亜種特異点 架空氷丘幻想 アイスエイジに関する記録 作:天城黒猫
プロット再整理しつつ、頑張っていきます。
藤丸立香と、氷海のランサーとの二人は、準備を終わらせると氷礫のライダーの元へと再び向かった。その道中、彼らは次のようなことを話していた。この話のあらましは、彼女は、敵と出会うと、今までと寸分たがわぬ調子で障害を取り除いていたが、その表情は、眉をひそめ、口をつぐむという、どことなく不安げなものだったため、藤丸少年がそれについて質問をしたためであった。それについて、彼女はこう答えた。
「心配をかけてしまったようです。申し訳ありません。体調は問題ありません、いくら極寒の世界といえども、私はサーヴァントです。この程度ならば、どうとでも耐えられますから。どうかご心配なく──いえ、そうですね、こればかりは一つ話しておかなければなりませんね。
私は真名を名乗るつもりはありません。なぜならば、この霊基に与えられた名は、私という人間がもとより持つ本来の名ではなく、人々から与えられた、人々から押し付けられた忌み名なのです。私はその名を嫌い、憎んでおります。また、同時に宝具も同じく、私に対する人々の思い……無数の侮蔑、嘲笑、嫉妬、軽蔑、嫉妬という感情が形となってつくられた宝具なのです。私にとって、私の真名と宝具は不名誉そのものなのです。故に、名を名乗るつもりも、宝具を使うつもりもありません。ですが、氷礫のライダーの力は強力なものです。彼は、私に宝具を使わなければ、私がライダーに勝利することはできないと言いました。なるほど、確かにそうなのかもしれません。ですが」
そう言う彼女の顔は更に曇っていった。
「ですが、魔神柱に、得体のしれない怪物といったものを倒すには、今砦にいるサーヴァントたちのみでは不可能でしょう。ライダーの力は必要不可欠です。ですが、彼に仲間となってもらうには、力を見せつけなければなりません、その他の方法では、彼は決して仲間にはならないでしょう。彼は、そういう種類の人間だと、私は思っています。彼の力は強力なものです、それはあの船を見たらわかります。彼が宝具を使ったときも、全力ではなかったのでしょう、でなければ、私たちはとっくにお陀仏なのですから。
……彼を仲間にするには、私は宝具を使用し、力を見せつけなければならないのでしょう。彼を仲間にするためには、私は宝具を使わなければ、勝利することはできないでしょう……そのことで、迷っていたのです。我が真名は忌み名、我が宝具は呪い。リツカ、我が契約者よ、私はあなたの身を守り、あなたは私に魔力を与える。そして、敵はお互い共通しているため、同盟を組んでいるに過ぎません。いうなれば、お互いがお互いを利用しているに過ぎない関係なのです。……ですが、そうですね。……少しばかり、話をしましょう。
──とある騎士の話をしましょう。
誰よりも強く、それ故に認められなかった騎士の話を。
当たり前の事ですが、その騎士は初めから騎士というわけではありませんでした。騎士になる前は、ただの村人であり、日々畑の手入れや、家事をしながら暮らしていました。その人物が暮らしていた村は、田舎村で、人の数こそは少なかったですが、誰もが穏やかな気性を持ち合わせており、質素な生活でしたが、その生活を是とし、皆で手を取り合って生きていくような人間たちが暮らしている、いたって平和な村でした。騎士もまた、その村の人々と変わらない気性を持ち合わせており、誰かが困っていれば、手を貸し、逆に己が困っていると、誰かが手を貸してくれるというように、人望は厚く、また他人と比べると力持ちであり、土嚢や木箱などを軽々と運ぶ事ができました。
その騎士は、何故騎士になったのか。そのきっかけは、本に書かれた物語です。その人物は本を読むのが何よりの楽しみであり、書斎にはいくつもの本がありました。主に騎士物語が好きで、円卓の騎士、シャルルマーニュやその騎士、他にも、いくつもの国の騎士たちの物語が好きでした。どの騎士たちも、騎士道に則った高潔な人物たちであり、強きをくじき、弱きを助ける、強力な敵を屠り、囚われの姫を助け出す。そうした騎士たちの物語が大好きで、彼らの在り方に憧れていました。そして、とうとう騎士になろうと決心しました。今までに稼いだ金、家具やら農具やらをすべて売り払い、頑丈な鎧と切れ味の鋭い剣に、長い槍を購入し、旅に出ました。その旅の途中で、屈強な成人男性がどんなに力を入れて、背中を押しても決してしゃがむことなく、また手綱を引っ張っても決して首を曲げることのない、屈強な馬を手に入れました。全身は磨かれた、立派な鎧に身を包み、腰には名剣、手には鋭い槍、そしてまたがる馬は名馬──こうした装備を身に着け、騎士は旅をつづけました。
