「キワムとシオちゃん大丈夫でしょうか…」
カノンは極東支部に向かう輸送車の中で遠くに見えるフライアを眺める
キワムとシオがブラッドに合流する前、二人はカノンたちと合流していた———————
「作戦失敗!?」
サカキから言われた言葉に皆は驚愕した
ブラッドは神機兵零式を倒したが、溢れ出した触手に打つ手がない状態であった
しかし、キワムとシオが何か策があると二人だけフライアの奥に行ってしまったのだ
「無事に帰って来なかったらもう許しませんから」
カノンはただキワムたちがいるフライアを見つめている
「アイツからきっとなんとかしてくれるだろう。それに俺達もやらなきゃいけねぇことがあるだろうがよ」
ソーマは患者達を診ながらカノンに言う
「そ、そうですね…私も衛生兵ですし!」
(私は信じてますからね…キワム)
—————————
「ここは…?」
それは常闇の中にいるようであったが、キワム達の姿ははっきりと見える
「ラケル博士の精神世界、いや、終末捕食のコアの中とでも言うべきか?」
キワムは神機を構えて周囲を警戒している
「コアの中……」
ジュリウスも状況の理解ができたのか神機を構える
「ということはここが最終決戦の場所ということか…」
その言葉で皆も警戒する
「ロミオの血の力で直接終末のコアであるラケル博士に語りかけたみたいな感じさ。『対話』とでも言うべきかな」
「対話…」
それがロミオの血の力であり、ロミオ自身も血の力に目覚めた感覚があった
「ラスボスのお出ましだな」
「「……!」」
闇の奥からこちらに歩いて来たのはラケルだった
「とうとうここまで来てしまったのですね」
「悪いが最後まで抗わせてもらうぜ」
ラケルは紅く光る目でキワムを見つめる
「私の実験も失敗ではなかったようですね。貴方がここまで強くなったのも私のおかげのようね」
「実験…?まさか!」
ジュリウスはラケルの話を思い出す。彼女は人体実験を過去に行った。しかし、それは実験対象の子供が全員死亡したことで失敗に終わったと語っていた
「私も驚きましたよ。あの時の生き残りが今ここにいるなんて」
キワムは神機を肩に担いでラケルの方にゆっくりと歩く
「……昔のことはもういいんだよ」
キワムはかつてリストバンドをしていた左手を見る
「俺には大切なものがたくさんできた。神羅キワムとして歩んだ道に父と母の記憶はほとんど無くても、次郎さんという父親が俺にはいた。大切なものを守る力を手に入れるきっかけをくれたリンドウさん、俺を一番に支えてくれたカノン。天真爛漫なシオ。今は頼もしくなったコウタ。サテライト拠点を中心に多くの人を救おうとしているアリサ。アラガミ対抗の研究者としてフェンリルに貢献しているソーマ。世界中を飛び回り、新種のアラガミの討伐と研究をしているユウ。他にも極東の人たち、ここにいるブラッドのみんな、大切なものに多く出会えた。そして俺はその全部を守りたい。俺がいない三年間、しっかりと守り抜いてくれたみんなのためにも今度は俺がみんなを守る番さ」
キワムは立ち止まりゆっくりと腰を低くしチャージクラッシュの態勢をとる
「生きることから逃げるな。信じた道の先に必ず希望はある!」
ラケルは俯くと体からオラクルが溢れ出しやがて異形の姿へと変貌した。その巨体の額には青く光るコアが剥き出しになっている
「ノヴァを思い出すなぁ」
顔はラケルの原型があるためノヴァとは全く違うが、額の青いコアを見ると三年前のあの日を思い出す。一度世界の終焉から救った英雄たちが再び終焉に立ち向かおうとしているのだ
「ジ・エンド」
キワムの神機から金色に輝くオラクルが溢れて出し、それを神機に纏いラケルのコアへと狙いを定める。キワムのチャージクラッシュは放射型のようであり遠距離の敵にも届かせることができる
ラケルはそれを察したのか迎撃の態勢をとる
「いっけえぇぇぇ!!」
キワムが神機を振り下ろし放たれた金色のオラクルがラケルに襲いかかる
それに対しラケルは手から黒いオラクルを出し殴りかかるようにチャージクラッシュを受け止める
『ハァァァァァア!!』
人ならざる声が混じったラケルの声が響き渡る
「うぉぉぉおお!!」
キワムも神機を思い切り握りしめて押し通す
『私ノ邪魔ヲスルナァァァア!!」
「くっ…」
ズルズルとキワムが押され、ラケルの拳が迫ってくる
「俺は一人で戦ってんじゃねぇよ!!」
「行くぞ!」
『ナッ!?』
背後から強烈な感応波を放つのは血の力を解放させたジュリウスだった。この場では血の力を無制限に使うことができる。今まで血の力を使わなかったブラッドたちは自分たちの真の実力をやっと発揮できる
ジュリウスがブラッドアーツを発動し、ラケルに無数の斬撃を与える。続いてブラッド総員で血の力、ブラッドアーツを発動させ追撃を仕掛ける
圧倒的な攻撃に華麗な連携、意思の疎通がブラッドの皆に伝わり、共に困難を乗り越えてきた仲間だからこそできる芸当である
ブシィィ!
