朱い月の夜に星の女王は踊る *凍結中   作:くるりくる
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仲間

「そんで……アルシェの家の双子の妹さんを連れてきてあちらさんと合流、か?」

「とは言ってもそれだけの人数をて……もう良いわ。転移できるの? 実は一日一回とかそんな縛りあるんじゃない?」

「そうですね……回数制限はあるでしょうがそもそもブリュンスタッド様の力ではなくマジックアイテムの可能性、という線もありますね。アルシェの目には何も見えなかったのでしょう?」

「うん……何も、見えなかった」

 

 街道をゆく四人は”フォーサイト”。彼らが行くのはこの帝都アーウィンタールの中心部から少し外れた場所にある高級住宅街へと向かっていた。そこは貴族や裕福な商人などが住むような場所で、請負人(ワーカー)という非正規の職に就く四人には全くもって関係のない場所。徐々に高級住宅がの整備された街並に入っていくに連れて喧騒が去ってゆく。

 

 レンガで整備されたその道行は非常に歩きやすい。ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイクはその歩きやすさに驚きながらも、困惑の視線をアルシェへと向けた。それに対してアルシェは非常に慣れた足取りで、まるで何度も通っているかのようにスイスイと目的の場所まで進んでいく。

 

 先ほど『歌う林檎亭』の入って貸金庫に預けていた自分たちの財産を回収したアルシェを除いた三人。そしてそこでアルシェの話を彼らは聞くことになった。

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルト、鮮血帝に領地を没収され貴族位を剥奪されたフルト家の長女。それが彼女が”フォーサイト”の仲間に隠してきた彼女の身の上であった。

 

 鮮血帝とは今代皇帝のジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの異名である。

 

 バハルス帝国は元々、リ・エスティーゼ王国と同じ封建国家であったが、2代前の皇帝から、皇帝を主軸とした専制君主制に準備していたのだが、先代皇帝が謎の事故死を遂げた後に当時10代後半であったジルクニフが即位、そして新体制を敷いて数々の貴族を処断していく。

 

 改革があるからこそ保守があり、勿論反対勢力の貴族が多数出ていたがジルクニフが皇太子の時点で帝国騎士団を掌握しており、その絶大な戦力で反対勢力を次々に処刑していった。

 そして母方の貴族を先代皇帝暗殺未遂で断絶し、そのほかの兄弟を葬った。そしてジルクニフの母親は先代皇帝と同じ謎の事故死を遂げる。様々な改革、そして貴族の処断。彼に忠義を尽くすものだけが生き残った中、『無能はいらぬ』という言葉によって多くの家が貴族位を剥奪された。

 

 そこまでなら絶対君主による恐怖政治の始まりであったが、ジルクニフは平民であっても有能であれば取り立てる為、平民の者達からは快く受け入れられており、帝国の活気は隆盛傾向にある。

 

 そして、アルシェの家柄はそんな鮮血帝の改革に巻き込まれた者であったと言うだけの話。

 

 ”フォーサイト”のメンバーは何も言わなかった。慰めも激励も何も言わなかった。ただその目には、何故自分たちを頼らなかったと言う咎めるような視線だけがあった。

 

 それがアルシェには心地よく、同時に申し訳なかった。何故なら彼女は分かっていたからだ。自分の身の上を口にすれば人の良い彼らはなんのかんのと言いながら協力してくれると言うことを。

 

「……ここ」

「おい……ここ、高級住宅地の一等地じゃねぇか。マジかよ」

「年間金貨50枚じゃなかった?」

「とにかく、妹さんを連れて行きましょうアルシェ。あのベルは持っていますよね?」

「うん——ちゃんと持ってる」

 

 頭を抱えたヘッケランと舌打ちでもしそうな顔でこの高級住宅地の一等地の家賃の値段を告げたイミーナを尻目にロバーデイクは顎鬚をさすりながらアルシェに問いかけた。その問いかけにアルシェは擦り切れた茶色のローブの下から小さなハンドベルを取り出して目前にかざす。ベル自体の価値は大したことのない物であった。ただ込められた魔力に応じて大きな音を鳴らすと言うマジックアイテムと呼ぶには些か心もとない物。

 

 ただ、尋常ではないレベルの魔力が込められていると言うだけで。その魔力はアルシェが見たこの帝国最高の魔法詠唱者のフールーダ・パラダインの魔力の数倍はあろうかと言う代物。それが鳴らされればこのアーウィンタール全域に響くであろうことはアルシェには容易く予想がついていた。

 

 一体誰が、そう思うもアルシェは目の前で見せられたのだ。全く魔力がないと思っていたアーキタイプ・ブリュンスタッドが片手間で魔力を注入する姿を。

 

 アルシェの備える生まれつきの異能(タレント)は相手の魔力を見抜くと言うものがある。そして魔力系魔法詠唱者限定で相手の使用できる位階を見抜くことができる目を持っている。そんな彼女だが、アーキタイプの備え持つ魔力を推し量ることも視認することもできなかった。

 

 ただ、理解した。理解したら自分は壊れると。

 

 魔法に傾倒する人間が一生かかっても、命を絞り出して吐き出してもなお吐き出せないような魔力を片手間で差し出せる存在。アルシェはそんな人物知らない。そして理解することを諦めた。アーキタイプ・ブリュンスタッドはそういった頂点に君臨する一握りなのだと受け入れることにした。

 

「それ、もう鳴らしてしまいましょう」

「え——でも」

「私見なのですが、ブリュンスタッド様はアルシェの事を目にかけていると思います。恐らく、幼いながらそういった身の上が同情を引いたか……ですのでここで呼んでおきましょう。きっとご両親の説得に付き合って下さるでしょう」

