【完結】フーディーニの魔法   作:ようぐそうとほうとふ

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三本の箒にて

 ジェーン・シンガーは現状に疑問を懐きつつもそれを飲み込むだけの器用さを持っていた。故に自分の担当患者がハリー・ポッターであって、それ故に命を狙われる危険があっても「誰かが貧乏くじを引かなきゃならない」と納得していた。

 

 

 ハリー・ポッターは世間で報じられるニュースとは違う印象の子だった。ネビル・ロングボトムから聞いていたハリー像は、もっとみんなを引っ張ってそうな明るい男の子だったが、病室のハリーはむっつりとした顔で黙り込み、ずっと本や雑誌を読んでいた。

 

「あの…看護婦さん」

 

 ハリーは時々遠慮がちに頼み事をしてくる。とはいっても可愛いもので、お菓子や新しい雑誌を買ってきて欲しいというお願いだった。私が買ってくるんじゃなくて、警護担当者にお伺いを立てて上が許可したら私に手渡されるわけだからドアの前にいる闇祓いに頼んだほうが手っ取り早いのだけど。

 

 これは私の看護婦力の勝利ね。

 

 誓いやなんやらで必要外の会話は制限されているし、あちらからも話をすることは無いけれど、ちょっとは信用されているんだろう。

 ネビルに話せないのがもどかしい。彼は元気だよ〜なんて言ったら心臓が止まる。

 ネビルとはずっと手紙でやり取りを続けている。最近は新しく赴任してきた先生の悪口ばかりだ。ネビルの主観だということを除いても、ずいぶんひどい先生のようだった。助手がいるのをいいことに生徒全員の得点管理をして点に応じて罰を与えているそうだ。寮ごとの差別もひどいらしいし、なにより肝心の授業は教科書を読むだけ。杖なし、質問なし、自習なし。ネビルは時間を浪費させられていると書いている。

 

 前の先生のほうが良かった。

 

 前任の先生は一度だけあった事がある。プロップ?とかいう草臥れた男の人で、ブルック兄さんの友達だ。

 ブルック兄さんは、最近すごく忙しそうだ。老人ホームにも顔を見せないらしくてお婆ちゃんも寂しがっていた。

 

 ジェーン・シンガーは15のとき生家を火事でなくした。孤児院を営んでいた母親と友達もろとも。それ以降ずっとドゥンビアの家で育ったのだから血がほとんどつながってなくても家族同然だった。

 ブルックは家で一番社交的で、手先が器用で、何より魔法が一番うまかった。何よりも彼が恵まれていたのは杖なし魔法の才能だった。

 

 ドゥンビア家は元々アフリカの魔法族だ。第二次世界大戦以後、家系のごたごたで渡英してきただけで祖母の代は生粋のアフリカ人だ。

 杖はもともとヨーロッパ発祥の道具であり、元来アフリカの人々は手や呪文だけで魔法を行使していた。杖はいうなれば補助輪であり、一人前の魔法使いたるもの杖なんてふってたら笑われるとまで言われている(らしいが、最近は杖でしか魔法をかけられない人も多いようだ)。

 結論から言えばブルックの才能はイギリスではあまり役に立たなかった。それどころか誤解の元であり、杖無しなんてはっきり言って人権がないのと同じだった。いちいち説明するのが面倒くさく、公職や名誉は諦めてしまったらしい。

 今はキーメイカーだかなんだか、いかがわしい職業をしているらしいが、それも仕方がないのかなとも思う。なにより役人なんかになるよりよっぽど儲けてる。

 

 そもそも選択肢がないからな…

 

 魔法界は狭すぎる。魔法使いとして半端なジェーンは、そんな世界の片隅にだってしがみつくのがやっとだった。

 その点ハリー・ポッターは世界の中心だ。

 そして、そのくしゃくしゃ髪のちょっと影のある少年は、特別警護の病室で厳戒態勢の中ゆっくりミートローフを食べるのであった。

 

 

 

 そのブルック・ドゥンビアはウラジーミルとゲラートと共に三本の箒に集まっていた。ホグワーツ生のいないホグズミード村は静かだが人気がないわけじゃなく、成人した魔法使いたちが思うままにゆっくりとすごしている。

 

