亜種特異点 架空氷丘幻想 アイスエイジに関する記録   作:天城黒猫

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氷礫のライダー

 朝になり、私たちは朝食を済ますと、藤丸立香は早速あの氷の大地を探検するために、コートを羽織り、自分の体の調子を確認した。彼の付き人は、特にこれといった支度は行わず、シャツの上には鎧のみという装備であった。彼は言った。

 

「そんな恰好で寒くない?」

「問題ありません」とランサーは答えた。「私の肉体は竜よりも強いですから。それに、今はサーヴァントの身。この程度の寒さならば、どうということはありません。もちろん、我が槍が鈍ることもありません」

 

 そうした彼女の答えに、彼は称賛の言葉を送り、彼女は頬を染めた。そうしたやり取りを終えると、氷海のシールダーは彼に言った。

 

「すまんが、儂はこの砦から離れたくないのじゃ。だから、お主についてゆくことはできん。少なくとも、この砦にいる間ならば、身の安全は保障されるじゃろう。何かあったら、すぐに帰ってくるのじゃ」

 

 続いて、帝都のキャスターが言った。

 

「そうですね、私もやることがあるのでこの砦から離れることはできません。ところで、あてもなく彷徨うというわけではありませんよね? この氷の大地はかなり広いですよ。そんな場所をなんのあてもなく歩くのは、はっきり言って自殺行為ですから。

 ……そうですね、ひとまずは氷礫のサーヴァントたちを当たってみたらどうでしょうか? まあ、彼らが味方になる可能性は薄いですが。どちらも激しい気性を持った人物です。バーサーカーの居場所は不明ですが、ライダーの居場所ならばはっきりしています」

 

 と彼は、藤丸立香に氷礫のライダーの居場所を教えた。

 それは、この砦から数キロ離れた場所であり、半日も歩けば十分に往復できるといった距離であった。私はとりわけ残るような理由もなく、また君にこの特異点の記録を伝えるためにも、彼の跡をついていった方が良いだろうと判断し、彼についていくことにした。

 藤丸立香は、砦に残るもの達に挨拶をすると、ランサーと共に歩き始めた。途中、地面から、あの白い怪物──ホムンクルスというらしい──や氷のゴーレムなどが出現したが、それらはランサーによってすべてねじ伏せられた。彼女の武器は、彼女の背よりも高い、銀色の馬上槍(ランス)のようで、この槍も鎧と同じくあまり手入れがされていないのか、少し錆びていたり、鈍い光を放ったりしていたものの、彼女の膂力はすさまじく、どれも槍の一振りで怪物たちを仕留めていた。しばらくの間、こうした怪物たちの襲撃がなくなると、立香は言った。

 

「ランサー、大丈夫?」

「ええ、問題ありません」と彼女は答えた。「リツカ、我が身はサーヴァントです。そして、私は誰よりも強く、誰よりも逞しい大英雄なのです! それこそ、あの円卓の騎士と肩を並べることが……できるかどうかは、実際わかりませんが、それでも私は強いのです。そう、誰よりも強く、誰よりも勇敢。竜や悪魔にも恐れをなさず、突撃し、屠るのが私という騎士なのです。この氷海のランサーの実力は、確かなものです。ですから、どうか我が実力を疑わないでほしい。それは、私にとって侮辱だ。さあ、船が見えてきました。あれですね」

 

 と彼女は向こうを指さした。その先には、彼女が言った通り、氷の大地の上に船があるのが見えた。見たところ、その船は巨大な三角帆をした、ダウ船であり、そのタイプの船としてはかなりの大きさであった。彼らは慎重に、その船へと近づいていった。そして、船まであと百歩ばかりのところで、船の上に人影が現れた。その人物は、頭に一つの羽をさしたターバンを巻いており、頭髪の色は白で、よじれていた。その髪の隙間から見える目は鋭く、強い光を放っていた。服装はスルタンとアラビアの物が混ざったような恰好であった。すなわち、上着を羽織り、ズボンは膨らんでいるような服である。彼は、船の上から私たちを見下ろし、高笑いをしながら言った。