その旅では、様々なことがありました。邪悪な巨竜を打ち倒し、無数の悪魔を切り払い、囚われの姫を救い出し──数々の活躍をしました。それこそ、本にあったような、騎士たちと寸分たがわぬ、それ以上の活躍をしました。ですが、その騎士は人々から称賛されることはありませんでした。
強大なる怪物をいくら打ち倒しても、人々からはその功績を認められることなく、囚われの姫を救い出しても、姫からは聞くに堪えない罵倒を投げかけられました。それはなぜか。理由は簡単なものです、その騎士が女性だったからです。屈強な男が束になっても敵わない魔物を屠るというのは、男性から見れば屈辱そのものでした。また、同性の手によって助け出されることも、また屈辱そのものでした。とりわけ、女性から見れば、女性がそのようなことをしているのは、下品に映ったことでしょう。人々からは、嫉妬や妬みによるものなのか、私の功績を否定し、それどころか指をさして笑いました。見下し、罵倒され、糞を投げかけられ、いくつもの屈辱を与えられ、無数の侮蔑を与えられました。ただ、女性というだけで。……当時は、男尊女卑の風潮が現代よりもかなり強かったのです。女性が騎士のようにふるまうということは、下品なことであると捉われてしまうのです。
そして、その女騎士は誰からも認められることなく、誰からもほめたたえられることなく、やがて人々の前から姿を消しました。彼女はただ、物語の騎士に憧れ、彼らと同じように活躍し、人々から称賛される、素晴らしい騎士になりたかった──しかし、人々はその騎士を狂人とし、その活躍を滑稽なものに変え、人々に語り継ぎました。そうした結果、その騎士は狂乱の騎士として、人々を楽しませる道化として、世界中の人々に指さされ、笑われ続けました。
……話はこれで終わりです」
私は、こうした物語を聞くと、どうしようもないほどの怒りがこみ上げてきた。しかし、私の生きていた時代でも、女性は働くことはできたものの、いささか軽視される面もあったし、君もまた、あの人に出会うまでは女という生物を侮っていただろう。現に、私も前に彼女が女性であるということを惜しんだため、怒るような権利は無い。それどころか、反省するべきだろう。
氷海のランサーの体は、わずかに震えているようだった。彼女は、藤丸少年の前で、膝をつき、頭を下げ、振るえつつも、清廉な調子の声で言った。
「フジマルリツカ。私はもしもこの聖杯戦争が、通常の聖杯戦争であったのならば、その侮蔑を取り払うか、あるいは私の性別を男性へと変えるということを聖杯に願うことでしょう……フジマルリツカ、私は人々から認められなかった騎士だ。しかし、私は騎士でありたいと思っている。アーサー王のように高潔であり、ランスロット卿のように強く──物語の騎士のようにありたいと思っています。リツカ、あなたがどのような人間であるのかは、この数日間の間で分かりました。どうか、私をあなたの騎士にして欲しい。どうか、私を笑わないで欲しい。さすれば、我が真名を預けましょう、我が宝具を預けましょう」
こうした彼女の言葉に、藤丸立香は次のように返した。
「ランサー、君は立派な騎士だ。是非とも、協力して欲しい」
「わかりました」と女騎士は答えた。
「我が槍はあなたのものです。我が体は、あなたのために、我が武勇はあなたを守るために。──我が真名、今こそ預けましょう。我が名は、この霊基に与えられた名は、ドン・キホーテ。一人の騎士として、あなたの為にありましょう」
氷の宮殿にて、騎士の叙任式はこのようにして行われた。
「良いだろう、覚悟を決めたか!」という声があたりに響き渡った。その声は、氷礫のライダーのものであった。
大地が震動し、私たちがいる場所より数十メートル前方の氷がひび割れ、大地から巨大な船が浮き上がってきた。船は地面からほんの2、3メートルほどの高さの位置で停止した。その甲板には、ライダーが立っており、彼は私たちを見下ろしていた。
