螺旋の樹は平和の象徴として様々な支部から注目を浴びることになった。詳しい理屈は解明されていないが、終末捕食の喰らい合いの結果奇跡的に生まれたとしか言いようがない。サカキ博士が言うには今でも終末捕食の喰らい合いが起こっているという
本部もこの螺旋の樹の存在とその中にある聖域の存在を認め、聖域の拡張に尽力を尽くすように言われた
キワムは今回の件で再び英雄として讃えられ大尉に昇格となった
シオは極東支部の皆が存在が広がるのはあまり良くないとし、支部内で讃えることにした。シオ自身もあまり興味がなく、仲間からの祝福だけで満足していた。キワムは仕事が増えて面倒だと半泣きになっていた
「なんだよ!俺にデスクワークはダメなんだって!」
「はいはい!俺も同じく!俺たちは現場で頑張ってなんぼなんだって!」
キワムとリンドウはヒィヒィ言いながら書類の山の処理をしていた
「こういうのって支部長がやるんじゃないの!?」
「つべこべ言わずに早くやれ!だいだい今日まで溜め込んだお前達が悪い!」
「「ひぇぇぇぇぇ」」
ツバキから喝を入れられ半泣きになりながら作業を進める
「なんか、可愛そうだねー」
ナナがおでんパンを食べながら他人事のように見ている
「私も隊長になったらあんな感じになるのでしょうか?」
カノンも引きつった顔で見ている
「いや、コウタさんがあんな作業してるとこ見たことないでしょ」
エリナがコウタを指差しながら白々しい目で言う
「俺だって頑張ってるつーの!」
コウタの必死の叫びも虚しく誰も聞いていなかった
ふとカノンはキワムと目が合う
「……!」
キワムはスッと目を逸らし作業に集中し直す
「…あれ?」
カノンはいつもの様子とは少し違う気がしたが、忙しそうな彼を見ていると声をかけずらかった
次の日
カノンが朝起きてロビーに行くとキワムが丁度出掛けようとしていた
「あっキワム。おはよ」
「お、おはよ。カノン。ちょっと用事あるから出かけてくるわ」
何故か目を合わせようとしないキワムに少し不安になる。少し焦っているようにも見える
「私も一緒に行ってもいいですか?今日は休養日ですし」
キワムは困ったように頭をポリポリとかく
「あー今回は俺一人で行くことになってるからさ。カノンはしっかり休んでくれよ。ほ、ほら、せっかくの休みだし?」
「むぅぅぅ」
カノンは頬を膨らませて不機嫌になる。キワムは慌ててカノンを宥めてなんとか機嫌を直した
キワムが出かけた後カノンはラウンジでプンスカしていた
「カノンさん?どうしたんですか?」
エリナがちょんとカノンの隣の席に座る。ご機嫌斜めなカノンにエリナは心当たりがあった
(あ〜もしかしてキワムさんの…)
「むぅ〜キワムが昨日からあんまり構ってくれないんですよ。これってもしかして……!」
カノンがウルウルと涙を溜めているため慌ててエリナが慰める
「そ、そんなわけないでしょ!キワムさんはそんなこと絶対しませんから!何か理由があるんだと思いますよ?」
「うぅぅ」
そこにコウタが入ってきた
「ん?カノン何落ち込んでんだ?あ…」
コウタも察したのか。普段より元気よく話題を変える
「明日の夕方から聖域で祭りをやろうと思うんだけど」
「わー!すごーい!!」
エリナも必死で盛り上げる
「祭り…ですか?」
カノンが食いつく
「そうそう!祭りさ!ビッグイベントだよ!居住区の人達が協力してお店を出したり花火なんか上げたり、とにかく盛り上がること間違いなしだぜ?あ、ちなみに聖域でするからな?」
「すごいですね!全然知りませんでした!」
カノンはパッと笑顔になり祭りのことで頭がいっぱいになっているようだ
「キワムがこのプロジェクトを立ち上げたんだせ?みんなに楽しい思い出を作ってほしいのと居住区の人達と支部の人達の交流が狙いなんだってさ」
