【完結】フーディーニの魔法   作:ようぐそうとほうとふ

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08.ロナルド・ウィーズリー

 全部パーシーのせいな気がする。

 

 ロン・ウィーズリーは朝食の席でツカツカと通路を歩き生徒を監視するパーシーを睨みつけた。パーシーはそんな視線に気付きもせず、広間の端から端を縦断し続ける。行ったり、来たり。

 アーニーの自主連クラブ発覚による罰則で、パーシーは参加者全員に広大なクィディッチ競技場の草むしりをやらせた。そのような仕事は本来フィルチのすべき事だったが、パーシーはフィルチを味方につけるために罰則をうまいこと利用した。草むしりの次は学校中の絵画の掃除で夕食後から消灯までたっぷりと時間を使わされた。試験勉強をしなければならない5年生にとって最も効果的に体力と時間と精神力を削る拷問であり、ハーマイオニーはほとんど発狂する寸前まで追い詰められていた。

 そんな兄を持つものだから、ロンはどことなく居心地の悪さを感じている。もちろん、パーシーはパーシーでロンはロンなのだが、腐っても身内なわけで…自分自身がそう思ってなくても、周りのやつはそうは行かない。ウィーズリーだからという理由でまとめて憎まれるなんてよくあることだった。血を裏切るものと言うふざけた称号のせいで父親が閑職に追いやられていることも(本人はその仕事を天職だと思っていても)社会が家族という枠組みで自分たちを判断しているということの傍証だ。

 その狭苦しい木枠の中で、ロンをはじめとした5年生はせまりくるふくろう試験に苛まれている。全員が毛を逆立てたハリネズミのようになっている中、事態を悪化させる報せが日々新聞で、あるいは噂話でもたらされた。

 

 アズカバンで集団脱獄 シリウス・ブラックが関与か?

 昨晩遅く魔法省が発表したところによれば、アズカバンから集団脱獄があった。

 ファッジ大臣は記者団に対し特別監視下にあった囚人十名が脱獄し、シリウス・ブラックを旗頭にロンドンに潜伏している恐れがあると語った。…

 

 

 

 

「馬鹿げてる。こんな決定的なことが起きて尚、魔法省は真実を見ようとしないなんて!」

 

 ハリーは憤慨した。シリウスの名誉がまたしても貶められていることが彼の怒りに拍車をかけていた。ロンもハーマイオニーもそれについて激しく憤った。しかし罰則や課題といった時間の圧力がその怒りを発散させる場を奪い、反抗心を摘み取ってゆく。怒りはやがて恒常的に抱く感情になり、怒りの矛先はありとあらゆる場所へ分散されてゆく。

 

 

「さて。アズカバンの脱獄についての意見文を僕に送ってくる子達が出てくる前に、今日の授業では僕のおしゃべりの時間を多めに取ろうか」

 

 飾りっけのない教室にこつこつと板書の音が響く。プロップの文字は印字のように几帳面なくせに微妙に平行ではないので見ていると何だかムズムズする。

 プロップは生徒の人気を得たあとも変わらず淡々と日常業務をこなしていた。それ故にハーマイオニーは「油断してはいけない」以上に警戒を強めることはなかった。

 ハリーはプロップに対して幾らか親近感を抱いていたようだが、ハーマイオニーにそれを打ち明けることはなかった。何かを言われるのは目に見えている。ロンもロンでプロップに対する印象は前と変わらず、「ちょっと変わってるけど無害」のままだった。

 アズカバンが破られても彼の態度はやはり変わらず、むしろ魔法省の失態にほんの少し愉快そうだった。

 

「授業でも何度か取り上げているし魔法史でも触れているだろうが…いつもの事ながら君達の魔法史嫌いはよっぽどだからね。復習しようか。まず、アズカバンの成立は…」

 

 アズカバン脱獄により世に放たれた死喰い人は10名。どいつもこいつも生涯牢獄から出してはいけないような危険人物ばかりだった。例のあの人が破壊と殺戮の前準備をしているのは明らかであり、日刊予言者新聞以外の各社ではハリー擁護論がちらほら現れ始めている。

 ハリーに取材を申し込む手紙がいくつか来たものの、パーシーによりしかれた教育令によりメディア関係者との接触は全て校則違反となった。(この法令はルーナに大いにウケた。彼女の父親はザ・クィブラーの編集長であり、自分は家族との手紙のやり取りも規制されるべきだと主張していた)

