亜種特異点 架空氷丘幻想 アイスエイジに関する記録 作:天城黒猫
我々砦の内部にいたものたちは、来訪者たちを出迎えるために砦の門へと移動した。すなわち、私と帝都のキャスター、そして氷海のシールダーである。2名の来訪者を砦の中に招き入れると、男性は「ありがとうございます」と頭を下げた。彼の第一印象は、優しく、人の警戒心を解かせるような雰囲気を漂わせていた。氷海のキャスターは言った。
「いえいえ。私こそ、あなたをお待ちしておりました。私は帝都のキャスターと名乗らせてもらいます。カルデアのマスターよ。さっそくですが、お名前を伺っても?」
「藤丸立香です」と彼は答えた。
「そうですか、では藤丸さんと、そちらのサーヴァントも、長い間外を歩いていたと見えます。ここで立ち話もなんですし、もう日暮れ時です。どうですか? ご一緒に夕食を食べながら話をしませんか?」
「わかりました」と少年は頷いた。しかし、彼の横に控えていたサーヴァントが、このときはじめて発言した。彼女は、明らかに私たちを警戒しているのが伺えた。
「お待ちください、彼らを信用していいものか──彼らが敵なのかもしれませんよ」
「大丈夫だよ、ランサー」と立香は言った。「この人達は、いい人だと思う」
「その思想は危険です、リツカさん。私はあなたと最初に出会い、あなたと行動を共にしているだけで、味方とは限りません。そして、彼らもまた、あなたの味方とも限りません。リツカさん、彼らはあなたの味方だと騙し、あなたを害しようとしているのかもしれません。この地では、全てが敵だと思ったほうがよろしいでしょう」
「忠告ありがとう。けれど、大丈夫だよ」
そうした少年の言葉に、氷海のシールダーは突然「ホ、ホ、ホ!」と笑い、眉毛の下から見えるくすんだ茶色の目を細めながら言った。
「ほう、儂らを信用するか。うむ、確かにそこのサーヴァントの言う通り、現時点で誰が敵で、誰が味方なのかは分からないであろう。じゃが、うむ、うむ! 流石でありますな、少なくとも儂がお主らの味方であるということを保証することはできぬ。しかし、現時点では、儂らは人類の守護者であるということは確かでありますぞ。それ、信用できるできないと言っていては、何もできないじゃろう。ささ、ひとまずは食事を。腹を空かしていては、気力も体力も蓄えられんじゃろう」
「よろしくお願いします」と立香はお辞儀をし、サーヴァントに言った。「それでいい?」
「仕方がありませんね」とそのサーヴァントはため息を吐いた。
「私はリツカの身を守るという契約を結んでいます。あなた方が、リツカの身に手を出そうとしたら、私も容赦はしませんので。真名を明かす事はできませんが、氷海のランサーと名乗らせていただきます」
こうして、私たちはお互いに自己紹介をすますと、食堂へと移動した。料理は氷海のシールダーが作ったようで、簡易的なパンやスープといった、いかにも軍人らしいメニューであった。私たちは食事をしながら、話を始めた。初めに立香についての話を聞くことにした。彼の語る内容をまとめると、次のようなものであった。
いくつかの特異点を乗り越え、世界を救い、逃亡した4体の魔神柱達を全て討伐した藤丸立香は、カルデアの
「先輩! ああ、よかった。無事だったんですね……! 他のサーヴァントたちは皆、あの氷の中に閉じ込められました。ダ・ヴィンチちゃんもです! 勿論、職員の皆さんも、カルデアスも氷の中に! 私は無事だったので、こうして先輩を探し回っていたんです。さ、先輩、こっちです! こっちならば、まだ氷が来ていません!」
こうして、彼らは氷から逃れようとして疾走を開始した。しかし、ついには行き止まりに追い込まれ、マシュは盾を取り出して立香の壁となって、少年を氷から守ろうとし、やがては凍り付いてしまったという。その折、ダクトからホームズが現れ──正直、君がいると聞いたときは驚いた──立香にこう言った。
「やあ! 私の推理によると、ここに逃げ込むと思って、こうして氷から隠れるためにダクトの中に潜んでいたんだが、うむ。どうやらこうなってしまったようだ。何、事態は極めて
こうして、藤丸立香は気が付くと、私と同様に氷の大地に立っていたという。そして、その後はこれまた私と同じように、氷のゴーレムに襲われたところを、氷海のランサーに助けられたそうだ。少年は、彼女に礼を言い、事情を説明した。彼女はこう答えた。
「この程度、騎士としては当然の行為です。ええ、あのゴーレムはきっと、恐ろしい大魔術師によってつくられたゴーレムだったのでしょう。天文台の魔術師よ、ひとまずはようこそと言っておきましょう。私は氷海のランサー……真名は明かせませんが、こう名乗らせてもらいましょう。他のランサーと区別する為にも。さて、ここは人間が立ち入ることのない未開の大地──すなわち、人間によって未だ征服されておらず、人理の存在しない場所、北極です。
さて、相談ですが、あなたはこの特異点を攻略しようとしていますね? そして、私も同じように、私自身の目的のためにこの特異点に潜む黒幕を仕留めなければなりません。そこで契約を結びましょう。目的は同じと言えましょう、ですが、私は野良のサーヴァントであり、色々な事情によって魔力に不安を覚えます。リツカ、あなたは身を守らなければなりませんが、サーヴァントや魔物たちと戦えるほどの力は無い。そこで、リツカ、あなたは私に魔力を提供し、私はその代わりにあなたを守ります。どうでしょうか? 魔力については、カルデアスからの提供は無いようですが、その3画令呪の中には魔力は十分あるでしょう。さ、決心を」
