子どもの泣く声が聞こえたような気がした。嘆きや後悔、自責の念をごちゃごちゃにしたような声であった。
ガキが出していい声ではない、耳障りだ。
昔から耳はいいのだ。人の声、思いや願いがよく聞こてえてくる。それを伝えたいと思ったのもこの仕事を選んだ一つの理由だ。
後日乗せてもらっていた船の船長に助けを呼ぶ声が聞こえたと伝え、その声を発している方へと向かってもらった。
「いたぞ!子どもと男が倒れている、」
「これはまずい、早く船内へ運び込め!」
やはり、居たらしい。船医が処置していくのを眺める、男は片足がなかった。あの食料も水もない岩の上で生き残るために何をしたか想像に難くない。岩か何かで足を潰しねじ切ったような傷口であったので、きちんと傷口を綺麗に切って、骨片を除去。細菌による感染症もないよう、抗生物質も与えられていた。
足は元には戻らないだろうが、これで義足をつけるくらいはできるようになっただろう。子どもの方は完璧に栄養失調だ、点滴につながれて休んでる。
よく生き残ったものだ、遭難する以前もただ普通にコック見習いをしていただけの子ではないだろうなと邪推する。
数日後、先に目を覚ました男に礼を言われた。軽く自己紹介をしながら、本題に入る。
「あの、間違っていたらすみません。赫足のゼフさんですか?」
「ああ。だがもう赫足は終わった、これから海の上にレストランをブッ建てる!」
「海の上のレストランか、聞いたことないなあ。いいアイディアですね。一味の方はどうなるのか聞いても?」
「ウチの船は潰れた、解散だ」
「……そうですか…。それじゃあ、ただのコックのゼフさん。いつかあなたのお店に伺えるのを楽しみに待ってます。」
───赫足一味全滅、船の残骸が見つかる。
これは世界時報には載せれないだろうが、東の海で暮らす人々には安心できるネタだろう。それに記事にできなくとも噂くらいは流せる。
「船長さん、あの岩の上に海賊船の残骸とお宝が。きっと赫足一味ですよ。嵐で遭難し、全滅したんでしょうね。あっ、彼らは客船の人間だったみたいです、話を聞きました。……あと、海の上を移動するレストランが近々できるかもしれません。きっとそこは美味しい料理を出してくれますよ。」
これで十分だろう、目を覚ました少年とゼフさんが何か言い争っているのが聞こえる。うん、いいコンビだ。
赫足一味に関しては、これでお終い。そろそろローグタウンへ向かおう。社長にグランドラインに入れと言われているのだ。こんな平和な海では世界に発信するネタは少ないからなあ。
赫足のゼフはもういない。片足の料理長が作ったレストランでは、空腹というスパイスを用意して来た人々に最高の料理を提供してくれるに違いない。
それはたぶん、金髪のコック見習いと共に。
───
ニュース・クーが今日も飛んでいる。やつらが運ぶのは脚色された真実か、都合のいい嘘か。
それにしても世界中どこでもすぐに新聞を配達できる手段があるのはうらやましい限りである。おい、僕に買わせようとするな、文句を言いつつも買う。
世界時報社は零細新聞社だ、社員の人数はとても少ない。
できるかぎり中立の立場に立って書く。しかし、ありのままを全て書いてしまうと出版が差し止めされたり、会社自体が本格的に潰されてしまう。まあ今も世界政府相手に吠えてしまって潰されかけてはいるのだが。
そうならないのは、僕らの記事を信頼し、待っている人が世界中にいるからだ。
僕ら記者が集めた情報を、ギリギリ書ける範囲で添削し、世界に出しているのは社長や編集長である。
ありのままを伝えることはとても難しい。嘘は書かないが、目で見たことを全て書くことができるわけではない。そこらへんの匙加減は僕じゃまだまだである。
僕の書いた文章なんて真っ赤に添削された挙句、原型を留めない状態で世に出回る。いつか僕自身の言葉で僕が見た真実を伝えられればいいなと思う。
───
一人でグランドラインに入って、話題性の富んだ海賊を追いながら情報収集なんて命がいくつあっても足りないと思うのだがそこらへんはどう考えているのだろうか。まったく、こんな無茶な職場だから社員が少ないのだ。
ローグタウンと言えば、海賊王の処刑された町である。せっかくなので、観光してみることにした。道行く人に聞けば、町の中心に件の処刑台があると言われ、そちらの方へ歩いていく。
出てきて以来寄り付きもしていないが、故郷の悪ガキ3人衆の顔を思い出す。中でも一人、小さいころから一応、共に暮らしていたそばかすだらけの少年の顔が心に浮かんだ、年齢もババアの近くに居た人間の中では僕が一番近かったので面倒をよく押し付けられたのだ。
たまに来る海軍中将のガープさんがババアに預けたガキで、何というか擦れたやつだった。中将も何を考えてババアに預けたのだろう、どう考えても失策である。さっさとババアを捕まえてくれればいいのに。
3人でつるむようになってからは少しだけ本来の天真爛漫さが出てきていたように見えた。
そんなに仲が良かったわけではないが、少しほっとした。あの馬鹿から感じる声は孤独や憎しみ、悲しみだとか暗い感情ばかりだったのだ。
そんな声を好き好んでいる人間なんて一握り、僕はその一握りではない、ガキなんで頭空っぽにして遊びまわっていれば十分である。
理由も何となく分かっている、普段の行動や言動を見ていれば相当阿呆でなければ思い至るだろう。町で暴れていた馬鹿を回収してくるのも僕の役目だった。あとは、ババアの愚痴も聞こえていたしな。
元気にやっているだろうか?
ガキどもがつるみ始めてくらいに僕はババアと大喧嘩しあそこを飛び出したので確認しようもないのだが……うん、3人とも元気でやっているといい。憎まれっ子世に憚れりと言うし、あまり心配はしていない。
そんなことを処刑台を見ながら考えていた。海賊王はどういう気持ちで死んだのだろう、当時とんでもないスクープになったのだろうな。彼はその死をもって新たな時代の始まりを作った、それを手助けしたのは世界にその情報をばらまいた記者たちや放送関係者だろう。
一人の犯罪者によって引き起こされた大海賊時代、そのすごさに身震いした。これからの時代を作る人間たちが引き起こす出来事を世に伝え、時代を作る手助けを僕もできるだろうか。
素直じゃないのは母譲り
反抗期の息子、東の海を出る