————世界は再び、喰い荒らされていた
ある時、未知なる厄災『灰域』が世界各地で発生。空気中を漂う『灰域』は発生直後よりその領域を拡大し続け、接触する全ての構造物を喰らい、灰へと変えていった。
フェンリル各支部は『灰域』のなす術なく、長年続いたフェンリルの統治体制は程なくして崩落した。
『灰域』はなおも拡大の一途を辿っている。かろうじて生き存えた人々は各地で地下拠点『ミナト』を建造、さらには『対抗適応型ゴッドイーター』通称『
2088年 2月21日 11時03分 『ミナト』
「——-ってのが今の現状だ。なぜ君が地上で活動できていたのかはまだ精密な検査の結果が出てないからわからないが、君はどうやら生まれ持って灰域に対して適応能力があるようだ。そこで、君にはどこにも属さない『未所属』として、単独で任務を行なってもらう。とはいえ、さすがに全ての任務を一人でこなすわけではない。安心してくれ。まず君に与える任務はミナトを渡り歩き、『極東支部』の情報を聞き出してくれ。私も元々はそこの出身でね。『アラガミの動物園』が閉園してないか心配なのさ」
地下研究所から出てまもなく、俺は研究者と名乗る男に保護されとある地下拠点に身を置いている。薄暗い電灯が点々とつけられており、内部は洞窟のような構造になっており、いくつもの分岐点に分かれた通路が伸びている。俺以外にも人はいるようでちらほらと横を通り過ぎていく。皆体は痩せており、服もボロボロの状態。おそらく俺と同じくらい保護された人だろう。俺は戦闘用のスーツを着用し、その上からコートを羽織りフードを深くかぶっている。どうやら俺の存在はあまり世間に知られてはいけないようだ。
「さて、説明はさておき、これから任務を遂行していく上で君も名前が必要だろう。今日から君のコードネームは『ファントム』だ。以降はそう名乗るんだ。君はどうやら記憶がないそうだからな。今はその名を借りておくんだ」
「…了解」
俺は今日からファントムとして活動することになった。そして博士からもらった神機は俺の体に馴染んだ。どうやらかつて極東支部で英雄と称された者が使用していた神機のようだ。紅く染まった神機はまるで血を浴びたように鈍く輝いていた。
「さて、それじゃあ早速だけど、ファントム君には地上で戦闘をしてもらう。大丈夫、君はおそらく戦闘に関しては
「……随分と俺について詳しいんだな、博士」
「ふっ……まぁ君についての分析はだいだい済んでいるからね」
本当にこの人を信用していいのかわからない。だが、今の現状はこの人を頼る以外に選択肢はない。俺は今もこうして生かされている。彼は俺にとって恩人であることは事実だ。
地上へと繋がる通路を歩いて、その先にある人が二人ほど通れるぐらいの扉を開けると相変わらずの喰い荒らされた光景が広がる。何故この光景を見ると心が痛いのだろう。
『外』はアラガミに溢れていると同時に灰域の影響を受ける。博士に聞いた話ではAGEという灰域に適応した新たなゴッドイーターが外で活動しているという。だが、その立場はかつてのゴッドイーターとは全く異なる。手錠のような腕輪がつけられ自由に行動することができない。さらに任務は危険なものが多くが、それに見合った報酬は出ないそうだ。
「時代…か」
俺はそんな言葉をぽつりとこぼして外に向かった。
雑草すら生えていないもろい地面を踏みしめながら周囲を見回す。空は灰域の影響か曇天のような空だ。
「グアアォォォォ!!」
「博士、目標と接触。戦闘を開始する」
耳にはめた無線機に指を当てながら伝達する。
「そいつはヴァジュラだ。新人なら即撤退と言うところだが、君なら大した相手じゃないだろう。存分に戦ってくれ」
「確かに、見慣れた感じがする。まぁ一応行動パターンや奴の弱点とかのサポート頼む」
「任せてくれ」
初対面のような見慣れたような不思議な感覚を覚えつつもヴァジュラの電撃を交わしつつ距離を詰めていく。一方引いたヴァジュラは崩れた岩の上に乗りそこからこちらに飛びかかってきた。それに対しファントムは神機を肩に乗せ力を込める。神機から黒いオラクルが溢れ出すと同時にそれを纏った神機でヴァジュラに斬りつける。
「グオォッ!?オォォォオ!!」
裂けた体から血が噴き出す。懐かしい手応え、感覚が研ぎ澄ませれていく。羽のように軽い体。
ヴァジュラが気づいた時には既に真上から捕食形態に変えた神機を体に突き刺されていた。
「博士、倒したぞ」
「うん、流石だね。そいつはオラクルが分散する前に捕食してくれ。アラガミ素材の回収もゴッドイーターの任務の一つだ」
黒い装束に身を包んだ
一旦帰投したファントムは博士にアラガミ素材を渡す。ファントムはここで一つ聞いておきたいことがあった。
「そういえば博士、あんたの名前って?」
ふと視線を影に落として間をおいて彼は答えた。
「そうだね。君には言っておこう。君とは