この2話はこの物語内での極東の現状を大まかに説明する感じです。もちろんゴッドイーター3のストーリー内にアルスは出ます。
あくまでオリジナル設定ですので、原作とは違う設定、内容かもしれませんが読んでいただけたら嬉しいです。
眠りから覚める瞬間は水面から顔を出すような感覚だ。
フランが用意してくれた寝室のベッドからのそのそと起き上がりドアを開ける。この部屋は3階にあり、下へは階段で降りることになる。
まだ眠気が残っているためふらふらとした足取りで階段を降りる。一階のラウンジまで降りると既にヒバリがカウンターでモニターのチェックをしていた。
相変わらずの真面目さにアルスは感心した。ヒバリは階段を降りて来たアルスに気がつくと滑舌の良い透き通った声で挨拶をした。
「あ、おはようございます。アルスさん。随分と朝早いんですね」
「…まぁな。てか、そりゃヒバリも一緒だろ」
ヒバリはそうですねとはにかんで笑う。
「これ、よかったらどうぞ」
そう言ってコーヒーを出す心遣いに頭が上がらない。彼女は昔から気がきく。彼女のサポートに救われた神機使いは少なくはない。
「ふぅ…目が覚めるよ」
コーヒーを飲んで目が覚めて来た。時計を見るとまだ6時30分を過ぎたくらいであり、みんなが起きてくるまでまだ時間があった。そのため周囲は昨日とは打って変わって静寂に包まれており、少し冷んやりとしたラウンジはどこか趣があった。
「…私、こういう時間嫌いじゃないですよ。束の間の静寂に包まれた時間でコーヒーを飲む。そうやっていると心が落ち着ちつくんです」
ヒバリも自分の分のコーヒーを入れて飲んでいる。
窓の外はまだ日が昇っておらず少し薄暗い。だが、僅かな日の光が見え、もうじきかわたれ時が訪れようとしているのが分かる。そのどこか幻想的な光景に心が安らぐ。同時にどこか寂しいような、悲しいような、懐かしいような空虚な気持ちになる。でも、決してそれは不快ではなく、この感覚は忘れてはならないものだと感じる。
「………俺も、こういう時間好きだな。どこか懐かしいような感じがする」
やがて窓から光が差し込みラウンジ内は神々しく、幻想的な光景に変わっていく。その光景を見届けて二人はひとときの安らぎの時間を過ごした。
いつか、当たり前のように朝日が見られるような時代が来ると信じて————————————
「おはよっアルス!」
「おはようアカネ。寝れたか?」
「うんっ、いっぱい寝れたよ」
アカネが降りて来て挨拶を交わす。アカネ自身は寝癖を直しきたつもりだろうが、後ろ髪がぴょんとはねているのが可愛い。
アカネに続いて降りて来たのは緑色の綺麗な髪を肩まで伸ばし、背中にフェンリルマークがあるクレイドルの白い制服にミニスカート、赤いニーハイを着用した女性が降りてきた。
随分とたくましくなったその表情は長年のキャリアがその風格を醸し出している。
「おはようございます!ヒバリさん」
「おはようございます。エリナさん」
エリナはカウンターに座っているアルスに気がつくと一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。
「貴方が昨日来たっていうアルスさんね?私はエリナ。エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。よろしくね」
「ああ、よろしく、エリナ」
このやり取りをするたびに心が痛くなる。今まで積み上げてきたものがすべて無かったことになり、極東で会うすべての人が赤の他人という立場からやり直さなければならない。それが酷く辛かった。
「あれ?どうしたの?暗い顔してるけど…」
「っ…あぁ、いや、なんでもない」
「そう……なら、いいんだけど」
エリナは少し気になってはいるようだが、アルスが大丈夫と言い張るため、諦めたのかアルスの隣に座った。
「なぁ、エリナ。他の極東の人は?」
「え?……んーとね、今は引退した人がほとんどかな…リンドウさんは指揮をとることが多いかなぁ。偶に戦場に出ることもあるよ」
(リンドウさんまだ前線に立ってるんだな…)
彼は非常に高い適合率を誇る人だ。年齢に関係なく身体能力の高さは維持されているのだろう。
