神と人と愉快な仲間達   作:パルモン

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灰域が世界に広がっていったばかりの時期の話になります。


【神羅シン】での話の中でリンドウが半身アラガミ化しているとありましたが、この物語ではリンドウはアラガミ化していないルートですので、修正しています。


【追憶のエピソード】その1

 これが今生きている最後の回線……

 

『ソーマ』

 

 あいつは自分を責めるだろう。そういうやつだ。だが、お前は決して一人じゃない。

 

『極東は俺達が守る。なぁに、心配すんな。こっちには極東の英雄がいるんだ。これぐらいのことで死んだりしないさ』

 

「…………あぁ」

 

 奴の声は、細く、小さな声だった。

 

『だからよ、お前はお前の路を行け。こっちはなんとかする。この件が解決したらまた一杯やろう』

 

 ザザ……ザ……

 

 回線が切れそうになってる。

 

『……えるか…………聞こえるか! ソーマ!!』

 

「……!!」

 

 その声は先程までのリンドウではない。あいつの声だ。

 

『……もう……こ……回線……は……もうすぐ……切れる! ……博士! ……た……のむ! ……』

 

 ザザザー……ピッピ……ザザ! 

 

『ソーマ! 聞こえるか!』

 

 先程までの激しいノイズが消え、なんとか聞き取れる音に変わった。

 

「キワム……!! ……俺は……」

 

 なんと言えばいいかわからない。ただただ後悔と悔しさに顔面を殴られているような感覚だ。

 

『そんな辛気臭い声出すなよな。らしくないぞ!』

 

「…………そうだな……キワム。必ず灰域の件は俺が解決する。そしてまたお前たちのもとに帰る。絶対だ」

 

『ああ! ソーマならやれる。ソーマが関わっていた件とはいえ、その責任が全て自分だけにあるって気を落とすなよ』

 

「……ありがとう。だが、これは俺がケリをつけねばならん」

 

『もちろん、そこはリンドウさんと同じ意見だ。だから俺からも一つ、ソーマに伝えておくことがある』

 

 おそらく、この会話が終わればきっと途方もなく長い間、奴らとは話すことも会うこともできなくなるだろう。だから、しっかりと聞こう。あいつのメッセージを。

 

『生きることから逃げるな』

 

「…………!!」

 

『ソーマ、俺だ』

 

 またリンドウの声に変わった。

 

『もう回線が切れる。しばらく会えないだろうが、必ず生きて帰って来い。いいな? じゃあな、風邪ひくなよ』

 

 ブツ……ザザ────────

 

 回線が切れた。

 

 俺は、必ず解決してみせる。そして、またあいつらと……

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 2079年 極東支部 ミナト

 

 2079年、灰域の発生により人類は再び窮地に追い込まれていた。人々は地下拠点ミナトを創設し、この状況に抗っていた。

 極東支部で灰域発生当時の戦力は自身の体がアラガミであるキワム、そしてアラガミの少女のシオだけだった。

 

 灰域によってさらに脅威となったアラガミのコアを回収し、それを利用した神機の改良。灰域に適応した偏食因子を人体に取り組むことで二人以外の神機使いも短時間ではあるが戦うことができるようになった。また、これにより他の支部からの救援要請を受けたり、物資の輸送も可能になった。

 

 

「さーて、今日もお仕事しますかー」

 

「おー!」

 

「がんばりましょうね!」

 

「……お前らは相変わらずだな」

 

 キワム、シオ、カノン、リンドウは最近目撃があった新種のアラガミの偵察任務に来ていた。何故この四人であるかというと、比較的他の神機使いよりも、適合率が高いため、灰域内での活動時間が長くとれること。そして、もしも新種のアラガミと交戦せざる得ない場合、生きて帰れる可能性が最も高いのが彼らだったからだ。

 

 カノンはもとより適合率が高いため灰域適応型の偏食因子との適合率も高く、キワム、シオまでとは言えないが比較的長時間の滞在が可能である。

 

「偵察と言っても油断は禁物だな。灰域で現れた新種……どうも嫌な予感がするな」

 

