ちょっと割り込んでいきたいところですね。
「よーし!任務完了っと」
任務を終えた俺たちはコアを回収した後、周囲の資源になりそうな物資の回収を行う。アラガミと戦っていくためには神機の強化は必須になってくる。様々なアラガミのコア、素材を取り入れることでより洗練された神機に仕上がる。アラガミに攻撃が入り易くなったり、銃の与えるダメージの上昇、装甲の強度など、戦いを少しでも有利にするために手は抜けない。
今まではあの牢屋のような部屋にあるボロいターミナルだったため神機の整備も雑であったため、クリサンセマムに来た時の神機はボロボロでエイミーに怒られてしまった。
キャラバンのロビーに戻るとエイミーが可愛らしい笑顔でおかえりなさいと声をかけてくれた。やはりここはあの場所と比べれば楽園だ。いや、比べなくてもここは十分平和だ。
この船には何かドデカイ積荷を乗せているそうだがその詳細については一切の説明をされていない。グレイプニルからの依頼らしい。ということはこの船にはグレイプニルの関係者が乗っている可能性があるということだ。
「ユウゴ、ちょっといい?」
「もしかしたらだが、お前も一緒のこと考えていたんじゃないか?」
「え?」
どうやら俺とユウゴは同じことを考えていたようだ。
ジークとジークの弟のキースにはとある頼み事をしているため二人でラボラトリ区間に来た。この区間の奥まで来ると一人の女性が銃を持って待機していた。灰域が広まる前までは普通の銃などアラガミに対して無力だったため使われることなどなかったが、今では銃を所有することは普通になっていた。
何故そうなったか。理由は簡単だ。人を操るには抑止力が必要になるからだ。普通の人間とゴッドイーターが素で戦えば100パーセントゴッドイーターが勝つ。だから銃を所有するようになったのだ。
その女性も銃を持っているが、その右腕には赤い腕輪、
金髪の短めの髪に豊富な胸がつい目に入ってしまう服に、ミニスカート、黒のニーハイ、ウサギの尻尾のような白い綿がついている靴を履いているところは年相応らしさが出ている。何より一番印象強いのは背中に背負ったランドセルだ。
しかし、どっかで見たような気がするな…
「やっぱお偉いさんとこのゴッドイーターってのは服装も俺らみたいなのとは違うな」
「……何か用ですか?」
記憶の奥底にある引き出しを探っていたらユウゴが先に彼女のもとに行ってしまっていた。
「いや、キャラバンに一人はグレイプニルの人間がいるもんなのかなって思ってよ」
「今は任務中です。私は任務を遂行しているだけです」
「はは、お堅いって」
「…っ!私はただ与えられた役目を果たしているだけです。任務で一緒になった際はよろしくお願いします」
ユウゴが彼女に思うところがあるわけではない。ただ、同じゴッドイーターでも正規だとかそんな身分の差があることに不快に思ったのだ。らしくもなく彼女に当たってしまったことを心の中で反省した。
「…あんた、名前は?」
「グレイプニル機械科大隊特別輸送管理連隊所属クレア・ヴィクトリアスです……あっ!」
「ん?どうした?」
自己紹介を終えた途端に驚きの表情を浮かべるクレアの視線の先にはリヒトがこちらの話に割り込まないまま棒立ちしていた。そのリヒトもクレアと目が合い唖然とした顔をしている。
「クレア…クレアってもしかして…!?」
「あなたは……あの時の…?」
「なんだ?二人とも知り合いなのか?」
二人の関係性がよくわからないユウゴはとりあえず端に避けて二人の様子を見ることにした。
「あの…あなたの名前を聞いてもいいですか…?」
「…リヒト・ペニーウォート……そうか、やっぱそうか!久しぶりだな!クレア!」
「…っ!やっぱり!リヒトなんだ!久しぶりだね!」
「意外な接点だな…」
それにクレアの口調も砕けた感じだしであれが本来の彼女の姿と言ったところか。しかし、どこで知り合ったんだ…?
