神と人と愉快な仲間達   作:パルモン

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随分と遅くなりました汗

一話の内容が少な過ぎると思ったため内容を増やしました。

最初からそうやれって?ごめんなさい。

そしていきなりの急展開です。はい。


聖域へ

 夢を、見ていた。

 

 テーブルを囲んで大勢でワイワイしていた。からの瓶の中に数字が書かれた棒を入れてそれをみんなで一つずつ取る。そして先端が赤く塗られた当たりを引いた者は好きな数字を言い、その数字の者は当たりを引いた者の命令に従わなければならないというゲームをしていた。

 殺伐とした世界の中でその空間は暖かくて、平和で、何より仲間と過ごす時間が楽しかった。

 

(きました!私引きました!)

 

 一人の女性は王様棒を掲げる

 

(ふふっで、では…キワ…6の人が7回戦終わるまで私に抱きつくということで……!)

 

 その声はどこか懐かしく、同時に悲しくなった。どうして悲しいのかはわからない。ただその可愛らしい声は脳裏に深く焼きついている。

 何があっても守ってやる。そう思っていた。ずっと側にいると約束したはずだった。

 

(うぅっ……どうして…どうしてなんですか…っ!)

 

 その女性の泣き声が虚しく響き渡る。

 嫌だ、聞きたくない、聞いてはいけない。それ以上関わっては駄目だ。わかってしまう、彼女が泣いている理由を知ってしまう……

 

(どうして……私を置いていくんですかっ!約束…したじゃないですか…いかないで……キワム…っ!)

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「———はっ!!?……はぁ…はぁ…はぁ………夢、か……いや、これは…」

 

 夢じゃない。知っている。あの光景を見たことがある。

 かつて自分もそこにいた。一緒に任務に行って、一緒に帰って、一緒に買い物に行って、一緒に食事をとって、一緒に笑って、一緒に過ごしたあの日々を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極東支部で生きたあの日々を。

 

 神羅キワムとして生きた人生を——————

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ファントムはサカキの研究室に向かっていた。その足はだんだんと早くなり、風のようにその場所に走っていた。

 入り組んだ道を抜け、角を一つ曲がったところに研究室はある。

 

「博士!!」

 

「うおぉっ!?ど、どうしたんだい?そんな怖い顔して」

 

 突然ドアを開けたため博士は目を丸くしてこちらを見ている。

 知っている。この人物も俺は知っている。おそらく最もお世話になった人とも言える人だ。

 

「……サカキ博士……俺……わかったよ…」

 

「っ……!」

 

 その一言だけでサカキは目を見開いて全てを察したのだろう。その目には涙が浮かんでいた。それを誤魔化すようにゴホンと一つ間をとって笑顔で彼を見た。

 

「思い出したんだね…自分が何者であるか」

 

「ああ、思い出した。全て思い出した。俺は……幻影なんだな?」

 

 サカキは申し訳なさそうに俯いた。そして静かに頷いた。

 

「そう、君はキワム君であってキワム君じゃない。君はキワム君の遺伝子と記憶を引き継いだクローンだ。けど、顔は少しキワム君とは異なる。同じにしてしまうと…」

 

「カノンだろ?」

 

「………」

 

 彼女が今どんな心境であるか考えるだけでも胸が痛くなる。キワムの代わりはつとまらないが、彼女の心を少しでも救うことができるならなんだってやってみせる。

 そしてサカキ博士が俺を極東支部についての情報を聞かせようとしたのも記憶の回復を図るためだろう。

 

「そんな暗い顔すんなって博士。大丈夫。今度はファントムとしてもう一度やり直してみせるさ。だからさ、聖域に行こう。みんな待ってるはずだ」

 

 きっとサカキ博士は責任を感じているのだろう。キワムの記憶を残した上で再び彼らと他人として接しなければならない。そしてもはや人間ではなくなってしまった俺のことを。

 自分でもわかる。俺はアラガミだ。これはキワムの中にある純粋なオラクル細胞を触媒とした体なのだろう。

 そのオラクル細胞にキワムの人としての細胞を混ぜた結果今の俺ができた。

 姿形こそ人間と何ら変わらないがその中身は人間とは全く異なる。

 

