
足が地に着いた所を空かさず、恐らく棒状でやや柔らかめの空気を纏めた物を、射命丸の頭に零点五秒以内に左上から打ち込む。
「酷いじゃないですか! 鳥頭に成ったらどう責任取るんですか!」
実際『烏(天狗)』じゃないかと言えば良いか?
「定期購読解約するね」
「何ですかその辞職でケジメをつけるみたいな切り返しはぁ、寧ろ此方がマイナスになる一方じゃないですか……」
「俺に纏わる根も葉も無い醜聞を書き過ぎだっての。まぁ理由では無いが、元居た世界に帰るから、俺が居ない期間に購読も出来なければ、滞納違約金とかが月々に次々に増え続けても困るからな」
「そんな事ですか。ご心配なく、事噂では貴方方が元居た世界に帰れば、互いが互いの事を忘れてしまうらしいので、その間の契約は無いも同然です」
真面な妖怪で良かった。
「ですが、滞納違約金ですか……良案として進言してみましょうか」
大事だけど要らぬ知恵を与えてしまった。
「ああいえそれよか、貴方の言う醜聞は、私的には真実を基に出来た記事だと想われますがねぇ。貴方もお気付きでしょうが、今の幻想郷は恋愛流行、おまけに外界の流浪人、顔は冴えず、性格は流儀型、然して流れ流れに英雄となっては、最早脳が破壊されたの如く、吸い寄せられてしまうのは女の性で御座いましょう」
「今すぐ全員”永遠亭”に行けや」
そんな男の何処が良いと、同性並びに同人が、流行諸共否定する。
「秘湯でも医者でも治せない事もご存じでしょう?」
「目薬と鎮静剤を投与しろ。俺みたいな奴に幻想を抱いてると、幻滅への損失は絶望的だ」
「―――そんな事は無いわ」
そう言えば此処は何処だと聞かれればアリス邸の庭だと、第三者の言葉が該当人の物だと理解すれば、甘美な響きに耳を惹かれて音のする方へ相互目を向ける。
いやキモい。射命丸はそんな積もりは無い事を心の内で訂正する。
「英雄成り得る力量を持って居乍ら、威張らず、脅さず、蔑まず、利用は飽く迄退けない戦いに於ける手段として、普段を人と同じ目線で歩もうとして、相手が妖怪だとしても分け隔て無く、然し妖怪としての矜持を辱める事は無く、在るが儘に接する人を、嫌う道理なんてないでしょう?」
長々と、アリスはさも聖人君子を紹介するかの様に過大評価、誇張美化、捏造賛歌するその弁舌にヒツキ、想わず口走る。
「気っ持っちっわっるっ!」
口を抑えて蔑む。若し一割本当だったとしても、其処迄の性格分析力は言う迄も無く。
「ナァッ!?」
冷静だったアリス、態勢が馬鹿になる。
勿論、アリスに対して嫌味を立てた理由では無く、その絵に描いた様な夢人物を己と見立てれば、反吐が出るのは言わずもがなと己を罵倒した。
「マジで誰だよそんな完璧超人。二割引きで、良くて巫女さんだろ?」
「……ゴホン、まぁ、アレも確かに似た様な性質を持って居たわね」
あんだけの物の怪共が神社に烏合で集まればな。
「あ、その該当するでしょう巫女さんとの可能性記事は、厚めに、熱めに、夏の残暑の如しで書いて於きましたよ!」
黙ってろ射命丸、団扇で涼む風に亜熱帯高気圧を送るぞ。
「兎に角、運の流れだろうと偶然の折り重なりだろうと、魔法で語れなかろうと、私は、私も、その目薬と鎮静剤を含まなきゃ行けない様な奴と同じ理由で、その……」
と、顔を下げて言葉を詰まらせるアリス。
次第にゆっくりと、人形を操るであろう複数の指輪が嵌められた手が此方向いて上がって来る。
「その……お、お友達に、なって、くれま……せん…か?」
吃驚したぁ、告られるのかと想った。
だが実質告白の様なモノではある、友達か其れ以上かの話なだけで。
「ヤ~だね」
「え…」
目の輝きを失うアリスに目を輝かせて写真機を胸近くで構えてこの場を見守る射命丸を、息をする様に打っ飛ばす。
「二人だけのお茶会をした友達に、友達になる事を要求される筋合いは無ぇーよぉ~だ」
と、握手を交わす。
「………クスッ、捻くれた人ね。この無駄に包まれた包みも頂くわね」
四十二枚折です。嘘。
「仲間の証だ。じゃあな、アリス。また茶会に誘ってくれ。二つ返事で臨みに来る」
「ええ、ヤ~だね」
この別れの言葉を最期に、ヒツキは、次の仲間候補の元へ飛ぶ。
「―――…え?」
【庭師】
向かった三人目の仲間候補は冥界、白玉楼門前、階段下、よりもっと前、冥界の扉の門前。
奇しくも、いや、奇怪な場所の為か、冥界内に於ける次元、異質、時空、地理、空間、そして顕界と冥界と言う幻想郷に於いて目視出来て干渉出来るが座標の特定、以上を踏まえての世界との違い、何よりヒツキが使う座標転移は言葉上出来て