クレアとリヒトはすぐに打ち解けた、というよりも前から知っていた様子で俺はいつのまにか蚊帳の外になっていた。
でも、いつもはあまり喋らない方のリヒトが彼女とは気が合うのかいつもより明るい雰囲気で話している。
「ああ、そうだ。こっちにいるのが…」
「自己紹介ならさっき済ませた。話を戻すがクレアの任務ってのはこの先にある荷物の護衛か?」
「これより先はグレイプニルの管轄エリアです。立ち入りは認めません」
「ってことはその荷物はグレイプニルに関係あるものってわけか」
「あっ…!」
機密情報と言っていたが簡単に重要なことをカミングアウトしてしまったことにやってしまったという顔をしている。
「相変わらずだなぁクレアは」
「もうっ!茶化さないでよ!私もこの荷物については何も知らないから聞いても意味ないからね」
「お前ら仲良いな…いつ知り合ったんだ?」
クレアはリヒトと目が合うと少し頬を赤らめそれを誤魔化すように説明を始めた。
「えっと…もう随分前で、私が子供の頃にね」
「あの時はいろいろあったな」
詳しい話はしてくれなかったが、二人は偶然出会いその時にクレアがリヒトのお世話になったことがあるようだ。
しかし、子供の頃かあ。その時は俺たちもまだ子供でAGEになってそれほど経ってない時だ。AGEである以上安易に出歩くことなんてできるはずがない。となると任務中の出来事か…
「あ、そういえばそんなことがあったような」
「え?」
「いや、なんでもない」
これはあまり深入りすることじゃないだろう。変に刺激して二人の仲を悪くさせるわけにもいかないしな。
「よし、それじゃ俺たちは一旦ロビーに戻るか。クレアとはこれから仲良くやっていけそうだし任務の時は頼むぜ」
「はい、ではまた」
そう言ってロビーに戻ろうとした時リヒトはクレアが護衛している倉庫から強力な感応波を感じ取った。
(これは…感応現象!?)
感応波とリンクすると倉庫の奥が透視でき、奥へと進んでいく。そして一番奥の少し広めのスペースに少女らしき人影が見えた。
(これは——)
「おい、大丈夫か?」
「え?」
ユウゴに肩を叩かれたことで意識が戻り感応現象が途絶えてしまった。
おぃぃぃい!何やってくれてんの!あともう少しだったのに!あれ?これ何も知らない人から見ると透視してあと少しってなんか犯罪級の覗き見しているみたいだな。いや、そんなことどうでもいいわ!
自分にツッコミをして我に返る。
「やややや!大丈夫!」
「ほんとに大丈夫か……」
ここに来てからリヒトのキャラ崩壊に少し戸惑いながらも前よりよく話すためそれはそれでいいとユウゴは思った。
この後の予定は一つ任務が入っているため、ユウゴ、ジーク、リヒト、クレアの四人で行くことになっている。
[ロビー ミッションカウンター]
「任務ですね!今回の任務はグレイプニル所属のクレアさんが同行することになっています。ユウゴさんとリヒトさんはすでにお話されているんですよね?」
「ああ、さっきな」
「また俺だけハブられたのかよ……!」
「もうジークはそういうキャラになりつつあるんだよ。諦めな」
「待てぇぇ!ハブられキャラとか何得!?ひたすら俺の心が甚大なダメージ受けるだけじゃん!」
「だってイケメンキャラとかお前にとっては豚に真珠だろ?」
「とんでもねぇ言い様だなおい……!」
「すみません!遅れま…わっ!」
そこに走ってきたクレアが足をつまずいてリヒトにぶつかり、体勢を崩したリヒトの裏拳がジークの顔面に炸裂した。
「ぶひぃぃい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まあ、そう怒るなジーク」
「いや、キレるっしょ!あの状況!」
外に出た後もジークは散々いじられたことでご機嫌斜めになっていた。だが、ジーク以外はいじられキャラ=愛されキャラと解釈しているためジークの嘆きが彼らに届くことはなかった。
『クレアさん、体調に異変などはありませんか?』
「ええ、灰域濃度も許容範囲です。問題ありません」
AGEではなくても灰域内で活動できるには理由がある。それは…
『対灰域用に調整された偏食因子を投与しているといっても、無理なさらないでくださいね』
「お気遣いありがとうございます」