「良いだろう、ならば力を示せ! 長き旅路は未だ途中なり! 最果ては未だ遥か先なり! オレの力が欲しいというのならば、力を示してみせろ、ドン・キホーテよ!」
「いいでしょう、氷礫のライダー! 先日は敗北しましたが、今の私はあなたに勝利することができる! 我が宝具を開放するのに、迷い無し! 主を得た私に迷いは無し! 世界全ての人々が私を嘲笑うのならば、私はそうあろう! この名、この宝具こそが、お前たちの望んでいたものだ! 我が英雄譚はホラ話にすぎず、我が武勇は妄想にすぎず、それでも私は一人の騎士である! 『
こうして、彼女は自らの宝具を開放し、氷礫のライダーとの戦闘を行ったのだろう。この戦いにおいて、私はその様子を観察することができなかった。その原因は不明ではあるが、『
「氷礫のライダーよ、我が主、リツカの元へと降りなさい。その力を、主のためにふるまいなさい」
「いいだろう」とライダーは答えた。
「いいだろう! 道化の騎士よ、貴様に従おう」
「よろしい」と彼女は槍を下げた。「ライダー、真名は何という?」
「それは教えられんな。なぜならば、まだその時ではないからだ。オレの真名は時期が来るまで秘させてもらおう。また、オレが貴様らの仲間となったということは、この場にいる人間以外のものに知らせるな。あの砦の者どもにもだ」
「なんですって? そんな勝手が、いいえ、我が主よ、どうしますか?」
「わかった。それでいいよ」と藤丸少年は言った。
それから、氷礫のライダーはどこかへと消えていった。ランサーは、自らの主に言った。
「リツカ──私は、狂乱の騎士、ドン・キホーテなのです。この呪いは奇跡でも起こらない限り、永遠に消え去ることはありません。サーヴァントとして召喚された今、人々の嘲りは私の鎧となり、槍となっています。私は、幻想である敵と戦い、その滑稽な姿を演じる存在なのです。リツカ、マスター……今までは、その呪いに抗い続けていましたが、この宝具を一度開放してしまったからには、もう今までのように本来の力を発揮することはできません。今の私は、道化です。私が、私でなくなる──幻の敵と共に踊り狂う道化なのです。ああ、これは何と辛い事なのでしょう。騎士としてあることはできません。我が騎士としての信念は、道化としての思考へと変化してしまいます。我が武勇は、笑いを誘うための踊りへと変化してしまいます。ああ……ああ、それでも、どうか、どうか、我がマスター、リツカ、我が主。どうか、私を騎士として認めてください。私をあなたの騎士として、どうか、傍にいさせてください。私を笑わないでください。お願いします、お願いします……」
女騎士は涙を流しながら、主の前に跪いた。藤丸少年は、しゃがむと彼女の頭に手を置いた。ランサーが顔を上げると、彼は言った。
「ランサー、君はオレの騎士だ。従者を笑うなんてことはできない」
「ああ……ありがとうございます」と彼女は顔を下に向け、涙を流しながら言った。「ありがとうございます……ああ、もう……我が仮面が現れます……もう、この私は舞台に上がることは許されません……私は退場します。ありがとうございました、リツカ。あなたと過ごしたこの数日、私は騎士として振舞えました。あなたは、私を女性だと笑わなかった──ありがとうございます、リツカ」
それっきり、彼女はしばらくの間無言でうつむいていた。藤丸少年が、「ランサー?」と不安げな顔をしながらつぶやくと、彼女は素早く立ち上がり、片足を斜めにし、もう片方の足を軸にしてクルクルと回り、笑顔で言った。
「はい、ランサーです。そう、我が名はドン・キホーテ! おお、我が主よ、我が偉大なる王よ、あなた様が望むのならば、私はどのような邪悪であろうとも、見事たちまちのうちに倒して見せましょう! おお、この広大なる氷の大地は、やがてあなたの王国となるのです!」
踊りながらそう言う様は、まさに道化のそれであった。騎士の主は、少しばかり浮かない声でこう言った。
「ランサー、よろしく」
「おお! 『よろしく』! 我が主より、このような言葉をいただけるとは! このランサー、感激の極みでございます!」
次回予告!
【銃士と怪談話】
来週の土日に投稿します。