古株の神機使いは若い人に託して引退する時期だ。30歳まで神機使いとして前線に立っているのはここぐらいだ。大抵の人はそれまでに引退か、もしくは
常に死と隣り合わせの戦場ではいつ誰が死ぬかわからない。それはもう身をもって体験している。
「そっか……みんな頑張ってるんだな…」
「あれ?もしかしてみんなと知り合い?」
「ん?あ、えーと…あれだ。みんな有名だからさ、それで頑張ってるんだなって思っただけさ」
「まぁそうだよね。一度会ってみたらオーラが凄いよみんな…」
本当はずっと一緒に戦ってきた戦友だった。だが、それはアルスではなくキワムが体験したことだ。アルス自身にとっては他人でしかなく、彼らにとってもアルスはまだ顔もしらない赤の他人だ。
それが酷く辛かった。わかってはいるもののあの楽しかった時間が、記憶のせいで今は苦しい。
「……ちょっと外行ってくる」
「え?あ、うん。9時からサカキ博士がここでみんなを集めて話するらしいから、それまでには戻って来てね」
「わかった」
アルスはその場から逃げるようにラウンジから出て行った。その後ろ姿をエリナはただ見ていた。
(やっぱ……キワムさんに似てるな……)
7時35分 聖域
アルスは再びキワムの墓の前に来ていた。こうしているとまるで自分が幽霊になっているような感覚だ。他人であり、自分であるこの墓に違和感と疎外感を感じた。
まだ集合時間まで時間があるため大樹の根元で仰向けになり、手を頭の後ろで組んで目を閉じた。
微かに草木が風に揺られ涼しい音色が聞こえる。この時間はずっと好きだ。こうしてのんびりしていると苦労も不安も忘れることができる。背負ってきたものを少しだけ下ろしてひと休憩できるこの時間を少しでも長く過ごしたいものだ。
「ん?あれ?誰?あんた。ここ、俺の特等席なんだけど」
意識が遠のき始めたアルスに足音と共に声が聞こえてきた。まだ若く声変わりし始めたぐらいの少し安定していない声、しかしその声は男の子であると判断できた。片目だけ開けてその少年の姿を捉える。
「……!」
アルスとその少年は時が止まったかのように感じた。両目を見開きその少年をとてつもない目力で見つめた。
その視線に少年は少したじろぎ引いた顔で一歩下がった。
「……お前、名前は?」
「え…?あ、俺は、シン。神羅シン…」
「神羅、シン……」
アルスの心臓の鼓動がどんどん早くなる。
今目の前にいる少年、シンは神羅キワム、神羅カノンの息子、神羅シンなのだ。
そして感覚的には我が子に偶然出会ったアルスは動揺を隠せない。その頬には冷や汗が流れ、目が揺らぐ。
実の息子、しかし、その息子はアルスのことを知らない。互いの関係はたった今出会っただけに過ぎない。
胸が張り裂けそうになり、同時に痛みがアルスの精神を容赦なくすり減らせる。
「えっと…大丈夫…ですか?」
先程までの態度とは変わって敬語を使うシンにもはや手を伸ばしても届かない距離感を感じた。誰も知らない。忘れたわけでもない。どうしようもない現実がアルスを叩きのめす。
「……あ、ああ。だ、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけだ。シン、君…だったな?君の特等席取って悪かったな…俺は今から用事あるからもう行くよ…」
「え、あ、はい」
アルスはフラフラと立ち上がると重い足取りで去って行った。
(…一瞬……父さんかと思った……)
シンは今は亡き父親の面影がある男が去って行った方向をじっと見ていた。
「……名前、聞きそびれちゃったな」
「あれ?もう帰って来たんだ?」
施設に戻るとエリナが端末を操作しながらこちらに手を振ってきた。ぎこちなく彼女に手を振り返すとはにかむように笑いながら隣の席に勧めてきた。
「どうしたの?なんか元気ないよ?」
「いや、なんでもない。キワムの墓に寄って来ただけさ」
「……そっか」
エリナは再び端末へと視線を移し、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。
「……それって…」
アルスはエリナの端末に写っている記事を見て表情が引き締まる。