「いいかお前ら。言うことは三つ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、んで運が良ければ隙を突いてぶっ殺せ。あ、これじゃ四つか」

 

「お、そのセリフ久々に聞いた」

 

「もー二人ともさっき言ったセリフ忘れちゃったんですか? 新種のアラガミなんて私がぶっ潰してやる!」

 

「お前のその二重人格も随分と久しぶりだな」

 

 何故かここで荒れだすカノンを落ち着かせた後、四人は目撃情報があった地点付近まで歩いた。

 

 辺りは変わらず侵食された建物、壁、地面が広がっていた。

 

 灰域種……奴らはそう呼ばれている。灰域に現れた新種のアラガミ。一個体の強さはベテランでさえも数人では敵わないと言われるほどの強敵だ。

 おそらく今回発見されたという新種も灰域種と考えていいだろう。カノンが同行している今、なるべく戦闘は避けたい。

 

「おい、止まれ」

 

「っと……」

 

 リンドウの合図で全員が止まり警戒する。

 

「あいつか……ツクヨミに似てるな、大きさはツクヨミの3倍くらいか?」

 

「ツクヨミが灰域に侵食されて特異な進化を遂げた……って感じでしょうか?」

 

「お、今日は冴えるなカノン。俺も同じこと考えてた」

 

 そう言ってポンと頭を撫でると嬉しそうに頬を赤く染めた。

 

「あれ、おいしーかな?」

 

「また新しい味だろうな」

 

 シオの頭を撫でながら、配給されたカメラを取り出しアラガミを撮る。新種のアラガミがどんなものか、それを手っ取り早く分析するにはまずはその形態を見ることだ。どのアラガミの派生なのか、あるいは特異なものなのか。

 

「ツクヨミにある頭上の輪がないな。天使というよりも堕天使ってところだな。ツクヨミの潜在能力は高い。禁忌種に指定されるほどのやつがまた進化って考えるとなるべく相手はしなくねぇもんだ」

 

「あのわっかおいしかったのにぃ」

 

 確かにあれは美味い。なんでも食べるシオのことだから味なんてそれほど気にしてないと思ったけど、案外シオにも好き嫌いはあるそうだ。

 

「あれはあれで美味いんじゃないか?」

 

「2人とも! 今は偵察中ですよ! 観察と警戒を怠らないでください」

 

「「ごめんなさい」」

 

 昔と比べてカノンも随分と頼れる存在になった。天然は相変わらずだが。

 

 そんなことを考えているとアラガミは両手を広げた。すると周囲からエネルギーのようなものを吸収し始めた。少しキュウビと似たものだ。

 

「あれは周囲のオラクル細胞を吸収している? キュウビみたいだな」

 

「きゅうび! うまい!」

 

「ん? なんだか周囲の灰域の濃度が濃くなってきてませんか?」

 

 奴がいる場所を中心に灰域濃度が上昇しているところを見るに、灰域種としてみていいだろう。

 

「よし、お前ら撤退だ。キワムとシオはいいにしても、俺ら二人にはこの環境はちょいとキツイからな」

 

 バレぬように用心しながらその場を立ち去った。帰りの道中で使えそうな物資を拾いながら()極東支部があった場所に戻ってきた。今まで支部に入るためのゲートは地下に移動するためのものに変わっている。

 

「そーま、だいじょうぶかなぁ」

 

 シオがポツリと呟いた。

 

「シオちゃん……」

 

 カノンがシオを抱き寄せ頭を撫でた。

 

 

 

()()()から3ヶ月。今だ灰域はその範囲を広げ世界を呑み込んでいく。特に灰域内で起こる灰嵐は厄介だ。灰嵐に巻き込まれればあらゆる物資、生物が捕食されるように無に還す。まるで、小さな終末補食のように。

 

「俺たちはソーマと約束したんだ」

 

 キワムがシオの頭の上にポンと手を置いた。

 

「生きることから逃げるなって。あいつとの物理的な距離は離れているとしても、俺たちの想いは変わらない。必ず生きて帰ってくるさ。そうでしょ? リンドウさん」

 