いる様な理屈や理論が、結局のところ「妄想」による副産物なので、正確さ、実現性は「理想」や「仮想」の方が未だ高い。
二つの多大なる問題点から、魂魄妖夢の近くへは飛べず、徒歩で行く外無い。
前回は死して霊魂と化し、此方より彼方へ、死神の送迎の下、辿り着けたに過ぎず、下手すれば此彼の狭間で彷徨い、其の儘霊魂は消滅して居た事も……嫌に仮想使いの精神攻撃の若しも話が頭を過った。
ネガティブを振り払い、質実剛健が相応しく、その性分を崩落させる事が何とも愛おしい剣士に会いに行く事を希望と期待(ポジティブ・シンキング)に、歩を進める。
但し、道中は藩から藩を越える程に物凄く長く、いや、言い過ぎたか、市から市へ超える程に、してヒツキの歩測は丸で走っているかの移動距離で歩いて居る。
ゲームのバグの様な歩幅、然しこの程度のバグは寧ろ好都合。
意図は違うが、階段の上り下りに壁を貫通せず埋もれて段を跨がず、一段ずつ丁寧に現実的には難しく、走る部類なら上り下りに扱ける躓く事無く移動出来る超人レベルが当然と言えるように、意図は違うが。
神社から人里へは大いに長い道もこの歩幅を以てして凡そ15分で到着したからな。
だから凡そ1分で白玉楼の門前が見える石階段迄辿り着いた。
その間にアリスとの別れの会話、「茶会に誘ってね」を「いいえ」返した件に再び疑念を過らせ、思考の末、まぁ俺も同じ事言ったから仕返しして来ただけだよね、うん。と自己解決。流石にポジティブ・シンキング自己解決。
―――此処が始まりだったな。
妖夢との出会い、精神交換、記憶の共有、人としての歩み、甘酸っぱい―――嗚呼~…考えるのは憚るな。
頭を抱えると、風音が此方に近付く事を瞬時に把握し、見得ない鞄からすぐさま右手でカッターナイフの刀[一切刀]の柄を握り取り出し、防御姿勢で構えた時には、剣と刀が打つかって居り、奇襲の正体は’魂魄妖夢’だと判明。
冥界中に、鉄の音と、その威風、波動、気迫、総じて剣戟が響き渡る。
互いの刀が擦れ合い、押し切ろうと手を震わせ力ませた儘、先にヒツキが喋る。
「よう妖夢。風が何処から来るか覚られない様にしなきゃ駄目じゃないか」
「こんにちは師匠。お言葉ですが、途中から聴こえて風ですので、気が付いた時には通り過ぎているものですよ?」
「おいおい其れはこの状況下に於いて「煽ってください」と志願するに同義なんだが?」
意味:刀が通り過ぎず、鬩ぎ合いになっているから。
「師匠の第一手が一切刀を使う事は風の目にも止まって見えて居ましたので、切断線に力を入れれば、私の刃は届きます」
其れよりも早くカッターの刀身を伸ばすか、敢えて業と此方から刀身を折って態勢が崩れた所を雁首に突き付け、勝利を捥ぎ取るか。然し相手は妖夢、剣術の経験値、領域、ヒツキと言う戦闘情報、能力向上の腕輪と言う小細工を弄しても、使わなければ雲泥の差レベルに、試合に勝ち勝負に負けと言う具合に、圧倒的一に適う道理は無く、詰まる所『剣』とは奥が深く、無限に過大評価出来る。一般人からしたらそんな見え方だ。
とまぁ然も妖夢を剣の天才と見立てる訳だが、事指南役を受けつつも、自身が認めている程には未だ半人前で、小細工に至る点は弱点がある。
して、今回は。
「宴会での玉子焼き、箸の共有、間接吻―――」
刀を届かす前に、耳元迄顔を届かせ、声を届かせ、記憶を甦らせる。
「言葉攻め……それも想定の内ですよ?」
と、屈んで首元に刃を届かせようと、策を弄じた次の瞬間―――………
「フッ…」
「ひゃあぁ~…!!!!」
思いっ切り息を吹き掛けられた。
刀を取り零さなかったのは褒める点だな。
「何だその情けない声は。可愛いな」
ま、刀を奪い取った乍ら言ってる理由だが。
「師匠! 貴方は何時だってそうやって真剣に剣で負かそうとしないっ!」
いや、ヒツキは剣では負けている。剣では。
「何を言う。俺は剣の師範じゃなくて、無境に至る為の師範だろ? 剣はその一手、或いは道標、鍵と言っても良い。本当に手放さなければ、何時だってゴールの扉が目の前に有る筈だからな。ほい」
と、峰側の鎺下(はばきした)部分を持って、刀の持ち主に返す。
そんな感じで、ヒツキと妖夢に寄る【冥界にヒツキが現れたら毎回一回奇襲を掛ける勝負】は、愚形にヒツキが勝利を収める。
悔しそうにも口を尖らせ乍ら刀を受け取る妖夢は、用件を聞く。
「……それで? 漸く私との婚姻の目処が立ったから挨拶に来たのですか?」
ド単直過ぎるしド貪欲過ぎる。
「剣を返した瞬間斬られそうだな」
「ア…チガウンデスカ?」
この子マヂでやりそうなんだが?