 ゆったりとした野良着の客のばかりでスーツを着た僕、ウラジーミル・プロップとストリートから間違って迷い込んできたようなブルック・ドゥンビアことBDはひどく目立っていた。ゲラートだけは変装も兼ねて顎まである野暮ったいタートルネックと帽子と眼鏡という(ある意味)平均的魔法使いの格好をしてる。ちぐはぐな取り合わせなせいで三人共暗い色調の木製居酒屋では浮いていた。

「…しまったな、カードでも持ってくるんだった。俺たち目立ってないか?」

「キョドるなよゲラート。どうせアウェーだ。僕らは目立つ」

 何故か浮足立ったゲラートにピシャリと言うと、早速ロスメルタが注文を取りに来た。

「あら、見かけないお客様。いらっしゃいませ何頼みます?」

「バタービール3つ」

 僕がメニューも見ずに決めた注文にBDが早速異を唱えた。

「おい!バカ言え。俺はファイア・ウイスキーで」

「俺も」

 と思ったらゲラートまで乗ってきた。

「おいおいやめてくれよ、飲み会じゃないんだ」

「ふふ、うちのバタービールは特別熟成させてるんで、是非飲んでもらいたいところですけど…」

「悪いが俺は自分を曲げない質でね」

「俺も俺も」

「ああ、頭がおかしくなりそうだ」

 ロスメルタが助け舟を出してくれたが無駄なようだ。僕もここで抵抗する気力はなかった。

「ではバタービール一つにファイア・ウイスキー2つ…」

「ああ、ポテトフライもつけてくれる?ありがとうマダム…とっても魅力的だね」

 僕はBDを睨みつけた。するとBDは悪びれもせずに笑っていった。

「ヴォーヴァ、イライラしてんのはお前のケツを付け狙ってる犬野郎のせいだろ?俺たちのせいじゃない」

 BDは慰めるように僕の肩に手を置いた。全く慰めにならないし暑苦しいだけだった。

「ああ、そうだよ。もしかしたら店の前でおすわりして僕を待ってるかもな」

「つまらん冗談はよせ。とっとと話を進めよう」

 ゲラートは運ばれてきたグラスを乾杯もなしに飲み、僕たちもそれに続いた。バタービールはゲロ甘かった。余計に喉が渇くから好きじゃないのだが、職場の奴らと飲みに行く場合これを頼んでおけば煩わしい会話を少し削減できるので惰性で飲んでる。今日はそんなこと考える必要なかったっていうのに、習慣というものは恐ろしい。

「そうだった。悪いな、ハロウィンって飾り付けが凝ってるだろ?ついテンションが上がるもんで。観光気分が抜けないんだ」

「何年こっちに住んでるんだ?まったく。ウガンダの知り合いとは連絡ついたのか?」

「正確には南アフリカだけど…ああ、ついたぜ。近々こっちに来る用事があるから連絡するとさ」

「ありがとう。思ってたより早いんだな」

「まー時間にルーズってわけではないから。自分の時間のほうが優先的ってだけで」

「その時は俺が行っていいのか?」

 ゲラートの言葉にBDは頷き、その人物が参加する予定のオークションに話が移る。なんてことはない古道具のオーディションだが、コレクターでもない一見さんが席を取るのは極めて難しいとのこと。

 ボージンはだめだ。やつの店にあるのは真のコレクターが飽きて売っぱらったものか、土産物みたいなガラクタだ。本物のお宝は店頭には絶対に並ばない。

 では金持ちのルシウスに頼りたいところだが、生憎彼は小道具、骨董品に興味がない。旧家である彼の家には骨董品が多いが、集めてるのでなくいつの間にか骨董品になったものばかりだし、そもそも新しく集める必要はなさそうだ。

 なにより骨董品、古道具コレクターは血筋よりも鑑定眼の求められる特殊な世界で、実のところゴブリンが一番力を持っている。極めて競争性が高く、情報と戦略と決断力が求められ、マグルのオークション界とほとんど大差ない。

「しかたない。困ったときのスラグホーンだな。3時間ばかり昔話を聞けばどうにか席は取れるだろう」

 好かれたい人間がいるならば同じことに興味を持つことだ。ゲラートもそれをわかっている。スラグホーンならば骨董品マニアか鑑定士の友人を持っているだろう。そもそも人間関係コレクターなのだから、彼の席はもうあるかもしれない。