「俺は知っている。あの温もりを。みんなと過ごしたあの時間を。それだけで十分だ」

 

「そうか……なら、明日このミナトを出よう。今のうちに準備をしてくれ」

 

「博士…アカネは連れて行けないのか?」

 

 ファントムの質問にサカキは困った表情を見せる。その反応にファントムはギロリと鋭い眼差しを向ける。

 サカキは観念したように眼鏡の位置を整えながら無言で頷くことでアカネの同行を許可した。

 ファントムは見せてあげたかった。アラガミのいない平和な場所を、安心して暮らせる場所があることをアカネに見せたかった。そして、それが彼女の生きる希望になってほしいと願った。

 ゴッドイーターはいつ死ぬかわからない。もし、自分が死んだ時あの子が安全な場所で暮らせるためには聖域に行くしかないのだ。

 

 ファントムはもう一つ悩まされていることがある。それは彼らとどう接すればいいのかということだ。きっとキワムがいなくなったことで士気は下がっているだろう。

 彼は極東になくてはならない存在だった。そのダメージはきっと極東の人々の全員に響いているはずだ。

 自分が行ったところで何もできなのかもしれない。だが、彼の意志は自分が持っている。彼が目指したもの、守りたかったもの、そして、側にいると決めた彼女のこと。

 カノンだけは何がなんでも守ってみせる。たとてどんなに嫌われようとも、罵られようとも、どんな形であっても彼女は死なせない。

 できることなら彼女に寄り添い一番近くで支えてあげたい。でも、それはもうできない。

 彼女はきっともう手の届かないところにいるのだろうから。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 2088年 3月24日 ミナト

 

「わぁ……私、ヘリコプター初めて乗ったよ!」

 

 アカネはヘリの窓に顔を擦り付けて外を眺めて感動していた。その反応を見てファントムは嬉しくなった。彼女が目を輝かせて喜んでいる様子なんてほとんど見なかったからだ。

 ファントムの表情は無意識のうちに柔らかいものになっていた。その様子を横から見ていたサカキは眼鏡の位置を調節しつつその口角は上がっていた。

 

「あ!お兄ちゃん!ほら、ミナトが見えるよ!」

 

 アカネにつられてファントムもヘリの窓から下を見る。

 

 ミナト[()()()]————それがファントムたちがいるミナト。今はまだ未所属であるファントムだが、実際はコカブでの任務を遂行しているため実質的にはコカブに所属しているようなものだ。

 ミナトの名前を教えてもらったのはつい先程、ヘリでコカブを発つ前だった。灰域によりほぼ全てのインフラが失われた現在では移動方法も限られている。

 このヘリは博士の特注品らしく灰域からの捕食を抑制する対アラガミ装甲を備えているため灰域内でも運用することができる。

 

「そういや博士、ミナト以外で人が住む場所ってあるのか?」

 

「ふむ…」

 

 サカキはいつもの眼鏡の位置を調節する仕草をする。

 

「……どっちなんだよ」

 

「…灰域の中を渡航可能な移動要塞の一群、通称「キャラバン」これが現在の人類のライフラインになっているよ。移動要塞一隻一隻は「灰域踏破船」と呼ばれててね、キャラバンの母艦となる船はホームであるミナトの名前を冠するのが通例さ」

 

「へぇ…」

 

 どうやらまだ人類が生き残る術はなんとかなっているようだ。

 だが、もちろん移動要塞といえども収容人数は限られている。その枠に入らなかった人はどうなるのだろうか。

 

 

「ところで、ファントム君」

 

「ん?」

 

 サカキは眼鏡の位置を調節しつつ、話の内容についていけずポカーンとしているアカネとファントムを交互に見やる。

 

「いつまでもファントムっていうコードネームじゃなくで君自身の名前で呼んだ方がいいと思うんだ」

 

「………っ」

 

 アカネの顔が少し引きずったような気がした。思えばまだ一度もアカネから名前を呼んでもらったことがない。いつも呼ぶ時はお兄ちゃんと呼んでいる。

 ファントムはあくまで一時的なコードネームに過ぎない。それを知ってか、彼女なりに気を遣っていたのかもしれない。なんとも良くできた子だ。

 