 事態は緩やかに騎士団側に動いているように思われた。それを決定付けたのはアズカバン脱獄に引き続きもたらされた大ニュースだった。

 

 

ヌルメンガード崩落 グリンデルバルド脱獄か。悪夢再び

 恐るべきニュースです。あのグリンデルバルドの収監されていたヌルメンガードが倒壊しました。ヌルメンガードは1945年より悪名高い闇の魔法使いグリンデルバルドを収監しておりましたが、何らかの事件により倒壊した模様です。現在ノルウェー魔法省が調査にあたっているようですが詳細は不明であり、公式発表も未だありません。発表された三名の他にグリンデルバルドも脱獄した可能性があります。海外へ行く際は十分に警戒を…

 

 

 

 

 

 

 これには多くの生徒が「え?」と疑問符を浮かべていた。まずグリンデルバルドが生きていた事を知らない者ばかりだった。ハーマイオニーはホグワーツ生徒の魔法史嫌いを嘆きながら、ハリーとロンに彼の悪行を説明した。

 聞いているうちに、グリンデルバルドの偉業の断片をプロップの授業で幾度となく聞いた覚えがあることに気付く。三人はその幽かな繋りを考えもせずに霧散させる。無理もないことだ。

 

「彼はあの人よりも危険よ。もちろん、差し迫った脅威としてはあの人のほうが上だけど…」

「ハリーの命を喜んで狙ってるやつのほうが危険に決まってるだろ!」

「だから差し迫った脅威って言ったの!…まあ確かに、グリンデルバルドはハリーに見向きもしないでしょうね」

「待って、ハーマイオニー。この脱獄があいつの差金だとしたら…」

「その可能性は低いと思うわ」

「なぜ?」

「だって、例のあの人にとってグリンデルバルドなんて邪魔でしかないもの。グリンデルバルドにとってもそうよ」

「ああ。なるほど…それじゃあグリンデルバルドの脱獄は全くの別事件ってことかな」

「それにしてはタイミングが良すぎるけれどね…」

 

 結局ハーマイオニーもハリーも疑惑以上の推論をたてられなかった。グリンデルバルドの現在の情報は少なすぎる。ただ二人の議論は「例のあの人との関連性は低い」と結論に至ったらしい。ロンはそれをぼんやり聞きながら、自分がいずれ家族のために戦うだろうと意識した。そうすると、たしかに今の学校は最悪だった。

 ロンは漠然と持っていた危機感がより差し迫ったものに変化したのを感じた。そして、魔法省の行いが如何に不当で愚かかも身に沁みてわかった。それと同時に、魔法省に盲目的に従うパーシーへの怒りがふつふつと湧いてくる。

 

 どこまでも愚かな兄。パーシーのことをそう思い始めたのはいつのことだったか。少なくとも、ホグワーツ在学中はまだ嫌なやつで片付く程度だった。

 入省してからパーシーは決定的に悪い奴へ進化してしまったと思う。元来人並みならぬ出世欲を持っていたが魔法省で肥大化しいびつに凝り固まってしまった。

 なぜそうなったか、想像するだけの余裕がロンにもフレッド、ジョージにもなかったことが悔やまれる。(ジニーだけはパーシーに対してほんの少し同情の念をもっていた。兄弟の中で最もジニーに対して関心を示し、世話をしていたのはパーシーだった。)パーシーの置かれている状況と彼の持つ情報が騎士団側にもたらす恩恵は計り知れない。しかしこの場にいる誰もがそんなことを知る由もない。事物はただ淡々と時に従い流れ行く。

 

「あのさハリー」

「なに?」

 ロンはベッドに入って尚変身術の教科書を読みふけるハリーに声をかけた。杖明かりに照らされたくしゃくしゃ頭がシーツの中から飛び出してくる。

「グリンデルバルドってダンブルドアと戦って、負けて牢獄にいれられたんだよな?」

「うん。えーっと…1945年。ヌルメンガードにね」

「ダンブルドアの宿敵だったんだよね?そんなやつが脱獄したのなら、ダンブルドアも黙ってないと思うんだ」

「…あ」

 ハリーはロンの言わんとしていることを理解したらしい。

「もしかして…今ダンブルドアはホグワーツに、いや。イギリスにいない?」

「ありえるよね?だって最近は食事のときも見かけないし」

「しまった。あいつらが直接関係してなくても…」

「そう。…そうだよ。ハリー、僕らは今のほうがよっぽど危険だ」

 

