亜種特異点 架空氷丘幻想 アイスエイジに関する記録 作:天城黒猫
どうか、最後までお付き合いいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。
初めに────
さて、私が藤丸立香という一人の男性の記録をこうして書面にしたためようと思ったのは、彼が今までに行った活躍が、我が友が残した活躍と比肩するほどに素晴らしいものであり、この特異点においても同じく素晴らしい活躍を見せるだろうと思ったからだ。また、この文章は凍結したというカルデアに代わり、記録を残すためでもある。もちろん、カルデアスの諸君らにとっては、この記録はとても重要な役目となるであろうから、なるべく起こったことを仔細に記入しようと努力する。しかし、それでも不明瞭なところはいくつか見られると思う。これはひとえに、私が感動的な人間であり、いくばかりかの装飾を文章に加えてしまうであろうからだ。その際には、藤丸立香に──彼が無事に特異点を攻略し、帰還した場合──直接聞きだすか、あるいは我が友──シャーロック・ホームズの鋭い洞察力によって行われる推理によって、その空きを補足してもらうほかないだろう。
なに、彼ならばどうということはないだろう。なんせ、私は彼の仕事の数々を直接この目で見、記録し、新聞に発表したものだから。彼も、私の文章の癖などはすっかり見抜いているだろうし。ああ、我が友ホームズよ、もしも直接会えたのならばそれは喜ばしいことだが、どうやら現在の状況を顧みるに、それは叶いそうにない。君は藤丸立香の話を聞く限り、死後も英霊となり、数々の謎、数々の事件という名の戦場に立ち、自らの直観、知識、推理を武器に戦ってきたのだろう──君に言いたいことはたくさんあるが、やめておくとしよう。これは私が君という友人に対して差し出す手紙ならばともかく、カルデアスという機関の代わりをつとめるための記録なのだから。よって、前書きはこの辺にしておくとしよう。
ハンス・クリスチャン・アンデルセンやウィリアム・シェイクスピアといった文豪の面々と比べれば、私はいささか劣るだろうがそれは許していただきたい。これより私が綴るのは、広大なる氷の大地にて、藤丸立香という一人の勇敢なる男、またこの大地に現れた英雄たちの活躍についての記録である。
この
《カルデアの諸君らと、我が友、シャーロック・ホームズへ。君の友ジョン・ワトソン》
まず始めに言っておきたいのは、私ははじめから藤丸立香と一緒に行動していたというわけではない、ということだ。私は死んだと思ったら、いつの間にか目が醒めていたという感覚なのだ。目が醒めて、真っ先に感じたのは、言葉には言い表せないほどの寒さだった。体の芯をあっという間に冷やし、私はたちまちのうちに、あまりの寒さに体を震わせた。今まで何度も越してきたロンドンの、どの冬よりも寒かったのだ。その時は気付かなかったが、私の体は老人のそれではなく、20、25か、あるいはそれよりも後の年齢か、ともかく、若返っていた。その為、私の頭は素早く回転したし、この寒さから逃れるためにあらゆる行動を行った。
そして、寒さからの回避行動を行った後、雀の涙ほどではあるが寒さもましになったので、私は落ち着いて、自分が置かれている状況を把握しようとした。まず始めに私が行ったことは、周りを観察することだった。周囲には地平線まで見えるほどの、広大な氷の大地が広がっており、曇り空からわずかに差し込む太陽の光が、氷に反射して私の目を照らした。見る限り、人の影どころか人工物などは一切見えなかった。次に、私はなぜこのような場所にいるのかを考えることにした。すると、答えはすぐさま出た。というのも、私の頭の中に、聖杯戦争やら、令呪やら、幾つかの知識が浮かび上がってきたからだ。もちろん、こうした知識は、私が生前に得たものではなく、聖杯というキリストの盃を模倣したものによって、もたらされたということも分かった。そして、私は死んで、この氷の大地にサーヴァントという存在として召喚されたということも分かった。