そう、AGEじゃないゴッドイーターは灰域用に調整された偏食因子を投与することによってAGE程には到底及ばないが、ある程度の灰域濃度であれば活動することができる。だがもちろん長時間の滞在は危険だ。できる限り迅速な任務の遂行が必然となる。
「……」
リヒトは一つ気になることがあった。それはクレアが自身以外の人と接する時、どこか壁を作っているように思うのだ。実際、リヒトと話す時のそれ以外の人と話す時では態度が全く違う。
『クレアさんは、後方支援やファーストエイドに優れています。皆さん上手く連携してアラガミを倒してくださいね!」
「おお、今までの無線とは違うこの新鮮フレッシュな感じ…!何度聞いてもめちゃくちゃやる気出てくるぜ!」
リヒトとジークは優しい声が耳元で聞こえることに感激し戦意は果てしなく高くなっていた。
今日はクレアがチームに加わり四人で任務を遂行する。グレイプニルのゴッドイーターがどれほどのものかお手並み拝見だ。
「でも、クレアがゴッドイーターになるなんて思わなかったな」
「私もいろいろあったから」
「そっか…」
こんなご時世だ。苦労せずに生きることなどできるはずがない。聞いてみるなんてそんな度胸は俺にはない。
「おーい、何二人で話したんだ?そろそろ目標地点だ。気ぃ引き締めろよ」
「先程エイミーさんが説明してくださった通り、私は後方支援を得意としています。皆さん、よろしくお願いします」
「よし、勝って皆で生きて帰るぞ」
その言葉は過去にフラグを立てる原因となる危険な言葉であるが、皆それを知るよしもなくその言葉を放った本人、リヒトは神機を構える。
『目標アラガミ、近いです!アラガミとの距離、65メートル!来ます!』
「あいつか」
ユウゴが遠目に見えるこちらに迫ってくるアラガミを捉え呟く。その言葉を聞き全員戦闘態勢に入る。戦場は常に死と隣り合わせだ。一瞬の油断が死を招く。
討伐対象アラガミはボルグ・カムランだ。両腕に強靭な盾を持ち、尾の先端の鋭い針はもろにくらえば致命傷は避けられない。
攻略法はまずあの盾を粉砕することだ。それでボルグ・カムランの防御力はほぼ無くなる。その後尾の針を折る。後は袋叩きにするだけだ。
「ギャオォオ!」
ボルグ・カムランが甲高い雄叫びを上げると盾を前に己を防御しつつ突進してくる。やつがよく初手にとる行動だ。ここは左右に飛び避けるだけで十分だ。
右にリヒトとクレア、左にユウゴとジークが飛び、それと同時に皆神機を
「ギギギ……」
「よし!」
ボルグ・カムランの盾は集中砲火によりヒビが入っている。それを確認したユウゴがジークに合図を送る。
「今だジーク!叩き込め!」
「任せとけって!」
それを聞いたジークがハンマーのブーストを点火、勢いに任せた強烈な一撃をこちらに向き直ったボルグ・カムランの盾に叩き込む。
バキィイ!!
『ギャァァァア!!?」
盾を粉砕されたボルグ・カムランは悲鳴を上げのたうち回る。その好機にユウゴ、リヒト、ジークが突っ込む。
「ギィイイ!!」
「なっ!?」
ボルグ・カムランは尾を振り回し反撃してきた。飛び込んだと同時の反撃で三人はガードが間に合わない。尾の一撃をくらう————前にクレアが尾にバレットを打ち込み軌道をそらしたことで三人にダメージなく、且つ、ボルグ・カムランへの追撃に成功する。
「ナイス!クレア!」
「…うん!」
リヒトが一瞬こちらを見て私を賞賛した。心臓が高まり少し反応が遅れたけど返事をなんとか返せた。
……今は戦闘中、集中しないと…!
三人の追撃に為す術なくボルグ・カムランは断末魔と血飛沫を上げ絶命する。
サムズアップを向ける三人にクレアは頷くことで返答した。
『迅速な対応、流石です!周囲の物資を回収しつつ帰投してください。帰るまでが任務ですからね』
そうして四人が帰投しようとしたその時だった。
『…っ!待ってください!近くにアラガミ反応!警戒してください!』
「ちっ!さっさと終わらせるぞ!エイミー!座標は!?」
『B地点です!キャラバンの航路の妨害になる可能性があります。排除してください!』
「残業代頼むぜ!」
ユウゴの報酬の話に無線越しにエイミーが苦笑いをする光景が浮かび上がる。
四人は至急B地点に向かう。灰域に長時間の滞在は危険だ。一刻も早くアラガミを倒す必要がある。
「リヒト、ジーク!