こうした彼女からの提案に対し、立香は「よろしく、ランサー」と答えた。氷海のランサーもまた、「ええ、よろしくお願いします。リツカ。私は一人の騎士として、あなたをあらゆる脅威から守り抜きましょう」と彼の手を握った。
それから、彼らはこの氷の大地を探索し、結果我々がいる砦を発見して、ここまで来たという。
こうした藤丸立香、そしてカルデアについての話を聞き終わると、次に帝都のキャスターが話し始めた。
「なるほど、大体の事情は分かりました。少なくとも、私たちはあなた方に害をなすことはありません。いいえ、それどころかこの砦ならば、安全といえるでしょう。この特異点を探索する間は、この砦を
さ、まずは私の事について話しましょう──少なくとも、この特異点に最初に召喚されたのは、私のようですからね。まず、敵についてですね。敵はすでに分かっています。先ほど聞いた魔神柱は、──その名は不明ですが──確かにこの特異点に潜んでいます。しかし、場所は不明です。なぜそのことが分かるのかというと、私はその魔神柱を直に見たからです。最初、魔神柱にどのような目的があったのかは知りませんが、この大地には2体の怪物がいました。一つは魔神柱、もう一つは巨大な生物でした。その姿は、戦いの余波が激しくわかりませんでした。彼らはこの分厚い氷の大地を粉々に砕き、底に見える程の激しい戦いを繰り広げていました。しかし、その戦いに3体目の怪物が乱入しました。それは、私の次に召喚されたであろうサーヴァント──真名はわかりませんでしたので、『氷海のアーチャー』と呼ばせていただきます──です。彼は、すさまじい破壊力を持つ宝具、すさまじい膂力によって、2体の怪物を傷つけ、その場から追い払いました。しかし、同時にアーチャー自身もまた、深い傷を負い、消えていきました。
さて、その次に現れたのが、この砦の向こうに存在する、氷礫の竜巻です。あの竜巻がどのようなものか、私は調べようとしましたが、結局はその風圧と、破壊力によって阻まれてしまい、調べることは叶いませんでした。そして、次に召喚されたのは、──これも、真名はわかっていないので、『氷礫のバーサーカー』と呼びましょう──氷海のバーサーカーでした。彼女は、竜巻の内部から現れ、私を排除しようと襲い掛かりましたが、私は何とか逃げ出す事ができました。彼女は、それ以来はどこにいるのかは不明です。そして、竜巻の内部から次に現れたのは、『氷礫のライダー』です。彼の目的は不明でしたが、この砦、竜巻とは反対側の場所に巨大な船を置き、そこを根城としています。そして、私はしばらくの間この氷の大地を彷徨っていました。その折、この砦を発見し、氷海のシールダーと同盟を結びました。お互い手を出さず、お互いの身を守るという契約内容です。そして、最後に現れたのがあなた方というわけです。
さあ、どうでしょうか? 藤丸さん。あなたはこの特異点のどこかに潜む魔神柱を発見し、彼を倒すのみです。ですが、残念ながら我々の戦力は不足しているといえましょう。私自身、多少の魔術ならば取り扱えますが、サーヴァントや魔神柱とまともに戦うほどの力はありません。シールダーも同じです。ランサーの実力も不明ですが、おそらくは厳しいでしょう。そこで、残りのサーヴァント……いるかどうかはわかりませんが、彼らの力を借りて魔神柱を見つけ出し、討伐すればよいのです。この砦を拠点としつつ、この魔神柱が潜む氷の神殿を探索し、味方となるサーヴァントを見つけ出す。ひとまずは、それがあなたにできることでしょう。──まあ、私の話を信じるかどうかは別ですが」
こうした帝都のキャスターの話に、藤丸立香は頷き、明日から彼が提案した通りの行動を行うことを皆に言った。彼の話が終わるごろには食事はすべて食べ終えていたので、その場で解散となった。帝都のキャスターは工房へ、藤丸立香と氷海のランサーは与えられた部屋へと移動した。この折、少年を守護するためにも、ランサーは彼と同じ部屋で構わないと言った。残った私とシールダーは、食事の後片付けを行うことにした。その最中、老人は私に言った。
「ワトソン博士、すまないのう。片づけを手伝ってもらって。体も疲れておるじゃろう?」
それに対し、私は答えた。
「いいえ、そんなことはありませんよ。なぜか、この体になってから、幾分か頑丈さを持っているようですし。それに、生前もホームズの無茶に色々と突き合わされてきましたから、この程度ならばどうということはありませんよ。あの藤丸少年も、同じように片づけを手伝おうとしましたが、あなたの『疲れておるじゃろう。今は休むべきじゃ』という言葉によって、少々遠慮がちにしていましたね。ですが、彼と違って、今の私は疲れ知らずの身です。どうということはありませんよ」
「そうか。そうじゃのう。ホ、ホ、ホ! いやはや、儂は興奮しております。この腰が曲がり、まともに戦うことのできない身で召喚され──いえ、違いますな。儂は召喚されること自体が奇跡のようですしの。どうやら、この特異点にはホームズ殿が言った通り、人理が存在せぬようじゃ。ゆえに、人の信仰も関係ないようですじゃ。何があっても不思議ではありますまい。さ……もう片付けも終わりでありますの。夜は長い……途方もなく……お主も体を休めるのが良いでしょう」
私たちは片づけを終えると、すでに日も完全に落ちていたので、自分の部屋に戻った。そこで、私はカルデアに君が召喚されているということ、そしてカルデアの現状を聞いて、この記録を行うと決心し、さっそく作業に取り掛かったのである。
次回は明日か明後日に投稿します。
次回予告!
【氷上の船】