柄の持ち方に力入ってる。
「まぁ眩しい将来だが、先ずは仲間の印を渡しに来たから、受け取って欲しい」
碧色の風呂敷を取り出す。
「此れを…私にですか?」
「ああ、俺の欲望と言うマジナいが詰まって居る」
「其れは何とも、素敵です。此れを他の方にも送り続けて居ようとは…」
この子の刀との相性が無我では無く自我で染まりそうで怖いです。
「……ですが、此れも修羅の試練とお見受けしましょう。其れを超えた時こそ、私は剣の頂に立てると言う物ですね」
「そう言う事だ。其れを頭に付ければ、大剣豪になれる…なぁんて謂れもある位だからな」
「尚の事ですね」
「それと、家事技量も上がるって一石二鳥だぜ?」
「……師匠、業と仰ってますか?」
「割とガチで言ってるから、こんな最低な奴からは破門して絶縁に至った方が良いぜ?」
矢張りそんな事だろうと言う顔で、大きく溜息をつく妖夢。
「その最低から学び、且つ支えたいと、私は貴女の抱擁に応えたのですよ」
「ウンザリして諦めた方が身の為なのにな」
「振り回される事には慣れてますので。―――……師匠、全く貴方と言う方はですよ。その程度で嫌う者でしたら貴方の記憶を読み取った時点で、自身の身体に戻ってから自害しています。それ程お辛い経験だと身勝手乍ら考えて居りますが、ですから、其れすら私にとっては愛おしい物だと想って居ります故、どれだけ本命の為私を遠避け様としても、私は私が師匠のお傍に、二人して居させて貰う事を我儘に、何処迄も付き纏う所存です」
彼女も、解って居る。
ヒツキがアリスを想う程に、ヒツキを慕う彼女の理解力は、精神と肉体の入れ替わりに於ける記憶の共有以降も、それ以上に、想う気持ちで察して居る。
「お前が独占に塗れたら如何し様かと悩んだが、其の答えで安心したよ」
「ご冗談を。その時は貴方は二人の一人目の娶りをされる。いえ、何人でしょうか…」
何人でしょうか…って何でしょうか。
「其れに師匠、独占欲と言えば、大概ですがお互い様でしょうに」
「ま、それもそうだなっ」
暫くして、二人は同じ時、同じ場所、同じ息で、安心が吐露された同じ表情を互いの会話内で見せてみた。
「師匠。ご武運を」
「ああ。お前も、更なる精進を目指せよ」
「はいっ!」
ヒツキ、右手を握り、左手を開いて、抱拳礼の様な具合に健勝を祈りつつ、その場から離れる。
………―――事は、不明の土地では矢張り転移技は発動せず、只、抱拳礼をして挨拶を交わしただけの形と空気になってしまい、その場から回れ右して歩いて去る。
という風に、綺麗に脳内で完結させる。
「……そう言う、人らしい所も、私がお慕いする要素なんですよ……」
【風祝】
いやはや、まさか冥土から現世への帰路のタイミングで、幻想郷の創始者で在り賢者の者に出会うとは。
そして矢張り、人里の長の違和感はその御仁が関係して居た。
意識と肉体の境界を操り、改竄して英雄への挨拶並びに謝状を述べて居たのだと、目の色と表情の皴が余りにも不自然だった。
空しい話、里長の心境は英雄に対して良い印象を持ち合わせて居らず、ヒツキの想う如実通りの、唯々現れて只々暴れて持て囃しを貪って居るだけ……ヒツキ含み、イチエ、カラヒナ筆頭の思想家衆、テララ、そして崩壊元凶のムジャドウジ―――総じて居なければ何事も無かった厄介者達の一人でしかないと、当初邪慳に思われて居たらしい。
ともすれば、人里への接近の際、住人達の過剰たる謝礼に躍り出て来た里長の対応は、危機管理を促すものだったかも知れないし、露骨に嫌味を垂れていたかも知れないし、里長としての誠意を述べつつも、入郷に快くは思わないのも表に出しヒツキ自身に注意喚起するか、或いは内に留めて置くか、今となっては解らず終いだ。
「何だか複雑な真相だよなぁ。とは言え受け入れてくれて居るってのが現実な訳だし、余り深く考えるのも馬鹿馬鹿しいよなぁ、早苗さん?」
「は、はい。出自や過程が如何有れ、結果的にお救い下さった英雄と言う肩書は紛れも無い事実です。確かにその様な考えに至る方がいらっしゃるのも道理でしょうし、えぇ、貴方自身が謙虚に深く思慮していらっしゃるのでしたら、何も問題はない筈ですが、取り敢えず何故今私の手を貴方の手で覆いつつ、一本の箒で一緒に掃除を為さって居るのでしょうか?」
「…………」
「何か答えてくれませんか?!」
ヒツキ、内心(え、解らないの?)と想った真顔で一点への凝視。
「婚儀に於けるケーキ入刀みたいなもの」
古代羅馬、希臘神話が由来と諸説有り。
「はひぇっ?! あ、あの、そう言うのは、段取りを踏んでから行うモノと、申しますか、抑々箒では入刀には至らないのではと、意図が読めないのです、が…」
早まる箒の掃き具合に、構わず協調して、ヒツキ、解説。
「箒は塵や埃を払う物、ならば婚礼に於ける払う物と言えば、二人の障害なるものを振り払って行き、道は清らかで有らん事を…風祝ならば打って付けの由来じゃないか?」
突発的なヒツキの発想だが余りにも非凡、大事であり無碍にも出来ないが、悪い由来も浮き彫りになりそうだ。とは言え、其れもまた人生だろうか。
「ま、まぁ、その…仰る通りですね~…」