「…うん、灰域。あれから灰域の範囲は広がる一方…なんとか打開策を見つけないと…」
灰域は言わば天災だ。人類がいくら足掻こうとも自然の猛威の前では為す術がない。それは昔からずっとそうだった。
「あっ!そういえばキワムさんの神機を受け継いだのってアルスだったんだよね」
エリナは思い出したようにアルスの方に向き直った。
「お、おう」
「アルスってばキワムさんになんとなく似てるからあの赤い神機を持って戦ったらきっと様になるだろうね」
それは皮肉ではなく純粋な興味だろう。あの神機はキワムの魂が宿っているかのように戦闘時は生き生きしている。なによりバースト時の戦闘能力の向上はサカキも驚きの反応をしていた。
「おっと…話してたらそろそろ9時だな」
施設内に人が集まり出しエリナとアルスは会話を中断する。階段からサカキが降りて来て少しのざわつきと皆の視線がサカキに集まる。
サカキは少し戸惑うように頭をかきながらエリナとアルスが座っているカウンターの側に立ち、自身の時計を見て予定の時刻になっていることを確認すると一息ついて話し出した。
「さて、みんな集まってくれてありがとう。今回集まってもらったのは極東の現状の確認と、ここにいるアルス君のことをみんなに紹介しようと思ったわけさ。それじゃ、アルス君、一言頼むよ」
「おい、そういうのは事前に言えよ……!」
いきなりの指名にたじろぎながら、視線が自分に集まったのを感じ、ため息を吐いて自己紹介を始めた。
「アルスハイル。一応ミナト『コカブ』に所属しているゴッドイーターです。けど、俺はAGEじゃなくてみんなと同じ正規のゴッドイーター。サカキ博士の補佐と灰域の調査、並び灰域のアラガミの討伐を主にやっています。俺の体は特殊で灰域内でも長時間活動できる体質をもっています。少しでも皆さんの助力になれればと思っています。少しの間ですがよろしくお願いします」
そう言って周りを見渡すとシンと目が合った。そしてその横にいる人物を見てアルスは目を見開いた。
緑を基調としたワンピースにピンク色のポニーテールをした髪。緑色の瞳に優しさに満ちた顔。
「あ…」
目が合ったカノンは少し動揺しながらもアルスから視線をそらすことなく真っ直ぐ見つめた。
周囲の人たちも察したのか緊迫した空気が流れる。
「あの…えっと…アルスさん、ですね。私、神羅カノンっていいます。ゴッドイーターはもう引退した身ですけど、何かできることがあれば言ってくださいね」
「あ、ああ。よ、よろしくお願い、します……」
カノンは微笑んでアルスに自己紹介した。それと共に緊迫した空気も和み各々アルスに挨拶をし始めた。何故そんな空気になったのか、理由はわかっている。アルスがキワムに似ているからだ。アルスを見てカノンが心を痛めるのではないかと皆そう思っていた。
しかし、カノンはいつも通りのカノンだった。それがアルスにとっては酷く傷ついた。だが、分かっていたことだ。キワムの代わりになろうとなど微塵も思っていない。ただ、記憶があるだけでアルスは皆と初めて出会ったのだ。
何も知らない、なんの関係も持っていない。アルスは皆に気付かれないように必死に隠した。感情が表に出ないように。
サカキはそんなアルスの様子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。残酷なことをさせてしまったと後悔もある。だが、彼はこの道を避けては通れない。いずれはこうして皆と会わなければならなかったはずだ。
サカキはアルスと視線を合わすことができず、話を進めた。
「…さて、それじゃあ挨拶も終わったことだし、話を進めようか。まず私が一時極東から離れたのは灰域について調べるためだった。皆には何も言わず行ってしまったことはすまないと思ってる。だけど、この件は一刻も早く調査する必要があった。そしてフェンリル崩壊の今、世界がどうなっているのか把握しなければならなかった」
「サカキ博士のことだからそんなことだろうとは思ってたけどね」
エリナはため息を交じりにジト目でサカキを睨んだ。
アルスは周囲を見回しある人たちを探した。その人物は第一部隊だ。
(ソーマたちはいないのか…?)