「グッ…コノォ!!」
ラケルが背中から無数の触手を伸ばしブラッドに反撃を試みる。しかしそれをキワムのチャージクラッシュ、シオの神速の斬撃で防ぐ。それに対しラケルはさらに手数を増やしなんとか押し切ろうとする
キワムはチャージクラッシュを維持したまま神機を振り回すように、しかし、正確に触手を薙ぎ払っていく
「とお!」
シオがラケルの真上に飛び上がると捕食形態に変え、背中を喰いちぎる
「ガァアア!」
バースト化したシオはすかさずキワムにオラクルの受け渡しをする
「きわむ!きめて!」
「おっしゃ!ブラッドのみんなも総攻撃で援護頼む!」
「承知した!」
ジュリウスたちが再びブラッドアーツの総攻撃を仕掛け、反撃を許さない怒涛の乱撃でラケルを怯ませる
ダウンしたラケルのコアにキワムの銃口が向けられる
「ラケル博士」
「クソォ!!コンナ人間共にヤラレルカァ!!私ハ間違エテイナイ!荒ブル神の示ス道に従ッタカラニハ必ズソレガ覆ルコトナドアリエナイ!アリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナ————」
「違うものにそれだけの信念を抱けたら素晴らしい研究者になれただろうよ」
ドオォォォオン!!
キワムの銃口から濃縮アラガミ弾が放たれる。その弾丸は真っ直ぐにコアに向かい———
ドカァァァァァァンン!!
パリィィイン!!!
コアを粉々に粉砕した
「アァァァぁぁああァァァああアァァァア!!」
鼓膜が破れそうになるほどの悲鳴をあげ輝きを失ったコアと共に崩れ落ちた
「……終わった…のか?」
ギルは座り込み無残な姿になったラケルを見る。ラケルの目の前に立っているシオとキワムの姿が少しぼやけて見えた
「……あれ?」
ナナも同じく目をこすり二人を見る
何か違和感を感じた。二人と自分たちの間に壁があるような感覚がした
「キワムさん?シオちゃん?」
ヒロが恐る恐る二人の下に歩く
ドン
「……え?」
何かにぶつかった。すると何もない空間に波紋ができた
「これは…?」
シエルが手を伸ばすと同じく波紋を生み壁がある。目に見えない壁があるのだ
「どういうことだ!?」
キワムとシオがこちらに振り向く。その顔は決意に満ちたような、何か覚悟を決めたような表情だった
「こっからが正念場だ。終末捕食を食い止める」
ブラッドは唖然とする
「これでもう終わりなんじゃ!?」
キワムはかつてヨハネスが言っていたことをそのまま伝える
「溢れ出した泉は止まらない。覚醒したノヴァは止まることはない。要は一度発動した終末捕食は自発的に止まることはない。三年前のあの日は俺が月にノヴァごと持って行ってなんとか防いだけど今回はそうはいけそうにないからな。終末捕食には終末捕食で対抗するしかないだろうよ」
「終末捕食には終末捕食で…?」
ブラッドの皆は理解が追いついていない。そもそも三年前の事件のことはごく一部の人物しか知らない事実であり、それらが月の緑化に関係しているとも知らない
「皆は極東に戻ってくれ。恐らく終末捕食の影響でアラガミも活性化しているはずだ。カノン達とみんなを頼む」
「ちょっ!待ってくれよ!二人はどうするんだよ!」
「そう簡単に死ぬつもりはないし、生きて帰ることが第一部隊の鉄則だ。しっかりと役割を果たして帰るよ」
キワムがそういうとブラッド達は徐々に光に吸い込まれるように視界が真っ白になった
「キワムさん!シオちゃん!——————」
————————気付くと神機兵保管室に立っていた。神機兵零式が横たわっており、ラケルの姿は見当たらなかった
急いでフライアから出るとヘリが待っていた
「みんな!急いで乗って!」
ヘリにはコウタとエリナ、エミールが乗っていた
二機あるヘリに分かれて乗り込みその場を離れる。キワムとシオについて聞かないのは察しているからだろう
「あの二人なら大丈夫さ…めっちゃ強いからな!」
コウタはフライアを見つめたまま不安を隠せない表情でそう言った
キワムとシオは無数に溢れ出すアラガミの群れを見つめていた
「…シオ」
「うん。だいじょうぶ。いきてかえるぞー!」
二人は向き合い神機を捕食形態に変えお互いを喰らった
一口で丸呑みにした二つの神機に変化が起こる。キワムの神機は黒く鈍く輝き、シオの神機は白く輝き出す
「グルルルルル…」
徐々に二つの神機は巨大な怪物のような姿に変わり、赤い目をギラつかせアラガミを睨む
「グルァァァァァァア!!!!!」
二匹の響き渡る吠えと同時に感応波が津波の如く溢れ出し、空間を支配する
ビリビリと空間が砕け散りそうな音を立てて地鳴りを起こす
『喰らえぇ!相棒!」
キワムの声で叫ぶ怪物からさらに強く濃いオラクルが放たれる
アラガミは全て弾け飛びオラクルが発散する
やがて二匹のオラクルが全てを包み込む
ゴゴゴゴゴゴ!