「そ、そうなんでか?あ、もしかして…それを私に隠して…」
カノンは気付いたらしく笑みがこぼれる。きっとサプライズとして明日驚かすつもりだったのだろう。もう聞いてしまったが
確かに螺旋の樹ができた後もアラガミの脅威が無くなったというわけではなく、アラガミと戦う日々は何も変わらない。ゴッドイーターとして人類を守る守護者として命を賭けている
ラウンジで紅茶を飲み、準備をすませるとカノンは第一部隊の副隊長として今日もいつも通り任務を遂行しに行った
聖域の誕生は居住区の人達にも伝わり、皆が幸せになる可能性に歓喜に包まれた。現在ではブラッドが聖域で農作物を作るなど様々な試みを行っている。聖域では
キワムが計画した祭りの開催は居住区の人達も進んで協力をしてくれた。彼の人脈と人柄に惹かれた人も多く支部と居住区の連携も上手く回っている。もちろんキワム一人だけではなく、リンドウやアリサ、コウタの呼びかけや影響も大きい
聖域では明日の祭りの準備に追われていた
「あーそっちの準備はどうですかー?」
キワムは作業服で屋台の設備を行っている。キワムもほぼアラガミと同じ体であり、シオと同じくある程度力の制御はされるものの、一般的な人と比べると圧倒的にキワムの力は強大である
「やっぱ人の体に近いだけあって、疲労も溜まるなー」
額に流れる汗を拭いながら周囲を見渡す。既に準備はほとんど終わりに差し掛かり後は明日材料を運ぶだけである
「みんなおつかれ!明日もよろしくお願いします」
気が付けば時刻は夕方になり空はオレンジ色になっていた
あれからもう三年が過ぎた。早いような長かったようなとにかくいろんなことが起きた大忙しの月日だった
「そういえば墓参りに行ってなかったな」
居住区の中心から少し離れた人気のない場所に次郎のお墓がある。キワムは皆と別れた後一人その場所に向かった
黄昏色に染まった空はいつの日かのように何度見ても変わらない空をキワムはいろんな感情を抱きながら歩いた
お墓の前に着くと一輪の花を供えて手を合わせる
「次郎さん。この三年間本当にたくさんの出来事があったよ。全部話したら日付が変わるから省略するけど、悪くはない経験だったと思うよ。あ、そうだ、明日螺旋の樹ってところにある聖域って所で祭りをするんだよ。聖域ってのはアラガミやオラクルが存在しないまさに楽園って所さ。やっとみんなが安心して暮らせる場所ができたよ。次郎さんにも見せたかったなぁ。それでさ、明日の祭りの最後に打ち上げ花火をするんだ。そんで、聖域の大樹の下でカノンにプロポーズしようと思う。いや、するって決めたんだ。いつか言おうと思ってたけどさ、これがなかなかいいタイミングが無くてさー。明日が一番だと思う。ま、気長に見守っててくれよな。そんじゃ、上手くいったら明日カノンと一緒に来るよ」
そう言い残しキワムはその場を離れ、支部に向かって歩き始めた
「おう、キワム」
「えっ!?リンドウさん!?」
物陰からリンドウが出てきてはにかむように笑いながらこちらに歩いてきた
話を聴くとリンドウもお墓参りに来たようだった。リンドウは先に済ませ帰ろうとしたところにキワムが来たようだ
「でも、隠れなくてもよかったのに」
「ははっなんとなく一人にさせた方が良かった気がしてよ」
二人で並んで支部に向かって歩く。あの時は次郎さんが送り出してくれた。そして今も次郎さんが頑張れと背中を押してくれた気がした
翌日
極東支部では珍しく遅い朝を迎えた。今日は祭りがあるということで皆は休養日になっている。ユウとシオが昨日支部周辺のアラガミを殲滅させ、今日は全くの無反応であるという。少し二人が恐ろしく感じた
トタトタトタ
「きわむー!おはよ!」
ドブっ!