「こう言った風習を『神前式』の”修祓(しゅうばつ)の儀“に取り入れるのも悪くないかもな」
和風の結婚式に在る、お祓いの儀である。
「でも、折角の披露宴衣装が嫌に汚れそうですね」
此処で現実的に則った由来への思考が発揮される理由だが………。
「そうだな。矢っ張止めて於くか、この案」
―――幻想郷でも、一つとその中の一つ、奨める事と語る事は止めて於いた。
止めて於く流れなので、流石にそろそろ互いの手で掃く箒をヒツキは手放した。
「早苗さんとゆっくり話す機会無かったし、話題と言えば、早苗さんがぁ、俺をぉ、一目惚れぇ? したと想われるインパクト過ぎる事が印象にしか無かったからな」
ヒツキ自身、あの時は夏の暑さにも引けを取らない超高熱で朦朧気味だった為、陽炎の如し想い出は、何かの幻だったのではと錯覚し、且つ、未だ精神攻撃の余力が残って居る所為か懐疑的だが、早苗は一瞬面食らった顔をすれば、溶ける様に困り微笑み、誤解を解く。
「えへへへ。まぁ私もあの時は暑さにやられてたと申しますか……いえ、別にあの時想った事が勢いだったとか、後悔だとか、否定する事は一切有りませんよ? その……ね? エヘヘヘヘ」
「あはははは…」
言いたい事は解るが、まぁ口を濁してしまう言葉だ、そう簡単に何度も言えるモノか、だからこそ暑さ乃至、魔力と呼べるべき人の勢いがあの時行われた理由で。
嗚呼、今も暑いだろう。
「マジなの?」
「マジです」
「如何して?」
「一目見て、です」
「そんなに?」
「そんなに」
「性格で後悔しない?」
「其れは解りません」
「そうか」
「そうです」
ヒツキは、此の短絡的会話で早苗の心情と言葉に一切の淀み濁り歪み偽り無い、突風の様、清潔さ、誠実さ、正確さ、精神さ、真面目に見詰めて来る彼女から目を離す事が出来ずに語る。
「身勝手だが、そうやって想ってくれる分には真っ当に応えてあげたい位には、俺も早苗さんを気に入って居る。どんな物が好きで趣味とか、何をしてる時が幸せなのかって考えたくなる」
「ありがとうございます!」
妖夢とは違う真っ直ぐな娘(こ)だ。
「だが悪いな。俺にはそれ以上に好きな奴が居る。其奴がどれだけ強くても、守ってあげたい位に俺は努力したいと想ってる」
早苗は少し驚き顔を少し落とし、悔やみ、声と口が震えて、言葉が出なくて、それでも、声域を低くしても、振り絞って、言葉に出す。
「構いません。貴方を慕う方が多勢でも、大いに一途で有りたいと……変ですし、説明は出来…いえ、霊魂と言う死に際から『奇跡の生還』を為された方だから、少しばかり携わった者として、私はそう想ってます」
変わらず、真っ直ぐ、誠実、真面目な目。
「良かった。なら、コレだ」
ヒツキは薄萌葱色の布を取り出した。
「此れは……風呂敷ですか?」
「まぁ物としては装身具にして欲しい所だが、腕でも首でも脚でも何処でも」
早苗は又々下向き、照れ顔の上目遣いで、声を出す。
「…下着、でも? フギャッ!」
ヒツキ、手刀で早苗の頭を突く。
「何処でもと言った手前だが、少なくともそんな端無い物として仲間の証を身に付けるなや」
「うぅ~…そんな理不尽なぁ~…。仲間でしたら別に良いじゃないですかぁ、上に着飾ろうが下に着飾ろう…ガッ!」
ヒツキ、上に下にと貰った布を動かす早苗にもう一発お見舞いする。
「或る意味仲間の一線超える可能性の有る発言なんだよ。そんでもって男である俺に、予定でも報告するな」
「何故でですかぁ~!」
此奴業とらしいと、妖夢に似て非なる、否、似て否なる様な事を言って於いて、図々しくも図々しいと想って居る。
取り敢えず、何だか早苗の一面に肉食感が出て来た所で。
「じゃあな早苗さん。奇跡的に俺が生きて居たら、又会おうな」
早苗さんが不慮成る災厄が降り掛かる事を、縁起無慮でいう気は無かった。
だって彼女は奇跡を司る巫女で現人神なのだから。
「はい! ではまた何時か!」
互いの挨拶が済み、手を振れば最早、日常仕草で座標転移を行うヒツキだった。
【従者】
歩き乍ら、両腕を広げて歩き乍ら、再び里長の事を考える。
(何故俺は里長の真意に対する悩みを早苗さんに告げたのだろうか。相談事に於いてまぁ適任者は沢山居るが、先ず話すに近しい人物なら目の前に居るじゃあないか)
紅魔館にて業務中の十六夜咲夜と三歩後ろの距離で同行して清掃業務を熟し乍ら、思考を巡らせる。
(―――でもまぁ、早苗さんとの第一の話題に出来た理由だし、咲夜パイ先なら人柄通り時間が解決してくれるって言いそうだし、パイ先の手前、頼れる後輩で有りたいよな)
歩き乍ら両手広げて埃を消して程良い光沢力を増やす清掃し乍ら想い乍ら数秒も掛からず、否、その場の時が止まったら動く者の違和を感じて、十六夜咲夜、走り乍ら気付く。
「何時から居たのよ不埒者…」
泣いた朱鬼から消えた蒼鬼の巣窟、通称「蒼魔館」へ、「紅魔館」居住者一行でお出掛けした際の話を蒸し返す。
―――結果として、その鬼はヒツキの下部となった。