 と、声に出したところでふくろう試験も魔法薬学の課題も消えてなくなるわけではないのだ。現実を埋め尽くす浮世離れした些事の数々。紙屑の中に埋もれて行くような気分。足掻いてもあがいても手足は紙を攪すだけ。僕らは生煮え。大人達の作った枠組みはいつだって高く厚い。

 

「ダンブルドアを遠くにやるためにグリンデルバルドを逃したのかな」

「そんな回りくどいこと、する?」

「わからないよ。でもいないにこしたことはない」

「ダンブルドアのいないうちに何をするつもりなんだろう」

「君を殺しに来るのかな」

「いくらなんでもホグワーツに堂々とはやって来ないよ」

「わからないよ。集団脱獄もあったし…」

 

 二人はそんなことを話しながらいつの間にか寝てしまっていた。翌朝、ハーマイオニーも加えていつもの三人で朝食へ向かうと、壁にびっしり打ち付けられた額に新たな教育令が追加されていた。

「なに?」

「あー、今日はまだマシ。『ティーン魔女リティ』の持ち込み禁止」

「またか」

 パーシーが好ましくないと判断した書籍の流通禁止令だった。この訳のわからない規制ももはや日常茶飯事になり、三人は黙って席につく。

 

「ねえ、ハリー。最近夢は見てるの?」

「え?なんでそんなことを聞くの?」

「クマができてるわ」

「違うよ、ハリーは昨日僕と遅くまで話し込んでてさ…。グリンデルバルドの脱獄について」

 

 ロンはほとんど反射的にハリーに助け舟をだしていた。アズカバンからの集団脱獄以降しかれた煙突ネットワークとふくろう便の厳重な監視体制のせいでハリーが心を許せる大人はプロップくらいだった。あの夢についても、プロップはマグルの夢診断とマグルの心理学の講義でハリーの気持ちを安らがせていた。(マグルの考えたしょうもない学問ではあるがトレローニーの授業よりも遥かに楽しいらしい)

 ハリーの精神状態ははっきり言って大変不安定だ。いつもならクィディッチで飛びまわって発散するところだが、ここのところフレッド、ジョージの罰則の余波で競技場が借りれないのだ。グリフィンドールが借りている日に限ってクィディッチ競技場の清掃を入れられる。

 今ハリーから息抜きを奪えば9月のころの逆だったハリーに逆戻り。こちらの胃までチクチクなる毎日が戻ってくる。それは面倒だった。

 幸いダンブルドアの不在はハーマイオニーの関心を大いにひいたようでハリーは夢に関する追求から逃れた。しかしそれは単なる一時しのぎに過ぎず問題は依然としてそこに横たわったままである。

 ハリーの見ている夢について。ロンの知っている限りでは内容は冬から変化していない。黒い扉。長い廊下。進んでも進んでも辿り着かずに終わる夢。しかし欲望は煽られ続け肥大してゆく。プロップの"カウンセリング"についてロンはこのときもっと知っておくべきだった。

 

 さて進路相談が始まって談話室での話題は脱獄より将来やりたい事、やりたくない事についてに変わった。ハリーはこっそりと闇祓いに憧れているようで、ハーマイオニーはあろう事かしもべ妖精福祉振興協会にまだ執着していた。…まあどちらも夢があって結構なことだ。

 ロン自身はというと、闇祓いになれたらいいなあと思ったりもするし、普通に暮らせるだけでなんでもいいとも思う。魔法省勤めはつまらなそうだ。ダイアゴン横丁のどこかとか、ホグズミード村の店でもいい。(ロスメルタの店のウェイターなんて第一志望にする価値がある。)ようするに、特に夢はなかった。

 

「薬草学者になりたいなって思ってるけど…ばあちゃんは闇祓いになってほしいらしいんだ」

 進路について尋ねるとネビルはちょっと困ったように言った。

「僕は新聞社かな。…まあ予言者新聞はごめんだよ。できればスポーツ部がいい」

 シェーマスはゴブストーンをしながら答えた。声をかけたせいで負けかけたのでロンは謝罪した。

「僕は入省したかったけど…どうだろうね。あんなことがあったから」

 アーニーは申し訳なさそうに言った。ロンは「気にするなよ。全部スミスのせいだから」と返した。

 