「ここで私からの提案だけど、アルスハイルっていう名はどうかな?」

 

「え〜〜」

 

 ファントムはなんとも言えない表情を浮かべる。かと言って自分で呼んでほしい名前を考えるというのもどうにも気持ち悪く誰かに考えてもらう他ない。

 

「私は、いい…と思うよ」

 

「……マジで?」

 

「……う、うん」

 

 まさかアカネからオーケーが出るとは思いもよらなかった。この名のどこが気に入ったのかアカネはこれでいいらしい。

 サカキは言うまでもなくこの名前に自信満々に胸を張っている。こうなってしまうともう諦めるしかない。

 

「…わかったよ。アルスハイルな。じゃあ呼びにくいからみんなアルって呼んでくれよ」

 

「アルス!」

 

「…うん、アルスな」

 

 アカネの見事なスルーに心を痛めた。

 サカキは満足そうに何度も頷いている。それに妙に腹が立ったためつま先を踏んづけてやった。

 

「グボハァッ!?」

 

 痛がるサカキを無視して再び視線を外に向ける。

 随分と変わってしまった景色に胸が締め付けられる思いがした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 2088年 3月24日 14時12分

 

 

 長い飛行を終え、やっとのことでファントム改め、アルスたちは[螺旋の樹]の根元に到着した。

 アルスにとっては何度も来た記憶があるとはいえ、アルス自身としては初めて来た場所だ。見上げるとその巨大さを実感する。

 この螺旋の樹の中に聖域は存在するのだ。少しばかりの期待とみんなに会う不安と恐怖が押し寄せてくる。

 

 最後の記憶を辿るとおそらく1年ぶりぐらいだろう。俺自身としては寝て起きた感覚だし月日の感覚は全く感じない。

 けど、1年という月日は長いものだ。願う事はただ一つ、みんながちゃんと生きていること。それだけだ。

 

 

 しばらく大樹の中を進むと光が差し込む出口のようなものが見えた。あれがおそらく聖域への入口。

 アルスは自然と拳に力が入る。しかし、その手を何かが優しく包み込んだ。その手を見るとか弱くて小さな手がアルスの手を握っており、その手はアカネの手だった。

 

「アルス、大丈夫だよっ!」

 

「っ……ああ、ありがとな」

 

 アルスは空いている左手をアカネの頭に乗せ優しく撫でた。

 

「えへへ…」

 

 出口を抜けると光が差し込む。眩しくて手で影を作る。

 だんだんと視界が鮮明になっていき、目の前に聖域が広がった。

 

「うわぁ……す、すごいっ……」

 

 アカネは思わず感嘆の声が漏れる。目の前に広がる聖域、正にそれは楽園と呼ぶに相応しく、花が咲き乱れ、木々が生い茂り、畑には作物が育っている。奥の方には木製の小屋があり、丘の上には巨大な樹が立っている。

 その樹が立っている丘の下の方には居住区と思われる小さな家が建ち並んでいる場所がある。

 

「やっぱ綺麗だな…ここは…」

 

 アルスははしゃいで回るアカネに微笑み、周囲を見回す。1年前と比べて聖域の範囲が広がっているような気がする。いや、居住区ができるほどということは明らかに聖域の範囲は拡大している。

 

「すげぇな…こりゃ人類の希望の象徴になるわな」

 

「さて、アルスハイル君」

 

 その声に落胆しつつ、その声主であるサカキの方を見る。サカキ自身も緊張しているのかその表情は少し強張っているように感じる。というアルスも心臓バクバクであり、周囲に人がいないことが唯一の救いだ。

 

 居住区の隣にある少し大きめの建物、それが元極東支部のゴッドイーター達の拠点だ。

 元極東支部のゴッドイーターは全員クレイドル所属のゴッドイーターとして扱われている。

 クレイドルはその世界的な貢献度からフェンリル体制崩落後も多くの人々からの支持を得ているため、独立支援部隊として今なお健在している。

 きっとこれも彼らの努力の賜物だろう。アルスは複雑な気持ちになった。

 