理性を失い、鬼以上に鬼として狂乱する呪いを、王子様のキスで解くと言う西洋童話のハッピーエンド方法を活用した理由だが、やったのはヒツキではなく、連れて来ていた、持ち運んでいた’罰荒無邪童子’改め、’清澄或日’で解呪したのだが、何故か感謝の矛先と言うか、何かしらの事情と言うか、ヒツキは危うく、美少女人化したブルーベリーみたいな色をした全裸の痴女に貞操を奪われかけたが、命名する事で回避し、ヒツキ自身も主従の関係を持つ様になった。ルーミアはそう言う遊びである。
「パイ先が胸の形状を整えてたところから」
「整えて居ないわよ」
「いやぁでもやっぱ初見と初任とで数尺大きさが変わってるんだよねぇ~」
「其れは貴方の目が灰で塗れて居るからよ。それで、何か用?」
「時間停止にしたって静か過ぎじゃないッスかパイ先?」
足音、一切鳴らずの二人。
「……昔からの癖ね、如何も」
「へぇ、元・暗殺者(アサシン)って言われてもナイフ使いなら納得行くなぁ」
「そう言う貴方は現在どの分野に精通した類者よ?」
と、己の意識してない足音の無さに、此れ迄静寂だったその歩みに、精通分野と言えば、此の短期間で幾らでもマルチタスクレベルで出る訳だが。
「設定ミスかな?」
有り得そうな、細やかな修正案件(デバッグ)……だが、使えそうなので変えない。
「何それ……って、本当雑談してる場合じゃないわ」
「忙しそうっスね。じゃあ此れだけ渡してお暇って言うか、長期休暇を頂きまスね」
青いスカーフを出す。
「あら、綺麗な色をした布ね。長期休暇するって事だから掃除係が居なくなる訳だし、アナタに見立てて雑巾にでもすれば良いかしら?」
「ご無体だなぁ。ちゃんと着飾ってくださいっスよ」
「冗談よ。有難く受け取るけど、お嬢様と妹様、他の皆には無いの?」
「アレ等は仲間と言うより友達とか、おぜうは上司と―――その妹で義理の妹だから―――」
「その上司を血縁者諸共アレ呼ばわりするか…」
「―――投げ接吻だけで良いかな?」
「え? キモ…」
其れはヒツキもキモいと想った。
「ジョークだ。もう挨拶は済ませたし、各々に忠誠のチューを手の甲にやったとも」
魔女、吸血鬼、吸血鬼、彼是三人も忠義に励もうとする。
「拙いわね。今すぐ御嬢様と妹様には出来る限りの消毒と、湯治をして頂かなければ。あと嫌々博麗神社に行ってお祓いもして貰わなきゃ……」
もしもし、吸血鬼に流れる水とはどの具合か、消毒とはどのような化合物や、神社とは無縁なのではと、殆ど無意味と弱点成り得る処方で除菌してませんか?
誰が菌類だ、ヒノヅ菌だ。人の名前で遊んじゃ行けないんだ、弄んじゃ行けないんだ。別名ならぬ蔑名付けるの最低なんだ。気持ちも最低で最初は被害妄想盛ったけど、結果的に流石に言い過ぎだから、’陽月さくら’は、静かに涙を流した。
「―――えっ、ちょっ、泣くの? 貴方ってちゃんと精神的に傷付くタイプだったの? ごめんなさいって言い過ぎたわ私も冗談だったわよ…貴方がレディの繊細部分に文字通り触れるから少し悪質に深く刺し込んだ冗句のジョークだったのよ」
「いえ、気を使わなくて大丈夫ですよっ、美鈴パイ先じゃないんですからっ。吐いた唾は吞めない様に言っては良くない冗談を吐いたのは事実ですからっ涙を流してる俺は自業自得ですよっ。でも、俺帰ってしまうからっ、こうやって咲夜パイ先と少し秤話せなくなると心残りはしたくないって言うかっ、本当一桁の幼児みたいなチョッカイ掛けて済みませんっ」
上半身を屈ませて右の甲で涙顔を隠し、所々が震え声で、過呼吸で背中が少し跳ね上がるヒツキは、実際泣いては居たが、悲しみと言えば多少感じて居るも、風呂に入り、食事を取り、寝床に付く生活にボンヤリとジックリ目が宇宙に成り得るくらいに考える様な気にする程では無く、然し此処最近と言うが三日前だが、霊夢からの激励や、イチエからの委託、ドウジからの攻撃に、里人からの罵倒と―――その一日だけで泣き続きだった為、泣きっ面に蜂に栗に臼に牛糞の様な追い打ちだった為、蟹座だけど主軸は猿だった為、台詞猿芝居如し選択だが、泣くコツを覚えた、詰まりは演技だった、その点に於いては卓越して俳優に成れるレベルの演技力だった。
演技力……「力」が齎されるのなら、或いは底上げも可能のヒツキの計算なのやも。
「もう、泣かないでよ。最終的に悪いのは私だから。妹様は壊す事を控えて「お兄様」と家族部類で呼ばれる程慕って居る訳だし、お嬢様も昨晩の宴会で行動を以て主従の在り方を貴んで貴方を認めた理由で、きっと喜んで受け取った忠義だと想うわよ?」
「いや、まぁ、でも、以前から居た古参従者にとっては面白くない場面では有りましょう。俺なんて只一寸、本当に一寸、中の下の上レベルで顔が悪くなかった訳で、実際下レベルだったら「口も利くな」とかで。まぁ今回は性格が下だった故に侮蔑されたでしょうし……」
「そんな理由でしてない、してないって! …ハァもう、本当に困った後輩ね。ほら、罪滅ぼしとか証拠確認とかじゃないけど、私の胸を触って良いから。蹲って良いから」
「いやパイ先とそんな下賤な関係を築き上げたくて太腿を眺めてる理由じゃないッスから」
態勢を直立に戻し、右手を却下のジェスチャーで一寸手を挙げる。
「目線から既に下賤じゃないの。居る目的が文字通りじゃないの……」