 

「クハハハハハ! よくぞここまで来たな! 藤丸立香! そして、この氷の宮殿に招かれたものたちよ! オレは、そうだな、貴様ら流に、『氷礫のライダー』とでも名乗らせてもらおう!」

「巌窟王────!」と藤丸立香は驚いたような、戸惑っているような表情を浮かべて言った。

 

「巌窟王? オレはそのような人物は知らん! そう、オレはいくつもの海を駆け、いくつもの手ごわい敵を打ち倒し、山ほどの財宝を手にした男──七海の覇王なり! さあ、貴様らの目的はなんだ? このオレに言ってみるが良い!」

「オレに協力してほしい」

「ほう? 協力ときたか! だが、それは不可能だ! オレはあの竜巻の内部にて召喚されし者故にな! すなわち、人理にあだなす者故に! だが──そうだな! どうしてもと言うのならば、このオレにその力を見せて見せるが良い! 結果次第では考えてやらないこともない!」

「いいでしょう、リツカ。下がっていてください」とランサーは武器を構えた。

 

「リツカ、見ていてください。私はあの巨大な魔物と、それを自在に操る恐るべき魔王を見事打ち倒してご覧に入れましょう!」

「良いだろう! 小娘──ランサーよ! その宣戦布告、しかと受け取った! かかってくるが良い!」

「ランサー、頼んだ」と立香は言った。

「はい、お任せください! 氷礫のライダーよ! 我が真名は事情あって名乗れぬが──この氷海のランサーがその挑戦、受けて立とう! 挑発されて、乗らないとなれば騎士の名折れ! 我が槍にかけて、我が契約者であるリツカに勝利を授けよう! いざ、いざ! 私という英雄をとくと味わうが良い!」

 

 と彼女は高らかに叫ぶと、片手で彼女の伸長を超える、長い槍を持って船へと突進した。彼女は船の壁を駆け上り、あっという間に甲板へとたどり着いた。そして、休む暇もなく槍をライダーへと突き出した。しかし、彼はそれを躱し、拳や蹴りといった体術で彼女に応戦した。二人の動きは素早く、どちらも甲板の端から端へと移動しながら戦っていた。

 お互いの実力はほぼ互角に見えており、手数なども拮抗していた。しかし、その状況はライダーが剣を取り出したことによって崩壊した。すなわち、彼は腰にさしていたククリ刀を抜くと、攻勢はライダーが有利なものとなった。彼の剣の実力はなかなかのものであり、君のフェシングと比べると、どちらが上なのだろううかと考えてしまうほどであった。ランサーの体には、少しずつ切り傷が増えていった。それを見た少年は叫んだ。

 

「ランサー!」

「問題ありません!」と騎士は返答した。「言ったでしょう、リツカ。どうか、私の実力を疑わないでください──どうか、私を弱者だと思わないでください。私は強い。誰よりも勇敢で、誰よりも強靭で、誰よりも素晴らしい騎士なのですから!」

「ふん、騎士ときたか!」とライダーは言った。「確かに、その実力はかなりのものだ。しかし、どこか(いびつ)だ。貴様の戦い方は、ほぼ我流の荒々しくも、洗練されたものだ。しかし、その身の振る舞い方には、違和感を覚えるぞ! ……そうか、そういうことか! なるほど、そのようなカタチもあるのか! あの領王と同じ──いいや、貴様の場合はそれよりもタチが悪いな!」

「我が真名を見破るか? ライダー!」とランサーは激昂した様子で叫んだ。

 

「フ、ク、ハハハハハハ! ああ、見破ったとも! 貴様のその姿! その槍! その戦い方! なるほど、面白い! よろしい、戦いはここまでとする! 結論を言い渡そう。氷海のランサー、そして立香よ! 不合格だ! その力では、オレと協力することは能わず! 今の貴様の実力では、たとえオレの協力があっても、敵を打ち倒すことはできないだろう。今日は回れ右して帰るがよい! だが、オレは海を駆ける船乗りであり、冒険者だ。海は毎日様子が変わり、船乗りもまた毎日気分を変えるものだ」