だが、私が召喚されたというのならば、儀式を行ったマスターなる存在がいる筈なのだが、やはり周囲にそれらしきものは無かった。私はこう言った。
「これは、中々に面倒なことになってきたぞ!」
ああ、せめてこの場にホームズも召喚されていたのならば、彼はほんの僅かな手がかりから、この何もかも不明な状況を打開してみせるだろう。しかし、この場に我が友はいない。よって、私は私なりにこの状況を打開してみせようと、少しの間考え、少しの間、地面を観察してみたが、私以外の足跡や、魔法陣といったようなものは見られなかったので、本当になんの手がかりもないということが分かった。そして、人と出会えることを願い、この場から移動を行うことにした。
私は、曇り空ではあるものの、太陽の位置だけは分かったので、その輝きの強さから今の時間を推測し、太陽の位置からして、恐らく南の方向に歩くことにした。しかし、太陽が目に見てわかるほどの動きを見せても、人の気配といったものは一切見えなかった。すでに私の足は、くたびれており、歩くのが辛くなってきたので少しだけその場に座って休むことにした。そうして、10分ばかりも休んでいると、突然、私の前から数メートルほどの位置で、氷の床が盛り上がった。地面の下にいた者が外に出ようとしていたのだ。現れたのは、2メートルほどもある巨体で、全身は真っ白で、太った人間のようなシルエットではあったが、全身に体毛が生えていたり、目の数が人間のそれと違ったりとしいた。私は叫んで、跳ね上がった。
「怪物だ!」
その声に反応したのか、その怪物は私へと手を伸ばしてきた。私はすかさず、ポケットに銃が入っているのが分かったので、それをつかって攻撃を加えた。弾丸は、5発放たれ、それらすべてがその怪物に命中した。しかし、怪物は止まるようなことはなく、それどころか怒った様子であった。私は踵を返して、その怪物から逃れようと走り出した。怪物もまた、私を追いかけてきた。幸いというべきか、私のほうが怪物よりも足が早かったので、捕まるようなことはなかった。しかし、私はずっと歩いていたので、体力の限界がすぐに来たのであった。そして、体力が減るとともに、走る速度も少しずつ遅くなってきて、とうとう怪物の手にかかるといった状況であった。私は振り返り、弾丸がなくなるまで、怪物に銃を放った。やはり、怪物に効いた様子はなかった。もはやここまでかと諦めの心が、私の中にかすかに浮かび上がってきたところだった。
「そこまでですよ」という声が、私の背後で聞こえた。
私は振り向いた。四角い、黒色の
「大丈夫ですか? ああ、あなたもこの宮殿に召喚されたようですね。クラスは……いえ、止めておきましょう。どうやら、あの竜巻から召喚されたわけではなさそうですしね。さ、オートマタよ。始末して差し上げなさい」
とその男の命令を受け取ったマネキンは、風のように飛び出し、怪物に攻撃を加えていった。しかし、怪物も抵抗をし、お互いに傷つけあい、その果てにどちらも倒れてしまった。それを見届けた男は、つぶやいた。
「ホムンクルスと互角ですか。やはり、オートマタの制作は私には向いていないようですね。目標の性能の10分の1すらも出せていないようですし。さて、大丈夫でしたか? ああ、少なくとも私は敵ではないので、ご安心を」
と彼は私に手を差し伸べた。私はその紳士の手を取ると、例を言った。それから私は彼に次のような質問を投げかけた。
「助かりました、ありがとうございます。──あなたは、サーヴァントなのですか? 私はどうにも、ここに召喚されたはいいのですが、何が何だかさっぱりなのです」
「そうですか。……そうですね、あなたは人類に仇をなすような存在ではなさそうですし、この宮殿に召喚されたのならば、何かしらの役割を持っていることは明らかです。ひとまず、真名をたずねてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですとも。私の名は、ワトソン。ジョン・ワトソンです。職業は医者を。あなたは?」