と言うか噓泣きじゃないかと、表情は変わらず無だが、淡々と話す切り替えの早さに、二重の呆然を咲夜に気付かせる、呆然だが。
「―――全く。それにしたって私や美鈴へのその「パイ先」って呼び方、胸を強調して居るんじゃないの?」
胸、意味としては知性生物の持つ「心」と言う精神、心臓と言う生物の肉の一部、その外側の体部位―――今回の意味合いはその部分に関する話。
ヒツキは俗的名称には自己流で改名し、今回胸の別呼称を「乙なる円周率」と。
そしてその「乙なる円周率」が元の「乙なる円周率」として名義された理由は、江戸の頃の和国に出た文献『於路加於比』から、その名前が出たと言う説がある。
他にも梵語のpaiからの説、何にせよ幻想郷に其の知識が流れるのも時間の問題で納得、明治時代からの登場なら、そんな俗語が流れてもおかしくないし、それにしたって和国の言葉は同義語を一つ二つ、読み方を一つ二つ以上と作り過ぎだろうて。
「本当、逞しくご立派な先輩達に囲まれ務めれて光栄な限りです」
「今その言葉が出ると語弊でしか無いのだけれど……まぁ良いわ。最後に掃除をしてくれてアリガト、なるべく早めに戻って来てよね」
先輩は良く見ている。そんな人にこそ、着いて行きたい。
「大丈夫ですよ。生きてる内……いや、生きている限りには、戻って来ますよ」
「フフッ…」
「? 俺、笑われるような事言いました?」
「いいえ、どっかで聴いた事の有る台詞だったから―――」
ヒツキは、咲夜パイ先も同じ事言ったのかな? と、つくづく同じ時空を渡り合えて、同じ主に仕える者同士に、血は争えないなと。
「じゃっ、またね」
「はい、また…」
ハイタッチで、ヒツキは、移る。
【巫女】
時間はもう、夕方に差し掛かって居た。
蝉は蜩が背景音を支配して居り、少し涼しませる風が、夏の終わりと、この幻想郷での暮らし、生活、滞在の終わりを指し示して居り、また、階段の下に居る事で、始まりから今までの出来事を想い出させた。
そう、この、”博麗神社”が建てられて居る山の麓の階段下。
此処が本当の始まり。
此処から歩みを始め、盲目の様な灰色の視界の中、彩を塗られたみたいに、其奴の人生は見てみる事から始まった。
生物、心情、歴史、文明、場所、季節―――言葉通りの目覚ましいモノを見て、己を知り、他人を知り、生きる事を知った。
其れに於ける事柄を甲斐とするか、地獄とするか。豊かであるか、苦痛であるか。
其れこそを人生として書き連ね、今後も記して行くのであろう。
さも階段をその様に、最初の様に、登り、上がり、踏み拉き、歩み、再び己が足で頂に辿り着く。
神社全体をゆっくりと見渡しながら、ゆっくりと鳥居を潜り抜け、石道を渡り、本殿下まで進めば、左の縁側には、夕風に靡かれ、黄昏れて座って居る’博麗霊夢’の姿が、其処には在った。
「よぉ、巫女さん。久しぶりだな」
「あらお客さん、いらっしゃい。素敵な賽銭箱は其処よ?」
互いが何時もの事にしたい、最後の何時もの挨拶を交わす。
「良いのか? 俺は所謂外来人らしいが、換金は効くのか?」
霊夢は手を顔に当てる。
「…えぇ、迂闊だったわ。あんな大枚を見て目が眩んで居たけど、よくよく考えたらアンタは外の世界の人間なんだから、貰っても意味は無いのよねぇ~…換金も出来たもんじゃないわ」
「レミおぜうの所で働いては居る者の、まぁこれっぽっちだからな。向こうで使い様は無いだろうし、奉納するかね―――」
「そ。ありがと」
あらいい笑顔。
「全く、アンタのその素敵な笑顔には負けるね。負けるから、出すお金を負けておくね」
「なんでよ」
「冗談だ、ちゃんと稼いだ全財産、投資しておくさね」
「…フフッ、アンタのその唐突な発言には虚を突かれるわよ。初めて会った時も討論の末に「素敵」だなんて吐き捨てて、気持ちが錯乱したわよ」
賽銭箱に稼いだ金銭を余す事無く入れ、二礼二拍手一礼を済まして、霊夢の居る縁側に戻る。
「そうだな。一人の異変解決者が錯乱し―――挙句幻想郷全体が部外者に寄って混乱と動乱、攪乱と、多大なる波乱という迷惑を掛けたな」
そのお詫びで出した理由では無いが、此処でヒツキは、此処で渡すべき最後の布を渡すべき者に手を伸ばす。
「此れは?」
「仲間の証。とは言え、俺が勝手に言ってるだけだがな」
「……友達とか、親友とかの証じゃなくて?」
「うん、仲間」
「そ。まぁ貰える物は貰っておくわ。ありがとう」
新しいリボンに良さそうだな。ネクタイは、色被るしな。ま、使うのは所有者である彼女なのだが、まさか彼女も下着に使うなんて色事思考に走らない事を祈る、神社だけに。
「―――で、さっきは何を祈ったのかしら?」
此奴も一寸エスパー能力が有るのかも知れない。霊力的な神力的な。
「内緒だ。祈る内容は言わない方が叶うんだぜ?」
「……あんた、最初に来た時神社の繁盛を口にしたけど、詰まり叶わないって事じゃない?」
凄く睨まれた。
「ハハハ、まぁあの頃の諸行無情の俺に聞いて来たからな。無情の俺だったからな。精々私商事は自力で頑張れ」
「言われなくても頑張るわよ!」