「ははっ、キワムの言うとおりだ。あいつはむしろ昔は一人で生きてきたんだ。それがお前らと出会ってあいつの中の何かが変わったんだ。もうあいつは知ってるさ。大切なもんを守るってやつを」

 

 そういってポケットから煙草を取り出す。が、カノンがそれを止めた。

 

「リンドウさん? 私だけならいいのですが……シオちゃんがいますよ? 後にしてくださいませんか?」

 

「おっと、悪い悪い」

 

 ライターと煙草をポッケにしまいポリポリと頭をかいた。

 

 ガタンと音を立てゲートがミナトのエントランスに到着した。つい三ヶ月前の、あの頃のエントランスはもうない。無骨な設備、パイプが剥き出しの天井。色鮮やかなラウンジはなく、黒と灰色の単調な空間が広がる。

 

 だが、贅沢は言わない。この設備もクレイドルや居住区の人達が協力して造ったものだ。当時は迫りくる灰域に追われるように支部内の地下リソースに逃げ込み、内装を改造し、現在に至るのだ。幸い、居住区の衣食を賄っていた施設だけあり、その広さは居住区のそれなりの人数が移り住むにはなんとかなった。ただ、全員ではない。ではここに居ない人達はどうしたか? それは簡単。【聖域】に住んでもらうことになった。あそこは今もブラッドが管理している。

 

 地下の居住区の範囲を広げるための工事を繰り返し、3ヶ月という驚異の速さでミナトを造りあげた。

 また、ご丁寧に、エントランスをあの頃と似た構造にしてくれた。今俺たちが立っている場所はかつての出撃ゲートだ。左右にはデーターベースがある。前方にはあの頃よく、第一部隊のみんなでお喋りをした机とソファーがあり、受付に行くための階段がある。

 まぁ、とにかくエントランスはあの頃の姿を再現してるわけだ。

 

「やっぱり、ここに来ると帰って来たんだなって思えるなぁ」

 

 リンドウはそう言って煙草を吸うために場所を変えると言って立ち去った。いや、おそらくは報告書を俺に押し付けたんだな。悔しいです! 

 

「あ、キワム。私だって報告書くらい済ませれますよ! 任せてください!」

 

「しおも! 任せろ!」

 

 ドンと、いやポヨンと? 胸を叩き自信を見せるカノン。俺の面倒そうな顔を察したのだろうか。シオ、お前はそういうのしたことをないだろ。

 

「いや、三人でやろう」

 

 そう言うとカノンは照れくさそうに微笑んだ。ごめん、これに関してはシンプルにカノン一人に任せるのが少し心配なだけなんだ……

 

「あ! 先輩たち!」

 

 元気な声の方を向くと今ではもうベテラン神機使いのエリナが走って来た。彼女はしばらくの間フェンリル本部に出張に行っており、そこで部隊長をしていたそうだ。たまたま休暇が取れて極東支部に帰ってきたタイミングであの事件が起きた。元気に振る舞っているが、時々本部の部下達のことが心配だと落ち込むことがある。だがエリナが育てた部隊の奴らだ。そんなヤワな連中ではないと思っている。

 

「やぁ親友。久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 

「エリックさん! 久しぶりですね! お陰でいろいろ助かってます」

 

 彼はエリック。俺がソーマと初めて任務に行った時に同行した人で今では親友だ。灰域発生時、彼の人脈と迅速な対応のお陰で人的な被害を最小限に抑えることができ、今ミナトに住んでいる人々から多くの支持を得ている。というか、今の極東のミナトの所有権及びオーナーは何を隠そう、エリックなのだ。

 

「僕はもう、ゴッドイーターを引退した身。戦場では役に立てない。だからこそ僕にできることをしたまでさ。それに妹のエリナがこんなに頑張っているのに、僕だけ隠居生活なんてできないだろ?」

 

「もう! エリック! 今そういう話はいいでしょ!」

 

 少し頬を赤らめながらエリナは腕を組んだ。満更でもなさそうだな。

 

「キワム君、報告書を出したら後で僕の部屋に来てくれるかい?」

 

「……? ああ、わかった……」

 

 エリックは俺の耳元で小さく言った。何かあったのだろうか? 