「ぐぼはっ!!?」
キワムの部屋にシオが入りベッドの上に飛び乗った
「く〜……カノンめ、開けっ放しで出たな…」
トイレに行ったカノンはドアを開けたまま行ったようだ
「きょうはまつりだよー!まつりってなんだ?おいしいのか?」
シオは祭りが何なのかいまいち理解していないようだ。しかし、おいしいと言えばおいしいものだ。出店の商品は食べ物系が多いからだ。もちろん、射撃やストラクチャーアウトなど遊べるものも多く用意してある。そもそも今日の朝にカノンを驚かすために秘密していたが、何故かカノンは既に知っていた
渋々時計を見ると今の時刻は10時である。祭りは15時からだ
「まぁ朝めし食べに行くか」
丁度カノンも帰って来た所で三人でラウンジに向かった。ラウンジでは既にムツミが朝食の準備をしていた
「毎日ありがとなムツミちゃん」
キワムがそう言うとムツミは頬を赤く染めてニッコリと笑った
「へへへ、皆さんに美味しいご飯を提供するのが私にできる皆さんのサポートですから」
まだ幼いのに大したもんだとキワムとカノンは思った
「ごっはん♪ごっはん♪」
シオはスキップしながら朝食を待っている
「シオちゃんは今日ソーマさんと行くんですか?」
「そうだよー」
シオはぴょんと椅子に座って足をぶらぶらさせながら答えた
「そーまがね、きわむとかのんは『でーと』するからふたりだけでいさせてやれっていってたよ?」
「あわわわ…」
カノンは顔が真っ赤になり動揺を隠せない。キワムも平然を装っているが顔が赤くなる
朝食の後、キワムは最後の準備があると先に出かけてしまった。待ち合わせは14時に聖域にある大きな木の下だ
「私も準備しないと」
カノンはシオを連れてサクヤの部屋に向かった
実は昨日にサクヤは極東に帰って来ており、息子のレンを連れて来ていた
「あ、サクヤさん!おはようございます!」
「カノン、おはよう。もうみんな来ているわよ」
ニコニコと笑顔でこちらに手を振る彼女にカノンも手を振り返す。3歳になったレンを見て少し羨ましくなった
サクヤの部屋では女性陣が極東の伝統であるという浴衣というのを着ていた。皆苦労しているようでサクヤが皆に着せてあげている
「うわぁ〜みんな綺麗です!」
カノンは手をパンと合わせ色とりどりの浴衣を来た皆を見る
「こ、こういうのは慣れませんね…」
アリサは髪を団子にしており、いつもとは全く違う雰囲気が出ていた。他の人も凛とした雰囲気があり、皆綺麗だった
「さ、次はカノンよ」
「あ、はい!よろしくお願いします!」
「よーし、準備完了!コウタもありがとな!」
「おう!これぐらい任せときなって」
聖域で祭りの準備を終わらせた皆は時間が来るのを待つだけだ
「ちょっと俺待ち合わせしてるからまた後でな」
キワムは約束の大樹の下に向かう。その後ろ姿を見てコウタは心の中でエールを送った
「俺も彼女欲しーなー」
12時50分
「あ!キワム!お待たせ!」
いつも見ている彼女とは全く違う雰囲気だったため、一瞬わからなかった。それほどまでに彼女は美しかった。いつものポニーテイルではなく、ストレートに伸ばしたピンク色の髪は微かな風に吹かれサラサラと流れるようにたなびく。それを片手で抑えつつこちらに笑顔を見せる彼女にドキッとした
「お、おう」
思わずそんな返事をしてしまった。別に恥ずかしいとかではない。ただ、今日は俺にとって一番重要で大切な時間になるのだ
彼女は頭の上にハテナが浮かび上がっているような表情をしている。しかし、顔が赤いのはきっと彼女の気持ちが浮き出しているからだろう
カノンの手を取り、二人で賑やかになり始めた会場に向かう
「へい!いらっしゃい!たこ焼きはどうだい!」
あちらこちらで人の声が響き渡り活気に満ちた屋台を見ながら、天然な彼女が離れ離れにならないようにしっかりと握って歩く。すれ違う人たちは俺に気付くと挨拶をしたり、お礼を言ったりする