「私に力が無いと言うのか? ライダー!」とランサーは叫んだ。彼女の目は大きく見開かれ、歯ぎしりをしていた。それは怒りに包まれている人の特徴であった。

 

「侮辱だ! 私を侮辱するか! 許せない──訂正せよ──私は騎士だ──誰よりも強い──勇敢で──竜や悪魔を軽々と屠る──」

「そうではない。貴様は未だ全ての力を出していないだろう。そう、宝具だ! だが、貴様には宝具を使う気持ちは無いのだろう? そうだろう? 道化の騎士よ!」

「黙れ、黙れ! 宝具などという──人々より押し付けられた汚泥など、私は使う気はない! ああ、ライダー! 貴様は、何としてでもここで打ち取ってくれよう! この悪魔め、この恐ろしい魔王め!」

「このオレを悪魔と呼ぶか! ああ、確かにそうだろう。我が霊基は復讐の化身であり──いくつもの冒険を求める! 我が旅にどのような危険が付きまとおうと、オレは決して航海をやめることはない! その欲望は、まさに悪魔的だとも! ともかく、今日はお帰りいただこう──」

 

 とライダーは笑みを浮かべた。彼からは尋常ならぬ気配がにじみ出ていた。その気配というのは、魔力であり、宝具を使う前兆であった。私は思わず身震いした。そして、藤丸少年は叫んだ。

 

「ランサー! 防御を!」

 

 こうした彼の言葉に、騎士は怒りから目を覚まし、船から飛び降りて少年の体を抱え、衝撃に備えた。

 

「碇を上げろ! 帆を広げろ! 風を受けて進め! この荒波、乗り越えてみせろ! 我が旅路の始まり(ファリア・トレゾール)!」

 

 氷の大地の上で、その役目をなさないと思われた船は、氷の地面からたくさんの水が噴き出したことによって、船としての働きをしっかり行った。そして、大量の水が私たちをその場から押し流していった。気が付いたときには、ライダーの船があった場所からは遥か遠くまで移動しており、背後には拠点が見えた。藤丸少年は、ランサーによって、びしょ濡れになっていたものの無事であった。少年が目を覚ますと、ランサーは頭を下げた。

 

「リツカ、申し訳ありません。私の実力不足です」

「そんなことはない」という彼の言葉に、彼女は頭を上げた。

「ランサーは強かった」

 

 そうした彼の言葉に、ランサーはしばらくの間呆然とした様子だったが、たちまちのうちに笑顔を取り戻し、頷いた。

 

「はい! ありがとうございます! 次こそは、必ずやリツカに勝利を約束しましょう!」

「うん。期待しているよ」

 

 こうした彼らのやり取りを見ていると、私は彼らが出会ってから間もないというのに、その間には確かな信頼関係が築かれているということを理解した。こうした技をなせるのは、藤丸立香という人間の性格によるものか、あるいは氷海のランサーの、騎士としての誇りによるものなのか──あるいは両方によるものなのだろう。

 この日は、氷礫のライダーの元へ行くのはあきらめ、残りを城塞の中で過ごした。

 藤丸少年と、ランサーの二人はいつも一緒に過ごしており、彼らは与えられた部屋で過ごしたり、城塞の中を探索したり、キャスターやシールダーと会話を交わしていた。そうした中でも、とりわけ印象に残ったのは、シールダーとの会話であった。その内容は、少年が、老人に対してどのような英雄なのかを聞こうとした時のものである。シールダーは、その問いかけにこう答えた。

 