「じゃあ次回はオークションニア編だな」

「ああ、僕だけ魔法省スパイ編続投だが。…ポッターはクリスマスには学校に戻るそうだ」

「戻して大丈夫なのか?」

「むしろとっとと戻してダンブルドアを縛ってほしいものだ。ダイアゴン横丁はフェノスカンジアの連中ばかりだ」

「事実、効果はあるだろう。僕らにかまってちゃ例のあの人は好き放題だ」

「じゃあ聞くが、あの人は今何してんだ?」

「さあな。ルシウスも知らんと言うことはプライベートだろ」

「ママに挨拶しに行ってるとか?」

「あれが女の股から生まれたとは思えん」

「今の体は鍋から生まれたんだよ」

「あー、想像しちまった!食事中はやめないか?なんか気持ち悪くなってきた…」

 BDの一言で僕らは自然とグラスに手を伸ばした。バタービールは半分も飲めてない。この甘さはポテトの塩でも中和しきれない。

 

「僕は…とにかく、あの犬だ。くそったれの犬…レナオルドはまだこないのか?」

「お前は苦労人だねえヴォーヴァ。もう暴力に頼っちまえよ」

 それが出来たらこんなに苛ついてない。余計な遠回りをして出勤することも。

「あの犬が最悪なのは、暴力が許されない場所でしか姿を見せないところだ。あとはじっとりした気配だけ」

「女をひどく振った覚えは?」

 BDのからかいに僕もゲラートも両手をあげて呆れる。

「マヌケ。あれはハリー・ポッター絡みだよ。むしろポッターに異常な愛を注いでる誰かだろ、この執着度合いは」

 

 ゲラートの言葉になんだか喉に小骨が引っかかった気分になる。僕は何かを忘れてる気がする。

 

「愛ねえ。愛なんかで犬に身をやつしてつまんない男をつけまわすかよ!」

「哀れだなBD、お前女にモテたことがないんだろう」

「あんたはあるのか?」

「あるさ。まあ20才越したら追ってくるのは各国の闇祓いだらけだったが…」

「地獄の青春じゃないか。それでよく愛なんか語れるな」

「俺にもいろいろあったんだよ。だからわかる。わざわざ避けるのも、しつこく纏わりつくのも、結局はそいつへの執着を断ち切れないからだ。その執着を愛という」

「悪いがあんたの話、全然共感できねえ。ネガティブすぎるだろ、愛っていうのはもっと積極的で…ハッピーになれる…そういうものだろ?」

「もうその話はもうやめろ。ここは禅マスターのドウジョーじゃない」

「ああそうだな。とにかくその犬は不死鳥の騎士団のメンバーじゃない。だとしたらもっと違った手が打てる…というよりもお前をわざわざ付け狙う意味がないだろう?」

 確かに僕が騎士団だったら別件で起訴に持ち込む。マグルの刑事がよくやる手だが魔法使いには思いつかないだろう。あいつらマグルにばれないように証拠ごと消すから。

「お前が今いなくなれば魔法省はすぐ死喰い人に乗っ取られてる。そうなれば困るのはあっちだ」

 

 ゲラートがウイスキーを飲み干した。BDもそれに続きグラスをあける。

 

「現実、騎士団に勝ち目があるのか?例のあの人相手に。なあ?」

「その言葉はそっくり俺たちに帰ってくるぞ、BD」

「なんだゲラート、弱気じゃないか。あんたはヨーロッパが誇る大悪党なんだからもっと自信満々でいていーんだぜ?」

「俺は脱獄すら一人でできない老いぼれだ」

「だからつるんでる。そうだろ」

 僕はそう言ってバタービールを無理やり全部飲み干した。追加の注文のために手を上げカウンターを見るとロスメルタと目があって、少々待ってというジェスチャーを受け取る。…カウンターの男が料理に顔を突っ込んでいた。

 

「で、犬の話だけど」

 