声が良く響いた。防音結界でも有るからな。
「…全く、迷惑だった事は乃至『郷』迄でもまぁ、結果的には何も無くて良かった訳だし、有ったとすれば、ろくでもないアンタを英雄奉る賛美が絶えない訳よねぇ」
霊夢は冷えた麦茶を飲む。
「何も無かったなら矢張り、英雄は偽りの存在だろうさ」
ヒツキは何処からともなく、コップを取り出し、冷水を飲む。
「そうよね。只々平和で良いのよね、何事も」
「俺が帰れば讃美歌も消沈、七十五日を待たずとも瞬時に此処は平和安泰だとも」
「あ」の口と「う」の口で、二人して大きくため息をついた。
其処に、安心か、落胆が有ったかはさて置き。
「…そう言えば、平和に似つかわしくない記事が新聞には書かれて居たな」
「へぇ、何て?」
「【博麗の巫女引退? 英雄との熱愛疑惑】だってよ」
「あの烏天狗なら書きそうな事よね……まさか居ないでしょうね?」
「安心しろ。対烏天狗、或いは対「射命丸文」特化の回避結界を張ってるから、此処二、三日は徐に神社に顔を出さないだろうね」
―――[烏天狗]‘射命丸文’は、風の如く空を切り、映写機と、団扇を持ち合わせて居れば、其れは『風を操る程度の能力』と’稗田阿求‘・著『幻想郷縁起』には記されて居り、加えてヒツキの空中で睡眠を取る為の回避結界は、基礎を【希臘式四元素】の『風』で覆って居た為、彼女には回避結界の回避方法を読み取られてしまったと言うのが、阿求と会話をした上での憶測。
「それ、妖怪全般への範囲拡大と、逆に人を寄せる結界として生み出せないかしら?」
要約すると、主に人用の集客にしたい。
「残念乍ら、この郷に於ける俺の見方は人妖への区別とその境界線が最早機能して居ない。何せ、俺自身が後者の呼ばわれをしたのだからな」
そうでなくとも、妖怪風少女と見紛う奴等が多かった。
「へぇ、英雄様に酷い事言う奴が居たものね」
先ず英雄なる以前にお前が言ったんだがな、とは言わない事は無く、言う。
「あら~、そうだったかしら? ま、人か妖怪か、何方にせよ、私はす―――」
―――す? 何だ? この人妖の一線を画す話に当たって「す」から始まり続くと想わせ途切らせる話題とは……いや、まさか、そんな、ねぇ?
「……時にそのあんな迷惑に輪を掛けたゴシップ記事が世に広まってる理由だが、巫女さんアンタは実際、俺の事如何想ってる?」
直見て話そうとすれば、霊夢は頬杖付いて同じ方向を向いて居た。
「…それ、同じ質問を投げるから、アンタが先に言いなさいよ」
何て勝手な会話キャッチボール……物理なら見る事無く掴んで投げている。天才かよ。
だがヒツキ、何も臆する事も、戸惑う事も、考える事も無く、堂々と、平然と、淡々と、澄ました顔で、彼女に伝える。
「嫌いじゃねぇぞ」
「…そ」
相変わらず此方を向かず、感情は籠ってない返事だった。
「じゃあ、改めて聞く、お前は俺の事を如何想って居る」
博麗霊夢は、頬杖を崩さぬまま、仕方無くと言わんばかりの無愛想な表情で此方に振り向き、途端に無愛想は愛想に変わる。
「―――好きよっ!」
―――其れは、先の賽銭箱に奉納した時のとは違い、言葉ゆえ、虜にされるような、惹かれるような、唆られるような、釘付けになるような、吸い込まれるような―――全てを搔っ攫って行き、此の場、此の郷から離れる事を難く想わせ、彼女と一生を添い遂げる事を望ませるような、彼女の支えになりたいような、この神社の復興が如何したら上手く行くのか考えたくなるような、矢張り彼女が一番だと言いたくなる、言いたくなるような、美しい、綺麗、博麗、可愛い…いや愛しい、ような、そんな笑み。
ヒツキは、顔を体躯と同じ向きに合わせ、目を瞑り乍ら話す。
「そうか、俺の聴いた話では博麗霊夢の好みの性分と合わないと想われるんだがな。おまけに英雄としての肩書を基より持ち合わせている奴に好意を寄せられたかのような発言を今し方聞いた気がするんだがコレはもう異変と言わざるもぉ―――」
あれやこれやと身振り手振りを繰り返して居たら、顔を掴まれ胴を動かされ、頬に柔らかい二点のものが、言葉を失わせた。
以前にも有ったが、アレは左頬で、今回は右頬で、何方も甲乙つけ難い、今正に彼女が言の葉に乗せた想いを、行動として証明されたかのような気がする。
何れ覚める夢ならば、それを現実と受けるのは、危うい考えなのだから。
それでも夢の中で理性的に、謙虚的に、私はその光景を眺める傍観者で在りたかったと。だけど偶には、主人公も、悪くない。
そんな長いようであっという間の時は、彼女が距離を取る事によって、終わりを告げる。
「こう言うのって、口で口を黙らせるってのが定石らしいけど、あの吸血鬼と違って、ちゃんと「あの子」の為に取って置くわね」
其れはその該当する吸血鬼に向かって何て失礼極まりない。
それに掴まれた顔には黙らせる口を掴む手が使われ、或る意味、関節接吻……否、準関節接吻、循環節接吻が出来て居た。
と、想い立たず、いや、もう、あの、何が何だか、解らない程、彼の頭はゆっくりと動かされ、巫女さんの顔を見詰めたまま、真っ白になって居た。