「あれは!?」
フライアから飛び出して来たのは白と黒の龍のような蛇のようなものが無数に絡み合い、お互いを捕食しながら上昇している。一定の高さまで上がりきると横に広がり範囲を広げる
そして、それは突如弾け飛んだ
「何が起こって……」
極東に着いたカノンは遠くで起こるそれをただ見ることしかできなかった
「キワム……」
発散したオラクルはやがて原型を求めて再び集まり始める
その中心から強い光が放たれ世界を包み込む————
————目を開けるとその場所には螺旋のように渦巻いた巨大な樹がそびえ立っていた
「これは…?」
アリサがいるサテライト拠点では黒蛛病患者に変化が起きていた。黒蛛病患者にある黒い模様が剥がれ、螺旋状の樹に集まっていった。黒い模様が取れた患者達は驚くほど元気になった
「もしかして…黒蛛病が治った…?」
全ての患者がこの瞬間苦しみから解放された。巨大な樹に吸い寄せられるように黒い模様は飲み込まれていった
「ほぇぇ〜〜」
目が覚めるとそこには楽園のような場所が広がっていた。草木が生え、静かな空間は楽園と呼ぶに相応しい所だった
シオは走り回りキワムを呼ぶ
「きわむー!これ、すごいぞー!えらいなー!」
キワムは元に戻った自身の体に異常がないか確かめて改めて周囲を見渡す。白い山のようなものに囲まれいる状況から終末捕食のぶつかり合いで偶然できた神秘的な空間であると考えた
「楽園…か…」
キワムはゆっくりと立ち上がり子犬のようにはしゃぐシオを呼ぶ
「おーい!シオ!」
「んー?なーにー?わっ!」
キワムはシオを思い切り握りしめる
「うぎゅぅぅう…」
不意に思い切り抱きしめられて身動きが取れないシオはキワムが今ものすごく感動していると察した
「こりゃあすげぇよ…偶然にしろできちまったんだな…みんなが安心して暮らせる場所が…」
その声は少し震えていた。キワムの束縛から解放されたシオも満面の笑みを浮かべる
二人は暫く仰向けになって何もない平和を満喫した
「そろそろ帰って報告しないとな」
「うん!」
出口はすぐに見つかり暫く歩いていると外に出た。改めて自分達が出てきたものを見上げる
「こりゃ、でっかい木だなぁ」
堂々と立つ木に圧倒されつつみんなが待っている家に向かった
極東支部 ロビー
「わぁぁぁぁあ!!キワムぅう!!!」
「ぐぼっ!?」
極東支部に戻ると早速カノンが飛び込んで来た。それを全力で受け止めてそっと頭を撫でる
「ただいま。カノン」
「お帰りなさぁぁいぃ」
「す、少し落ち着いたら?」
溢れ出す涙が止まらないカノンは喉を詰まらせながらもキワムを強く抱きしめる
「ただいまーそーまー」
シオもソーマに抱きつく。今回はソーマもかなり心配していたのか、何も言わずシオを受け止める
その後、サカキに今の状況を伝えた。サカキは息を荒げ『螺旋の樹』と名付けたその場所に是非とも行きたいと興奮していた。螺旋の樹のことは極東支部の皆に伝えられて、楽園を作ると言っていたコウタは飛び跳ねて家族に連絡を取っていた
絶望の中で見出した微かな希望の光に皆は歓喜に包まれた