 そこでタイミングよくドアがあき、派手な柄のシャツを着たレナオルドが入ってきた。

「わーお。オレたちお洒落すぎて最高に浮いてるな。ロスメルタ!ジンを一瓶、グラス4つ」

「あら!レナオルドさん。最近全然顔見せないで」

「忙しくってさあ」

「わかるわ、ロンドンからここは遠いものね」

 ロスメルタはレナオルドにウインクしてからカウンターに戻った。ホグズミード村にシマはないとはいえ顔馴染みになるくらいには通ってるらしい。ジンにつまみのサービスまでついてきた。

「犬の話だったな」

「そう、犬」

 今度は乾杯をした。社交的な人間が一人でもいればマナーを思い出す事ができる。つまりそういうのが必要な人間の前ではそう振る舞うことができるだけまだマシで、人格破綻者(アズカバンに何年も食らったやつ)はそういう礼儀さえ牢獄においてくる。死喰い人の晩餐会は酷かった。

「まだ解決してなかったのか」

「賢くってね」

「不死鳥の騎士団のメンバーだと思うんだがなあ」

「まだ言うのかBD」

 

 僕が複数人で会話するのが嫌いなのは会話が一生ループするからだ。目的のある会話はまだマシだが、時間を潰すためだけの会話は最悪だ。全員が分裂症にでもなったかのように自分のことを喚き散らす。印刷工場でのトラウマで手が震えそうだね。

 

 

「起訴ねえ。悪いがオレはいざとなったら死喰い人側につくぜ?死にたくないしムショも嫌だ。だから名前は出すなよ、絶対」

「僕が仲間を売ると思うか?」

「あー…ちょっと売りそう」

 僕はBDを睨む。ゲラートが笑う。女の子集団じゃないんだからくだらないおしゃべりはよしてくれよ。僕は咳払いをしてもっともらしく返す。

 

「とんでもないね。僕は君たちを家族のようにあい……」

 

 そこで僕はようやく自分がとんでもない間抜けだったことを知る。家族について、そこから連想されるまがい物の言葉たちについて。動機が僕が一番理解し難い感情なら普段の発想から一歩離れて考えるべきだった。

 

「クソッタレ。700出すから今すぐ犬を捕まえよう」

「あァ?なんだよ急に」

 今度こそ本当に手が震えてきた。

「僕は自分の失態を消すことに生き甲斐を見出してきたんでね。だから家族も殺した。だから今すぐ犬を殺そう」

「何だ落ち着けよ」

 ゲラートが珍しく恥ずかしがっている(?)僕を物珍しそうに見ながらも宥める。

「ハリー・ポッターに一番執着しているであろう人間を忘れてたんだよ、僕は大間抜けだ」

「ポッターにそんなやばいファンいたっけ?」

「あいつだよ…シリウス・ブラック。名付け親だ」

「動物もどきなのか?」

「知らない。だが消去法であいつしかありえないだろう?死喰い人がこんな地道な嫌がらせを思いつくはずがない。あいつら忍耐がないからな!僕を半分殺しかけたのにまだ殺しに来ないのは騎士団のせいだ」

 愛。人間が神の出来損ないたる所以の一つ。

 

「シリウス・ブラックだったら捕まえたらまずくないか?ポッターの名付け親…だっけ?恨まれそうだ」

「そんなの死喰い人のせいにすればいいだろ」

「俺たちの計画が崩れないならどうしたっていい。ヴォーヴァ、感情的になるな」

「たしかに僕はキレてる。だが自分がバカだってわかった日ぐらいヤケを起こさせてくれ」

 僕はジンをグラスいっぱい注いで飲み干した。BDは久々にキレる僕を見て困ったような笑いを見せていた。レナオルドはというとあごひげを触りながら頭の中で勘定してるんだろう。親指がせわしなく顎の下を撫でる。

 

「…しょうがねえな。ここにいる全員で協力するって言うならノーギャラで捕まえようじゃないか。リスク分散だよ。三人寄れば文殊の知恵だな」

「それ、何もかも間違ってるぞ」

 ゲラートのツッコミにレナオルドは煩わしそうに顔の前で手を振り、体をぐいっと前に出してささやく。

「どうせ今日も何処かでお前を待ってるよ。早速探し出して檻に仕舞おうぜ」

 

 

 




リック・アンド・モーティにハマって日付を跨いでしまいました。
20分で映画並みの情報量があります。ドープです。Netflixで配信してるのでぜひ見てください(ダイマ)
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