 闇祓いへの憧憬はずっと持っていた。けれどもすぐ隣にハリーがいて、ハーマイオニーがいて、その場で自分の願望を口にするのはなんだか気恥ずかしかった。ハーマイオニーより頭がいいわけでもなければ、ハリーのようにあの人と因縁があるわけでもない。自分の成績が闇祓いの水準を満たしていないのは明らかだ。

 

「ウィーズリー。貴方の成績はムラがありますが、平均を下回るわけではありません。希望する職種にもよりますが、今から努力すれば十分適うでしょう」

 マクゴナガルは横にいるパーシーをちらっと見て言った。なぜかパーシーは進路相談にまで干渉してきた。ロンは嫌がらせだろうかと勘ぐったが、極力存在しないものとして扱おうと決めた。

「あの…いま進路を決定しなきゃいけないんですか?」

「そんなことはありません。ただ職種によって必要となる科目が違います。いざその職に就こうとしても学位の関係上無理ということも起こり得ます」

「なるほど…」

「ぼんやりとでもいいのですよウィーズリー。貴方の双子のお兄さんたちに比べれば多少はまともでしょうから」

「フレッドとジョージは何を?」

「大富豪と」

 ロンはあの二人らしい進路希望にくすりと笑った。マクゴナガルも釣られて微笑む。

「あの…例えばなんですけど、闇祓いだとどんな科目が必要なんですか。参考までに」

「闇祓いとなると求められる資質は高くなります」

 頬が赤くなる気がしてほんの少しうつむいた。マクゴナガルはこちらを気にせず机の上に置かれたたくさんのパンフレットのうち闇祓い局のパンフレットを開く。

「あなたの場合は…魔法薬学と変身術は特に努力が必要ですね。呪文学ももう少しですね。フリットウィック先生は良でも受講を認めてくれますが、授業レベルは格段にあがります」

 パーシーの頬がぴくりと動く。ただの痙攣かもしれないが、なんだか嫌な気分になる。パーシーに成績で勝てるなんて思った事はないが、あらためて顧みると兄弟の中で自分だけ突出して優れたものがないと思い知らされる。

 

「参考までに、私が五年間あなたを見ていて適正があると思われる職業は…」

 

 マクゴナガルはパンフレットの中から魔法運輸部とグリンゴッツのパンフレット、それと箒用木材の植林場のパンフレットを出して一つ一つ必要科目を教えてくれた。マクゴナガルの声は右から左に流れていく。

 

 そうこうしているうちに次の面談者がやってきて、ロンは手渡されたパンフレットを眺めながら寮へ帰った。塔を登ってる途中、フレッドとジョージとばったり会う。二人はふくろうに荷物をくくりつけていた。パーシーの監視下では時間外のふくろうは小屋を経由しなければならない。今の時間塔の小窓に来るのは闇フクロウだ。

 

「よお。兄弟。言うまでもないが」

「内密にな」

「わかってるって。パーシーの監視は?」

「今丁度リーが絞られてる時間だから」

「リーはなにしたの?」

「わざとじゃないんだが、罰則のときこっそり除草剤を使ったせいで芝生の一部が永久にハゲちまった。それが今日バレた」

「リーにとっては災難だが、俺達にとっちゃラッキーさ」

 フレッドはフクロウの尻を叩いて旅立たせた。手紙でなく荷物を出すというのはどういう事だろう。以前より二人はなにかの準備をしているようだった。いたずらグッズの開発だけでなく、学外でなにか企んでいるようだった。

「ま、あと数ヶ月の辛抱だよな」

「ああ。今はただ着々とやることをやるだけさ」

「二人の口から出る言葉とは思えないよ」

「そうか?俺達こう見えてけっこうしっかり考えてるぜ。なあ?」

「ああ。大富豪目指して一直線」

「二人が羨ましいよ」

 

 結局その日は三人で寮に帰った。二人は談話室で早速なにかのリストをまとめだした。ロンは寝室に行き、うとうとしているハリーを眺めながらバンフレットを眺めた。

 ハリーが唸った。

 

「もう少し…」

 

 もう少しで、扉にたどり着く。それを二ヶ月は続けている。

「そこに何があるんだろうね」

 

 その呟きに返事はなかった。

 

 

 

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