「私は──そうですね、私の場合は真名が知れると、何かと都合が悪いので、申し訳ありませんが名乗ることはやめておきましょう。ですが、それでは私を呼ぶのに不便ですからね……そうですね、では帝都のキャスターとでも名乗らせていただきましょう。ああ、それと真名を名乗るのはなるべくやめておいた方がいいですよ」
と帝都のキャスターと名乗った男性はほくそ笑んだ。私は、見事にしてやられたことにこのとき始めて気が付いた。しかし、かろうじてだが、そのことについて顔に出すようなことは無かった。彼は踵を返して、歩き始めた。彼は背中を見せながら言った。
「立ち話もなんでしょう。ここでは色々と危険も多いですから、私の根城へとご案内しましょう」
この恐喝王にも似た、きわめて油断ならない雰囲気を浮かべる相手についていくほか、今はほかに良い考えも浮かばなかったので、私はこの油断ならない紳士の跡を、注意を払いながらついていった。その最中にあったことといえば、先ほどのように白い怪物が時折雪の下から現れて我々に襲い掛かるぐらいであった。しかし、それらはすべてこの帝都のキャスターの力によって撃退された。他には、これといったこともなく、あたり一面、なんら変わり映えのしない氷の大地が広がるのみであった。しかし、そうした光景も、歩き始めてから1、2時間ほど経ったとき、始めて変化が訪れた。というのも、我々の目の前には巨大な、石造りの壁が現れたからだ。その壁の高さは10メートルほどもあり、横には氷の大地と同じぐらいに果てしなく伸びていた。この地に召喚されてから、初めて見た人工物を発見すると、私は少なからぬ安堵を覚えた。この建造物はかなり古い時代のもののようで、石の表面にはいくつかの汚れやらひび割れやらが見られた。この建造物こそが我々の目的地であったのだ。
帝都のキャスターは、私をその中に招き入れた。内部もまた、外見と同じように古ぼけており、明かりといえば壁に設置されているロウソクの頼りないもののみであった。また、人の気配も全くせず、埃だらけで、暗く、いささか居心地の良い場所とは言えなかったが、外の寒さと比べるといくらか温かく、快適であることは間違いなかった。彼の言われるがままに、私は一つの部屋に案内された。その部屋には、ベッドが一つと、物を置くための小さな机に、椅子、その他には服などを収納するための家具ぐらいしかなく、また薄暗いのも手伝って、殺風景で、薄ぼんやりとした部屋であった。良く耳を澄ますと、どこかで水のしずくが落ちる音が聞こえた。
「おや、帝都のキャスターどの、お帰りでありますかな?」とその部屋の隅から声が聞こえた。その声は年老いた男性特有のもので、唸り声を思わせるようなものであったが、どこか優しい印象を感じ取られる声であった。私は、その声の主を見つめた。彼は部屋の端にある木箱の上に座っていた。
やはり、老人であった。ずっと日に当てられたことによって、乾燥し、傷んだ白い髪や、まぶたやあごを覆い隠すほどに長く伸びた眉やひげをたくわえており、これまた元は輝かしい赤色だったのだろうが、日焼けしたことによって暗い、ほとんど茶色に近い赤色の軍帽、帽子、そしていくつものつぎはぎが当てられた、軍服と同じ色をしたマントを羽織っていた。彼の肌は、とても日焼けしており、また老人ということもあって枯れた木のような茶色をしており、その枯れ木のような手は、杖のかわりなのか、サーベルの柄の上にのせられていた。
「お若いの、その男は胡散臭いでの、あまり関わらないほうがよかろう。ともかく、おぬしも儂と同じ存在のようじゃの。ひとまずはようこそよ言っておこう。儂は、シールダー。氷海のシールダーと名乗らせてもらいますかの。さ、おぬしは善か? それとも悪か? もしも後者なのならば、この剣の錆にするか、あるいはそこの壁に立てかけてある銃剣の餌食になるかじゃ。じゃが、前者ならば、儂はおぬしを歓迎するであろう」
「私は法に属するものです」と私は返答した。「サー・シールダー。私は常に法の味方であり、法を破る悪党どもの敵です」