「あれ…?」
「俺たちAGEが生み出した絆の力ってとこかな。互いの感応波をリンクさせて一時的に身体能力の向上、
「俺とジークの感応能力よりもリヒトのケタ違いの感応能力のお陰で実現できた技だ。俺たちはこれを『エンゲージ』って呼んでる」
「リヒトと一心同体になるって感じだな」
「い、一心同体……リヒトと…!?」
ジークの発言にクレアは誰にも聞こえない声で答えた。その顔は少し赤くなり、それを見られないように俯いた。
そんなクレアの気も知らずアラガミは現れた。
『通知します!ヴァジュラが二体です!…いけますか!?』
エイミーの声から緊張が伝わる。大型種二体を同時に相手にすることは極めて危険だ。さらに灰域の影響によりアラガミが強くなっていることも事実だ。
「大丈夫だ。とっておきがあるからな」
ユウゴの声にも不安や焦り、緊張の色は一切感じない。むしろこの状況を待っていたかのような自信に溢れた声だ。
『えっ!?これは!周囲に強力な感応波を確認!その発生源は…リヒトさん!?』
「前にも言ったろ?リヒトの感応能力は昔からケタが違うって。俺たちの絆の力、[エンゲージ]を見せてやる」
『エンゲージ?……っ!この反応…!リヒトさんとユウゴさんの感応波が同調!リンクします!』
一瞬の輝きを放って二人のオラクルが活性化する。
「「エンゲージ!!」」
リヒトとユウゴが同時に叫ぶ。それと同時にリヒトとユウゴの体の周りに黄色に輝く輪が現れ神機が活性化している。それは神を喰らう者に相応しい、神々しさを感じさせた。
そこからは誰一人として二人の戦闘に手出しする必要もないほど圧倒的だった。
一体目のヴァジュラは二人の入れ替わりながらの攻撃に反撃もできずひたすらに攻撃を受けノックダウン。それを確認したリヒトがもう一体のヴァジュラの方は駆ける。
ユウゴはノックダウンしているヴァジュラの頭の上で神機を振り上げ全力で振り下ろす。血が飛散し、返り血を浴びつつ目の前のアラガミの絶命を確認した後リヒトの援護に向かう。
「しっ!」
リヒトが神機で薙ぎ払う。その速さは
「グォォア!」
当然ヴァジュラは避けられるはずもなく胴体を裂かれポンプが爆発したかのように血が溢れ出す。
が、ヴァジュラは最後の力を振り絞り一矢報いてやると立ち上がり雄叫びを上げる。周囲に電撃を発生させ容易に近づけさせないようにすると、ヴァジュラはさらにその電撃を増幅させる。
「そんなもん当たらなきゃいいんだよ!」
リヒトは神機を
「内臓破裂弾!」
飛び上がり電撃球に妨害されない角度からバレットを撃つ。
「ギャォォオオ!!?」
バレットは見事命中しさらに傷を抉る。そしてそれは同時にリヒトたちの勝利を意味する。
胴体に撃ち込まれたバレットが時間差で爆発しそこなら何発ものバレットが放たれ追撃をする。それはヴァジュラの体内で発生し、ヴァジュラは目から、口から、あらゆる所から血をぶちまけ肉片に変わった。
「やっぱこのバレットグロいな」
自作のバレットを賞賛し、二体のヴァジュラからコアを抜き取る。
『目標アラガミ沈黙……すごい……』
その圧倒的な戦いにエイミーも感嘆の声が漏れる。
エンゲージによる短時間ではあるが飛躍的な戦闘力の向上は誰もが驚くほどのものだった。
クレアは二人の強さを目の前に自分が小さく思えた。AGEという戦うために無理矢理ゴッドイーターにされた人たち。何かの決意が、意志があったわけでもない。それでも生き残るためには戦う以外方法が無かった彼らだ。
劣等感がクレアの胸に響いた。