「ほらっ! さっさと立って! アンタの居た世界に今日戻るんでしょ! ……それとも、「未だもう一日~」だけなんて、格好悪い事言わないわよね?」
背中を大きく叩かれ、少し扱けそうになりながらも、次に、足を次にと進ませ、立たされ、立ち上がる。
彼女の行為全てが思惑通りに背中を押す形となり、ヒツキはその応援に、其の日―――
「ああ、また会いたいからな、一年後にでも戻って来るよ! じゃあな巫女さん、あの鳥居を飛び越えたら、此れにてお別れだ!」
大きく、目に色が戻ったかのように、夕陽の明るさの様に、微笑んでいた。
「あっ―――」
声を漏らし、手を伸ばし、走る彼を追い掛け、石畳の道に付いた頃には、鳥居を跳び越えると同時に夕陽の光に包まれ、霊夢は振袖で視界を遮った。
力ませた目を凝らして、ジワジワと開かせ、視力が戻った処で、急ぎ鳥居を跨ぐが、ヒツキの姿は、忽然として消えていた。
それは何処かに飛び立ったのだとか、遠くへ行ったのだとか―――間違ってはいないが、規模と次元が大き過ぎる話で、幻想郷内に居ない事は確りと―――彼は、彼の住まう、生きる世界へ帰った事を実感した。
霊夢はその事実に、暮れた夕陽と同じ様に意気を消沈させ、物憂げに呟く。
「……また、会えるよね…………」
―――消えたら記憶諸共消える。
其れは、向こうの世界の者達が全員消えたら、と言う事で残って居り、未だ誰かが残って居るのだろう。夢を未だ見て居られるように―――………。
然し、夢の想い出は、残りとなる位に少なく、記憶から零れ落ち、それこそが、夢のあらましで在り―――全てを覚えておくのは、脳の活動、眠りの浅さ、後は起床後に記して置く事で、鮮明と迄は行かずとも、朧気に、色の無いフィルムの様に、憶えて居られるのかも。
―――“幻想郷”。
忘れ去られた生物、物資、事象が流れ着き、妖怪なる、霊長人類視点に於ける非存在の存命を目的として封じられた郷。
時に現代の人類も流れ着き、幻想郷の民となるか、将又妖怪の餌食となるか。
今回現れた者達は、その対象となる世界とは全く別の世界から来た、第三の来訪者。
それ故に、この不定事象、或いは不測定事象として片付けられるべく、幻想郷側は逆に忘れ去る事を選び、今後このような事が無い様にと………と迄はしなかった。否、出来る事は無い。
境界を操る程度の能力である幻想郷創始の賢者は、あらゆる想いを変えれても、踏み躙る事は出来ない。出来ないような結果が、生まれて終ったのだ。
相手を心からと書いて「想う」なのだから。もっと崩せば、木を心の底から目で見る。それ即ち―――………だから、彼らは忘れる事は無く、何れ現れる。
彼等には彼らの人生という物語が有り、此処も通過点の一頁に過ぎない。
「…!」
―――起きた。
‘陽月さくら’は、目を覚ました。
【陽月】
静かな夜、叢の上―――音が有るとすれば、風による草原の揺れる音。
十の字で寝転がり、呆ける脳が次第に起動して行き、左手に違和感を覚えて其方に首を向ければ、何だか最近見た事あるような構図で、巫女子高生’一期一会’が両手で掴んで眠って居た。
何故? と言う疑問が有ったが、その疑問の理由として、何だかとても長い夢を見た様な気がすると、一会の手に負担を掛けない様に、腹筋と、右手を重心にして腰を起き上がらせる。
そこで右手で頭を抑え、靄付く脳の塵を取っ払う。
「! …そうか。想い出した」
何と簡単な攻略だろう。記憶消去が前提とされた帰還だったのに、こうも呆気無く想い出すなんて……と、完全には、想い出せた理由では無かった。
誰かに会ったが、姿形は出ても顔は想い出せず、何処に居たかも丸で頭の中での出来事の様で、だが、己の中で何かが変わって居ると言う自覚―――記憶の断片の端々を再生する事で、恥じらい、憤り、哀しみ、そして―――笑み、色んな感情が渦巻き、抑々感情が何故こんなにも湧き上がるのかと、夢の中で貴重な体験をした事を実感する。
元より要らぬと設定された感情―――その中で根強く残った願いが彼の頭の中で何度も連呼し、何なら呟いて居た。
「俺は………夏実(カサネ)を守りたい」
眠りに於ける意味の他、将来の目標と言う意味で掲示される「夢」を追い続け、諦めない限りは、彼らは忘れる事は無い。―――無論、現実を捉える事も忘れず。
その愚かにも夢現で想われた物語は、序章に過ぎず、再び幻想郷を巻き込むお話は、正に一年後程に、運命によって想い出すだろう。妄り耽って、想い出すだろう。
此れが起きた、または此れから起こる事が何を意味し、何の為、何を目的と結末に繰り広げられるかは、結局のところ、夢故に―――幻想の現実を描いた夢物語で真偽は無く、本当に意味は無い。
只今は、陽月さくらと言う人物は、彼女を見てから、彼女を照らす満月を綺麗と眺め、夢と共に在る想いを、心に決めた。
―――そう言った、そう想った感じで、現実的には長らくだった様で実際は夢見心地の短い期間の、人生的別世界転生、物理的別世界転移の時空超越、事象真偽不明の空想×幻想物語……第一部。
『幻想の現実~Hituki, in Wonderland~
≠
東方空界霊~absence of philosopher.』――――――――――――完結。