第一部隊の面子はエリナだけでありエミールさえもいない。エリナの様子からして無事ではあるのだろうが少し心配だ。
「ん?アルス、どうしたの?また考え事ー?」
エリナがアルスの頬を突いて我に返させる。突かれた頬をさすりながらなんでもないと答えるとムゥと頬を膨らませた。
「何かあるなら相談してもいいんだよ?一人で抱え込むよりみんなで共有した方が心が軽くなることだってあるんだから」
随分と成長したものだとかつての後輩の姿にアルスは素直に嬉しく思った。攻撃重視で防御を疎かにして立ち回りも安定していなかったあの頃とは別人のようだ。
「んー、まぁなんだ、あれだ、前の第一……」
その時ドアの開く音と共に懐かしい声が施設内に響き渡った。
「ただいまぁー!ごはーんごはーん!」
「シオちゃん!ダメですよっ!今会議の最中ですよ!」
「……!」
勢いよく入って来た頭から足まで全身雪のように真っ白な肌にぶかぶかのオレンジ色のパーカーに、パーカでほとんど隠れている青の短パンを履いた少女と赤の帽子に黒を基調とした位が高そうな高貴な軍服を着用した女性がその少女を止めようと服装に似合わない慌てようで流れ込むように入って来た。
「シオちゃん!おかえり!」
一番早く反応したのはエリナだった。そういえばエリナはシオのことが大好きでいつもシオの相手をしていてくれていた。
「おー!はかせー!ひさしぶりだなっ!」
「あれ?」
エリナをスルーしそのままサカキの元へ駆け寄る。エリナはサカキを呪い殺すかのように睨みつけ今にもサカキを帰らぬ人にしてしまいそうだ。
「サカキ博士!お久しぶりです。全く急にいなくなるんですから心配したんですよ!」
「す、すまない」
アリサの説教が始まり会議だと先程注意していた人物が会議を進行できない状況にしてしまっていることに皆は苦笑いする。
エリナはサカキが怒られていることでスッキリしたのかニヤニヤとサカキを見て笑っている。
「あれー?おっかしいなー」
シオは先程からじっとアルスを見つめて疑問を浮かべている。
「シオちゃんどうしたの?」
エリナがシオの肩を揉みながら反応する。
「きみ、キワムとおんなじアラガミもってるよ?どーして?」
「……え?」
カノンはその言葉に耳を疑った。皆も同じく視線がアルスに集まる。サカキとアルスは互いにチラチラと互いを見合いこの状況に焦燥感で冷や汗が出る。
正直に言っていいのだろうか。それが正しいのだろうか。誰も傷つけずに済むだろうか。頭の中でそれが入り混じり葛藤し、何を言えばいいのかもわからずただ沈黙の時間が過ぎていく。
「……神機、じゃないかな?」
沈黙を破ったのはカノンの息子のシンだった。
「え…?神機……?」
カノンはシンの言葉の意味を理解できずポカンとしている。
「そーだよ、母さん。この人…アルスさんは父さんの神機を受け継いだ人なんだ。だから、たぶんだけど父さんと同じオラクル細胞がアルスさんの中にあるんだと思う」
「そう、なの?」
カノンは動揺を隠せない表情でアルスを見る。
シンの分析にアルスとサカキは驚きと疑念の表情で彼を見る。確かにシンはキワムの実の息子、ゴッドイーターチルドレンだ。何かしら感じ取るものがあったのかもしれない。
アルスは黙って頷きカノンに肯定の意味を示した。
「…そう、俺はキワムの神機を使っている。もっともキワムの神機を保管してたのはサカキ博士なんだけどな。けど、形式的には俺がキワムの神機を受け継いだ。いろいろ思うことはあると思う」
アルスは拳を強く握りしめて一つ間をとる。
「でも、俺はこの神機を手にした時から決めたことがある。キワムがこの神機で守ってきたもの全部今度は俺が守ってやるってな。手の届くものは救う。みんなで生きて帰る、それがあいつの鉄則だ」
皆はアルスの覚悟に言葉が出なかった。アルスの目は本気でその眼差しはかつての英雄が重なって見えた。
同時に何故彼がキワムのことについて詳しいのか疑問に思った。彼とキワムの接点はどこにあるのだろうかと。
「……生きることから逃げるな。どんな困難な状況だって必ず突破口がある。最後の最後まで俺は戦い続けるさ」
「「……!」」
アルスの言動はもはや彼と同じと言ってもいいぐらいだった。
一体アルスが何者であるのか、それを知る機会はあるのか。サカキとアルスの関係はどのようなものなのか。
ほとんどが謎に包まれた彼の正体を知る者は神でもわからないのかもしれない。
————約一週間聖域に滞在したアルスとサカキは再びミナト『コカブ』に帰って行った。皆は結局彼について多くのことは聞けなかった。
「……私は、強くなれたかな…?」
皆はとっくに寝ている深夜。一人月を眺めていた。
「…ふふっ、気付くの遅くなっちゃいました。ごめんなさい。でも、ちゃんと約束守ってくれて嬉しかった。だから、私も約束しっかり守りますよ。シンを守る。それが私の役目ですから」
カノンはポケットからほころびが目立つオレンジ色のリストバンドを取り出し腕に着けた。そしてリストバンドと月が被るように腕を掲げると小さく笑った。
「…二人もいたら私も困っちゃいますよ。でも、どちらも私は好きです。だって二人で一人。キワムはキワムですもんね」
物語は始まる。神と人の競争は終わることなく、運命の歯車は回り続ける。
ゴッドイーター3の動画を見てストーリーの確認等をしていたら更新がかなり遅くなりました汗
次の話からゴッドイーター3の内容になります。