「そう……かな」

 

 ロバーデイクの安心させるようなその笑みは神官時代に大柄な彼が子供や女性の患者を怯えさせないように身につけた笑みだが、そこには彼生来の優しさが含まれている。だからこそ、その笑みはアルシェに安心感を抱かせた。

 

 思い悩むアルシェであったがそれを後押しするかのようにヘッケランが背中を軽く叩いた。

 

「子供は万国共通で大人の情を引けるもんだ。なら使っとけ! お前はそう言うの難しく考えすぎなんだよ」

 

 ヘッケランの方へと顔を向けたアルシェ。そんなアルシェの両肩に手を置いて、しゃがみこんで視線を合わせたイミーナは目を見て己の思いを告げた。

 

「アルシェ、私たちじゃ力になれないのは分かるわ。でも、一緒にいることはできる。私たちは仲間よ。色んなことを一緒に乗り越えてきた、仲間なの」

 

 仲間と言ってイミーナは優しく微笑んだ。ヘッケランは軽い笑みを浮かべるもその瞳にはアルシェを優しく見守る光がある。それはロバーデイクも同様であり、いつも通りの安心感を抱かせる笑みを浮かべて腕を組んでいた。

 

 それを見て、アルシェの決意は決まった。

 

『使う時は空に投げよ。鼓膜が破れても知らぬぞ?』

 

 アルシェは、ハンドベルを強く握りしめ、思いっきり空へと投げた。

 莫大な魔力を吸収して、大音量のベルが帝都アーウィンタールの空へと響き渡る。

 

「良い判断よ」

 

 その言葉と共に、白き姫が彼らの前に姿を現した。もはや慣れたと、言わんばかりに”フォーサイト”の面々はため息をつく。それは諦めのため息だ。

 

 主人を前にその無礼、そう思ったセバスとユリであったが口元に手を当てて楽しそうに笑いを堪える姿を見せられては咎める気は失せると言うもの。彼らにとって自分の意思や思いよりも主人の意向こそ最も重視するもの。

 

「ふむ……クレマンティーヌ。もう姿を現してもよかろう」

「はいは〜い。と言うわけで初めましてー、アーキタイプ様のモノのクレマンティーヌ・クリスタルティアでーす。よろしくー」

「彼女は新たな私の警護。先ほどまで不可視化のマントを纏っていてな、そなたでも気づけなかったであろう?」

 

 その言葉にイミーナは己のプライドが傷つけられたのを感じるも、この規格外の貴族様に感じてもしょうがないと自身を慰めることにした。彼女が気づけなかったのはクレマンティーヌの隠密が優れていたわけでも不可視化のマントの効果が優れていたわけではない。もう一つのマジックアイテムである意識を阻害するアイテムによってイミーナの意識が無意識にそこから逸らされていた為である。

 

「ではアルシェ、そなたの妹をここまで連れてくると良い」

 

 そう言ってアーキが投げ渡した新しい皮袋には各人が報酬でもらった金貨数十枚に相当する重さがあったが、アルシェは嫌な予感がして固く閉められた皮袋の紐を緩めてその中身を見た。

 

「本当、色々規格外……」

「ふふふ。そなた無表情よりも笑みを浮かべた方が良いぞ? 将来美人になると言うのに、それが台無しになる故な」

 

 アルシェは再び皮袋を硬く縛る。その中には黄金の輝きではなく、白く輝く黄金の硬貨が何十枚と入っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルシェお嬢様、おかえりなさいませ」

「うん……ただいまジャイムス」

 

 いつも通りの丁寧な対応だと、アルシェは思う。背はそれほど高くなく、そして白髪の髪をなでつけているその老年の執事の名前はジャイムス。落ちぶれた没落貴族であるフルト家を長年支え、今でも見放さずに家の世話をしてくれる情の深い人物。

 

 そんな彼だがここしばらく家を空けていた間に一層老けたように見えると、アルシェは思っている。それに気づいているのか、アルシェに向けて優しく微笑むとその視線を彼女の背後へと向けた。

 

「アルシェお嬢様、そちらの皆様はご友人の方でしょうか?」

「うん。友人で……仲間、かな」

「! それはそれは……皆様アルシェお嬢様を受け入れくださりこのジャイムス、大変感謝しております。よろしければ今後ともどうぞよろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げる老年の執事。そこにはアルシェという一人の少女を思いやる優しさが込められていた。それを”フォーサイト”のメンバーはむず痒く思いながらもこちらも世話になっていると、礼をした。

 

「おや、どうやら他にもお客様が——」

 

 そう言ってジャイムスの言葉は止まってしまった。アルシェも無理は無いと、そう思って後ろを振り返る。その美しすぎる容姿を見ては、やんごとなき立場であろう姿を見ては、固まってしまうのも無理は無いと。

 

「初めましてジャイムス執事。私、アーキタイプ・ブリュンスタッドと言う者、本日はアルシェと、その妹君、そしてそなたらこの屋敷の使用人全員に話があって来たのでな。大したものでは無いがこちらを。なんでも帝国一の紅茶の茶葉だとか……もしよければ話の席に淹れてくださると喜ばしい」

「は、はぁ……と、とにかく旦那様を呼んで来ますので少々お待ちを……」

 

 持ち直したとはいえ、どこかぎこちないその歩み。屋敷を入って正面に存在する二階への階段を登ろうとするジャイムスであったがその一階広間に男の声が響いた。

 

「アルシェ、今までどこに行っていた!」

「お父様……ただ今、戻りました」

 

 ジャラジャラと、豪華なアクセサリーに身を包み、毛皮のガウンをまとった壮年の男が現れる。その男こそアルシェの父親である男であった。

 








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