「儂がどのような英霊なのかじゃと。そうですな、儂が真名を伝えることができない理由の一つに、この儂自身は生前に何かしらの行動を起こしたというわけではない、ということがあります。しかし、儂は儂の一生が形となって、英霊となりました。儂は、それを恥としています。儂自身の人生は、決して誇れるものではありませんでした。それゆえに、儂は儂の真名を知られたくないのであります。他の英霊の方々は、きっと素晴らしく、華々しい人生を送ってきたことでしょう……ですが、儂にはなにもないのじゃ。『()()()()()()()()』それが、儂という英霊なのですじゃ。本来ならば、召喚されることもない存在であります。

 こうして、ほかの英霊たちと同じ大地に立つことすらも烏滸がましい……儂は自らの人生を呪っております。しかし、どうにも自害してこの場から離れようにも、自害することもできない臆病者なのですじゃ……」

 

 こうした彼の言葉に、少年はいくつかの言葉を投げかけた。すると、老人は笑顔になった。しかし、少年の背後に立っているランサーは、どことなく複雑そうな表情を浮かべていた。その後、少年はキャスターの元まで移動した。彼はこの城塞に設けられた、魔術師の工房にいた。その工房では、私を助けた自動人形(オートマタ)が大量に生産されていた。それらは、この広い大陸を探索する為につくられたものであり、彼らが見聞きした情報は、全て氷海のキャスターの元に届けられるということだった。藤丸少年は、シールダーにもそうしたように、この魔術師がどのような英霊なのか、情報を得ようとした。それに、キャスターはこう答えた。

 

「私は……そうですね、正体を知られると──とりわけあなたのような時代の人間に知られると──かなり致命的な英霊でしてね。基本的に、真名を明かす事は出来ません。ですが、一つだけ。この特異点は北極です。それも、あなたがた人間がまだ踏み入ったことのない時代の北極です。これは、この地に人間の理が存在しないことを意味しています──それゆえに、この大地ではなんでもアリなのです。つまり、核となるものさえあれば、どのようなモノであろうとも、英霊として召喚される可能性が高いのです。この私もそういう英霊ですし、そこのランサーも、あのシールダーも、あのライダーも、あのバーサーカーも……どれもこれもが、()()()()()()である可能性は高いです。……しかし、一つ気がかりなのは、逃亡した魔神柱一体だけで、過去の北極を特異点と化するほどの力があるのかどうか、ということですね。いえ、それについての議論はやめておきましょう。すでに、こうして特異点が発生しているのですから。

 ここは北極──世界で最も寒く、広い大陸です。気温はマイナス90度を超えるときもありますし、ブリザードが吹雪くこともあります。そして、広さはアメリカ大陸の1.5倍、日本の37倍の大きさだと言われています。この大陸は過酷ですよ。おそらく、あなたが今までに旅をしたいくつもの特異点よりも、環境という意味ではここが一番過酷でしょう。体を休めるときには、休めておくべきです。今日は食事を食べて、ベッドで眠るのをおすすめいたします」

 

 彼の話が終わるごろには、ちょうど夕食の時間だったので、私たちは食事をすると、各々解散となった。今日一日、彼らの様子を観察していて、わかったことは、藤丸立香という少年は極めて英霊との親和性が高く──人たらしとでも言うべきか──その目には、強い意志の光が宿っている。それがどのような意味の意志なのかは、まだわからないが、その意志が彼を支え、ここまで生き延びらせることができたのであろう。そして、氷海のランサーは、少々粗末な恰好をしているが、騎士と名乗るだけあって、その様子は確かなものであった。契約相手との、契約内容を守ろうとし、常に彼に着きっきりでいるし、少年がほかのサーヴァントたちと話をしているときも、相手に対して警戒を解くようなことは無かった。その態度は、まさに騎士であった。──惜しむらくはこの騎士が女性であるということだろう──ホームズ、君が『あの人』と呼んで敬意を払う女性と同じように、彼女は強く、そして誇り高い人物であり、敬意を払うべき女性であろう。

 

 

 




こちらの画像は、この特異点の地図を大雑把に書いたものです。これから、位置についての情報が追加されるたびに、画像を貼っていこうとおもいます。


【挿絵表示】


次回は明日か来週に投稿します。

次回予告!
【氷海のセイバー】
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