小説らしく、かつ面白く書けるように頑張ります。
ヒロとナナが任務を完了した一時間前。
キワム、カノン、エリナの三人は今回の討伐対象である、コンゴウとガルムの討伐をするため、贖罪の街に来ていた。
極東屈指の強さを誇るキワムと任務を遂行することは支部内のゴッドイーターの憧れであり、彼を目標に強くなろうとする人も少なくはない。
贖罪の街——-かつて大きな宗教団体がこの教会で祈りを捧げていた。それは神に対するものなのか……
荒野と化した残骸の景色を、食べ残しの景色を横目に見つつ、遠くで聞こえてくる遠吠えが今回の目標の存在を知らせる。聞こえるのはその声だけ。廃墟となったこの街には音はなく、ただ静寂だけがこの街には残っている。
踏みしめる大地は脆く、割れた地面があちこちに広がっている。自然とは縁遠い卵色に染まった食い荒らされた街並みを背景にこの世界に降臨した神は人類の天敵として今もなお君臨し続けている。
神を喰らう者は今日も荒ぶる神との存続を賭けた戦いに奮闘する。
己の力となるたった一つの相棒を手に。
「あ、あれ…?今日の討伐対象ってなんでしたっけ?」
死と隣り合わせの戦場に似合わない拍子抜けな声が漏れる。聞き慣れたその声は風鈴の音のように柔らかく包み込むような優しさが溢れており、その声を聞くたびに安堵の表情が自然と溢れる。
が、その内容は部隊の副隊長である者としての威厳を損なうものであり、緩んだ頬を咄嗟に引き締め直し、軽くおでこにデコピンをする。
あいたっと可愛らしげな声をあげ、痛みで潤った瞳でこちらをジト目で見つめてくる。それだけで不意に許してしまいそうになってしまう。いや、許してしまうだろう。しかし、今ここには後輩であり、部下であるエリナがいる。心を鬼にして表情を固く引き締める。
「まったく…カノンは部隊の副隊長だろ?そんな調子じゃ信頼を得られないぞ」
「あぅぅ…ごめんなさい」
「何ニヤニヤして言ってるんですか?キワムさん…」
「ひょ?」
「ひょ?じゃないですよ!まったくもう!」
どうやら無意識に表情に出てしまったらしい。まぁ別にエリナのことだからそういうところはわかってくれるはずだ。そんなに気にすることもないだろう。
「全く反省してないってことだけは感じますよ…」
エリナもカノンと同じくジト目で睨んでくる。まだ幼さが残るエリナは怒っている時も可愛いく感じてしまう。その点についてはエリナ自身も悩みのタネであるそうだ。
そんな平和なやり取りを荒神の遠吠えが遮断する。神機を構え直し、戦闘態勢に入る。
「私だって強くなったんだから!しっかり見ててよね!二人とも!」
極東支部で一番最初にチャージスピアを使用したのはエリナである。当初はデータのないチャージスピアの使用は困難極まりないものだったという。リッカでさえも戦闘データの不足から、手探りで戦闘スタイルの検証を行っていた。
彼女の努力もあり、チャージスピアの扱いが十分に上達したところで実地演習を行った。その時に同行したのがカノンだったそうだ。その時にはすでに副隊長になっていたため、第一部隊に配属予定のエリナの演習の補助をすることになった。
訓練の結果は素晴らしいものとなった。立ち回りや回避のタイミング、隙を突く攻撃、彼女の才能の高さを十分に発揮できた内容だった。
カノンもほとんど回復系バレットを使用することなく、エリナ一人で戦わせることに迷いがなかった。
「やあああ!たぁ!」
そして今日までの日々、努力を怠ることなく、訓練を重ねてきたエリナはコンゴウに一方的に攻撃を仕掛けており敵に反撃を許さない。その熟練された立ち回りはキワムも納得するほどだった。
このコンゴウの殴り込みをひらりと宙返りでかわし、コンゴウの頭の真上に到達したタイミングで頭にスピアを突き刺す。すぐさま神機を引き抜き、暴れるコンゴウにチャージグライドを解放した全力の突進でコンゴウの体を突き抜ける。
胴体に風穴が開けられたコンゴウはそのままはダウン。とどめの捕食攻撃で仕留める。
「ふふん、これぐらい余裕よ!」
小さい胸を張って格好を決めるエリナ。彼女は最近ヴァジュラを一人で倒したらしい。その後コウタに無理をするなと怒られたそうだが…。しかし、それほどまでに成長したエリナが誇らしく思える。世代交代もそう遠くはないだろう。自分たち先代が引退した後でも優秀な若い人材が育っている。安心して後を任せられるだろう。
キワムはエリナの頭をグリグリと撫でる。
「うわわっ!急に撫でないでくださいよ!」
少し照れたように乱れた髪を整えながらジト目でキワムを見る。キワムは優しく微笑んでエリナと目を合わせるとエリナの方が耐えきれず視線を逸らした。
「若いもんが育ってくれてんだから、俺ももうゆっくり休めそうだなぁ」