私の答えに満足したのか、シールダーと名乗った老人は微笑んだ。
「よろしい。ならば、おぬしは儂らの味方でありますの。さて、キャスター殿、この若く、たくましい男を紹介してくれたまえ!」
「ええ、了解しました。彼の名はワトソン、ジョン・ワトソンです。さて、ワトソンさん、こちらは氷海のシールダー。私と同じくこの地に呼ばれたサーヴァントです」
「おや、真名を明かしてしまったか。まあ、その男相手では無理もなかろう。ようこそ、ワトソン殿。あの名探偵の友と出会えるとは光栄でありますな。ようこそ、この砦──名は不明ですが、儂は『氷海のアジト』と名付けております──に。いささか寂れておりますが、何、この砦にいる限り身の安全は保障しますし、身の不自由も感じさせないじゃろうて」
「ええ、ジョン・ワトソン。しがない開業医ですが、よろしくお願いします」
と我々は握手を行った。この老人の様子からして、彼は善人であることには間違いなかったので、ひとまずは彼を信用することにした。それからは、私に部屋が与えられ、詳しい話は、体を休めるためにも夕食時に行うということだったので、私はこの砦をうろつくことにした。
この砦の年代がどのくらいのものであるのかは、私の知識ではついぞ特定することはできなかった。──君ならば、きっとすぐに特定できたであろう──しかし、私が生きていた時代よりは古いものだということは何となくだったが、理解できた。そして、やはり軍用のものであるらしく、砦のあちこちに武器が置かれており、兵士の私室や、会議室、医療室といった部屋も見られた。そうした部屋はいくつもあったが、私と帝都のキャスター、氷海のシールダー以外の人間がこの、巨大な建造物にいる気配はなかった。次に、屋上──すなわち、兵士たちの見張り台に上がってみることにした。そこは、おそらくこの砦で一番高い場所ではあったが、あたり一面には、はやり氷の大地しか見えなかった。水平線の向こうまで、氷床が果てしなく続いていたのであった。そして、この砦も同じく、その氷の大地を横断しているのだろう、果てしなく横に伸びていた。私はしばらくの間、この冷たい世界を眺めていた。すると、ある方向に、小さくだがあるものが見えた。それは、白く、上に細長く伸びていた。私はそれに目を凝らしてみると、それが竜巻であるということが分かった。
「ワトソンさん、何か面白いものでもありましたか?」といつの間にか、私の隣に立っていたキャスターは言った。私は驚いた後、竜巻の事を指摘した。すると、彼は言った。「ああ、アレですか。アレはここからでは小さく見えるものの、近くに行ってみるとかなり巨大な竜巻なんですよ。半径100メートルはありますかね? あの竜巻はずっとあそこにあって、動くことはありません。今のところはですが。ワトソンさん、くれぐれもあの竜巻に近づかないように──あれはその風の強さもそうなのですが、風がいくつもの、鋭く硬い
私は振り向いてみた。すると、確かに彼の言った通り、人が二人こちら側にやってくるのが見えた。私たちは、しばらくその人間がどのような身なりをしているのか、またどのような人物であるのかを見定めるために、彼らがこちらにやってくるのを観察することにした。
どちらも年若く見え、片方は男性でもう片方は女性であった。人種は、男性の方はアジア人らしく、もう片方はアメリカ辺りの人間のように見えた。男性の方は黒髪であり、白い服装の上に灰色のコートを羽織っていた。女性の方は、ピンク色の髪、緑色の目をしていた。彼女は鎧といっていいのだろうか、鎧と呼ぶにはいささか不格好な、金属製の防具を身に着けていた。その形状は、騎士が身に着けるようなものではあったが、手入れがされていないのか、ところどころが茶色に錆びていたり、
「──このような頭上から失礼します。私は帝都のキャスターと名乗らせてもらいます。ようこそ、星見の魔術師殿。そして、また我々と存在を同じくする者よ。我々は、あなたをお待ちしておりました」
オリジナル特異点は一度書いてみたかったです。こんな感じでやっていきます。