子供がこちらに歩いて来て
「いつか、キワムさんみたいな神機使いになるんだ!」
なんて言われた時は正直恥ずかしかった
「キワム、私あれしたいです」
「ん?」
カノンが指差す方には射撃の屋台があった
「よし、行くか」
「はい!」
屋台の奥には景品が沢山並べられていた。ぬいぐるみや回復錠やホールドトラップやら……
「この屋台やってんのおじさんかいぃぃい!!」
極東の神機使いならば必ずお世話になるよろず屋のおじさんだった
「おー!キワムさんにカノンさんじゃないかい。ほら、早速やってみな」
渡されたおもちゃの銃を持ち、とりあえず何を当てるか迷いカノンに欲しいものを聞こうとすると
「あははー!それ!景品は私のものぉぉ!!」
「ここで戦闘モードになるんかいぃぃぃい!!?」
久々に見た戦闘モードに懐かしさを感じつつ様子を見るが案の定彼女が狙っている場所は全く違うところに誤射をしまくる
どうすればそんなにも逸れるのだろうか
狙った物とは全く違う物をゲットしたカノンは落ち込んでいるのか嬉しいのかよくわからない顔でじっと景品を見ていた
次にわたがしを二人分買った。カノンは大きく口を開きわたがしにかぶりつく。とろけるような笑みを浮かべ、幸せ満開の様子だった。わたがしを食べたカノンの頬にわたがしがついていたため取ってやると慌てて顔が真っ赤になり照れ隠しのためか、胸に顔を埋め込んできた
それ、照れ隠しになっているのだろうか
その後もたこ焼きや焼きそば、カキ氷、金魚すくいなど祭りを満喫した
二人は集合場所にしていた大樹の下に帰ってきた。この場所で打ち上げ花火を見るつもりだ
周りには誰もおらず会場の騒々しさは無かった。風が草木を揺らす音だけが鳴り響いていた
「ふぅー」
キワムは大きく深呼吸をする
「どうしたんですか?」
カノンが不思議そうに見る
キワムは覚悟を決める。ずっと言えなかったこの言葉を
「なぁカノン…」
キワムはカノンに面と向かって真剣に言う
それに少し動揺しつつ、カノンは返事をする
「は、はい」
もう一度キワムは深呼吸をする。何か察したのか少しカノンの顔が赤くなっている
「今だから、やっと伝えられる想いを君に届けたい」
キワムはポケットから箱を取り出し片膝をついて箱を開けて差し出す
「わ、あ、あわわわわ」
カノンはとうとう茹でたように真っ赤になり、口に手をあて、感極まっている
「……俺と結婚して下さい」
「うっ…ひっく……」
カノンは必死に涙を堪えなんとか声に出す
「っ………はいっ!」
そっとカノンの左手の薬指に指輪をはめる。サイズはピッタリだ
「………//」
カノンは涙を溜めて今にも溢れ出しそうな瞳で指輪を見る。こんなご時世、豪華なものなど用意できるはずがなく、普通の指輪であるが、カノンはそれが特別に光輝いて見えた
ヒュゥゥウ バァン!
打ち上げ花火が上がりまるで二人を祝福するかのように色とりどりに咲き誇る花火は忘れることのない、特別な日となった
「それともう一つ」
キワムはリストバンドを二つ取り出し、その一つをカノンに渡す
それは前と同じくオレンジ色であった
大切なものができることが怖く、いつのまにか避けて生きていたのに出会ってしまう。そんな運命に翻弄されても強く硬く結ばれたその想いは誰にも断ち切ることはできない。
「二人ならきっと大丈夫」
潤しき彼女の涙は夜空に照らされ、未だ見ぬ幸せな未来を映し出すように輝いた
一旦ここで一区切りにしたいと思います
第2部をするかもしれませんので連載のままという形にします
ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。続きが出来ましたらまた改めてよろしくお願いします。物語はまだ続くので螺旋の樹ができた後の後日談という形で進めていきます