 施設内に入ると前の極東支部の様な雰囲気がある内装に少し安堵した。入って正面には任務を受注するためのカウンターがあり、そこには懐かしい人物が目を見開いてこちらを見ていた。

 

「えっ…!?も、もしかしてっ…キ、キワムさん!!?」

 

 その声に周囲の視線が一気にこちらに向いた。会話で騒ついていたその空間は二人の男と一人の少女の訪問によって静寂と化した。

 

「あ、あれ!?サカキ博士もっ!?」

 

「や、やあ…みんな…久しぶりだね」

 

 未だに沈黙が続いており、気不味い雰囲気が続いている。

 

 

 

 

 

「か、帰ってきたんだ……帰って来たんですね!!」

 

「『うわぁぁぁぁあ!!!お帰り!!二人共!!」』

 

「えっ!?えぇぇぇええ!?」

 

 一人の叫びに続き全員が歓喜の声を上げる。カウンターにいる人物、ヒバリとフランもその目に涙を浮かべていた。

 こうなってしまうと中々言い出しにくい。しばらく騒ぎは続いた。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「えぇぇぇえ!!キワムさんじゃないんですかっ!?」

 

「えーと…なんかごめん。似てるとは言われるんだけどな」

 

 周囲がだいぶ落ち着いた頃に事情を説明するとまた驚かれた。こんなリアクションするのはここにいる人たちぐらいだろう。

 

「まぁ全部さっき説明したとおりだ。俺はキワムじゃない。俺の名前はファン……アルスハイル。アルスって呼んでくれ」

 

 自分がキワムのクローンであることは言わなかった。とはいえ、ここまで似ているとは思わなかった。目の色ぐらいじゃないだろうか。確かに顔は少し違うが、やはり雰囲気などはキワムに似てしまっているのだろう。

 ややこしいことになってしまったのは後で博士に八つ当たりをすることにした。

 

「アルスハイル君?なんか目つきが怖いよ?」

 

 サカキはビクビクしながら一歩後ずさった。

 

「まぁ、詳しいことは博士に聞いてくれよ。俺はちょっと会いたい人がいるんだ」

 

 そう言うと話を聞いていたヒバリとフランが顔を見合わせる。

 

「もしかして、カノンさんですか…?」

 

「よくわかったな」

 

「えぇ…でも、カノンさんには会わない方がいいかもしれません。なにせあなたは…」

 

「キワムに似てるからか?」

 

「っ……」

 

 理由はわかる。キワムがいなくなった現在、カノンも辛い思いをしているだろう。

 

「今すぐとは言わないさ、カノンが会ってくれるって言ってくれたらでいい。事前に俺のことを伝えておいてくれ」

 

「は、はい……わかりました」

 

『頼んだぜ、ヒバリ』

 

「っ…!」

 

 一瞬、彼とキワムが重なって見えた。ヒバリは目を見開き口を震わせる。もしかしたらまだ受け止めきれていないのかもしれない。

 彼はあまりにも彼に似ている。それが酷く辛かった。

 

「じゃあ、ちょっと行きたいとこあるから博士、後頼んだ」

 

「えっ?ちょっとアルスハイル君!?」

 

 アルスは立ち止まりサカキの方に振り返る。

 

「…アルスハイル君ってなんか変だからさ、アルス君にしてくれよ…」

 

 アルスは苦笑しつつ玄関の出入り口の方に手をひらひらとさせながら歩いて行った。

 その姿すら彼に似ており、消えかけていた希望がみんなの中に芽生え始めていた。

 

 

「ここか………」

 

 周囲とは先程と打って変わって静寂に包まれており、微かに吹いている風に吹かれる木々の音だけが聞こえる。

 大樹の根元に丁寧に作られた石碑が一つだけ寂しそうに置かれている。アルスはその石碑に近付き、それに刻まれている名前を見る。

 

「っ……」

 

 記憶が間違えていれば良いと思った。だが、それは目の前にある一人の英雄の墓によって潰える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極東の英雄 神羅キワム ここに眠る————

 

 

 

 

 

 

 

 

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