「キワムのことだから、引退してもツバキさんみたいに教官先生として若い人たちの指導をすることになるんじゃないですか?」
「な、なぬーー!!」
カノンの予想外の発言に肩を落とす。二人はそんなキワムに苦笑いを浮かべる。どうやらキワムに前線から退くという選択肢はないようだ。
その後遅れて登場したガルムはキワムの八つ当たりで速攻で消し飛ばされた。
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極東支部
極東支部第一部隊に配属されてもうすぐ一年が経つ。最初は違和感があった赤い腕輪も今はもう慣れた。思えばこの一年間は本当に怒涛の月日だったと思う。この一年で一番の朗報はキワムさんが生還できたことかな。キワムさんは噂通り本当に強くて優しくて、カノン副隊長が惚れるのもわかる。
新人の私にも戦い方のアドバイスをたくさんしてくれた。他の人から言われるのは少し癪だったけどキワムさんは何故かすんなりと受け入れてしまう。結果的に私の戦果は上がったし、前よりも被弾率も減った。自分が強くなったことを実感して本当に嬉しかった。キワムさんも私の成長を素直に認めてくれた。キワムさんには素直になれる気がした。
私の欠点はその素直になれないことだと自覚している。エミールと私のことを考えていろいろ言っているんだろうけど、どうしてもそれを受け入れることができなくて衝突してしまう。
それについて相談に乗ってくれたのもキワムさんだった。キワムさんは急に変わろうとしなくていい。少しずつ成長していけばいいって言ってくれた。
思えば私はキワムさんに頼りっぱなしだ。何も恩返しできていない。今日の任務だって本来ならカノン副隊長と二人での任務だったのに私のわがままで同行させてくれた。
そんな優しいキワムさんに何かしてあげられることはないだろうか?そういえばナナさんがヒロさんに何かサプライズをするとか言ってた気がする。ナナさんに協力してもらって一緒にサプライズするのもいいかもしれない。あ、いやでもナナさん確かヒロさんに……あぁダメだ。他の方法を考えるしかない。あ、そうだ。確か前にキワムさんが言ってたあれなら……!それならコウタ隊長に相談してみよう。これからいける気がする!
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ラボ
「よーし!これでいける!」
ナナは手に持ったスタングレネードを掲げ満面の笑みを浮かべる。その横にはソファーに座って首を鳴らして一息ついているリッカがいる。ナナ考案、リッカとサカキ制作のときめきグレネードが完成したのだ。
実行するのは明日。高揚する胸の内を抑えて頭の中でシミュレーションをする。しかし、その度に脳裏に浮かぶのは戸惑いだ。本当に伝えて良いのだらうか?もし、万が一、いや確率でいうなら二分の一。もしダメだった時、今後の彼との関係が気まずくならないだろうか。今までのように話すことができなくなるかもしれない。そう思うと躊躇してしまう。この想いを内に秘めたままで、今の関係が続く方が良い気がする。
それでも、わかっていても、どうしても伝えたい自分がいる。彼ともっと話したい、近くにいたい、一緒にいたい。自分を見てほしい。ならば覚悟を決めるしかない。作戦実行は明日。そして運命の日だ。
「ずいぶんと悩んでるみたいだね?ナナちゃん」
「リッカさん…」
リッカはナナを隣に座らせ頭を撫でる。猫の耳のような髪型は彼女の定番であり、母親と同じそうだ。
「大丈夫だよ。もし、仮にダメだったとしてもそれで関係が終わってしまうような仲じゃないでしょ?今まで一緒に戦ってきた戦友なんだし、ヒロだってそれでナナを遠ざけるなんてマネは絶対にしないよ。もしそんなことしたらもう彼の神機見てあげないけどね」
「そ、それは…」
「なーんて冗談。そんなこと神機が可愛そうだから絶対にできない。私はね、神機をみることでその使い手がどんな戦い方をしているのかだいたいわかる。ヒロの神機はね、いつも誰かを守ろうとしているの。そしてその戦い方が極端になる時がある」
「え…?」
リッカはナナのおでこに人差し指を突きつけ意地悪な笑みを作る。
「……君と、戦っている時だよ」
小さな声でそう言った。
「さぁて、もう夜遅いし、私も疲れたし、寝る!」
「えっあっちょっと!リッカさん!?」
リッカはナナに背を向けたまま手を振りラボを出ていった。リッカに言われたことをゆっくりと理解して頬を桜色に染めて自室に戻った。
小さな自信を胸にナナはただ彼を想いながら意識を手放した。
この続きは第二部本編と一緒に投稿していきたいと思います。