 

「じゃあみんな、僕は先に失礼するよ。今度一緒に食事でもしよう。エリナも、無理はしないようにね」

 

 そう言ってエリックは立ち去った。

 

「エリナ一緒に行かなくていいのか?」

 

「うん、大丈夫ですよ先輩。エリックと一緒にいるとずっとお世話しようとするから……まあ、気持ちはわかるし、それはそれで妹として嬉しいですけど……」

 

 頬を指でかきながら照れくさそうに言った。仲良いなこの兄妹は。

 

「あっ、そうだった。ユウさんたちがサカキ博士の所に来てくれって言ってましたよ。私も呼ばれたので、これから向かうところです」

 

「そうか、俺はちょっと用事があるから後で行くよ。みんなにもそう伝えてくれ」

 

「うん、了解。じゃあカノンさんとシオちゃん、あ、リンドウさん! 今からサカキ博士の所に行きますよ!」

 

「おーけー。煙草終わったら行く」

 

「もー! 男子ってみんなマイペースだよね。ね? シオちゃん」

 

「そーだそーだ!」

 

「あはは……じゃあ、キワム、リンドウさん、私たちは先にラボに向かってますね」

 

「「おう」」

 

 報告書を提出し、俺はエリックの部屋に向かった。

 

「じゃましますよーっと」

 

「おっ、早かったね」

 

「相変わらずオーナーだっていうのに殺風景な部屋ですね」

 

 エリックの部屋というより、会長室だというのに装飾もなければ、物も少ない。あるのは、筆談用の机と椅子。来客様にソファーがあるぐらいだ。

 

「前にも言ったじゃないか。僕だけ贅沢なんてできない。そんなのにお金を使うならみんなの支援二回した方がいいだろう?」

 

「そういう所がエリックさんのいいところですよ」

 

 エリックは紅茶を入れ来客様のソファーに腰を下ろした。それを見て俺も同じくソファーに座った。

 

「ほら、飲んでみてくれ。生産エリアで栽培した茶を発酵させたんだ。悪くない味だろう?」

 

「うむ、よき味かな」

 

「また妙なアニメでも観たのかい?」

 

 この紅茶も元は居住区の人々のためだ。安らぎの時間を与えるために生産をしていたらしい。もともと灰域が発生する前から地下エリアで生産をしていたらしい。

 

「さて、本題に入ろう。今回君を呼んだのは。ソーマについてだ」

 

「……!」

 

 ソーマの所在についてはずっとエリックに頼んでいたことだった。

 

「まず分かったことは、現在も生きてること」

 

「よかった……」

 

「そして、偽名を使っていること」

 

 まあ、そうだろうな。今じゃ厄災の三賢者なんて言われ、ソーマ・シックザールはその首謀者として扱われている。偽名は必要だろう。

 

「その名前は?」

 

「今はアインと名乗っているらしい。そしてダスティミラーという名のミナトのオーナーとして活動しているそうだ。たまたま僕の知り合いがミナトの創立メンバーでね、ソーマも極東の知り合いがいたことに安心しただろうね」

 

 流石、顔が広いな。

 

「ちなみにそのミナトの場所はどこですか?」

 

「フェンリル本部から約20キロ南東に進んだところらしい。山を迂回して行く必要があり、辺境の地だね。そんなところにミナトを建てるのはソーマらしいけどね」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

 エリックはサングラスの位置を人差し指で整えると、紅茶を静かに飲んだ。

 

「……行くのかい?」

 

「……え?」

 

 もうエリックは知っているようだ。

 

「僕はここのオーナーでもあるが、君の親友でもある。そしてソーマも。なら僕がすることは一つ。君に協力することだ。遠慮はいらない」

 

「……もう話は聞いてるんですね。そうです。ソーマの元へ向かいます」

 

「聞いている、というよりもこの件は実は僕から博士に依頼したんだ。ソーマの現状についての情報を入手したのは僕だからね」

 

「そうだったんですね」

 

 そう、事態は極めて深刻であり、これを解決できるのは俺しかいないのだ。

 

 ソーマのアラガミ化を阻止するために。

 

 

 

 

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